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1年4月ーー真実の説明と自己紹介と

 まあそうなるよね。生徒会の皆様がこの試練を俺達に課したらしいし。生徒会室内は一気にざわめく。「生徒会?」「あの化け物が生徒会と関係…」「どう言うこと?」


 生徒会


 中学、高校における全学年の代表を務め、学校を引っ張っていく存在。普通の学校ならそれだけで済む。


 だけど炎清高校は違う。様々な分野に長けたものが集まるこの学校は先生の力でもカオスとなる。それもそのはずだ。今朝みたいな令嬢もいれば、外国人のハーフみたいな人もいる。


 方向性がバラバラな生徒をまとめるんだ。その場合の責任や重大性は他の学校と比べるまでもない。


 まあその代わり将来にも有利になれる素晴らしい役職だとは思うが…


 何だろう、さっきの戦いから見るに、ただ学校を引っ張って書類作業にふける仕事だけじゃないよね。神崎さんと名乗った先輩はそのまま続ける。


「事情は話したいところだが、その前に聞きたい。今からする話を聞くと、それは生徒会に入りたいということだ。もし、入りたくないのなら直ぐにここから去ることをお勧めするよ」


 ざわめきはヒソヒソと相談し合う声に変わる。生徒同士、どうしようか考えているみたいだ。


 俺?相談する相手なんていないよ。だって今日誰とも話していないんだし。ここは代表して生徒会長さんにいろいろ聞こう。


「質問、良いですか?」

「あ、鬼ケ原君。良いよ。答えられる範囲なら」

「単刀直入に聞きます。生徒会は毎日あのような化け物退治をしているのですか?」


 まあ答えは分かっているようなものだけど、もしかしてがあるのかもしれないと期待し聞いてみた。だけどそんな期待は直ぐに裏切られる。


「うん、毎日」

「土日も?」

「月に数回はね」

「長期休暇は?」

「半分は登校するよ」


 うーん、なかなかブラック…思わず天を仰いでしまう。休みは欲しいなぁ。グータラは生きていく上で必要な事だ。


 そして1番重要なことーーおそらくみんなも思っていることを質問する。


「死ぬ事はあるんですか?」


 みんなが固唾を飲む音が聞こえる。先輩も一瞬顔が強張った。


 ありゃ?タブーでも言っちゃったか?死ぬかどうか。生死に伴う仕事なのかどうか。これは聞いとかなきゃいけない気もするけど…神崎さんは顔色一つ変えずに、にっこりと笑いながらこう答えた。


「もちろん死ぬ事はあるよ。過去にもこの生徒会では死者が出ている。最近はその数もグッと減ったけどね」


 会場が再度ざわめき始める。今度はひそひそとではなく、生徒一人一人から不安や恐怖も感じる。てか流石に俺も動揺してしまった。


 やっぱり生死に関わるのか。右の腹をさする。あの時の痛みがまるで蘇ったかのようにズキッと感じた。この痛みをまた味わうのかぁ…だけど、


 神崎さんや、今紅茶を入れている姫野さん、月城さん、等々力さん。一見普通の生徒会に見えるけど、この人たちも日々戦っているのか。そう考えるとなんか守られる側としてはムズムズするな。


 まあ殺す殺されるはさておき、最後に俺は俺にとって最も聞きたいことを聞いた。


「最後に一つ、いいですか?」

「うん?いいけど」

「給料とか、そういった物は」


 給料。生死に関わる役職なのだから、これは戦場に出ている兵隊のようだ。何もないじゃあねぇー。


 さあ、どうだ?ギャラはあるのか…できればあって欲しい。神崎さんはさっきから放っていた爽やかスマイルを変えずに、


「生徒達の…笑顔、かな?」


 …ドヤ顔で言うことじゃあねぇよ。てかなんで溜めたのよ。


「…俺抜けるわ」「私も遠慮します」「俺も辞ーめた」


 今のが決め手になったのか、次々に合格者達が降板していく。そして「出口はこちらで〜す」と言う姫野さんの声とともにこの生徒会室から退散していく。え、意外と寛容。


 もっと「そんなこと言わずに!」って止めたりするかと…


 で、最終的に残った人はたったの3人になった。一気に静かになったな。


「残ったのは氷室ちゃんと出雲ちゃん、あとは鏡君の3人か。流石に厳しく言い過ぎたかなぁー…」

「なんかすみません」

「うん?ああ、別にいいよ。誰でもそれくらいの質問はしたいだろうし」

「そういう鬼君は何でここから出なかったの?条件、そこまで良く無かったと思うけど?」


 いきなり「鬼君」って言われて少しびっくりした。まさかこんな早くあだ名で呼ばれるとは。少しだけ嬉しかった事は隠しておこう。今までは誰かに呼ばれることもなかったしね…


