その国は実在する
「テースト!そろそろモーブス君が迎えに来る時間よ~!」
「俺は先に、魔導車のエンジンを掛けて、
ヒーターで車内を暖めておくからな!」
「うん!分かったよ母さん、父さん!」
居間の方から聞こえて来た両親の声に、そう返事を返してから、
僕は、前日に万全の準備を終えて、
着替えや、日用品などが詰め込まれた魔導バッグを右手に持った。
『コクセイの儀』に臨んだ5歳の頃から10年の歳月が流れ、
この世界での成人となる15歳となった僕は今日、
モーブスと共に、就職の為にと『称して』都会へと旅立つ日を迎えていた。
それと、父のセリフからも分かる様に、
この十年で技術革新は進み、ウチの様な一般家庭でも、
購入出来る価格で魔導車が販売される様になっている。
先程の『称して』についての説明をさせて貰うと、
『就職の為』と言うのは、
僕とモーブスの両親に対する建前であって、
実際には、この十年の間にモーブスによりスッカリと毒された事と、
ある問題を解決する為に、
モーブスと共に、他の大陸へと渡って、
冒険者になる手段を探しに行く旅立ちなのである、
モーブスと2人で話し合った結果、
情報を入手するには都会の方が良いだろうとの、
結論に辿り着いたからなのであった。
あんまり物事を深く考えずに行動を起こすモーブスは兎も角、
思慮深く、慎重派の僕が何故、冒険者を目指す事になったかと言うと、
先程話した『ある問題を解決する為』であり、
それは何かと言えば、魔法やスキルの成長度の問題なのであった。
あの『コクセイの儀』から、僕とモーブスは、
自らの魔法やスキルを成長させる為に練習をしたり、
色々と試行錯誤を繰り返して来たのであるが、成長は遅々として進まず、
辿り着いた結論としては、魔獣などを倒して、
自らのレベルを上げる他には無いだろうと言う事になったのである、
『じゃあ、魔獣を倒せば良いじゃん』と思われたであろうか?
残念ながら、それは不可能なのである、
何故、それが不可能なのかと言うと、
僕らが暮らす『ゾパン島国』には魔獣が存在しないのだ、
元々生息して居なかったのか、
御先祖様たちが狩り尽くしたのかは定かじゃ無いが、
ここ数十年にも渡り魔獣の目撃証言は無く、
ダンジョンなどの存在も確認されていないので、
この国に暮らす国民は須らく、年齢=レベルなのであった。
魔獣が居ないので当然、魔導具に使う魔石は全て輸入に頼っており、
陸地の周囲をグルリと急峻な山脈に囲われ、
他の大陸との交易が結べないにも関わらず、
『大賢者様』こと、リッチーのライオネル様が謎手段によって、
他の大陸にあると言われる『マッスル王国』なる、
実在するとすれば、転生者か転移者のスメルがプンプンする国から、
輸入しているのであった。
「おいテースト!出掛けようぜ!」
相変わらず、某ガキ大将の様な呼び出しを掛けるモーブスの声に、
ちょっぴり、これからの生活への期待に胸を躍らせた僕は、
長く慣れ浸しんだ自らの部屋のドアを開けた。