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三国志演義

三国志演義・来陽県の酔県令~鳳凰の雛~

作者: 霧夜シオン

この台本は故・横山光輝氏、及び、吉川英治氏の著作した三国志や各種ゲーム等に、作者の想像を加えた台本となっています。その点を許容できる方は是非演じてみていただければ幸いです。

なお、武将名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかって打てない)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただいております。何卒ご了承ください<m(__)m>


なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。

また、金銭の絡まない上演方法でお願いします。


ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、または他のキャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場合がありますので、注意してください。


声劇台本:三国志演義・来陽県の酔県令~鳳凰の雛~


作者:霧夜シオン


所要時間:約35分


必要演者数:最大8人(8:0)

          (7:1)

          (6:2)


※これより少なくても兼役すれば可能です。


はじめに:この台本は故・横山光輝氏、及び、吉川英治氏の著作した三国志や各種

     ゲーム等に、作者の想像を加えた台本となっています。その点を許容で

     きる方は是非演じてみていただければ幸いです。

     なお、武将名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかって打てない)

     場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただいております。何卒ご了

     承ください<m(__)m>


     なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。

     また、金銭の絡まない上演方法でお願いします。

     

     ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、または他の

     キャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場合がありますので、

     注意してください。



●登場人物


劉備りゅうび・♂:あざな玄徳げんとく

     中山靖王ちゅうざんせいおう劉勝りゅうしょうの末孫。現皇帝の叔父、いわゆる皇叔こうしゅくにあたる人物。

     義兄弟達に支えられて流浪の末、諸葛亮という不世出の傑物を臣下に迎

     える。

     赤壁せきへきの戦いを経て大陸中央部にあたる、荊州けいしゅうに拠って立つ。


諸葛亮しょかつりょう・♂:字は孔明こうめい

       劉備が三顧さんこの礼をもって軍師に迎えた三国志上屈指の人物。

       その能力を劉備の為に使い、共に漢王朝の再興を目指す。


ホウとう・♂:字は子元しげん

       容貌は醜いが、臥龍・諸葛亮に、鳳凰の雛こと鳳雛ほうすうと並び称される

       ほどの人物。長らく漂泊して最近は呉に住んでいたが、周瑜の死の

       際、弔問に呉を訪れた諸葛亮と再会。直筆の紹介状を携え劉備の元

       を訪れる。

       大の酒好き。


張飛ちょうひ・♂:字は翼徳よくとく

     劉備を長兄とする三人の義兄弟の末弟。劉備軍の武の中核をなす人物。

     豪快かつ武勇に優れ、長坂ちょうはんの戦いでは、長坂橋に仁王立ちして

