釈迦(しゃか)の掌
「2人とも、まだまだ朝の内は寒いから、
そろそろ、車に乗り込みなさい」
「はい、父さん
それじゃ行って来るね、母さん。」
「おう!よろしくなオッちゃん
そんじゃ行って来るぜ!親父、お袋。」
父さんから掛けられた声に返事を返して、
見送りへとウチの玄関先に出ていた僕の母さんや、
モーブスの御両親への別れの言葉を告げた僕とモーブスは、
魔導車へと乗り込んだ。
「本当に『ニーツ駅』まで送らなくても良いのか?」
僕らが魔導車に乗り込んだのを確認し、
最寄りの駅へと向けて車を走らせ始めた父さんが、
僕らに、そう声を掛けて来る、
ちなみに『ニーツ駅』というのは、
この近辺で一番大きなターミナル駅で、
僕らの家からだと、魔導車で大体1時間程掛かる距離にある
「うん、この時間なら魔導列車も空いてるし、
座席に座って行けるだろうから『ヒーデヤ駅』で良いよ」
「オッちゃん、俺とテーストは、
毎日、ヒーデヤ駅から列車に乗って学校に通ってたんだし、
慣れてる駅から乗った方が落ち着くんだよ」
対して、最寄りの『ヒーデヤ駅』は魔導車で10分程の距離にあり、
僕とモーブスは学校に通学する際は、近所の停留所から魔導バスを利用していた。
「そうか、お前達が、そう言うんならヒーデヤに向かうぞ」
「うん、ありがとうね」
「サンキュな!オッちゃん」
勿論、僕とモーブスが最寄りの駅へと送って貰うのには理由があり、
『ニーツ駅』まで送って貰ったと仮定した際に、
もし、父がホームまで僕らの見送りへと来てしまうと、
父さん達に予め告げていた、
就職の為に向かうと説明していた目的地へと向かう列車と、
違う方向へと向かう列車に乗り込めなくなるからだ。
カモフラージュで、一度違う列車に乗ってから、
途中で本来の列車へと乗り換えると言う手段も有るには有るが、
時間と、お金が勿体無いと言う理由から『ヒーデヤ駅』発と言う事で落ち着いた。
「それじゃ、2人とも元気でやるんだぞ!
それから、これは父さんのヘソクリから2人への餞別だ。」
ヒーデヤ駅へと到着し、車から降り荷物を取り出してから、
無人駅の改札へと向かおうとした僕とモーブスに、
1万ギル札を1枚づつ差し出しながら、父さんが、そう告げた。
「う、うん、ありがとうね、父さん」
「サ、サンキュな、オッちゃん」
僕とモーブスは、
父さん達に、嘘を吐いて旅立つ事に心苦しさを感じながら、
そう、礼を告げながら餞別を受け取った。
「・・・・・なぁ、お前達、
本当は、街に就職に向かうと言うのは嘘だろ?」
「「えっ!?な、なんでソレをっ!?」」
「ハハハハハッ!父さん達が、
お前達の考えてる事ぐらい見抜けない訳無いだろう!」
「えっ!?そ、それじゃ、母さんも気付いて居たの!?」
「俺んちの、親父やお袋も知ってるてのか!?」
「ああ、勿論、皆気付いて居たさ、
就職ってのは私達への建前で、
大方2人して、他の大陸へでも渡って冒険者とやらにでも、
なろうと言うのだろう?」
「うわっ!そこまで、父さん達に見抜かれて居たのか・・・」
「マジで、ホントの目的までズバリ知られてたなんてな・・・」