世界を救えば勇者は殺される
世界を救う為に選ばれるのって嫌ですね
「これで俺の役目はやっと終わるのか……」
魔王城で一人の男が魔王と思われる存在に剣を突き刺し一息ついていた。
突き刺された魔王はもう死ぬことを悟っているのかそれ以上もう動こうとはしなかった。
「勇者よ、お主はこれからどうするのだ」
そう。
魔王を倒して存在は異世界から世界を救うために飛ばれた勇者と呼ばれる存在だった。
両親が交通事故で死に天涯孤独となった彼はまだ学生の身ながらなんとか生活をしていたが、この世界に勇者として呼ばれてしまったのだ。
「俺はそうだな、別に元の世界に戻っても家族もいないしこの世界でお金を貰って密かに生活したいかな」
「フフフ」
そんな普通の幸せを願い魔王に答えると魔王は笑った。
まるで出来ない事だろっというように。
「なんで笑うんだ?別にお前さんも魔王じゃなかったら戦う生活に身を置いていたわけじゃないだろう?」
「まあな。だがそれは出来ない事を儂は知っている。だから勇者よ少しの間、お主を天で眺めていることにしよう」
そう言いながら魔王の身体は光の塵となり、やがて世界から消えていった。
「もう、ハードな日常はこりごりだ」
そう言いながら勇者は降ろしていた腰を上げながら国に変える為に帰りだした。
「勇者よ、魔王を倒してくれた事は感謝する。しかし二度と魔王を出さないためにお主には死んでもらおう」
「は!?」
勇者が城に戻り玉座にて勇者と対峙した。
勇者はここへ入るまでに武器になるものを全て兵士に預けて、王の前に膝を突き魔王を倒した事を報告した。
すると王がそんな事を言い出すと勇者は理解できぬまま周りにいた兵士たちに抵抗できぬまま取り押さえられた。
「なぜですか!?俺は国の為に呼ばれてこの世界を救ったのになぜ俺が死ぬ事になるんですか!?」
「お主には理解できぬだろうが今回の魔王は前回召喚した勇者だ。その勇者は儂たち人類を裏切り魔王を倒した後、人類に反旗を翻し魔王となった。だからこれ以上魔王を生み出さないためにお主には死んでもらう事になったのだ」
この時、勇者は死ぬ間際に残した言葉の意味を理解した。
魔王も勇者であり人類にが嫌になる出来事になったのか切っ掛けはわからないが、人類と戦う事を決めたのだろう。
「そんな……」
「すまぬな、世界のためだ。連れていけ」
そして勇者は地下へと連れていかれた。
地下には檻があり、そこへ勇者は入れられた。
檻の中で勇者は抵抗出来ないように魔法を使えなくする鎖を両手両足に付けられ食事も与えられることなく、ただただ時が立つのを待つだけの日々だった。
数日後、勇者は兵士に連れられ王都の大広場に連れていかれた。
そこにはギロチンが用意されており、今から殺されることを理解した。
周りには何百人の人間が勇者の死にざまを見届けにこの場に集まっていた。
勇者はもう何日も食事を食べることも無く、ただただ監禁されていた。
そしてこの世界の人間の醜さに絶望し変更する気も起きなくなっていた。
勇者は処刑場に上がる階段に上る間周りの人たちの声が耳に入って来た。
「死ぬんだぞー勇者ー!!」
「ちゃんと首を落とせよー!!」
「ずばっといけー!!」
そんな心無い言葉が勇者の耳には入って来た。
その時、彼はこの世界の醜さに改めて気が付いてしまった。
勇者は今まで街で買い物などをするとき、住人の態度が良くないことに感じていたのだ。
こいつに世界を託すのかなんて疑心暗鬼だったのだと思っていたがそうではなかった。
この世界の人間は前回の勇者が魔王になったことを知っていた、だからこそ次の魔王になる可能性がある勇者を嫌っていたのだ。
「ハハ、俺なんの為に生きてるのかな?」
処刑台の上で勇者は涙を流しながら一人空を見上げた。
こんなにも空は綺麗なのに周りはとても汚いものにしか見えない。
兵士が勇者の膝を乱暴に地面へと突かせ、そして首を無理やり固定した。
「ではこれより、魔王候補である勇者の処刑を実行する。魔王を倒した事には感謝するが世界のため勇者には死んでもらう」
進行役が淡々と読み上げれる言葉を民衆たちは大いに盛り上がった。
勇者の耳にはただの雑音の様に耳へと入ってくる。
「最後に、勇者よ何か言い残すことはあるか!?」
その言葉に広場に静寂がお訪れる。
勇者は目の前の人たちに向けて口を開いた。
「俺は、俺には生きている意味はありましたか?」
「そうだな。お前は勇者として魔王を倒したが別にそれはお前ではなくてもお前が死ねばまた、別の勇者を呼べばよい。だからお前は死ぬ為にこの世界へと呼ばれたのだ」
その言葉はあまりにも勇者には響いた。
両親を亡くし、周りからも可哀そうな目で見られる日々。
頼る人もおらず将来には不安しかなかった。
そんな中、異世界で『世界を救ってくれ』と久々に人に頼られて気がした。
だからこそどんなに辛い冒険であろうとも顔も知らない縁もゆかりもない人たちや世界の為に体を張って来た。