 だがそう聞いてくる月城さんの質問はもっともである。死ぬかもしれなくてめちゃくちゃブラック。報酬も実質ゼロ。しかも生徒の笑顔って…俺にとって生徒は天敵なんだけど。


 だけど何故辞めなかったのか?分からない。何かここにいると自分の求めている物が手に入る気がしたから、かな?でもそんな事は言えるはずもない。うーん、なんで言おうかな…


「…妹に自慢できるかなぁーっと」

「絶対嘘でしょ!」

「というかそもそもこの話は他言無用だ」

「まあまあ…やっぱり君は面白いねー」


 先輩方から呆れられたが、今考えている理由を隠せただけマシだと思う。


「…さて」


 そう神崎さんがいったと思えば、彼の目の色が変わったように見えた。いよいよここから本題に入るのかな?


「残ってくれる君たちが今年生徒会に入ってくれるわけだけど、まずは炎清高校の歴史から教えないとね」


 そして聞かされる、この高校の不思議な怪奇現象。


 ・・・・・・


 神崎光からの視点


 炎清高校。去年創立50周年を迎えたんだけど、創立からわずか半年。軌道に乗り始めるべき大切なスタートダッシュの頃に事件は起こった。


 突如行方不明の生徒達が多発してしまったのだよ。


 誘拐、それとも自殺?警察沙汰になって様々な手段で行方不明者を捜索したけど、結局見つからず。いきなり生徒が消える学校と噂され、学校側も閉鎖まで追い込まれる事態になってしまったんだよ。怖いねー。


 しかしここで1人の少年がこの原因を突き止めたのさ。その少年は稀に見る天才の素質の持ち主でね。さらに当時の生徒会長を務めていたんだよ。


 彼は卓越した頭脳で科学の力を使い、今僕たちがいる世界と隣だなりになっている、もう一つの世界を発見したんだ!まるで鏡で写したかのような何一つ同じ世界。だけどそこにいるのは人間では無かったんだよ。


 その代わりに、その世界にはこの世にない物質が存在したのさ。


 それが「魔ソ」。鏡写しの世界にある目には見えないそれは我々人間にすざましい力を及ぼすんだよ。ずっとその世界にいると身体に影響が及ぶほど、ね。


 勿論、1日くらいあの世界にいたって何も変わらないよ。でも何日も魔ソを取り込んでいると、その者は人間から逸脱した存在になる。それは動物や植物にも同じように影響するんだよ。


 もうだいたい理解してきたかな?


 そう、神隠しのように行方がわからなくなったここの生徒はこの鏡写しの世界に偶然踏み込んでしまったのさ。そしてそこから出ることができずに化け物と化した。君たちが戦っていた者の中にもしかして君達と同じであったはずの生徒がいたのかもね。


 この化け物を僕達は「闇」と呼んでいるよ。


 さて、このような世界を発見してしまった会計の天才は勿論恐れたよ。このままでは死者が増えるばかり。化け物になった者もどうやら他の人々を襲うんだからね。しかも学校が閉鎖しても続く可能性も…


 しかし何も悪いことばかりでは無かった。彼が研究し続けていると、魔ソの空間にに数時間ほど毎日接していても、人間を止めることがないと分かったんだよ。それどころか、魔ソをうまく取り込むことができて、更なる力を手にできたんだ。


 だからといって何日もあの空間にいたら「闇」となってしまう。だけどこれでその「闇」に対抗する手段、そして生徒達を「闇」から守る手段は作れたわけだ。


 研究はまだまだ続き、様々な結果が分かったんだよ。


 ・まず、この鏡の世界に紛れ込む者の殆どはこの高校に滞在する生徒たち。学年は問わずに様々な生徒がこの世界に踏み込んでしまうんだよ。


 ・「闇」の主食は生き物全て。だけど餓死はしない。魔ソも実は彼らの食料なのさ。


 ・不思議なことに大人達はこの世界に入ることができない。過去にあった一例で、ある親が自分の子をここに入れようとしたみたい。だけど自分はいつまでも空間に行けず、気づけばその子は何処かへ行ってしまったのさ。勿論、その子は鏡の世界へ入り込んでしまった。


