表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リポップワールド ~ゲーム世界のバグは勇者を殺す~  作者: 佐倉コージ
第3章 序盤からハードモードとか、人生はクソゲーだ
73/166

3.17.70 巫の断章.2 失意

 胸糞展開があります。

 ご注意ください。

 というか第3章はここから先やばいです。

 ラストまでずっと鬱展開警報が発令中です。


■カムナ3005年 8月3日 水曜

◎リリナ



「こんなのっ!!!こんなの、ひどすぎる、、、」


 シオンに説得されてここまでかろうじて耐えてきた。

 だけど今回ばかりは我慢できそうにない。

 もう見て見ぬふりはできない。

 これでもまだ何もしないのなら、私はあいつらと同じ最低な人間と成り果ててしまうだろう。

 今すぐ飛び出して子どもたちを助けに行きたいが、巫女の私だけではどうにもならない。

 カムナ教会の巫女が使えるのは回復魔法と結界魔法だけなのだ。

 実は私にはこっそり習得していた光魔法もあるが、それでも1人で魔物の群れを何とかできるとは思えない。

 誰か僧侶に手伝ってもらう必要がある。

 そう考えてシオンに助けを求めに来たのだ。


「シオン、行きましょう!」


「だけどリリナ、僕たちはここを離れることはできない」


 だがシオンの返答は私の期待していたものではなかった。

 確かに私たち巫女と僧侶は、許可なく勝手にこの中央大寺院の外に出ることは許されない。

 そしてついさっき、私の訴えは却下されたのだ。

 それは私が彼らを救う道が閉ざされたことを意味する。

 私たちが守るべき、か弱き人々を。



 このカムナ聖都の近くにはたくさんの街や村が存在する。

 だがこの世界には聖都や王都どころか、村にすら住むことを許されない人々がたくさんいるのだ。

 居住権を持たない貧しい生まれの人々。

 年貢を納めることができずに街を追放された者。

 幼い頃に親を失った孤児たち。

 そんな人々は、村とすら呼べないような集落を作って暮らしている。


 それらの中に私たちにとって馴染みの深い、とある名もなき集落がある。

 受戒じゅかい試験で脱落し、カムナ聖都の中央大寺院附属の孤児院を追い出された子どもたち。

 そんな彼らが寄り集まって住んでいる集落が、このカムナ聖都の近くに存在する。

 そしてほんの少し前まで私たちが面倒を見ていた子どもたちが暮らすその場所は、今この瞬間に魔物の群れの襲撃を受けているのだ。


 足の速い子がカムナ聖都に助けを呼びに来たのだが、王国の兵士も、カムナ教会も、管理外の集落に救援を送ってなどくれない。

 いつかは聖都周辺の魔物の掃討作業の一環で魔物を討伐してくれるだろうが、その頃にはとっくに集落は全滅している。

 そしてその子は知り合いの商人の伝手を頼って、私に直接助けを求めてきたのだ。

 みんなの命を救う最後の望みをかけて。


 話を聞いた私はすぐさま直属の師であるテンソウ小僧正に直談判したのだが、私の救援依頼はすげなく却下された。

 私の嘆願に少しも悩む素振りすら見せなかったのだ。

 小僧正にとってあの子たちは何の価値もない、死んでしまっても何とも思わない人間だというのか。

 あれだけ多くの時間を共に過ごしてきたのに。




 私とシオンがこの中央大寺院に来てから2年以上が過ぎていた。

 12歳でここに転属してきて、2年間修行を積んで14歳になった私は、今ではもう一人前の巫女である。

 巫女になったことで、カムナ教会の聖職者だけが使える奇跡の力、『カムナの加護』も利用できるようになった。


 一般人に開放されている『カムナの理』は、魔法や聖票など奇跡の力の一部だけを、誰にでも使えるように切り出したものである。

 一方『カムナの加護』は、贅沢や姦淫の禁止など厳しい利用条件があるものの、それよりもはるかに深く奇跡の力の根幹に触れることができる。

 奇跡の力を支える『基盤システム』を制御したり、新たな奇跡の力を編み出したり。

 カムな教会の僧侶と巫女にとって、なくてはならない力なのだ。


 現在私は中央大寺院所属の巫女として、主に基盤システムの管理に従事している。

 だがここでは多くの仕事が山積みとなっており、私は他にもたくさんの業務をこなしていた。

 孤児院の子どもたちの世話は、巫女見習いのころからずっとやってきた仕事だ。


 この2年間で私は多くの子どもたちの面倒を見てきた。

 その中には受戒試験を通過することができず、カムナ聖都を去っていった子もたくさんいるが、私は今でも彼らを家族のように思っている。

 そんな子どもたちが、それ以外にも多くの人たちが殺されようとしているのに、カムナ教会は、テンソウ小僧正は、それを見殺しにしようとしているのだ。


  『汝、隣人を見捨てることなかれ』


 そのカムナ三原法を、カムナ教会の小僧正が破ろうとするなんて、、、

 だけどそう訴えた私に対する小僧正の答えは、とても信じられないものだった。


 曰く、隣人とは正国民のことだけなのだと。

 孤児院を追い出された者は、もはや隣人ではないのだと。


 カムナ教会の洗礼を受けた子どもたちですら、守る必要がないだなんて、、、

 こんな馬鹿な話があっていいのだろうか?