     曹操軍数十万を一喝している。性格は粗野で義兄弟達や目上の者には

     敬意を払うが、目下の者には粗暴な態度で接することが多い。また、酒

     好きで酒による失敗をしたことも。


孫権そんけん・♂:字は仲謀ちゅうぼう

     呉の君主・呉候ごこう。兄、孫策そんさくから領土を受け継ぎ、赤壁の戦いを経て

     父、孫堅そんけんに因縁のある荊州を手に入れようと水面下で劉備と対立して

     いる。現在は心ならずも劉備と自分の妹である孫尚香が婚姻を結んだ事

     で、衝突を回避している。周瑜を失ったことで気落ちすると共に、

     人材を渇望している。


魯粛ろしゅく・♂:字は子敬しけい

     諸葛亮が劉備に対して進言するよりも先に、自分の君主・孫権に対して

     天下三分の計ならぬ、天下二分の計を提唱する程の本来は非常に優れた

     人物だが、演義では割と周瑜と諸葛亮の間でオロオロしている印象が強

     い。温厚な人柄で周囲の尊敬を集めている。

     周瑜の死後、遺言によって大都督の地位に就くが、孫権に自分以上の人

     物としてホウ統を推挙する。


孫乾そんかん・♂:字は公祐こうゆう

     劉備がかつて徐州じょしゅう陶謙とうけんから譲られた際に仕える。

     外交官として有能で、袁紹えんしょう劉表りゅうひょうへの使者を務めている。

     また、関羽、張飛らへの相談役をこなしたような記述もある。


役人・♂♀不問:来陽県の下っ端役人。巡視に訪れた張飛に恐縮しきりである。


民・♂♀不問:乱世に翻弄される哀れな民。


ナレーション・♂♀不問:雰囲気を大事に。


※必要演者数は一応の目安だと思ってください。試読の際は3:2で兼ね役しまし

た。なので、少ない状態で上演する際は、被らないように兼役でお願いします。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:劉備りゅうび孫尚香そんしょうこう婚姻こんいん後、荊州を奪うべく“道を借りて草を枯らす”計略を仕

   掛けた呉の大都督・周瑜しゅうゆは、諸葛亮に計を見破られた上、逆手さかてに取られて

   一敗地いっぱいちに塗れた。

   直後に諸葛亮からの手紙を読むや極度の興奮状態に陥り、間もなく息を引き

   取る。後任は遺言によって魯粛ろしゅくが引き継ぐことになったが、彼は自分の才能

   不足を誰よりも痛感していた。

   呉の国中が悲しみに打ち沈む中、荊州から周瑜しゅうゆの喪を弔うと称して諸葛亮しょかつりょう

   来訪。怒りに燃える呉の諸将を見事な弔文でなだめたあと、魯粛の見送りで船

   着き場まで来た。


諸葛亮:では、周瑜殿の後は貴公が継がれるわけですか。大役たいやくですな。


魯粛:そうです。いやはや、まったく身のほそる思いです。


ナレ:その時、城門から密かに尾行してきていた一人のみすぼらしい浪人が、やに

   わに襲い掛かると諸葛亮の肩をつかむや、剣を抜きながら叫んだ。


ホウ統:おのれ、呉に人はいないと侮るか! 既に周瑜都督しゅうゆととくを手紙をもって殺して

    おきながら、何食わぬ顔でのこのこ弔問などと称してやってくるとは・・

    ・こうしてくれるッ!!


魯粛:ああっ、これ無礼者、何をするかッ!!


ホウ統:おっと。あはははは、いや、冗談ですよ。


ナレ:その場を去りかけた魯粛は、慌てて駆け戻って浪人のそでつかんで振り飛ばそ

   うとした。

   だがその時、既に浪人は諸葛亮を離して剣をさやに納め、身軽に飛びのいてい

   た。見れば、その浪人は鼻は平たく、黒疱瘡くろぼうそうあとの目立つ、人品じんぴんの卑しげな

   男であった。それを見た諸葛亮は、笑顔を浮かべて呼びかけた。


諸葛亮:やぁ、誰かと思ったらホウとうではないか。久しいな。荊州で別れて以来、

    息災そくさいだったか?