 ・闇を殺した場合、暫くすると取り憑かれていた物が取れたように行方不明だった物が出てくるんだよ。残念ながら息は引き取っているんだけど。長い間その生き物が鏡の世界に駐在していた場合、体は原型をとどめてもいないけどね。


 ・そして特定の無機物の物も魔ソに漬け込んでいると力を得る。これが発見された時さぞかし彼は嬉しかったんだろうね。僕も武器がある事はとても心強いよ。


 初めは彼1人でこの「闇」をに敵対し、生徒を危機から守っていた。1人だけであんな凶暴な生物に立ち向かうなんて、凄いよね。


 このお陰で誘拐事件はほんの一時的なものとして扱われ、マスコミなどの対応も何とか逃れることができた。彼のお陰で、この学校は亡くならずに済んだのさ。そして彼の迅速な行動な元、平穏な日々が学校で続いた。


 でもそんな日にお終止符が打たれる。ある日、彼はある小さなミスをしてしまい1人の生徒を助けたんだけど、自分は約1ヶ月その世界に居なければいけなくなったのだ。1ヶ月だよ?奇跡的に彼は帰ってこれたんだけどね。その代わりに後遺症のような、呪いのような物は受けてしまったらしい。


 そこで彼は考えた。もう自分は1人でこの問題を抱えることができない。だけど大人に助けを求めたところで、信じてもらえない。自分たちの目で見れないのだから、そりゃあ信じられないよね。百聞は一見にしかずと言うし。


 よって彼は生徒会の仲間にこの摩訶不思議な現象を告白する事にした。最初はみんな驚いただろうねー。


 1ヶ月も行方不明になっていた会長が戻ってきたと思えば、実は別の世界が存在して、この世とは思えない化け物がいて、なんと生徒会長は戦っているって…へんてこりんなことを言われて。でも最終的には信じた。


 そして決めたんだよ。生徒会で学校を守ろうと。天才の彼は卒業するまで出来る限りのことをしたよ。


 生徒会室に地下室を作り、鏡の世界の至る所にカメラを設置、「闇」を感知した際すぐに知らせるシステムや万が一の防衛機能まで。様々な武器を製造して、それを保管する所も用意した。次の、またその次の世代に受け継がれていくように。


次の世代も生徒会が担っていくとも決めた。君たちのように今日スカウトして、訓練をさせて立派な戦士と育てる。そして育った者達がその技術をさらに次の世代へとつなげていく。


 こうして今日まで50年、このようにして守ってきたんだよ。この怪異に襲われた学校をね。


 ・・・・・・


 神崎さんは一旦話を辞め、もう冷めてしまったと思われる紅茶をすすった。


「と、だいたいこんな感じかな?要するに君たちには生徒会に入ってもらい、通常の業務とは別に、『闇』退治をして貰いたいのさ」


 なるほど、大体のことは理解した。要するに最初の俺の推測とはあまり変わらなかったわけだ。化け物退治。それを3年間行う。


「ああ、勿論さっき言った報酬はあんなこと言っちゃったけど、生徒会をまっとうした者達には、今後の将来を全面的にサポートされると言う褒美があるよ。これを最初に言っちゃうと、これだけを目的で入るバカが出てくるからね。伏せておいたのさ」