 いや、本当はとっくに気づいていた。

 ただどうしても認めたくなかっただけで。



 カムナ教会は、、、腐りきっている。




 2年前に私とシオンの2人は、期待を胸にここカムナ聖都へやって来た。

 そして私たちはすぐに、自分たちの考えがどれほど甘かったかを思い知らされた。

 ソウカイ住職が何故あれほど渋い態度で私たちを送り出したのか、今ならはっきりとわかる。

 私たちの力が認められて、中央に栄転できた訳ではなかった。

 ただ単に、権力闘争の駒に使われただけなのだ。


 聖都に来て初めて知ったが、カムナ教会は2つの派閥に分かれている。

 1つは教会を創設した初代聖勇者ホノカ様の意思と託された使命を、愚直に守り続ける教皇派。

 そしてもう1つが、権力と金と欲にまみれて腐敗しきった大僧正派である。

 とはいえ両者の力は対抗しているとは言いがたい。

 大僧正派がカムナ教会のほぼ全てを掌握しているのが実情である。

 教皇カムナ・ナユタ聖下はカムナ教会を維持するための責務を果たすのに精一杯で、他に気を配る余裕などないのだ。


 それをいいことに、大僧正(第1僧階そうかい)であるカンナギ・ミコトは日々権力を拡大している。

 4人の権大僧正(第2僧階)のうち、クウソウ、タイシン、エイメイの3人は大僧正の腹心だ。

 その次の位である中僧正(第3僧階)に至っては、8人全員が大僧正派である。

 今やカムナ教会で高い地位にある人物のほぼ全てが、大僧正についているのだ。

 それどころか王国四大華族の1つクナイ家とも手を組んで、大僧正はカムクラ王国にまで力を及ぼしている。


 聖務で大変な教皇聖下に代わって教皇派を率いるのはカムナ・ウララ聖妃。

 だがそのウララ聖妃を支えている中で、教会内で大きな力を持っているのは、セイスイ権大僧正くらいのものだ。

 そのセイスイ権大僧正も、大僧正派の暴走を何とか食い止めるだけで精一杯である。

 教皇派の人間は低い地位に追いやられ、激務を押し付けられているからだ。


 セイスイ権大僧正以外の教皇派で、最も高い地位にあるのは権中僧正(第4僧階)であり、16人の権中僧正のうち5人がホノカ様の教えを遵守している。

 だが聖都で教皇聖下を補佐しているのは2人だけで、残り3人は既に中央を追われていた。

 形としては主要な中核都市の住職という、要職への就任である。

 だが赴任先が危険な北側の三地方ばかりであることから、左遷であることは明白だった。

 そして私の恩師であるソウマの街のソウカイ住職も、魔王との戦いの前線に追いやられた教皇派の1人だったのだ。


 私とシオンはソウマ時代から神童ともてはやされ、中央にまで名前が伝わるほど将来を有望視されていた。

 あのままソウマの街で順調に育っていれば、教皇派の期待の星となっていたかもしれない。

 実際にソウカイ住職は、私たちにソウマで下級僧侶、巫女として実績を積ませ、教皇派の中で足場を固めるつもりだったようだ。

 そして教皇派の僧侶巫女として、上級僧階への昇格試験を受けさせる予定だったのだ。


 だから大僧正派は、先手を打って私たちを中央へ異動させた。

 まだ見習いで、教皇派に属する前であれば、中央からの人事命令をソウカイ住職は拒否できないからだ。

 いまや私はテンソウ小僧正(第5僧階)の下で、大僧正派の新米巫女という不本意な立場に立たされている。


 だけど大僧正派の人間はどいつもこいつもクズだらけ、、、

 何度も何度も、あいつらが人々を食い物にし、弱者を見捨てるところを見せつけられた。