魯粛:な、なんだ・・・鳳雛ほうすう先生ではないですか・・・悪いおたわむれだ。おどかさない

   でいただきたい。配下の者が血迷ったのかと思いましたよ。では・・・。


諸葛亮:まぁまぁ、船で一献いっこんみ交わそうではないか、ホウとう


ホウ統:おお、ご相伴しょうばんにあずかろう。


    【少し長めの間】


諸葛亮:荊州けいしゅう滅亡後は呉に移り住んでいるとうわさに聞いてはいたが、ここで再会

    できるとは思わなかった。


ホウ統:いやあ、行くあてもなく、この地でひっそりと日々暮らしているよ。


諸葛亮:弔問に来る直前、この地に将星しょうせいきざしを見て期待して参ったが、君に

    会えたのも何かの縁だ。君ほどの人物がいつまでも浪人する気はあるまい

    。もし、志を得ようというのなら、荊州けいしゅうに参らぬか?我が君 劉皇叔りゅうこうしゅく

    は、仁義に厚いお方、必ず君の力を必要とするだろう。


ホウ統:そうだなぁ・・・考えておこう。


諸葛亮:もし、荊州けいしゅうに来て我が君にお会いする事になったら、これを共に渡してく

    れ。


ホウ統:うむ、では今日の所はこれで失礼するよ。


ナレ:諸葛亮しょかつりょう推挙すいきょの手紙をしたためると、ホウ統に渡して荊州けいしゅうへ戻っていっ

   た。

   ホウ統はしばらく船が見えなくなるまで佇んでいたが、やがていずこともな

   く立ち去った。

   それから数日後、呉の城中にて魯粛ろしゅくは、主君孫権しゅくんそんけんへ人材捜索を具申ぐしんしていた

   。


魯粛:我が君。この魯粛ろしゅく、故人の遺言と我が君のめいいなみがたく、一応は大都督だいととく

   任をお受けしたものの、元来、私は取るに足らない凡庸ぼんような才しかありませ

   ぬ。

   しかし、この天下に決して人がいないわけではありませぬ。まだに埋もれ

   ている、諸葛亮しょかつりょうにも劣らぬ大賢人を私の代わりに推挙したく存じます。


孫権:ふむう・・・そのような人物が、この呉にまだおるのか?


魯粛:はい。襄陽じょうようの名士、ホウ統、あざな士元しげん道号どうごう鳳雛ほうすう先生という者です。


孫権:おお、鳳雛ほうすう先生! 名は聞いておるし、先の赤壁せきへき大戦たいせんにおいて我が軍の為

   に連環れんかんの計を曹操そうそう軍に施した、陰の立役者たてやくしゃの一人ではないか。

   して、周瑜しゅうゆと比べるといずれが優れておるのか?


魯粛:故人の才を論じ、批評する事はできませぬ。ですが、かの臥龍がりゅう諸葛亮しょかつりょうも彼

   の才には深くふくしています。かみ天文てんもんしもは地理に深く通じ、その機略きりゃく

   いにしえ管仲かんちゅう楽毅がっきに、兵法の才は孫子そんし呉子ごしに決して劣るものではございま

   せぬ。


孫権:ぬうう、それほどの賢人か・・・!

   魯粛ろしゅく、何としても探し出し、すぐに召し連れてくるのだ。


魯粛:ははっ、直ちに。


ナレ:孫権そんけん人材渇望じんざいかつぼうの念をあらわにした。既に歩み始めた覇業はぎょうへの第一歩として

   赤壁せきへきの戦いに勝利したきりだというのに、自らの手足とも言うべき重臣・しゅう

   を失ったのだから当然の感情と言える。魯粛ろしゅくが市中にホウ統を訪ね歩いて

   いる間も、しきりに催促さいそくする程だった。


孫権:魯粛、ホウ統はまだ見つからんのか?


魯粛:はっ、ただいま八方はっぽう手を尽くして行方ゆくえを尋ねております。


孫権:早く、早くせい。他国へ去ってしまわぬ内に!

   

ナレ:それから更に数日して、やっとくだん鳳雛ほうすうこと、ホウ統が見つかったとの知ら

   せを受け、孫権そんけん威儀いぎを正して彼を迎えた。だが・・・。


ホウ統:ホウ統にございます。


孫権:うむ・・・(うッ・・・なんだ、この容貌ようぼうは・・・!)


ナレ:孫権は生理的な不快を感じながらホウ統を打ち眺めた。顔は黒疱瘡くろぼうそうあとと短

   い無精髭ぶしょうひげで一杯な上に、鼻もひしゃげている。風采ふうさいの上がらない事この上な

   かった。おまけに無作法ぶさほう極まりなく、仏頂面ぶっちょうづらで突っ立っているのみである。


孫権:(こんな醜男ぶおとこもなかなかおるまい・・・。)

   貴公には、どんな能があるか?


ホウ統:【ぶっきら棒に】

    日々飯を喰らい、やがては年老いて死ぬでしょう。


孫権:(! く・・・ッ)では、どんな才を持っているか?


ホウ統:【横柄に】

    機に臨み、変に応じるのみです。


孫権:(ぬうう・・・)

   貴公と周瑜しゅうゆを比較したらどうか?