 おお、それってつまり俺がこの先やりたいことのサポートをしてもらえるのか。悪くないじゃん、生徒会。


「とは言っても、生徒会に本格的に入ることができるのは9月にある生徒会選挙だよ。そこで正式に選ばれなきゃねー」

「それじゃあそれまでの5ヶ月は何をすればいいんですか?」

「勿論研修さ。学校からは生徒会希望の方々として名目上では生徒会の見学、本命では訓練を行うよ」


 あーそんな感じですか。生徒会選挙、か。絶対関わることがないと思っていたのに、まさか自分がそこに立つとは。はぁーー…


 ふと、学力や習い事などの事情はどうすれば?と思ったが、成る程ね。ここに入るんだから、それくらいできて当然だよね?ね?スタイルなのか。


 幸い俺は学校が終わると真っ直ぐ家に帰るし、成績も人並みにはあるので心配する必要はないだろう。


「それじゃあ、有無は問わず君たちには生徒会に入ってもらう!いいねー」

「あー、はい。了解です」

「分かりました。宜しくお願いします。」

「…はい」

「うんうん、良かったよ。これで少なくともあと3年は学校が守られるよ」


 しんみりとした顔で神崎さんは言う。月城さんや等々力さんもどこかホッとしている。もしかして彼、いや、3年のメンバー全員、どこか心配していたのかもしれない。


 何せ命に関わる役職だ。今回は俺たちが残ったが、誰も残らなかった可能性もある。そう考えると恐ろしい。


 誰か自分たちの仕事を継承することができた。伝統を残すことができた。そんな感じなのだろう。俺がそれを感じるのは多分2年後になるんだろうけど。


 暫くして神崎さんは「よし」と意気込みながら再度俺たちを見た。


「改めて紹介といこうかな。僕は神崎光。炎清高校3年5組で、この炎清高校生徒会の生徒会長を務めているよ」


 爽やかに決めている神崎さん。いつも笑顔が絶えないお兄さんに思える。でもどこかしっかりしている。彼が生徒会長でも違和感は全く湧かない。


「みんな!月城日和、3年1組!生徒会の副会長です!よろしくね!」


 さっきからどこかハキハキしていた先輩ね。茶髪でスポーティな彼女が副会長なのか。なんか意外ではあるね。いつも元気そうで、これからこのテンションについていくのが難しそうだな…


「3年1組、姫野小春です〜…書記だよ〜」

「寝るな…ったく、3年2組の等々力剛。生徒会会計だ」


 この2人、さっきも同じようなやり取りしていたよね。姫野さんは驚く事に髪の毛が淡い桜色で、天然パーマ?みたいに少し乱れている。彼女の周りが春のようだ。そして剛さんは見るからに筋肉質な先輩だ。彼が会計をしているなんて誰が思うのだろうか。


「以上炎清の3年の生徒会だよ。ちなみに2年生の生徒会もいるから、また後で紹介するよ。さて、次に君達の紹介へといこうじゃないか」


 まず氷室さんが立ち上がり、先発を務めた。


「1年2組の氷室唯です。私は生徒会に所属するつもりでした。まだまだ未熟ですが、宜しくお願いします」


 あ、知っていたの?じゃあ元から入るつもりだったのか。校門前のことがよぎる。うん、この仕事を受けたからこそ、あんな芸当ができたのか。


 そして俺の隣の席だった出雲さん。相変わらずの無表情で、ポニーテールをいじりながらボソボソと喋った。


「…1年1組、出雲クロエ……」

「……」

「……」


 沈黙がしばし続いた。なんとなく出雲さんのキャラが分かった気がする。必要最低限の事以外は何にも喋らないタイプだ。先輩達の表情も硬い。どう接すれば良いか分からないようである。


「えっとねー、出雲ちゃん。他に何かないかな?」

「……」


 ノーコメント。凄いな。ここまで喋らないとは。俺も人のことは言えないけど。と、思って彼女を見ていると、僅かに口元が動いたのを見た。


「よろしく……お願いします」


 …多分彼女は恥ずかしがり屋です。できすぎたキャラだよ。多分色々と凄い。言葉にはできないけど凄い。


「同じく1年1組の鏡鬼ケ原です。自分はあまり理由とかはありませんが、真面目にはやります。よろしくお願いします」

「うんうん、良かった良かった。まだ実感は湧かないと思うけど、僕たちは歓迎するよ。ようこそ、炎清高校生徒会へ」


 この先俺はとんでもない数々の事件に巻き込まれるのだろう。だけど入ってしまった以上仕方がないと思う。あと、密かに友達ができるのではないか期待も少しだけしている。


 自分はめんどくさい奴だと自負している。だからこそこのような機会を逃したくなかったのだ。この3年間が充実した期間になることを期待したい。


 まあ多忙でブラックな生徒会なんだろうけど、頑張ってやろうじゃあないか!


「よし!早速あっちの扉に入ろうか。まずは色々施設を紹介して、2年生とも合わせたいねー。出来れば実戦も申して貰いたいな」

「えっ、もうですか?」

「そりゃあ勿論、今日はまだまだ時間があるし、早く仕事に慣れてもらって損はないからねー」

「…今日何時までやるんだろうな」

「今日の会長絶好調〜…多分9時まで」

「また学校の塀飛び越えなきゃ行けないのかぁ…」


 ミスったわ。


 訂正しよう。


 この生徒会は多忙で、ブラックで、地獄だぁぁぁ……


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