失われた小指
『なんなのだ?』
ドラゴンはソングのペニスの中で火を吐き、真っ黒な毒煙が沸々と地底から湧き上がって泡が弾け、獣の形状に変貌して襲いかかって来るのを赤い炎で焼き払っている。
幻想の獣を消し去り、この世界への出現を防ぐ。
『呪いか?』
もしその毒煙を浴びていたら、チーネも生気を奪われて腐って死んでいただろう。
『愛液に呪いを混ぜ込んで、魔界から湧き上がらせているのか?』
だとしたらソングが危ない。
ドラゴンは口から赤い炎を吐いて奮闘していたが、毒煙は変幻自在に蠢き、空間の僅かな裂け目から噴出してソングの肉体に入り込もうとしている。
魔界の呪いは邪悪であり、完全に消し去る事は不可能だった。その証拠に一筋の毒煙が宙で揺れ動き、青い炎の矢となってソングの小指に突き刺さった。
「い、痛~。な、なんだよー?」
ソングが左手の小指を押さえて、ベッドの上でのたうち回っている。SEXの快感の直後に、青いバーナーの炎で肉と骨が一瞬にして焼かれ、黒い染みが小指を侵食して激痛が走った。
「黒焦じゃねーか?」
しかし炭黒く変色した小指の痛みよりも、チーネに被害がないか気になる。さっきまで抱き締めていたチーネが突然消えてしまった。
「チーネ、何処にいる?大丈夫か?」
ソングは左の手首をもう一方の手で押さえながら、シーツを捲ったり、ベッドの下から隅々まで探した。愛の戦士になってチーネを守ると誓ったのに、初体験の記念日に破るわけにはいかない。
すると、小さな蝶が目の前に舞い上がって空中でこっちを見つめた。
「チーネなら平気だ。それよりソング、小指だけで済んで良かったな」
ソングが寄り目にして確認すると、数センチのチーネが蝶の羽を背中に付けてホバリングしている。
「変身したのか?」
「うん。災難だったな。でも、凄いもん見つけたぞ」
「アアー、すげかった」
ソングはSEXの感想と思って微笑んだが、チーネが言いたかったのはソングの体の中にあるアイテムの事であった。
しかし、とにかくソングはその能力で小指の損傷だけで済み、チーネも愛の時間を無事に終えた訳である。
だがその悲鳴を聞き、緊急事態が発生したと族長チャチルが剣と弓を持ち、ポンヌを連れて木の通路を早足に進み、ソングの部屋へ向かっていた。