ホウ統:そうですな、まず、ぎょくと石でしょうか。


孫権:(こ、こ奴・・・!)

   いずれがぎょくか?


ホウ統:ご想像にお任せします。


孫権:くッ~~ーーーーッッッ!!!


ナレ:孫権そんけんは怒りをあらわに見せて荒々しく席を立つと、奥へ隠れた。

   そして魯粛ろしゅくを呼ぶや否や、声高こわだかに怒鳴り散らした。


孫権:あんな者はすぐに追い返せッ! あの態度はなんだ!

   みずからをぎょくと言わんばかりな顔をしているではないか!!


魯粛:我が君、どうかお怒りをしずめて下さい。容貌ようぼうも醜く態度も横柄おうへいですが、赤壁せきへき

   のいくさの前に彼が曹操そうそう軍に単身乗り込んで連環れんかんの計を施さなければ、あれ程な

   大戦果を挙げることは叶わなかったのを我が君もご存じのはずです。

   ・・・周瑜しゅうゆ殿の功績に傷を付けるわけではありませぬが・・・。


孫権:いや、余は虫が好かんのだ!

   そちも言ったではないか。天下に人がいないわけではないと!

   何を好きこのんであのような黒あばたを・・・ッ!


魯粛:・・・御意ぎょいにかないませぬか・・・是非ぜひもありませぬ・・・。


ナレ:辺りはすでに日が暮れていた。

   魯粛はホウ統へ罪悪感を感じたのか、城門の外まで自ら見送りに立った。

   周囲に人影が見えないのを見計らって、彼に陳謝した。


魯粛:ホウ統先生、今日の不首尾ふしゅびは私の罪です。

   いらざる推挙すいきょをして先生に不愉快な思いをさせた事、まことに申し訳ありま

   せぬ。


ホウ統:ははは・・・いやいや。魯粛ろしゅく殿、お気になさらず。


魯粛:先生は、これを機に呉を去るおつもりでは?


ホウ統:そうだな・・・そうするかもしれんなあ。


魯粛:では、どこかに仕官なさるお考えでしょう。誰に仕えるおつもりで?


ホウ統:ふむ・・・いっそ北へ飛んで、曹操そうそうにでも仕えようか。


魯粛:ッッ! お、お待ちを! 先に先生は曹操そうそうとその軍に連環れんかんの計をもって壊滅

   的な打撃を与え、深く恨みを買っているはずです。ですから、ここは荊州けいしゅう

   劉玄徳りゅうげんとくにお仕えなさると良い。先生と同輩の諸葛亮しょかつりょう殿もいらっしゃること

   ですし、この通り私からも紹介状を書いてありますから。


ホウ統:はっはっは、いや、冗談だよ。少しばかり戯れてみただけさ。


魯粛:【安堵の溜息】

   それを聞いて安心しました。

   先生が劉玄徳りゅうげんとくを、諸葛亮しょかつりょう殿と共に補佐して曹操そうそうを討つ事がかなえば、

   我ら呉にとっても喜ばしい事ですから。

   ・・・では、おさらばです。


ホウ統:おさらば、魯粛ろしゅく殿。


ナレ:その後、いくばくも無くしてホウ統は荊州けいしゅうへと移った。

   そしてある日、仕官を求めて劉備りゅうびの元をふらりと訪ねた。

   その時ちょうど諸葛亮しょかつりょうは、新たに傘下さんかに収めた荊州南四郡けいしゅうみなみしぐんへ視察に出かけ

   ていて留守であり、ホウ統をよく知る者がいなかった。


劉備:なに、に会いたいと? 名は何と言う?


孫乾:襄陽じょうようのホウ統なりとの事です。


劉備:!! さては、かの鳳雛ほうすう先生か! すぐ丁重ていちょうにご案内するのだ!


孫乾:はっ、ではしばらく。


   【長めの間】


   我が君、鳳雛ほうすう先生をお連れしました。


ホウ統:・・・・・・。


劉備:ッ!!

