青い宝石、金の石
むかし、はるか宇宙の彼方の、そのまた向こうに、お皿のように平べったい、不思議な星がありました。
その星には、見たこともない草木が生い茂り、見たこともない生き物がたくさん住んでいて、真ん中には、星屑を満たした煌めく大河がゆったりと流れておりました。そして、その流れの果ては、宇宙に注いでいたのです。
その星を治める王様は、たいそう賢く優しいかたで、彼のお陰で、星の民はみんな仲良く平和にくらしていました。
ある年のこと、王様と王妃様のあいだに、かわいらしい女の子が生まれました。その子の髪は銀色で、瞳は深い青色をしていました。
王女様の誕生に国中が大喜びして、盛大なお祝いが三日三晩つづいたそうです。
◇
月日は流れ、王女様は美しく成長し、十五才の誕生日を迎えました。
王女のことを、目の中に入れても痛くないほど可愛いがっていた王様は、彼女の瞳と同じ、深い青色に輝く宝石をはめ込んだ美しい冠を贈ったのでした。
冠には、青い宝石以外にも、色とりどりの小さな石がついていて、それはそれは美しいものでした。
王女様は、その冠をたいそうお気に召し、この国の大切な行事のときは、いつもそれを着けて出席なさっていたのです。
あるとき、星屑の大河に、人びとが待ち望んでいた橋が掛かり、その完成の式典が催されることになりました。
国を二分していた大河に橋がかかることで、人々の往来が活発になり、この星はますます発展するに違いない! みんなの心は期待に弾んでおりました。
王女様は、その式典でお祝いのスピーチをされるため、いつものように青い宝石の冠をつけておでましになりました。
彼女の輝くような笑顔は、この星の民にたいへん愛されておりましたので、大歓声があがります。
王女様が橋のうえに立ち、白いドレスの裾をつまんで軽く会釈をしたときでした。
冠についていた青い宝石がポロリとはずれ、コロコロコロンと転がって、星屑の大河に飲み込まれてしまったのです。
「まって! わたくしの宝物!」
王女様はそう叫んで手をのばしましたが、もう手遅れでした。
大河に飲み込まれたものは、やがてはてない宇宙へと流れ落ち、あちこち散らばり、行方知れずとなってしまうのです。
「ああ、なんてこと……」
王女様はたいそうお嘆きになり、毎日部屋にひきこもり、あの輝くような明るい笑顔をすっかりなくしてしまったのです。
◇
「あの青い宝石をさがすのだ!」
王様は、大勢の家来たちに命じました。
それからはもう大騒ぎ、家来たちは船に乗り、広い宇宙を探してまわったのでした。
青い宝石はなかなかみつからず、月日は流れてゆくばかりでした。
そんなある日、はるか遠い場所へと旅立った、ひとりの若い家来から、うれしい知らせが届いたのです。
はるか宇宙の彼方のそのまた向こうにある、熱い炎の燃えさかる星のそばで、王女様の青い宝石を見つけたというのです。
「おお、でかしたぞ! はやくそれを持って帰ってまいれ!」
王様は大喜びで、その家来に命じましたが、家来はなにやら困った様子。
「どうしたのだ?」
王様はイライラとした声でたずねました。
「じつは、あの宝石は、宇宙のチリをくっつけて、どんどん大きくなったらしく、今では何やらたくさんのいきものが住み着いているようでございます」
「なんと! して、どのようなものが住み着いているのだ?」
「一番幅をきかせているのが、ニンゲンという種族でございます」
「ニンゲンとな? それはどのようなものなのだ?」
「は、あれは、我らと姿形はそっくりです。しかし、体の大きさは、我らの親指ほどのサイズ。寿命も比べものにならないほど短く、たいへん儚い生き物です」
「それに、ニンゲンの他にも、多種多様な生き物が繁殖しているようです」
「なんということだ! だが、そのような小さきものども、一撃で駆除できよう。そしてチリを払い、宝石を持ち帰ることはできるであろう?」
「おそれながら、彼らの営みをつぶさにみておりますと、健気に日々を生きており、駆除するにはしのびない気持ちになるのでございます」
「それは……」
王女様を心配して我を忘れていた王様でしたが、もともとはとてもお優しい方なので、家来の話を聞くうちに、すっかり考え込んでしまわれました。
「うーーむ。それでは王女に相談してみるとするか……」
王様は、さっき家来から聞いたことを、王女様にくわしく話して聞かせました。
すると、王女様は笑顔を取り戻し、こうおっしゃいました。
「お父様、わたくしの大切な宝石に、そんなにたくさんの生き物が住んでいるなんて素晴らしいですわ。だって、宇宙の片隅で、たったひとり寂しく瞬いているのではないかと心痛めておりましたもの……」
「そうだったのか……王女よ、そなたが優しい娘に育ってくれて嬉しいぞ。あの青い宝石は、そのままにしておいて本当によいのだな?」
「もちろんですわ、お父様。でも、たったひとつお願いがありますの」
「なんだね?」
「あの青い宝石に住まうものたちを、ときどきこっそり見守りたいのです。ですから、となりにこの金色の石を浮かべて来てくださいませ」
「これも、冠についていた石だね?」
「はい。この金色の石が小舟の形になる夜は、わたくしはこれに揺られつつ、青い宝石に住まうものたちが幸せであるよう、祈りを捧げに参ります」
そういうと、王女様はその金色の石を、そっと王様に手渡しました。
王様は、家来に命じて、王女様のいうとおり、青い宝石のとなりに、小さな金の石を浮かべさせました。
それからというもの、王女様は、三日月の夜だけおでましになり、地球に住まうわたしたちの、ささやかな幸せを祈ってくださっているのです。