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リポップワールド ~ゲーム世界のバグは勇者を殺す~  作者: 佐倉コージ
第3章 序盤からハードモードとか、人生はクソゲーだ
88/166

3.32.85 最後の、、、

 今回も辛いお話になります。

 本作は容赦なく人が死にまくる作品です。

 十分にご注意ください。

「ハルちゃん、立って!ケイらけじゃあいつに勝てないのっ!」


 ケイが声をかけてくるが、こんな全身の骨を砕かれた状況で立ち上がれるはずがない。

 そもそも勇者たる力を失くしたこんな俺が魔王と戦うなど、最初から無理な話だったのだ。


「あなたーっ!まだ死んではいけませんっ!しっかりしてくださいっ!ポーションはっ?ポーションは無いのですか?私の回復魔法ではヒトは治せないのですっ!」


 遠くから魔王の言葉が聞こえてくるが、もはやそれに反応する気力もない。


「ダメだぁぁぁっ!死んでしまうぅっ。うぅっ、せめて私の手で止めをっ!」


 魔王の言葉とともに、鈍い衝撃音が響く。


「駄目ですっ!こんな手応えのない殺し方では少しも楽しめないではないですか!他に生きている人はいないのですかぁっ!?」


 あぁ、また俺のせいで一つの命が失われてしまった。

 無能で、立ち上がることすらできない俺のせいで。

 もはや折れてしまった俺の心には、そんなことは響かない。

 見ず知らずの兵士の命なんかは。

 ソウタに連れて来られて、見捨てられた哀れな兵士。

 絶望して、だけど最後には立ち上がって。

 俺のために命を懸けて、、、

 そんな兵士の命など、、、無念など、、、

 今の俺には、、、


 響かない訳ないだろっ!


「だめぇっ、ミャアぁっ!」

「ミャアっ」


 隣からはリリナと子どもたちの声。

 ミャアがいよいよ危ないのだ。

 それなのに俺がこんなことでいいのかっ!

 俺が先に諦めてどうする。


「ケイっ、俺は諦めないっ。最後まで戦う」


「ハルちゃんっ!!」


 そう口にすると、それを聞いたケイが嬉しそうな声を上げる。

 戦う意思が戻ってきたことで声に力がこもる。

 回復魔法をかけてもらったこともあり、それほど痛まずに喋れるようになった。

 だが全身の骨が砕けたままのこんな状態では、やはり立ち上がることなどできそうにない。

 せいぜい腕を少し動かせるくらいだ。

 こんな俺に何ができるだろう?


「ケイ、俺はもう動けない。だけど、それでも、何としてでも戦うんだ」


「うん、ハルちゃんっ!それれ、ろうするの?」


 どうするか?