   (挨拶あいさつもろくにせず、無作法ぶさほうに突っ立ったままだ・・・、これがかの高名な

   鳳雛先生だろうか・・・? それに卑しげな風体と容貌・・・。)

   【咳払い】

   ・・・遠くこの荊州へやってこられたのは、そも、いかなるわけあっての

   事ですか?


ホウ統:されば、劉皇叔りゅうこうしゅくが新たに荊州南郡けいしゅうなんぐん翼下よっかに加えられ、広く人材を求めて

    いられる話を聞きました。

    もし御縁ごえんあらばと思い、やってきてみた次第です。


劉備:ふうむ、そうでしたか。

   しかしあいにく荊州けいしゅうはすでに新たな秩序が定まり、官職の空きと言えば、

   ここから東北地方にある来陽県らいようけん県令職けんれいしょくのみです。

   そこでもよろしければ、赴任ふにんしていただきたい。


ホウ統:ほお、田舎の県令職けんれいしょくですか。それは暢気のんきで良いかもしれませんなあ。


ナレ:劉備りゅうびと面会した際に、ホウ統は魯粛ろしゅく諸葛亮しょかつりょうからの紹介状を出さなかった。

   県令けんれいの職を引き受けたのは、孫権そんけんのように人を侮る態度をあらわに見せなか

   った為、もう少し劉備りゅうびを試そうとしたのだ。ともかくもホウ統は辞令を受け

   ると、来た時と同じくふらりと来陽県らいようけんへ向かった。

   それからしばらくして。


劉備:軍師は今頃、武陵ぶりょう長沙ちょうさあたりか・・・。


孫乾:申し上げます、我が君。来陽県らいようけんの県令の事についてですが。


劉備:うむ、来陽県らいようけんの県令と言えばホウ統だが、いかがした?


孫乾:は・・・実は、ホウ統はどうやら赴任したその日から政務は全く見ておらず

   、酒ばかり飲んでいるとか。

   その為、書簡しょかんは山と積まれてほこりをかぶり、民達の訴訟そしょうも全く聞かない為、

   怨嗟えんさの声が来陽県らいようけんに満ちあふれているとの事です。


劉備:な、なにっ、そんなにひどいのか・・・!!

   ぬうう、何という憎い奴か!

   張飛ちょうひ


張飛:ははっ。


ナレ:さすがの温厚な劉備りゅうびも、民達が苦しんでいると聞いては堪忍かんにんの尾が切れかけ

   た。二人はめったに見ない劉備りゅうびの怒りに目を丸くしていた。


張飛:我が君がお怒りになるとは珍しいですな。


劉備:孫乾そんかんとただちに来陽県らいようけんへ巡視に向かい、ホウ統の噂の真偽しんぎを確かめよ。

   もし不法や怠慢たいまんなどがあったら、厳しく実情をただして参れ!


張飛:心得ました。


孫乾:ははっ。


張飛:さっさと終わらせて酒が飲みたいわ・・・行こうぜ、孫乾そんかん


ナレ:二人はすぐに数十騎の供を連れて来陽県らいようけんへ赴いた。二人が吏務検察りむけんさつに訪れる

   事を伝え聞いた民や役人たちは、こぞって出迎えた。


張飛:さて・・・そろそろ来陽県らいようけんだな・・・おっ。


役人:これはこれは張飛ちょうひ様、お待ち申し上げておりました。


張飛:おう、出迎え御苦労。・・・ん? おい、役所の者はおらんのか?


役人:は、はい、わたくしどもでございます。


張飛:そうではない! 県令はどうした?


役人:そ、それは・・・。


張飛:はっきり申せ! 何もお前達を罰しに来たわけではない。


役人:それが、その・・・県令はご着任以来、政務には見向きもされないばかりか

   、おおやけの場にさえ顔をお見せにならないので・・・。


張飛:何ぃ・・・では毎日、一体何をしておるのだ!?