そんな人生さえも世界を救えば魔王になるかもと殺される運命。
流石の勇者もこれにはもう何も反応できなかった。
進行役が横にいる兵士たちに合図しギロチンの刃が上へ登っていく。
登り切り、いつでも落とせるようになると兵士は進行役へと顔を向けた。
その合図を受け取ると声を大きく上げた。
「これでは、処刑を実行する!」
その言葉が放たれると同時に刃も落ちてきた。
勇者は首に一瞬の痛みが走ると自分の首から下の身体に、家族と一緒に自分を蔑んだ目で見ている王の姿を見ながらただただ眠りについた。
「起きろ、勇者。おいいつまで寝ているんだ」
そんな声に俺は目が覚めた。
辺りを見渡してみるが処刑場では無く、ただ何もない真っ白な空間にいた。
「俺は死んだはずじゃ」
「だから言っただろう、儂も世界を救うとその救った筈の世界から追われる存在になったのだ。すると魔王にいつの間にかなっていた。だから儂は勇者を殺し、儂の二の舞にならないようにと思ったがお主は殺されたようだな」
身体を上げ、先ほどから話す方向へと体を向けるとそこには数日前に倒した魔王がいた。
「なんでお前が!?というか生きていたのか!?」
「だから言っただろう?天で見ていると」
「本当だったのかアレ」
まさかあの発言は苦し紛れのセリフかと思ったが本当だったとは。
そんな事を思っていた俺達はそこから会話することなくただぼーっと時が立つのを感じていた。
そんな俺達に話しかける声が後ろから聞こえてきた。
「すみません。お待たせしました勇者達」
その声の主は優しそうな人柄の羽が生えた男がいた。
こんな場所にいきなり現れた存在に驚きながら俺は固まっていると魔王は口を開いた。
「天使か、それで儂達はこれからどうなるのだ?儂はともかく勇者はただ世界を救うために無理やり連れてこられ殺された人間だが?」
「その件については誠に申し訳ありません。本来勇者招喚は帰りは任意のものなのですがあちらの世界の人たちはそのルールも無視し、勇者の人権も無い物として扱ったので彼らには今後私たちが干渉することはありません」
「なるほど、それで俺達はどうなるのです?」
そう聞くとその天使は笑顔になり、手に持っていた書類を開きながら俺たちに話し始めた。
「あなた方はあちらの住人に無理やり争いを強制されたのでそのまま元の世界に戻るかそれとも、今の力を持ったまま新たな人生を始めるかの2択になります」
「勿論、それぞれの生活において私たちが今後の人生のサポートをするので世間一般的よりも幸せな人生を送れることになりますよ」
本来、勇者招喚というのはこういった扱いになるのか。
そう考えると本当にあちらの世界の人たちは碌な人たちでは無かったのだな。
でも元の世界か……
「儂は新たな人生を望むかのー。別に生まれた所に戻っても退屈な人生を送るより勇者と魔王の力を持って自由に生きたいしのぉ。勇者よ、お前さんはどうするのだ?」
「……俺は元の世界に戻っても家族も友達も何もいない。ただ苦痛な世界に戻るだけだ。ならあんたらに保障される幸せな人生を送りたいよ」
本当に元の世界も地獄だ。
ならば家族もいて友達もいて幸せな人生を送りたいと思うのは当然だろう。
そんな事を話すと天使も魔王も俺に同情的な目を向けていることに気が付いた。
「な、なんだよ……」
「いやお主があそこまで機械的な人だった理由が分かってな……。よく頑張ったのぉ」
そう言いながら頭を魔王は撫でてくる。
その手から感じる温もりは久方に感じる優しい暖かさだった。
「そうですか、勇者様。あなたの来世の人生私たち天界の住人が24時間サポートによって必ず幸せにして見せます!」
そう先ほどよりも、熱意が籠った返事に俺は少し涙が流れそうになった。
そして天使は手に持っていた書類に何かを書き込むとそのまま書類をパンっと閉じ、空間に扉を作り出した。
「では勇者様。こちらの扉を通れば貴方の新しい人生が待っています」
天使はそのまま扉を開けると横に立ち俺が通るのを待っている。
俺はいまだに撫でている魔王の手を優しくどけるとそのまま立ち上がり扉の前へときた。
そして後ろに振り返り、魔王の顔を見た。
「ありがとう、久々に人に心から心配して貰えた気がしたよ。それにお前さんの手、とても暖かくて気持ちが良かったよ。それとあっちで殺して済まなかった」
「別にきにするんじゃない。勇者と魔王の関係などそんな所だ」
「天使さんもありがとう。俺は元の世界に戻っても地獄でしかなかった。俺にもう一度人生をやり直せる機会をくれてありがとう」
「いえいえ、こちらこそ感謝しています。私たち一同、あなたの幸せを願っていますよ」
伝えることはもう伝え終えた。
目の前で綺麗な渦を浮かべ、俺を待っている扉。
そこへ歩いていく俺の顔は久々に心から笑っている笑顔だった筈だ。
その後の世界も投稿する予定です