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愛の代償

 チーネの友だちボンヌが部屋に来て湿布を取り替えくれ、ソングは運搬機の底の荷台でチーネとポンヌがペダルを漕ぐのを下から朦朧と眺めたのを思い出す。


(妖精の森の木で作られた運搬機は巨大なシダの葉を羽にして、ペダルの動力で羽ばたいて飛ぶが、浮力が足りない場合はランフォリンクスの翼竜に引き上げてもらう。)


「やっとお目覚めですか?」


「ボンヌ、俺はどれくらい寝てた?チーネと戦って、もう少しでゴールできたのに……。やっぱダメだったんだよな」


 そう言って、葉っぱの天井を見上げてソングが嘆き、ボンヌはソングの胸の傷に貼った湿布薬を取り替えると、ソングのパンツを下げてチンコを観察した。


「ふ~ん」


「こら、なんてことすんだ」


「あの時、凄かったのよ」


 縮んでちっちゃくなったのを指で弾いて「カワイイ」と笑っている。


 ボンヌはソングが気絶している時、蜜蜂の剣に刺された胸の傷と、お尻の治療をして聳り立つ物に驚いた。


「やめろ。バカ」


 ソングが腰を浮かしてキルトのハーフパンツを上げようとするが、ボンヌはそれを制して体を裏返してお尻を叩く。


「大人しくしてなさい」


 そう言って、乱暴にお尻の湿布薬を剥がして傷の具合を見た。


「痛い。もっと優しくやれって」

「こっちはもう大丈夫だね。ソング、あんな危険な真似しなくたって、普通に求愛すれば良かったのよ。チーネはソングのこと、好きだと思うけどな」



 ボンヌは運搬機をチーネと並んで漕ぎながら、ソングがSEXを懸けて妖精の卒業試験に挑戦したと聞き、チーネに勝てる筈ないのにと一緒にケラケラ笑った。


「チーネは妖精族、いや神族の中でも最強の戦士だもん。プライドも強いから、好きでもソングに負ける訳にはいかないんだよ」


 寧ろ妖精は純粋な愛なら、純粋な気持ちで受け止める。それに感じやすくて好奇心も旺盛だ。


「そ、そうかな~?」


「星空の夜。耳元で好きだって囁くの」


 ソングはボンヌにそう言われて、少し気持ちを和らげた。


「直接過ぎたか?ただ、チーネと対等にならないと、俺に抱く資格は無いと思ったんだ」


「だから、妖精のハートは温かい光と清らかな水で咲くんだよ。耳の花冠で感じるんだ。理屈とか腕力は関係ない。まったく、わかってないわね」


「そう言われてもな?」


 ソングは『人間なので無理だ』と苦笑いするが、今度は純粋に恋をしていると告白しようと思った。それからもっと腕を上げて、卒業試験に再挑戦すればいい。


「確かにSEXを懸けて戦うなんて、大人気ないよな~」


「いや、ソング、ガキだし」


 そして更にボンヌが薬箱を持って部屋を出る前に、木のベッドに寝ているソングを見下ろして意味深な言葉を残した。


「とにかく頑張りなさい。まだ少し痺れてると思うけど、ボンヌの特効薬でぴんぴんになるからね。上手くいったら、青魚をご馳走しなさいよ」


 ソングは意味が今一つ分からなかったが、ボンヌの揶揄うような微笑みが気になり、想像を巡らしているうちに湿布薬のせいか瞼が重くなり、うとうとと眠ってしまう。


 そして夕暮れ時になり、お腹が空いて起き出そうとした時、チーネが食事を運んで部屋に入って来た。


「ソング。具合はどう?」


 チーネは編み込んだ黄金色の髪を肩まで下ろし、薄い布を羽織っていたが、微妙に透けて胸のピンク色の細い布巻きと赤い紐パンが微かに見えている。


「ああ、もう痺れも取れたぜ」


「じゃー、食事にする?それとも、卒業試験に再挑戦してみる?」


「いや~、いくら俺でもまだムリ」


 ソングは苦笑いしてベッドから起き出そうとしたが、チーネの様子がなんかおかしい。


 いつもなら、まだ寝てんのと言って叩き起こす筈だし、部屋着はもっとギャルっぽいの着ている。


 しかも少し恥ずかしそうに優しい笑みを浮かべて、羽織っている布をぱらりと床に落とした。


「バカね。愛の方だよ。そっちの試験さ。そっちはまだ試してないだろ?」


「いや、戦いに負けたし。そ、それに夜空に星が……見えてないぞ」


 焦ったソングは窓から陽の沈む夕空を見て、早く夜空に星が輝くことを願い、ボンヌに言われた恋のマニュアルを実行する。


 森の木と葉で作られた屋根の一部は天窓になるので、木のベッドに立って紐を引っ張って開き、星はともかく夕空で雰囲気を醸し出す。


「俺、チーネが好きだ。最強の愛の戦士になってチーネをずっと守るよ」


「バカね。守るのはこっちだぞ。だって、チーネの方が最強だもん」


『ヤバい』また、争いになりそうだと思ったが、その前にチーネの唇がソングの顔に迫って来た。


「好きってだけでいい。チーネもソングが好きだし」


 苺の唇がそう呟いて、ソングの唇にぴったりと重なった。それだけで全身のエネルギーが湧き上がって爆発しそうになる。

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