役人:たいがいは、その・・・酒ばかり飲んでいらっしゃいます・・・。


張飛:な・・・酒浸さけびたりだとぉ!?(【小声】くそっ、うらやましい・・・いや、そうじ

   ゃねえ!) けしからん!! ともかく、県庁へ案内せい!


役人:は、はいぃッ!!


   【少し長めの間】


   こちらでございます。


張飛:おう、お前達は下がっていいぞ。

   【息を吸い込んで】

   ・・・・・県令のホウ統はおらんか!!


   【間】


ホウ統:・・・わしが・・・っとと、ホウ統だが~?


ナレ:奥から出てきたのは、衣服もかんも乱れた酔いどれである。よたよたと覚束おぼつか

   い千鳥足ちどりあしさかずき片手に歩いてくると、酒臭い息と共にホウ統は名乗った。


張飛:貴様が県令のホウ統か!


ホウ統:ふん、そう~だよ。で、お前さんは?


張飛:俺は張飛ちょうひという者だ。


ホウ統:ああ、そうかそうか、あの張飛ちょうひか~。大の酒好きだそうだなぁ。

    まぁ掛けて、一杯やりたまえよ~。


張飛:(こやつ・・・酔っているとはいえ、まるで動じておらん・・・!)

   酒どころではないわ! 俺は我が君の命を受けて政道せいどうを正しに来たのだ!

   赴任してから貴様は、全く政務を見ておらんそうじゃないか!


ホウ統:なんだ~飲まんのか。 まぁ、ぼちぼちやろうかと思っとるぞ~。


張飛:けしからん! 何という怠慢だ!! 公事訴訟くじそしょうも山ほど溜まっているのだ

   ろうが!!!


ホウ統:その気になれば造作ぞうさも無いぞ~。政治はな~、簡単であればあるほどい

    いのさ~。民達の善良性を伸ばして、邪心を抑えるのではなく、忘れさ

    せる。これが、大事なんだぞ~。


張飛:おのれ~~~、口だけは達者らしいな!!


ホウ統:そりゃあ~そうだ。何しろ、ける口でなぁ~、ははははは。


張飛:酒の事ではないッッッ!!!


ナレ:張飛ちょうひは今にも噛みつきそうな顔をして、ホウ統のえりつかんで締め上げた。


張飛:それほど大口を叩くなら、明日中にやってみせろ! それができるなら、

   貴様の高言こうげんに耳を貸してやる!! できなければ、ふんじばって我が君の前

   に引きすえるぞ!


ホウ統:お~、いいぞ~。それにしても、酒は美味いのぉ~~、ははは。


張飛:~~~~ーーーッッッ! 


孫乾:明日一日だぞ、ホウ統。良いな! 張飛ちょうひ殿、行こう。


張飛:まぁいい、明日まで黙って見ていてやる!


ナレ:二人は県庁を出ると、わざと民家に泊まった。

   そして翌日。


張飛:【いびき】・・・・・。


孫乾:うむ、む、む・・・良く寝た。さて・・・・・、張飛ちょうひ殿!


張飛:む・・・ふわぁ~~ッッ、おう孫乾そんかん、早いな。


孫乾:お目覚めかな。そろそろ支度したくして参ろうか。


張飛:おう、彼奴きゃつの化けの皮をいでやるわ。

   ・・・・・ん? なんじゃこの往来の行列は!?

   おい、これは一体どうしたんだ!?


民:へえ、何でも今朝がた未明から、県令様が急に裁判を県庁で開きなさるとい

  う事で、こうして並んでおりますので。


張飛:なに、県令が?


