3.23.76 ポンコツトリオ vs 月の王
ようやくリリナがやって来てくれた。
家に子どもたちがいないことに気づいて、こちらに向かってきたのだ。
子どもたちを見つけたリリナは、駆け寄って無事を確かめている。
魔法を使えるリリナの加勢があれば、僅かな勝機が見えてくる。
リリナが魔王の気を引き、その隙に俺が天剣ケイで魔王の首を斬り飛ばすという、唯一の勝機が。
問題はリリナと何の打ち合わせもしていないこと。
もしリリナが魔王の性質を知らず、子どもたちを村から逃がそうとすれば、魔王の攻撃が子どもたちに向かってしまう。
そうなれば、俺には魔王の速度に追いつくことはできない。
最悪の結果を眺めることしかできなくなる。
俺はリリナの賢明な判断を祈り、、、
そして、リリナに対しては余計な心配だったようだ。
一度この魔王イルギウスと戦ったことのあるリリナは、魔王の性質を良く理解していたのだろう。
子どもたちをその場に留まらせると、一人で俺たちの方に駆け寄って来た。
「待たせたな、ハルト!」
「ああ、リリナ。3人で魔王を倒すぞっ!みんなを救う可能性はそれしかない」
向かってくるリリナに声をかける。
魔王は先ほどから攻撃の手を止めて、そんな俺たちのことを興味深げに眺めていた。
まるで新たな『おもちゃ』の登場に喜んでいるかのように。
ともかく魔王に邪魔されることなく、リリナと合流できるのは幸運だった。
作戦としては、まず防御は俺とケイの役目だ。
リリナには魔王の攻撃を防ぐ手段はない。
そしてリリナのステータスでは、魔王の全ての攻撃を避けきることは困難だろう。
だから天盾ケイを持つ俺が、魔王の攻撃を全て引き付ける。
一方攻撃に関しても、リリナの中級光魔法では魔王への効果的なダメージは期待できない。
魔王を倒す手段は天剣ケイしか考えられないのだ。
そこで俺が魔王に天剣ケイの一撃を叩き込む隙を、リリナの光魔法で何とかして作ってもらう。
「魔王の攻撃は俺たちが防ぐ。リリナは俺たちの陰から援護してくれっ!隙さえ作ってくれれば、後は俺たちで決めるっ!」
「分かった、任せたぞっ!」
「うんっ!やってやるのっ!」
すぐ近くまでやって来たリリナに最小限の指示を出す。
魔王が聞いている前で、作戦を全て話すわけにはいかない。
だがリリナは疑問を挟むことなく了承して、そのまま俺たちの後ろに駆け込んできた。
ケイもリリナの加勢でやる気十分だ。
リリナは相当に戦い慣れているのだろう。
天剣ケイのことは話していないのに、俺の狙いをある程度理解してくれたようだ。
しかも魔王の前で説明できない切り札があるのを察して、余計なことを聞いたりもしない。
本当に頼りになる仲間だ。
「行くぞ!リリナっ!ケイっ!」
「あぁっ!」
「いくのっ!」
俺たち3人が魔王を倒さない限り、ここにいる全ての人間が殺されることになる。
だから何としてでもここでこの魔王を倒す。
俺たち3人の力を合わせて。
例えどれほど勝算が低い相手でも、俺は真の聖勇者なのだから。
俺の決意が2人に伝わり、心が一つになったような気がする。
俺たちの態勢が整うのを待っていたのだろうか?
余裕綽々といった表情で、リリナが合流するのを黙って眺めていた魔王が口を開いた。
「おやおや、お仲間の登場ですか。これは可愛らしいお嬢さんだ。とても弱そうですが。もっと人数を集めてもいいんですよ」
「私たちだけで十分だ。イルギウス、お前は私がこの手で倒す!」
魔王の挑発的な言葉にリリナが応える。
それを見て魔王が表情を変えた。
どうやらリリナが4年前に戦った相手だと気づいたようだ。
「おや、良く見てみればお嬢さん、あなたには見覚えがありますね」
そう言い終わるやいなや、唐突に魔王の雰囲気が変わる。
元から凶悪だったマナに、心の底からの恐怖を覚えるほどの殺気が混じり混んでいく。
向こうでは村人たちが耐えきれずに、気絶したり嘔吐したり悲鳴をあげたりしている。
そしてケイっ、お前まで泣きそうになるなっ!
