サクラMAX氏の主張・前編
ツコンゲ氏に案内されて5分ほど歩いた先、私達が到着したのは大きな洞穴の中だった。
ここも彼等"偉大なる豪傑の子供達"の縄張りであるらしく、結構広い洞穴の中でも先程目にしたのと同じ光景が繰り広げられていた。
このエリアでは、主に魔族の人達が多かったように見える。
ふと見ると、サキュバスらしき女性から生命力を吸いつくされそうになっている人間族の男性がいた。
ツコンゲ氏は無言でそちらに近づいていくと、サキュバスの女性を追い払い、男性を首根っこをムンズ、と掴みながらこちらへと運んできた。
年の頃は20代半ばだろうか。
どうやら、この男性こそがこの地で何かを企てていた1話ガチャのなろうユーザーであるらしい。
男性が回復するのを待ってから、筆者はゆっくりと話を切り出す事にした……。
男性の名前は、サクラMAX(仮名)さん。
私が睨んだ通り、彼はとある目的を持ってこの"テクノ・ブレーク大森林"の奥地まで来た者達の一人……であるのだが、どうにも私には信じられなかった。
というのも、深山氏の読みが確かならば彼のような"短編コーナーに1話ガチャを投稿するなろうユーザー"は、とてつもない野望を持っているとの事だったが……。
今までサキュバスに襲われて死にかけていたこの線の細そうな青年が、そんな大それた人物には到底見えない。
あれこれ考えたところで答えなどが分かるはずもないため、私は単刀直入にサクラMAX氏へ真意を尋ねる。
――サクラMAXさん、貴方は手っ取り早く書籍化を目論む"短編コーナーで1話ガチャを繰り返すなろうユーザー"であるとの事でしたが、この"テクノ・ブレーク"で一体、何をしようとしていたんですか?……私には、魔族の女性に襲われていただけにしか見えなかったのですが、アレも貴方の"計画"に関わる事なのでしょうか?
「あぁ、いえ。アレは流石に違うというか、ただ単にこちらが失敗しただけですね(苦笑)……こんな状態になったから、もう言っても言わなくても変わらないかもしれませんが、実は僕達はこの"偉大なる豪傑の子供達"という犯罪シンジケートが奴隷に生ませた大量の子供達に、幼い頃から僕達が書いた作品を読み聞かせて熱烈なファンにさせ、彼等の圧倒的かつ爆発的な支持のもと、自作品を書籍化にこぎつけるつもりだったんです」
――……奴隷扱いを受けている子供達への、自作品の刷り込みという英才教育……!?し、しかし、それは悪質な"洗脳"行為に陥りかねない危険性があるのでは?――何より、そのような非人道的な行為がこの"現代社会"で許されると、貴方は本気でお思いなんですか!?
「――確かに、僕がやろうとしていた事は世間から非難されて当然の事かもしれない。でも、この"偉大なる豪傑の子供達"の管理下で生まれた子供達の大半は、幼い頃から売春や戦闘訓練を組織から強制された結果、貴方も目にした乱痴気騒ぎ要員としてだけでなく、少年兵として二束三文で戦場で使い潰されたり、悪趣味な金持ち達の玩具として壊れるまで弄ばれたりしてるんだ。臓器を抜き取られて闇市で売買される子供達だっている。――それらと比べたら、僕達の『生命の危険を脅かすことなく安全に、自分達の書籍化を熱烈に後押ししてくれるファンになってもらおう!』というのは、まだ人道的な選択肢じゃないのかな?」
――……。
「……まぁ、こんなご高説と計画があったところで、交渉があっけなく破談したからこそ、こうして僕も奴隷扱いに落ちぶれている訳なんだけどね(苦笑)。――彼等には、『この計画が成功した暁には、書籍化作品の売上の1割を組織にキックバックする』と持ちかけたのだけど、『普通に、奴隷共で人身売買した方が金になるに決まってんだろ!このボケがッ!!――ガキだろうと、コイツ等一人を食わせて管理すんのもタダじゃねぇんだよッッ!!』と、怒鳴られてから殴り飛ばされたよ……」
――何故、サクラMAXさんはそんな危険を犯してまで、"書籍化なろう作家"を目指しているんですか?……いくらなんでもこれは、"1話ガチャの延長線"で済まされる範疇を、超え過ぎではないでしょうか?
「……そんなのは決まってる。僕にとってはこれくらいの事はリスクでもなんでもないからさ。――僕は、何があっても"書籍化作家"になるしかないんだ……!!」
――……それは、一体どういう……?
単なる売名とは思えない、サクラMAX氏の緊迫した面持ちを見て戸惑う私。
それから僅かばかり押し黙っていたサクラMAX氏だったが、意を決した表情で重々しく口を開く――。
「――実は僕は、異世界から地球に帰還した"異世界転移者"なんだ」
「――ッ!?」
眼前の冴えない感じの青年であるサクラMAX氏が、まさかの"異世界転移者"――!?
衝撃的な事実を前に驚愕し、絶句するしかない私。
対するサクラMAX氏はそんな私に力ない笑みを見せてから、ポツポツと自身の境遇を語り始めていく……。