注意警報
幸いにもエレベータに他の利用者は無く、
僕の後から乗り込んだモーブスが、
エレベータの入り口側へと向き直り、
8階のボタンを押して、扉が閉まり、
箱が上昇し始めた段階で、
新たなるオペレーションが発動した。
僕は、なるべく機械的な音声になる様にと心掛けて
「ブ~ッ!ブ~ッ!ブ~ッ!
ブサメンを感知致しました。直ちに排除をして下さい!
ブサメンを感知致しました。直ちに排除をして下さい!」と、
大きな声で抑揚を付けずに告げた。
「お、おい!テースト!
な、なんかエレベータが、ぶ、ぶさめん?とか言ってるぞ!
何か問題が発生したんじゃ無ぇのか!?」
僕は、モーブスが狼狽える様を確認して、
微妙にセリフを変えて再び繰り返し告げる
「ブ~ッ!ブ~ッ!ブ~ッ!
ブサメンが狼狽えています。皆さん、笑ってあげて下さい。
ブサメンが狼狽えています。皆さん、笑ってあげて下さい。」
「ん?わ、笑って?
な、何か、さっきと言ってる事が違って無ぇか?
お、おい、テースト、黙って無ぇで・・・」
モーブスが、後ろの僕の方へと振り返ったので、
さらに続けてみた。
「ブ~ッ!ブ~ッ!ブ~ッ!
ブサメンが振り返りました。みなさグワッ!
・・・ぃた~・・・グ~パンチは無いだろ、モーブス」
「やかましいわ!!」
そんな、馬鹿な事をしている内に、
エレベータは8階へと到着して扉が開いたので、
僕は、非常に腹を立てている状態のモーブスと共に、
エレベータから降りた。
「あ、モーブス君、
僕らの3号室は、どうやら左手の方向の様だよ」
僕は、エレベータを降りた正面の壁に付いていた
各部屋の案内板を見てモーブスに告げる
「お前とは暫く、口利かねぇ・・・」
どうやら、モーブス君は非常にご立腹の様子だったので、
僕は、さらに火に油を注いでみる事とした。
「あれ?利かないって言ってる事自体が、
口を利いてる事になるんじゃ無いのかな~?」
「・・・・・。」
「あれ?今度は本当に黙り込んじゃったの?
僕は、モーブスとコミニュケーションを取るのが大好きなのに、
これは、困ったな~
どのくらい困っているかと言うと、
牛乳パックの口を綺麗に開けられ無くて、
コップに注ぐ度に、はじっこから零れちゃうぐらいに、
困ったな~」
「分かりにくいわ!ってか、
その程度にしか困って無ぇのかよ!?」
「お~、中々にナイスなツッコミだよ、モーブス
僕のボケには、君の的確なツッコミが無いと、
若手人気お笑い芸人コンビ『テ~&モ~』として成立しないんだから、
常日頃から気を付けてくれなきゃ困るよ」
「誰が、若手人気お笑い芸人だ!」
「え?『モ~&テ~』の方が良かった?」
「全然、そんな事行って無ぇだろ!?
人の話を、ちゃんと聞け!」
「はいはい、分かった分かった。
分かったから、とっとと僕らの部屋に入るとしようよ」
僕は、モーブスに、そう告げると、
胸のポケットに入れてあったカードキーを取りだし、
入り口のドアのタッチ部分へと押し当てて開錠し、
803号室のドアを開けた。
「うおっ!さっき貰ったカードでドアの鍵が開くのかよ!?
俺とテーストに一枚づつくれてたんで、
何に使うカードか、気になってたんだよな~」
「多分、入り口のドアの鍵を開けるだけじゃ無くて、
部屋の照明とかを点けるのにも、このカードが必要だと思うから、
無くさない様に、注意をしといた方が良いよ」
僕は、そうモーブスへと注意を喚起すると、
入り口のドアを潜って、部屋内へと足を踏み入れた。




