3.29.82 勇者の条件
ここから第3章はガチでグロ展開、鬱展開、胸糞展開です。
本当にご注意ください。
なんと魔王は逃げるための時間を稼ぐ間、俺とリリナの気を逸らすため、子どもたちに魔法攻撃を放ったのだ。
リリナはすぐさま魔王の闇魔法弾を撃ち落とそうと、上級魔法の光線を放つ。
光線は狙い違わず闇弾に命中し、、、だがそれでも勢いを止めきれない。
これは、、、特級まずいっ!
判断の遅れを取り戻そうと、子どもたちに向けて全速で駆け出すが、間に合いそうにはない。
それでも急ぐしかない。
ここで魔王への追撃を止めたら、魔王に回復を許したら、おそらくもう勝機はないだろう。
そんなことは分かってはいても、目の前で殺されようとしている子どもたちを見捨てることなどできない。
魔法弾は決してどうにもならないほど速い訳ではないが、それでも俺の足よりは遥かに速い。
その闇弾が子どもたちに向かって飛んでいく。
そこに第2、第3の光線が命中する。
リリナが上級魔法を連発しているのだ。
5発目の光線でかなり勢いの弱まった闇弾は、6発目に飛んできた下級魔法の光線によって四散した。
5発目で兵士たちのマナを使い切ったリリナは、最後に自分のマナを使い尽くして何とか闇弾を粉砕できたのだ。
だがそれを見ても俺は足を止めない。
何故なら魔王は次の闇弾を放っていたからだ。
魔王の掌から闇弾が飛び出すのを横目に見ながら、俺は後悔に苛まれていた。
追い詰められた魔王がどう行動するかを想定していなかった俺の失敗だ。
みすみす魔王を倒す機会をふいにしてしまった。
力の限り戦場を走り抜け、子どもたちに向かう闇弾の射線上に向けて思いっきり飛びつく。
俺の手は届かないが、そこからさらに天剣ケイを伸ばす。
闇弾はその天剣ケイの剣先を僅かにかすめて、、、無情にも子どもたちに向かって飛び続ける。
「いやぁーーーっ!」
もはや魔法を撃てなくなったリリナの絶叫が響きわたり、、、
「とぅあぁーーっ!」
寸前で子どもたちの前に飛び込んだソウタが、闇弾を刀で軽く弾き飛ばした。
「ソウタっ!!」
「ハルトっ!やはりお前じゃ無力すぎるな。このソウタがいないと魔王と戦えるわけないんだよっ!」
ソウタが軽口を叩くが全くその通りだ。
その上に、またもや子どもたちを助けてくれたのだから文句などあるはずもない。
それにしてもソウタって、、、嫌なヤツだと思っていたけど、人々を守るいい勇者じゃないか。
マモルとは大違いだ。
傲慢さや戦闘技術の未熟さなどに目がいっていたが、本当は勇者たる資質を十分に備えた人物なのかもしれない。
勇者たる条件、俺が信じるその最大の資質。
それは目の前の人々を決して見捨てないこと。
俺はリリナと出会ってからそう思うようになっていた。
だとしたらソウタは他にどんな欠点があろうとも、間違いなく勇者だ。
「あぁ、その通りだな、ソウタ。魔王を倒すにはソウタの力が必要だ。協力してあいつを倒そう!」
「それでハルト、魔王を倒せる手段はあるのか?」
「魔王イルギウスの防御力は聖級近いから、奴を倒すには聖級以上の攻撃力が必要だ。この天剣ケイでぶった斬るしかない」
天剣ケイをソウタに見せながら答える。
「だがそいつはさっき、通用してなかっただろ?」
「あぁ、だからもっと魔王の防御を崩してもらう必要がある。魔王は俺が引きつけるから、後ろから魔王を攻撃してくれないか?さっきのアオイの特級魔法より強力なやつで」
そうソウタに問いかけるが、ソウタの返事はない。
ソウタはアオイと何か視線を交わしている。
もしかして、アオイとソウタにはあの特級氷魔法以上の攻撃手段はないとでも言うのだろうか?