 それなのに私は何もできずに、ただ黙って見ているだけで。

 私は日に日に自分まで腐っていくような、不安感と絶望感に苛まれていた。


 そんな中での、今回の出来事だった。




 もう、我慢できない。

 もはや教会に頼ることはできなかった。

 こうなったら、私がみんなを助けるしかない。

 だから、何としてでもシオンについてきてもらう必要がある。


「わかってるわ、シオン。でも私たちならみんなを助けられる。それなのに救える命を救わないのなら、私たちは今まで何のためにやってきたの?」


 シオンの気持ちもわかる。

 ただでさえ私たちは、教皇派から大僧正派に鞍替えさせられて不安定な立場にあるのだ。

 もしここで規則を破って勝手に外に出たら、私たちはさらに厳しい位置に追い込まれるだろう。

 シオンは聖都に来て現実を知ってもすぐに立ち直り、大僧正派の中からでも教会を変えようと必死で努力している。

 今では大僧正派の人間にもうまく取り入って、自分の立場を築きつつある。


 私もシオンを見習って優秀な成績を修めてきた。

 今や私たちは最下級の一般巫女および僧侶でありながら、小僧正どころか権中僧正をも上回る力を身につけている。

 そのため2人とも次の昇級試験に飛び級で参加できることが内定していた。

 下級僧階を一気に飛び越えて、上級僧階に手が届くところまでやって来たのだ。


 それなのに今問題を起こしたら、シオンの、私たちの夢がここで絶たれてしまうかもしれない。

 将来より多くの命を救うためなら今は我慢するべきだと、論理的にはそれが正しいのだろう。

 それでも私には子どもたちを助けることが間違っているとは、どうしても思えなかった。


 だから私はシオンの瞳を真っ直ぐに見つめて訴えかける。

 シオンも分かってくれというように、こちらを見つめ返す。

 だけど私は決して目を逸らさずに見つめ続けて、、、

 先に折れたのはシオンだった。


「わかったよ、リリナ。君はいつも正しいよ」


「ありがとう、シオン。さぁ、急ぎましょう」


 そうして私たちは街の外へ駆け出すのだった。




ーーーーー




「どうしてもっと早く来てくれなかったの」


 血まみれの男の子の言葉が胸に突き刺さる。

 生き残った子どもは、その子を含めてたったの3人だけ。

 それ以外の子どもたちは、壊滅した集落の中で、無惨な姿を晒していた。

 私はみんなを守れなかったのだ。


「ごめんなさい。本当に、、、ごめんなさい」


 私にはただひたすら謝罪することしかできない。

 助かった大人の村人が何人も、そんな私を慰めてくれる。

 自分たちの命があるのは私のおかげだと。

 十分良くやってくれたと。

 大人たちは、決してカムナ教会が助けてくれないことを理解している。

 だからこそ、駆けつけた私とシオンに最大級の感謝を向けてくれるのだ。


 だけど子どもたちの反射的な非難の言葉の方が、今の私には深く響いていた。

 か弱き人々を守るために巫女になったのに、私は救うべき子どもたちを救えなかったのだから。

 私は失意のどん底に叩き落とされていた。



 結局、私とシオンは1ヶ月間の謹慎処分を受けた。

 休憩や睡眠の時間を削って重度の献納けんのう作業が課せられ、肉体的にも精神的にも相当に厳しいものがあった。

 だがそれ以上に、あの事件による痛手が私を苦しめていた。


 腐りきったカムナ教会を変えるなんて、そんなことが本当にできるのか?