「女、お前はこの私にあの忌々しい封印をかけた奴だな!お前は殺す!ありとあらゆる苦痛を与えた上で、じっくりと時間をかけて残虐に殺してやる!」
先ほどまでの気持ちの悪い馬鹿丁寧な喋り方ではなくなっている。
魔王イルギウスめっ!
とうとう本性を現しやがった。
「まずはお前の仲間のこの2人を目の前でむごたらしく殺してや、、、いや、女、お前、他の5人の仲間はどうした。前に私に挑んできた奴らはこいつらとは違ったはずだ」
魔王イルギウスは記憶を引きずり出すかのように頭を掻きむしる。
「ええぃ、あのクソったれな封印のせいで記憶が混濁しておるわっ!そうか、思い出したぞ。4人は私がこの手で引き裂いてやったのだったな。あともう一人は、、、」
魔王の言葉によって辛い記憶を思い出したのか、リリナが顔を歪ませる。
だがその瞳にはさらなる闘志が宿っていた。
「シオンはお前に封印の術を使ったことで命を落とした。だが今度は封印だけでは済まさない。確実に息の根を止めてやる。覚悟しろ、イルギウス!」
そう言って、リリナは俺たちの背後から魔王イルギウスに向けて光魔法の光線を放つ。
ってこの威力!
上級魔法かっ!
カムロ大迷宮でリリナが中級光魔法を使うのは見ていたが、まさか上級魔法まで使えるなんて。
だが破門されて奇跡の力を失い、下級程度のステータスとマナ容量しか持たないリリナがいったいどうやって?
そんな疑問を浮かべている間に、リリナの光線が魔王の顔面に直撃する。
光の速さを持つ光魔法は、発射とほぼ同時に標的に着弾する。
つまり狙いさえ正確なら、どれほど速度のステータスに差があろうと命中させられるのだ。
だがその光魔法は、魔王の前にはあまりにも無力だった。
魔王イルギウスは衝撃すら受けたようには見えない。
「無駄だ、女。そんなものが効くかっ!」
「だろうな、だがこれならどうだっ!」
そう言ってリリナが上級魔法の光線を連発する。
凄まじい連射速度だ。
しかし、いったいどこにこんなマナが。
驚いてリリナに目をやると、そのリリナ自身も驚愕の表情を浮かべていた。
「凄いな。天使とはこれほどとは、、、」
リリナはそんなことを呟いている。
左手でケイの背中に触れつつ、突き出した右の掌から光線を連発しながら。
これって、まさか、、、
そういうことかっ!
カムロ大迷宮で中級魔法を使っていたときも、リリナは左手で狼の魔物であるメイザーオーフに触れていた。
つまり、、、
リリナは自分のマナではなく、他人のマナを使って魔法を発動していたんだ!
「ケイのマナをリィちゃんに分けてあげてるの」
俺の表情を見て取ったのか、ケイがリリナに代わって答える。
やはりリリナはケイのマナを使って魔法を撃っていたようだ。
つまり魔法の達人が無限に近いマナを得て、いくらでも魔法を連発できるようになったということだ。
芸術的なまでに魔法を得意とするリリナ。
神級のマナ容量を持つケイ。
この組み合わせは相当に強力なんじゃないか?
魔王イルギウスの足止めを難なくこなせるくらいに。
それにしても天盾といい、天剣といい、『道具』として使うなら、この幼女堕天使は神級優秀である。
今回はマナの貯蔵庫として如何なく才能を見せつけるている。
これはまさに天級魔法源と呼ぶべきか。
そんな馬鹿なことを考えている間も、リリナは途切れなく光線の魔法を連発している。
その光線は全て魔王の目や口など、急所となりそうな場所に命中していた。
ものすごい精度の、凄まじい連撃だ。
だがそれでも魔王イルギウスは少しも痛がる素振りすら見せない。
「無駄だというのにっ!」
魔王イルギウスは苛立たしげにそう言うと闇弾を放ってくるが、魔王の攻撃は俺が天盾ケイを使って跳ね飛ばす。
リリナの光線は効いていないが、それでも魔王の動きを制限することには成功している。
これなら魔王に天剣ケイを叩き込むことができるか?