こうやって相談しているうちに、魔王はみるみる回復してきているのだ。
早く作戦を立てなければいけないのに。
焦燥に駆られるように、アオイに叫びかける。
「アオイーっ!さっきのより強い攻撃魔法はないのか?超級魔法は?」
だがアオイは困惑するような表情を浮かべるだけだ。
やはりアオイにはあれ以上の魔法はないということか。
アオイは確かに超級だが、超級の人間がみな超級魔法を使える訳ではないのだ。
魔法の得意な俺が超級にも関わらず神級魔法を使えたのとは対照的に、アオイは魔法をそれほど得意としていないのだろう。
魔王はいまやほぼ回復していて、いつ襲いかかってくるかわからない状態だ。
「いいだろう。俺とアオイで何とかする。こいつらも俺が守っておいてやるから、ハルトはしばらく魔王を抑えていろ!」
俺の焦り様を見てようやく決心したかのように、ソウタが頼もしい宣言を行う。
何か切り札があるのだろうか?
だがアオイはソウタの考えが読めないのか、困惑の表情を浮かべたままだ。
「アオイ、こっちへ!打ち合わせだ!ミツルたちも来い!」
そんなアオイをソウタが呼びつける。
付き人の高級兵士たち3人も呼んでいるから、5人がかりで大魔法を構築するつもりなのかもしれない。
ならば俺はソウタを信じて託すしかない。
俺たちに残された勝ち筋はそれしかないのだから。
ソウタが子どもたちを守ってくれるというのなら、俺は何の憂いもなく魔王との戦いに集中できる。
「ソウタ!子どもたちは任せたぞ!」
そう言って俺は完全に復活した魔王に向けて走り出す。
絶対にソウタたちの邪魔はさせない。
となれば、ここは切り札を投入する場面だ。
ケイと練習してきた、天剣ケイの第3形態。
魔王に近づきながら、天剣ケイを常時装備形態に展開する。
それは両手剣を使うのと同様の構え。
右手で魔剣オボロヅキを握ったケイの手をさらに握り込む。
ケイのマナにより発動した堕天使属性のマナの刃を、普通の両手剣と同じように扱うのだ。
さらにケイには左腕と両足で俺の左腕にしがみついてもらい、左腕に天盾ケイを装着している状態にする。
まさに攻防一体の構えだ。
天盾ケイを自在に振り回すことはできないので素早い防御は不可能だが、その代わりに天剣ケイを使った防御も可能だし、何よりいつでも攻撃に移ることができる。
今までの魔王イルギウスとの戦いを踏まえて、俺は防御に専念するよりも、時おり攻撃を交える方が有利になると判断したのだ。
魔王に接近すると、こちらから先制攻撃の突きを繰り出す。
何度も天剣ケイの攻撃を受けている魔王はその痛みを覚え込んだせいか、大げさなまでにのけぞって避ける。
その魔王の動きに難なく追従して、流れるように切り落としに移行し、魔王の太ももを斬りつける。
魔王の反撃の拳を避けて隙だらけの脇腹を斬りつけ、苦し紛れの蹴りを天盾ケイで逸らしてから軸足の膝に一撃を入れる。
やはり攻撃に回った方が有利だ!
魔王イルギウスは体術をかなり得意としていると思われる。
あれだけ洗練された連続攻撃を繰り出していたのだから。
そして防御技術に関しても、かなりのものであった。
ただしそれは単発の攻撃に対してのみであり、連続攻撃に対する防御はそれほど得意ではないようだ。
きっと一方的に攻撃を受け続けるという経験に乏しいのだろう。
ならば間髪入れずに攻撃し続けることが出来れば、魔王の動きを上回ることができる。
とはいえ目的はソウタたちのために時間を稼ぐこと。
息を切らさないように激しい動きを避けて加減しながら、余裕を与えないことだけを狙って魔王と切り結ぶ。
そうやって時間を稼いでいるうちに相談が終わったのか、ソウタたちが5人がかりで魔法の構築を始めた。
だが魔法の完成までにはまだまだ時間がかかりそうだ。
間に合うか?
