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『七行詩集』

七行詩 181.~200.

作者: s.h.n


『七行詩』


181.


愛の加護 大地の恵みに 感謝して


今宵の晩餐を 楽しみましょう


葡萄酒を 口に含めば


果実を肥やす 土の味まで愛おしい 


泥にまみれ 嵐に見舞われ


こんなにもしたたかに育てた


過ぎた日の 厳しさにさえ 感謝して



182.


取り置いた 二十五階の宿部屋から


見下ろす町の賑わいや


真夜中の 高速を映し出す明かり


時を忘れるようでいて


手から零れて ゆきそうな


心細さも分かち合い


二人は夜を明かすのです



183.


海を越え 戻り来るまでの 長い旅


貴方の無事に 感謝します


忘れないうちに 話して聞かせて


今や貴方が見た景色は


貴方だけのものではないのだから


この先も たとえ世界のどこへ行っても


私のもとに ちゃんと帰って来てください



184.


いつの日か 狭い玄関に 迎えれば


散らかった部屋に 文句を飛ばすと


なぜか上機嫌に 掃除を始めた


その鼻歌が 途切れず流れ


僕らの時計が 古くなっても


おんなじように 埃を払い


輝きを 取り戻させてくれませんか



185.


雑踏から 一駅先の 一室で


いつもの薄く 入れたお茶が


穏やかな時を 作っていた


いつも私のために泣き


赤く腫れた目は優しかった


愛情に満ちた 母の目を


ついに貴方は持ち得たのだ



186.


この先は 私が貴方の証人です


いつも懸命なその姿を


私が心に記録してゆけば


貴方が暦をめくるとき


過ぎた毎日を 思い出せずとも


真っ白な日々を 過ごしたことはないのだと


疑うことは なくなるでしょう



187.


いつの日も あなたは犬を連れ歩き


人に歩みを 合わせることに慣れている


同じものを見て 立ち止まるのも


気ままな回り道さえも


仕方ないか、と呟いては


それさえ楽しもうとする


だからこの道を 共に行けると信じられる



188.


有明の 月は海とはぐれたまま


朝を迎えてしまうけど


この距離は 見つめ合うには 丁度良い


今にも眠りに落ちそうな目で


いつも嘘しか言わない僕の


話をじっと 聞いている


この距離は 見つめ返すには 丁度いい



189.


自分を磨き着飾ることは


正しく並ぶ街路樹のよう


自然なものではないとしても


僕らも季節の色を装い


綺麗に塗り替えてゆければ


距離は約束されたまま 四季折々の表情に


気づき 気づかせられるから



190.


自分を欺き 堪えることは


燐寸の炎に 幻を見る


少女のようなものだとしても


貴方が私に 向ける鏡が


一番綺麗に 映してくれる


その嘘まで信じられるほど


真っ直ぐに 貴方は私を見つめるから



191.


いつの日か 朝が苦手な 貴方のため


僕は太陽と 成り代わり


貴方の中に 広がる海の 水平線に 沈んだら


彼方から 静かな夜を 連れてこよう


それまた海、貴方を包み 休ませるために


夜露を 月を 従えて


静寂となり 囁きかけよう



192.


言葉よ、止まぬ雨垂れよ


如何にして この筆の先を伝えるのか


木の葉よ、騒ぐ子たちよ


如何にして 自分の居場所を伝えるのか


足を止めても 進めても 光を分かつ空は流れ


雲を運びし風は降り 淡く波打つ髪は乱れ


あぜ道を辿り 私はまた 一冊の本に出会った



193.


息の止め方を知ったのは


自分がどこに隠れているのか


人の輪の中 探したとき


深い呼吸を知ったのは


見上げる木々の 見下ろす山麓(ふもと)


確かな息吹を聞いたとき


今の私は何処ででも 息の仕方を知っている



194.


何も知らずに生まれてきたから


何でも教わることばかり


今の貴方がくれる言葉が


未来の其れとは 違うことも


しゃがんで 目線を合わせる君が


いつか僕の背を 追い越すことも


全ては移ろい それさえ役に立たないことも



195.


日は短く 冬は早くに暮れるから


一つ行事を 先走ったり


年の終わりを さば読んだり


頭は何でも 先に構えてしまうから


僕達もここで 終わりだね


遅い夜明けが 見えてしまえば


或いは明日が 見えなくなれば



196.


いつの日か 胸に湧き出る 愛情に


満ちた如雨露で 水をやり


この庭は色に 溢れていた


いつからか 熱い涙は 花を枯らし


腫れた目に色は 見えなくなり


土は 緑は 荒れ果てた


それはまた この身に冬が 訪れたように



197.


音楽は 覚えてしまった 愛のため


大事に編まれた 手袋のように


今も両の手を 温める


それがこの胸に 生まれたときは


濃く響き渡り 震えたものだ


それは確信 貴方はきっと 貴方だけが


私の世界を 否定してみせてくれるから



198.


生まれては 口元にまでは届かずに


内側にだけ 鳴り響く


せめてこの声をあたためて


凍える日には 暖炉の傍で


二人で食卓を囲もう


言いたいことは 色々あるけど


分け合うのは パンや言葉だけじゃないから



199.


進めども 一度失った人生は


空気の抜けた風船を


新たに水で満たすよう


二度と中身は戻らない


ああ兄弟、君が居ることが誇らしかった


時の部屋 その扉に合う 合い鍵は


今はもう この手には持っていないのだ



200.


謎かけは 時に答えより 雄弁で


“煙草はやめて”と 言いながら


ライターを贈るようなこと


悩ませては いとも容易く 僕の部屋に


君の居場所を 作ってしまう


解き明かしても 僕の勝ちにはならないし


黙って素直に 受け取るべきかな




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