いや、無理だ。
この程度の隙では避けられてしまう。
それに魔王の反撃の魔法も激しくなってきている。
このままでは厳しいか。
だがリリナにはまだ奥の手があるようだった。
「すごいっ、これならいけるかっ!?」
そう小さく口にしたリリナは、光線の連発を止め、何かの魔法の発動準備に入る。
上級魔法すらほぼ瞬時に発動できるリリナが、極度の集中と構築時間を要するほどの魔法。
高級魔法かっ!?
なら、ここしかないっ!
リリナがこの魔法を放つと同時に、俺は魔王との間合いを詰め、首筋に天剣ケイを叩き込んでやる。
魔法構築が終わるのを待ちながら、その流れを頭の中に思い浮かべる。
しかしリリナの魔法の連発が止んだことで魔王イルギウスに余裕が出たのか、闇魔法の反撃が激しくなる。
自分だけならなんとかなるが、リリナまで守ろうとすると、魔王の闇弾を捌ききれなくなってきた。
まだなのか、リリナ!?
リリナの構築している魔法術式は、かなりのところまで組み上がってきていることが感知できる。
だがそれよりも、魔王の動きの方が早かった。
一際強大な闇弾、特級魔法っ!!!
襲いくる闇魔法弾をなんとか天盾ケイで逸らす。
だが特級の魔法の勢いまでは殺しきれず、リリナと3人まとめて弾き飛ばされる。
魔法の構築に集中しているリリナは、まともに動くことすらできない。
そのリリナの体をすんでのところで支えてなんとか着地する。
だがそれだけで精一杯だった俺には、魔王のさらなる追撃に反応する余裕はなかった。
魔王イルギウスは特級魔法を放った直後に一気に距離を詰めていたのだ。
魔王が俺たちの目の前で右脚を振り抜かぶる。
超級まずい!!
もはや避けるのは不可能。
天盾ケイで受けるしかない。
だけど先ほど弾き飛ばされたときに、踏ん張って着地してしまった。
このままの体勢では、あの超級の威力の蹴りの衝撃をもろに受けてしまう。
これでは天盾ケイを使ったとしても、俺とリリナは衝撃で全身の骨を砕かれてしまうだろう。
魔王の右脚が目前に迫るが、もはや有効な手を考える暇はない。
俺は死を覚悟して、、、
「くらえっ!!!」
リリナの鋭い叫びとともに光の柱が眩く輝いて、魔王の頭部に直撃する。
この威力は、、、
高級魔法どころではない!
特級魔法なのかっ!?
「ぐぅぉぅっっ」
さすがの魔王も特級魔法を顔面にまともにくらって怯んだようだ。
攻撃の足を止めると、痛む顔を両手で押さえてのけぞっている。
無防備にさらけ出される魔王の喉。
これはまたとない好機だ!
リリナが特級魔法まで使ったことに一瞬驚いた俺だったが、こんな絶好の機会を逃すほど呆けてはいない。
「ケイっ、ここだぁっ!」
そう叫んでケイを右手に持ち替えると同時に、魔王に向けて特攻をかける。
ケイに魔剣オボロヅキを握らせるころには、俺は既に魔王の目の前にまで迫っていた。
11シャク(330cm)はあろうかという魔王イルギウスの首には、ここからでは届かない。
だが、、、
よろめいている魔王イルギウスの左膝の上に思い切って飛び乗ると、そのまま太ももを蹴ってさらに飛び上がる。
それと同時に両手を頭の後ろに回して、目いっぱい大上段に振りかざす。
その頃には魔剣オボロヅキから天剣ケイが生み出されていた。
それは2シャク(60cm)ほどの長さの堕天使属性のマナでできた刃。
神級に迫る濃密なマナの刃は、魔王の凶悪なマナをも軽く上回る存在感を見せつけている。
そしてこの位置から腕を伸ばせば、魔王の首に十分に届く。
背中から振りかぶった天剣ケイを、弧を描くように頭上を越えて魔王の首へと振り下ろす。
攻撃の瞬間、怯んだような表情を見せた魔王イルギウス。
だが避ける時間は与えない。
俺は力の限りを込めて天剣ケイを斬り下ろし、魔王イルギウスの首筋へと叩き込んだ。
ポンコツトリオの『かいしんのいちげき』が炸裂!
そしてポンコツ筆頭のケイは、幼女堕天使から、幼女堕電池にクラスチェンジ!
さすが天才ヒロイン!
これは、、、勝ったな。
なお、次回タイトル、、、
次回 第77話 『蹂躙』