体力に気を使いながら戦ってきたとはいえ、それにも限度がある。
息をつく暇もない連続攻撃と、たまに来る魔王の反撃への対処。
精神も肉体も全力で酷使し続けたことにより、さすがに限界を迎えつつあった。
魔王が右手で闇弾を放ちつつ、左拳をふるう。
闇弾はなんとかかわすが、続く拳は避けきれず、天盾ケイで正面から受ける形になってしまった。
咄嗟に後ろに大きく飛び退いて衝撃を緩めようとするが、とても受け流しきれず大きく跳ね飛ばされる。
ソウタたちの近くにまで、吹き飛ばされてしまった。
激しく地面を滑りながらも、かろうじて着地する。
だが大きく体勢を崩してしまった。
しかも天盾ケイを保持していた左腕が悲鳴を上げている。
骨が砕けているのではないかと感じるほどだ。
特級まずい!!
魔王の追撃が来たら、捌ききれない。
「ハルちゃんっ!!」
左腕のケイが鋭い警告の叫びを発する。
慌てて視線を向けると、魔王が右手を構え一際強力な特級魔法の闇弾を放つところだった。
ここで特級魔法って、受けきれるだろうか、、、
って、違う!
狙いは俺じゃない!
しまった!
魔王の闇弾は地面に膝をついている俺の右上の方へと向かっていた。
その先にいるのは、、、ソウタたちだ!
超級まずい。
ソウタたちは魔法の構築で手一杯なのに、特級魔法なんか撃ち込まれたら、、、
慌てて振り返ると、俺の危惧したように彼らは魔法の構築にかかりきりになっていた。
魔王の特級魔法弾が迫る中、全員が身動き一つできない。
ただ一人、、、ソウタを除いては。
どういうことだ?
ソウタは複合大魔法の構築に参加していなかったのか?
「使えねぇなぁ、時間稼ぎもできないのか」
ソウタがこちらを見下すように、軽蔑混じりの言葉を吐き出す。
先ほどまでとは打って変わって、冷酷な態度に豹変して。
何だ???
とてつもなく嫌な胸騒ぎがする!
何かを見落としているような。
ソウタが超級の勇者に相応しい素早い動きで何かを放ち、魔王の特級魔法を迎撃する。
その『何か』はあっという間に俺の目の前を通り過ぎて、魔王の闇弾へと向かっていく。
ソウタの魔法か?
いや違う。
何か大きな物を凄まじい速度で投げつけたのだ。
いったい何を?
俺の目は確かにその投げられた『もの』を見分けていた。
だが頭がそれを認識しない。
いや、認識することを拒む。
だって、そんなこと、、、
勇者が、、、
ありえないのだから。
「ぃぃいやぁぁーーーーっ!!!」
リリナの絶叫が響く中、ソウタの攻撃により空中で迎撃された魔王の特級魔法が弾け、轟音と衝撃が空気を切り裂く。
それとともに、闇弾と正面衝突したその『何か』が、空中に鮮やかな赤色を放ちながら弾け散る。
凄まじい激突によって無残にも四散したそれは、、、
ダメだっ!
嘘だっ!
そんなわけがない!
勇者がそんな恐ろしいことをするはずがないんだ!
そんな馬鹿な、、、
だけど、、、俺の視線は地面に落ちた『それ』から離せない。
赤い液体にまみれて痛ましく横たわる、その細長い千切れ落ちた物は、、、
見間違いようもなく、、、
「ポメぇーーーっ!いゃぁぁーーーっ!」
狂ったように泣き叫ぶリリナの悲鳴を聞きながら、俺は呆然と立ち尽くして『それ』を眺めていた。
獣人の少年のものであったとしか考えようのない、切断されて無残に転がる右脚を。
どうしてこんなことに?
何がどうなった?
殺された?
罪のない子どもが?
誰に?
魔王に?
違う、勇者に?
そんな馬鹿な。
だって勇者は、、、
勇者とはどういう人間のはずだったか?
勇者たるべきものの条件とは?
それなのに今、目の前で起きた出来事はなんなんだ?
俺は目の前の現実を受け止めることができずに、ただただ呆然とすることしかできなかった。
ここから先は本当にシリアス展開となります。
次回 第83話 『現実』