民:わしらも初めは信じられませなんだが、あれあの通りでごぜえます。


張飛:どれ・・・おう、すまんが通してくれ。


ナレ:二人が列をかき分けて県庁へ入ってみると、県令の正装をしたホウ統が民

   達を前にいちいち明快な裁きを与えているところだった。


ホウ統:うむ、田地でんちの境界線の争いか。この方法を用いて明確にせよ。さすれば

    争いはもはや起きぬ。


民:へ、へい。ありがとうごぜえますだ。


ホウ統:次はお前か。・・・何、それはお前が悪いゆえ、彼にこの額を損害賠償と

    して払い、二度と争わぬこと。


民:は、ははーーっ、恐れ入りました。


ホウ統:次は生活に困っておらぬのに窃盗か。お前の罪は許せぬ。六十回鞭打っ

    て追い放せ。


民:うう・・・ははっ。


張飛:ぬうう・・・なんという明快な裁きだ。


孫乾:二つの耳で聞くとすぐに結論を出し、裁かれる方も納得して恐れ入ってい

   る。


張飛:これほどとは・・・。


ナレ:二人が呆気にとられて聞き入っている間にも、水が流れるかのように裁き

   は進んだ。

   そして夕方になる頃には、あれ程ほど机に山と積まれていた訴訟そしょうは一件も

   残さず片付いてしまったのである。


ホウ統:さて・・・いかがですかな、張飛ちょうひ殿。 まぁ晩餐ばんさんでも共にしませんかな

    ?


張飛:ははーーっ、未だかつて貴方のごとき名吏めいりを見たことがありませぬ。昨日

   の無礼はどうか、ひらにお許し願いたい。


孫乾:あれ程の明快な裁きは聞いた事も無い。それがしもこの通り、どうかお許

   しくだされ。


ホウ統:はっはっは。どうやら我が君の前に、罪人として引き出されずに済みま

    したなあ。


    【間】


    ああ、そうそう、この手紙を我が君に渡していただきたい。

    軍師や魯粛ろしゅく殿が私の為に書いてくださったものだ。


張飛:なんと、軍師の・・・確かにお預かりいたします。


ナレ:食事を済まして張飛ちょうひらが帰る際、ホウ統はかねて諸葛亮しょかつりょう魯粛ろしゅくから貰って

   いた紹介状をはじめて渡した。二人は急いで戻ると、劉備りゅうびの前へ報告に出

   た。


張飛:我が君、ただいま戻りました。


劉備:おお、戻ったか。して、ホウ統の件はどうであった?


張飛:いや驚きました。あれ程の人物は、そういるものではありませぬ。

   確かに酒ばかり飲んで政務を全く見ていないというのは本当でした。

   しかし、我らと会った次の日の未明から訴訟そしょう裁判を開き、その日の夕方ま

   でには机の上に山と積まれていた案件を全部片づけてしまったのです。


劉備:なんと・・・それほど見事にやってのけたのか。


張飛:はい。そして帰りにこれを我が君に渡してくれと・・・。


劉備:手紙?

   ・・・うっ、これは! 軍師と呉の魯粛ろしゅくからの紹介状ではないか!?


諸葛亮:(ホウ統は私にも比肩する才能を持った人物です。外見だけで侮れば、

    必ず去ってしまうでしょう。どうか我が君におかれては、彼を速やかに

    重要な官職を任じていただきたく存じます。よくよくご賢察けんさつの程をお願

    い申し上げます。)


魯粛:(鳳雛ほうすう先生は天下の大賢人です。どうか彼を重く用いたもうて、共に曹操そうそう

   討つ日が来たらば幸いに存じます。どうか、容貌ようぼう美醜びしゅうでご判断を誤られ

   ませぬよう。)


劉備:おおお、なんという事だ。危うく大賢人を他国へ去らせてしまうところだ

   った・・・人とは容姿や態度だけではない・・・。


   【間】


諸葛亮:我が君、南部四郡なんぶしぐんの巡察よりただいま戻りました。

    ・・・ところで、ホウ統は変わりなくおりますか?


劉備:おお軍師、ご苦労だった。・・・実は、それなのだが・・・官職の空きが

   無くて、来陽県らいようけんの県令に任じたのだ。


諸葛亮:来陽県らいようけんの県令・・・

    【軽い溜息】

    あれ程の才能の持ち主をそんな片田舎の県令などにしていたら、

    暇を持て余して酒ばかり飲んでいるでしょうに・・・。


劉備:あ、ああ、それで張飛ちょうひ孫乾そんかんを様子を見にやって、先ほど報告を受けたば

   かりなのだ。


諸葛亮:私からも推挙の手紙を渡しておいたはずですが、見せませんでしたか?


