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チューング・ハート

伯爵令嬢の姉さんは乙女ゲームのヒロインらしいけど、相談役の僕は絶対反対です!?

作者: すみり

短編「転生して巻き戻ったら、悪役令嬢に対象を攻略されていたので、新しいヒロインの道を始めたいのです!」から派生した病弱な姉が大切で大好きな弟くんの話。(乙女ゲーム風ですが、弟と姉との間の恋愛要素はゼロです)


『チューング・ハート』シリーズ!第二弾。(タイトル上部、「チューング・ハート」からシリーズへ飛べます)

 ♡

 ♡


 ♡


「そうです……。私はヒロイン、ヒロインなんだ!」


 早朝に、僕の姉さんがそう叫ぶと、ベッドに立ち上がって天井に拳を突き上げた。

 そうして、僕は今、姉さんと一緒に馬車の中で揺られていた。今日は姉さんの編入日。体の弱かった姉さんは、今まで学園に入学してはいなかったけど、ここ数年、体調も落ち着いてきたということで貴族の子供たちが通う学園に通わないのは一家の恥だと強引に僕と姉さんの父が、姉の学園への編入を決めたのだ。

 学園で姉さんに何かあったらどうするのかと、心配してしまいながらも、一家の絶大な権力者である父に反論しきれない自分。歯痒くて腿に置いた手を握りしめた。


 でも、心配ごとは他にもあって……。

 僕は馬車の窓ガラスに映る姉の姿を見た。


「ふんふん〜♪チューニング、チューニング☆キミのハート……色をつけて、私に染めて」


 謎の歌を歌う姉は、簡単に言えばすごくウキウキしていた。なんか踊ってて、ああ姉さん……可愛い。


 ちがう、いやいやいや。待て待て。姉が変だ。絶対変だ。どこが変って本当に姉なのか疑わしくなってしまうくらいに変だ。


 ——でも、


「姉さん……本当に、編入するの?大丈夫?」


「ふふっありがとうエリル。でも、大丈夫。元気だから!」


 何故だか張り切る姉さんは、今日も可愛い。

 うん、絶対にこの目の前にいる透けるような白い肌、透明感のある銀色の髪、儚い水色の瞳の女性は、姉さんだ。僕の心がそうだと教えてくれる。愛くるしくて儚くて、雪の妖精のような存在感は姉さん特有のものだ。


 姉さん、なのに。それは間違いないのに。どうしてこんなに僕は胸騒ぎがして心配になってしまうのだろうか。


 その予感は、すぐに形になって訪れた。



           △▼



「エリル……!今日は王子殿下のアルバート様にお会いしたの!素敵な方で、どなとでも平等な態度で接してらっしゃって……」


「聞いて!ふふっ、アルバート様とアルミス様とのゲーム通りのイベントがあったの!」


「エリル!あのね!おかしい……フラグが立たない……」


 僕は、嬉しそうな姉さんの話を聞いていくごとに、姉の言うヒロインとは何かを知っていく。初めは学園で楽しそうにしている姉を見るのが嬉しかったけれど、

 ——これ以上はマズイ。


 何がマズかって、アルバート様もアルミス様も王家の人たちで、その周囲は今や跡目争いで牽制している。ご本人たちの仲は良いが、彼らを結んでいるのはアルバート様の婚約者であるリディーナ公爵令嬢で、令嬢は社交会において、王子たちの王冠とも噂されているほどの方だ。

 つまりは、王子たちは公爵令嬢にお熱なわけだ。円満な兄弟仲を望んでいるアルミス王子のおかげで、公爵令嬢はアルバート王子と婚約しているけれど。


 何も知らない姉さん、伯爵令嬢が、王子たちの間に入り込んで均衡を瓦解しかねない状況は上層部の大人に歓迎されることではないだろう。だって、アルミス様がリディーナ様と恋人にでもなれば、王座はアルミス様に転がり込むくらいに公爵家は偉大なのだから。


 僕は姉さんの為に心を鬼しよう。姉さんが悲しまなくて済むように……。そう決意して、だけどやっぱり注意できずにいた僕は余計に後悔する羽目になった。



 その日、姉が、泣いて帰ってきた。



「姉さん……!?どうしたの!?」


 僕の胸の中に飛び込んできた姉さんは、ぼろぼろと涙をこぼしてむせび泣く。白くて薄い肌も薄いブルーがかった白眼も赤みがかり、小さな肩が震えていた。


 やっぱり父に全く反対して学園に姉を出すべきではなかったのだ!!困惑しながらも僕は姉さんの背を優しく撫でる。事が事なら、僕だって今ばかりは父に反抗しきってみせよう。姉さんのためならば、勘当されたって平気だ。