 何か考えないと。

 俺はもはや動けない。

 魔剣オボロヅキもなくしてしまった。

 リリナはケイのマナを使えば特級魔法は撃てるかもしれないが、それでは魔王は倒せない。

 何よりポメとヒャウを亡くしたリリナは戦う気力を失っている。

 つまりまともに戦えるのはケイだけだ。

 しかしケイでは攻撃を魔王に当てられない。

 だけど、、、

 逆になんとかしてケイの攻撃を当てることができれば、魔王を倒すことができるかもしれない。

 ならばそのためのサポートを俺が、、、


「残念です。残ったのはあなたたち3人とガキが3人だけだとは」


 音もなく俺たちの背後に着地した魔王の言葉によって、俺の思考は遮られた。


「しかも後はもう出来る限りあなたたちをいたぶるしかないというのに、ガキの一人はもう死にかけだとは」


 魔王の言葉にリリナと子どもたちの表情がこわばる。


「ですがこのまま死なせることなど許しませんよ。そのガキは私が、、、」


「だめぇぇーーーっ」


 魔王に最後まで喋らせず、リリナが絶叫しながらミャアを強く抱き締める。

 俺もすぐさまケイに指示を出す。


「ケイっ!リリナをまもっ、、、」


 だが全ては遅すぎた。

 俺が言い終わらないうちに、魔王が動く。

 気づいたときには、リリナが大きく吹き飛ばされて地面を転がっていた。

 巻き込まれたセナとセイジも、衝撃でバラバラに跳ね飛ばされている。

 セイジはまだ無事なようだが、セナはかなりの傷を負った様子だ。


 だがもっとも重傷を受けたのはリリナである。

 全身が血だらけになっており、両足があらぬ方向に折れ曲がっていた。

 アバラも折れているのか、呼吸するのも苦しそうだ。

 だというのに、リリナはすぐに魔王の方へと這い寄ろうともがき始める。

 なぜなら魔王の巨大な右手には、ミャアの小さな体が握りこまれていたからだ。

 容赦なくリリナを打ちのめした魔王によって、ミャアは奪い去られてしまったのだ。


「ミャアぁっ」


 リリナが痛みをこらえてミャアに声をかける。

 だがミャアは、、、

 その様子は。

 そんな、、、こんなことって、、、


「嘘ですよね?こんなことで、、、?」


 俺の言葉を代弁するように、驚きと悲しみの声を発したのは魔王イルギウスだった。

 その魔王に握りしめられたミャアは、もう、、、


「あぅ、ぁあぁっ」


 リリナの苦しげな呻き声が溢れる。


「ぅわぁあぁぁぁっ!どうしてこの程度のことで死んでしまったのですかぁぁぁっ!これから痛めつけてあげるところだったというのにぃっ!」


 悲痛な、だがわざとらしい悲鳴を上げる魔王。

 だがすぐに興味を無くしたような表情に変わると、無造作にミャアを後ろへ放り投げる。

 魔王の超級のステータスで投げ飛ばされたミャアは、凄まじい速度で大地に叩きつけられた。

 そのまま何度も何度も地面を転がり、壊れた人形のような見るも無残な姿を晒した。

 

「まぁ、それはもうどうでもいいので、次のおもちゃに行きましょう」


 魔王の酷すぎる言い草に頭の中が沸騰しそうになる。

 だが自分を見失ってたまるか!

 本当に命が尽きる最後のときまで、あいつを倒すために戦うことを、考えることを、足掻くことを止めない!


「ケイ、俺を背負って子どもたちの前に!」


 これ以上子どもたちを殺させてなるものか。

 ケイだけでは魔王の動きに対応できない。

 だから俺がケイに指示を出して戦うしかない。

 そして俺が自力で動けない以上、ケイに背負ってもらうしかないのだ。

 俺の指示を受けてケイが小さな体で俺を引きずるように背負い上げ、子どもたちの前にすぐさま移動する。


「大丈夫だっ!2人とも俺たちが守るっ!」


 セナとセイジに声をかける。

 先ほど魔王に跳ね飛ばされたときの衝撃により、地面に転がったまま苦しんでいるセナ。

 まだ軽傷だったセイジは、すぐに駆け寄ってセナを守ろうとしていたが、それでも泣きそうなほど不安げにしている。

 そんな2人を安心させるように、精一杯の自信と力強さをを込めて俺は宣言したのだ。

 もはやまともに動くこともできず、絶望に喘いでいるリリナにも聞こえるように。


「ほう、まだ足掻きますか。素晴らしい。もっともっと楽しませてくださいよ」


 魔王が馬鹿にするような口調で愉快そうにしている。

 俺たちの最後の足掻きが無駄なものにしか思えないのだろう。

 実際に勝機などまずないし、子どもたちを守れる可能性など常識的に考えればどこにもないのだから。

 いくらケイのステータスが魔王を上回っていても、戦闘技術が皆無のケイでは魔王の動きに反応できない。

 そして俺がケイに指示を出したとしても、魔王の動きに対応できるはずがない。

 魔王の連続攻撃の速さには、指示を出していては到底間に合わないからだ。

 だがケイの全力の攻撃を当てることが出来さえすれば、魔王を倒せる可能性はあるのだ。

 だからまぐれでも何でもいい、一発だけでも当てることができれば。


 そして俺は運を天に任せるようなことをするつもりはない。

 ずっと考えていたのだ。

 魔王に攻撃を当てる機会が何処かにないかと。

 そしてたった一つだけ、可能性を思い付いたのだ。


 魔王の連続攻撃には対応できない。

 しかし魔王の最初の一撃だけなら、ケイの魔王を上回る速度で迎え撃つことも不可能ではない。

 そして魔王が攻撃してきた瞬間を、俺ならば察知することができる。

 だけど察知してからその場所をケイに伝えていては、とても間に合わない。

 だからあらかじめ魔王の動きを予測し、その位置をケイに伝えておくのだ。


 魔王が攻撃してきた瞬間に、俺がケイに合図を送る。

 そしてケイはすぐさま伝えていた場所に攻撃を行う。

 そうすれば、魔王より先に攻撃を当てることができるかもしれない。

 最も大きな問題は、、、

 魔王が攻撃してくる方向を俺が読めるかどうかだ!