劉備:うむ・・・たった今、ホウ統から預かってきたと張飛ちょうひに渡されて、読んだ

   ところだ。仕官を求めて訪ねて来た時には見せもしなかったし、語りもし

   なかった。初めに見せてくれればこんな待遇はしなかったというのに。


諸葛亮:我が君、彼はおそらく試したのでしょう。魯粛ろしゅくからの紹介状もあるとい

    う事は、呉でも推挙されたものと思われます。しかし、あの孫権そんけんの事で

    すから亡き周瑜しゅうゆと比べてしまい、それでホウ統に去られたものと思われ

    ます。


劉備:ああ、危うかった。孫権そんけんと同じ過ちを犯すところであった・・・。


諸葛亮:ともかく、来陽県らいようけんの県令は誰か代わりを派遣し、速やかにホウ統を中央

    に呼び戻して下さい。


劉備:う、うむ。孫乾そんかん、急いでホウ統を丁重に迎えてきてくれ。


孫乾:ははっ、ただちに。


ナレ:劉備りゅうびは自己の不明を大いに恥じるとともに、急いでホウ統を迎えにやった

   。やがて彼が荊州けいしゅうへ戻ってくると深く陳謝し、三人で酒をみかわしなが

   ら、思い返した。


劉備:かつて、水鏡すいきょう先生の司馬徽しばき徐庶じょしょに言われた事がある。臥龍がりゅう鳳雛ほうすう、この

   二人のどちらかを招けば天下の大事を為せるであろうと。この至らぬ玄徳げんとく

   に、その二人までもがたすけてくれようとは・・・果報者かほうものすぎる。ここはつつし

   まねばならぬ・・・。


諸葛亮:我が君。ご謙遜けんそんなされますな。我が君の人徳がなければ、この孔明こうめい一人と

    てお味方にはいなかったに違いありませぬ。


ホウ統:いや、しかし君と共に働く日が来ようとは思わなかったな、孔明こうめい


諸葛亮:私もだ、士元しげん。共に劉皇叔りゅうこうしゅくの王業を補佐し、漢王朝の再興を成し遂げよ

    う。


ナレ:その日からホウ統は、副軍師中郎将ふくぐんしちゅうろうしょうに任じられた。諸葛亮しょかつりょうの片腕となり、

   総軍の指令を兼ねる程の重職にいたのである。

   武においては関羽かんう張飛ちょうひ趙雲ちょううんの三人が、知においては臥龍がりゅう諸葛亮しょかつりょうほう

   すう・ホウ統の龍鳳双璧りゅうほうそうへきが並び、その陣容が全くここに成った事は、北のそう

   そうの関心を少なからず呼び起こす事となるのであった。



END



●あとがき

はいはいはいおはこんばんちわー、作者であります。

・・・うん、メインで進めてた方より先にこっちの三国志台本の方が出来上がっ

ちゃったよね(;^ω^)

まぁ、メインの方もきちんと進めてますよ、ええ( ・∀・)ノ

例によって、間違いなく初心者向けの台本ではないです(;´Д`)


もしツイキャスやスカイプ、ディスコードで上演の際は良ければツイッターのD

Mで声をかけていただければ聞きに参ります。

録画はぜひ残していただければ幸いです。

ではでは!



はいはいはいおはこんばんちわー、作者であります。


・・・うん、メインで進めてた方より先にこっちの三国志台本の方が出来上がっ


ちゃったよね(;^ω^)


まぁ、メインの方もきちんと進めてますよ、ええ( ・∀・)ノ


例によって、間違いなく初心者向けの台本ではないです(;´Д`)



もしツイキャスやスカイプ、ディスコードで上演の際は良ければツイッターのD


Mで声をかけていただければ聞きに参ります。


録画はぜひ残していただければ幸いです。


ではでは!

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