「え、エリル……ひっく。わ、私……私……っ!」


「姉さん……。大丈夫。大丈夫だから。僕はいつだって姉さんの味方だから……」


「え、エリュゥ……わーーーん!」


 散々泣いた姉さんは、ようやくアルバート殿下が、リディーナ嬢を好きなことに気が付いたらしかった。


 これが失恋というやつだろうか。目を真っ赤にした姉さんに、僕はなんと声をかけたらいいのだろう。大切な姉が泣き腫らしているのに、安心してしまった僕が。


「——姉さん。元気を、出して」


 それだけしか言えなかった。

 そして、僕はここからまた二転三転する羽目になるなんて夢にも思わなかった。


「わーーーん!エリルウウウウ!!」


 またある時、姉さんが僕の部屋に飛び込んできた。


「は?今、なんて?姉さん……」


「だから!リディーナ様が!やたらリディーナ様が殿下と私を一緒にさせようとしてくるの!」


「え?なにそれ??」


 僕はついていけずに、頭痛が発症しそうだ。頭を揉み解す。リディーナ様はご自身の立場がわかっているのかと問いただしたい。


「うぅ……。初めは優しかった殿下も、段々と怖い顔してくるし、私がリディーナ様に変な入れ知恵してるじゃないかとか疑い始めてるし。知らないわよ!もう!!リディーナ様が変な勘違いをしてるんだから、自分でなんとかしなさい!あのすっとこどっこい!もーーっ。どうしたらいいのぉ!」


「ねえええさん!!声が大きいよ!!」


 国の王太子の前では絶対にできない発言だ。じゃなくて、もう僕は色々とびっくりしてしまっている。姉さん、この間までそのすっとこどっこいが好きだったんじゃ……。


「えっと……リディーナ嬢はどうして、そんなことするんだろう?」


「わからないの。勘違い、してるとしか思えなくて……。リディーナ様には幸せになってもらいたいのに……。もう、ホント私は何をさせられてるの?あれなの?殿下の気持ちを確かめようとしてるのかしら?」


「そ、それなら!少し休学してみるとかはどうかな!」


「お父様が許してくれないわ……」


「な、なら!距離を取ってみるとか!」


「そう……ね。なるべくお二人と顔を……合わせない……ように、して、み……る、わ……」


 あ、無理そう。

 僕は段々と難しい顔をしていく姉の姿を見て直ぐにそう思った。なにか策を考えなくちゃ。大切な姉のために。


 具体的な策が見つからないまま、僕は一番の難関にぶち当たってしまった。

 姉が、殿下とリディーナ様に悩まされている話よりも徐々に“アイツ”の話しの割合が多くなっていったのだ。


「エリル、聞いて!キール様って方が」


「エリル!もう!!キール様が……」


「ホントに、私が良いですよって言うのがわかっているんだわ!キール様!どう思う!?エリル!!」


 あーー、あーーー!!わーーー!僕は耳を塞ぎたくなるし、目眩がしそうになって眉間を揉み解す。


「ね、姉さん。最近はソイツの話が多いみたいだけど!絶対近づかない方がいいよ!」


「そう……よね……。でも……、気がついたら目が合っちゃうというか……えぇと……目が追っちゃうの。変よね」


 マズイ!!


「姉さん!!それは危ないよ!!絶対変だよ!!」


「あ、危な??え??……へ、変!?」


「変だよ!姉さん!やっぱり休学しよう!」


「で、でも……お父様が……」


「僕がなんとかするから!ううん、してみせるから!」


 いやだ、僕の姉さんなのに。僕には姉さんしかいないのに、他の人の側に行って欲しくない!僕以外に体の弱い姉さんを大切にできる奴がいるわけないんだ。


「だから、姉さん。もうソイツの側に行かないで……」


「エリル……!か、可愛い!!えへへ、ありがと。お姉ちゃんは姉想いの弟がいて嬉しいっ」


「ね、姉さん!苦しいよ!」


 姉に抱きしめられて、僕は胸が痛くなる。

 わかってる。姉さんはいつかきっと僕を離れていってしまう。僕も姉離れをしなくちゃいけないことも。


 だけど。

 だけど今、僕の世界には姉さんしかいないから。義娘にも優しかった僕の母親が亡くなってからはずっと、姉さんが世界で、姉さんが全てで。


 ——今はまだ……。姉さんの側で、姉さんの体調を心配したり、こうして相談に乗ったりしていたい。姉弟の時間を大切に過ごしていきたい。


 大切な姉さんから僕を姉離れさせるというなら、やれるものならやってみろ。ただし、僕は絶対反対だ!!姉さんからお願いされない限り、姉さんが幸せにならない限り、断固として協力なんてしてやるもんか。

 




絶対くしゃみしてるキールさんは置いておいて、家族との一瞬一瞬の時間は本当大切だなぁと思います。

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