「ケイ!次に俺がこうやって背中を叩いたら、本当にありったけの全力を込めて殴るんだ。殴る場所は、、、」


 ケイの耳に顔を近づけ小声で指示を囁く。

 この読みに全てを賭けるっ!


 次の瞬間、魔王が動いた。

 凄まじい力で地面を蹴り、一直線に俺たちに向かってくる。

 一蹴りで一気に距離を半分ほど詰めた魔王は、地面をもう一度蹴り、その瞬間、魔王の姿がかき消え、、、


 無駄だっ!


 お前の位置はマナで探知できている。

 俺とケイの背後、無防備に立ちすくんでいるセイジの真上だ!


 魔王は俺たちに無力感と絶望を与えるため、子どもたちのどちらかに攻撃を加えるに違いない。

 俺は最初からそう予測していた。

 そして時間をかけて子どもたちをいたぶりたい魔王は、脚を潰すくらいの攻撃に留めるはずだ。

 だから攻撃するなら、多少手荒なことをしてもしばらくは生きていられそうな方。

 まだ傷が浅い方。

 つまり最初に狙われるのはセイジ。

 予想した通り!


 今だっ!

 祈りを込めてケイの背中を強く叩く。

 すぐさまケイが振り返り、全力を込めて右拳を振り抜く。

 俺が事前に指示した通り、セイジの頭の上に向けて。

 ケイが振り返ったとき、セイジの真上に現れていた魔王は、その拳をセイジの下半身へと振り降ろすところだった。

 そこにケイの拳が魔王の攻撃を上回る速度で迫っていく。

 頼むっ、間に合ってくれ!


 自分に迫る危機に気づいてすらいないセイジを、魔王の拳が叩き潰すまであとわずか。

 俺たちが振り返り、攻撃をしてきたのを見て魔王が驚愕の表情を見せる。

 俺と魔王の目が合った。

 そして直後、、、

 ケイの拳が魔王の腹に突き刺さり、、、


 魔王の胸の下から腰あたりまでが粉々に吹き飛んだ。

 両足は凄まじい速度でバラバラに弾き飛ばされ、森の方に吹き飛んで見えなくなっていく。

 一方魔王の上半身は上空に舞い上げられ、そして弓なりに落下して轟音とともに地面に激突する。


 やったか?

 いや、油断するなっ!

 最悪を想定して動けっ!


「ケイっ、魔王をもう一発殴れっ!すぐにっ!」


 魔王の体を砕いてやったが、あのくらいでは死んでいないと考えるべきだ。

 もう少し上に当たって頭を吹き飛ばしていれば、それで終わりだったのだが、もう一撃が必要だ。

 指示に反応したケイが俺を背負ったまま、一直線に魔王に向けて飛びかかる。


 だがその瞬間、倒れていた魔王が急に動き出す。

 右手を持ち上げてこちらに向けて闇魔法弾を放ってきたのだ。

 やはり戦闘不能に追い込むことはできなかったのか。

 だがその魔法は苦し紛れの上級程度の威力。

 こんなものでケイを止められるものかっ!

 しかしその闇魔法弾は威力は低いものの、俺の予想に反して、、、大きいっ!


 案の定、ケイは何の苦もなく闇魔法弾を突き破る。

 だが闇魔法弾が大きすぎて、ケイの体ではその全てを打ち消しきれない。

 ケイのマナで守られているとはいえ、はみ出した俺の体が抉られて激痛が走る。

 だがそんなことは些細なこと。

 なぜなら打ち消しきれなかった闇魔法弾の残滓がセナとセイジに向かっているのだ。


 ケイを止めて2人を守らせるべきか?

 だが間に合うか?

 それにここで魔王に止めを刺さない限り、もはや魔王を倒す機会はない。

 それこそが魔王の狙いなのだろうから。


 そしてここで魔王を倒すことができなければ、結局はみんな殺されることになる。

 である以上、今は二人の無事を祈るしかない。

 俺は断腸の思いでケイを引き止めず、二人を放置する。

 直後、後ろからセナの悲鳴が聞こえてくる。

 「姉さんっ!」と叫ぶセイジの声も。

 もしかしてセナがセイジを庇ったのだろうか?

 さっき魔王がミャアを奪ったときに、セナはかなりの傷を負っていたはずなのに。

 だがそれに気を取られていたせいで、俺は魔王の真の狙いに気づくことができなかった。


 闇魔法弾を突き破ったケイがそのまま直進し、砂埃に隠れた魔王の影を神級の拳で打ち砕く。

 凄まじい轟音とともに大地の岩盤が砕け散る。

 その衝撃による痛みで意識が飛びそうになりながらも、俺は激しい焦燥を感じていた。

 何故ならケイの拳が突き刺さった場所から、いつの間にか魔王の姿が消え失せていたからだ。

 魔王は闇魔法弾で子どもたちを攻撃して俺の気を逸らしつつ、それを目くらましにして回避していたのだ。


 そしてそれを後悔する暇もなく、俺とケイが激しい衝撃に吹き飛ばされる。

 魔王に反撃されたのだろうということは認識できたが、何をされたのかは分からなかった。

 ケイと離れ離れになった俺は、バラバラに地面を転がっていく。

 全身に激痛が走る。

 もはや生きていることですら不思議なくらいだが、それでも諦める訳にはいかない。

 早くケイと合流しないと。

 急いでケイの姿を探すと、かなり離れたところにケイが倒れていた。

 やはりダメージはほとんど無いようで、すぐに立ち上がろうとしているのだが、、、


「このクソガキがぁぁーーーっ!!」


 魔王が拳を振り抜いて、ケイを上空の遥か彼方に吹き飛ばす。

 胸から上しか残っていない上半身だけの体にもかかわらず、魔王は飛行魔法によって移動していた。

 あんな体で平然と動き回れるとは、化け物め!

 回復魔法を使うのを後回しにして、唯一の脅威であるケイを排除することを優先したのだろう。

 そしてその間に俺たちを、、、


 っ!!!

 その瞬間、特大の悪寒が走る。


「キサマもだぁっ!」


 魔王が続けて闇魔法弾を放ったのだ。

 一直線にこちらに向かってくる特級のそれは、完全に俺を殺しにかかるような威力のものであった。

 怒りに我を忘れた魔王は、時間をかけて楽しむと言っていた自分の言葉をどこかに置き忘れてきたようだ。

 目の前に迫る死を目前にしながら、俺の心は凪の如く鎮まっていた。


 もはや俺は身動き一つできない。

 リリナも両足を砕かれて、俺を助けにくることはできない。

 唯一無事なケイも、たった今吹き飛ばされていったところだ。

 目の前の死が避けられないことを理解したことで、俺の心はそれを受け入れてしまっていた。


 救えなかったリリナと子どもたちへの申し訳ない気持ち、残していくケイへの情けない気持ちが胸を焦がす。

 だが今となってはそれすらも全て、終わったかという思いに塗り潰されていた。

 不思議と魔王への怒りはない。

 あっさり俺が死ぬことで、あいつが悔しがるのを思い浮かべて、ざまーみろと考える余裕すらあった。


 ただ心残りなのは、約束を果たせず置いていくハルカのこと。

 そして、、、

 ただ、最期に、もう一度だけでも、、、


 ユウナに会いたかった。


 今にも俺を飲み込もうとする闇魔法弾を前に俺は目を瞑り、、、




 瞳を閉じるとまぶたの裏に浮かび上がるのはユウナの笑顔。

 もう会えないユウナの姿。

 結局、あのとき、ソウマの街で最後に目に焼き付けたあの姿が、ユウナの最後の思い出となった。

 ただ遠くから眺めるしかできなくなってしまった、あのときの姿が。

 それまではすぐ側で言葉を交わすことができていたのに。

 あのとき、俺が『自分』を奪われたあのときより前までは。


 人生の最後の瞬間になって、あの全てを奪われる前までのことを鮮明に思い出す。

 ユウナと最後に交わした会話はなんだったか?


 気持ちが抑えきれず、ユウナを抱きしめて、ユウナがひどく慌てて。

 あのときのユウナは神級可愛かった、、、

 抱きしめるとすごく柔らかくて、いい匂いがして、何もかも全てがとにかく愛おしくて、、、

 それでユウナに指摘されたんだ。

 あの、俺の身体がかなりクサ、、、いや、アレだってこと、、、


 って、違う!

 俺の人生で最後のユウナとの会話はそんな恥ずかしいことではなくて、、、

 そのあと何があったんだったっけ?

 ユウナが超級回復魔法をかけてくれて、、、

 そして、、、



 っ!!!




『それでもハルトなら自力で神級魔法を構築できるではないですか』




 全身に雷に打たれたかのような震えが走るっ!!!


 そのとき俺が思い出したユウナの言葉は、途轍もなく重要なことで、、、


 そして、次の瞬間、俺の体を凄まじい衝撃が襲った。


 いよいよ第3章はクライマックス。

 魔王イルギウス戦も残り数話です。


 次回 第86話 『託されたもの』


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