 こんな場所にいて、本当に私は人々を守れる人間になれるのだろうか?

 目の前の子どもたちを助けることすらできなかったのに。

 私はこんなにも無力な人間なのに。

 日に日にふさぎ込んでいく私を支えてくれたのはシオンだった。


「リリナ、失ったものばかりに囚われてはいけない。今の自分に守れるものを守って、、、そしてこれからより多くのものを守れるように、今できることをやるんだ」


 その言葉にどれほど救われただろう?


 初めから、シオンは私よりも遥かに強い覚悟と決意を持って行動していたのだ。

 そのことに今さら気づかされた。

 シオンの覚悟、それはどれだけ悔しい思いをしても、最終的な目標のためには全てを受け止めるというもの。

 今にして思えば、シオンは受戒試験に落ちた子どもたちが孤児院を出た時点で、彼らを救えないことを覚悟していたのだろう。

 彼らの犠牲をずっと背負い、それを自らへの戒めとして、必ず世界を変えるんだと決意していたのだ。


 対して私は何も深く考えることなく、子どもたちを見送ってしまった。

 だからいざこのような事態になったときに、感情にまかせて衝動的に動いてしまったのだ。

 それがどういう影響を及ぼすかを正しく想像することすらできずに。

 私は行動する前に、その結果を熟考することを学ぶ必要がある。


 だけどそのことに気づくのはあまりにも遅かった。

 私はこの事件のことを狂おしいほど後悔することになる。

 シオンを巻き込むべきではなかった。

 誰にも相談せずに、私だけですぐさま駆けつければよかったのだ。

 だけど、私の誤った判断のせいで、状況は既に取り返しのつかないところまできてしまっていたのだった。

 そしてそのことを思い知らされることになるのは、それほど先のことではなかった。




ーーーーー




■カムナ3005年 10月1日 日曜

◎リリナ



 その日、私はレイカイ中僧正に呼び出された。

 中僧正は上から3番目の僧階で、カムナ教会にたった8人しかいない高位の人物だ。

 もちろんレイカイ中僧正のことは知っているが、これまで言葉を交わしたことなどない。

 普通なら私のような一介の巫女が話を出来るような立場の人ではないのだ。

 そんな人物からの突然の呼び出し。

 私にはそれがいい知らせだとは思えなかった。

 何故なら今、私とシオンは中央大寺院の中でかなり微妙な立ち位置にいるのだから。


 先々月の事件により、私とシオンは1カ月の謹慎処分を受けた。

 その謹慎期間はとっくに終わっている。

 だがそれ以降私たちの立場は、目に見えて悪くなっていた。


 初めてこの中央大寺院に来た頃の私たちは、教皇派の人間として警戒され、理不尽な目にもあった。

 そんな私たちが今まで何とかやってこれたのはシオンのおかげだ。

 シオンが腐りきった権力者たちに気を使い、うまく立ち回ってくれたから、大きな問題に直面せずに過ごしてこれた。

 ずっと優秀な成績を残してきたこと、大僧正派にも徐々に受け入れられたことで、次回の昇給試験へ飛び級で参加できることも決まっていた。


 それなのに私の行動が、今までのシオンの努力の成果をぶち壊してしまったのだ。

 昇級試験の話は流れてしまったし、今ではシオンまで危険分子として警戒されている。

 当然ながら主犯格である私は、中央大寺院の方針に真っ向から反対する思想の持ち主として、厳しい監視の下にあった。


 そんな私が、大僧正派で10本の指に入る有力者に突然呼び出されたのだ。

 ろくでもない用件であることは目に見えていた。

 地方への左遷か、それとも無茶な業務を押し付けられるのか。

 だが執務室を訪問した私にレイカイ中僧正からかけられた第一声は、想定外のものだった。


「良くきた。そう警戒しなくともよい。とても良い話だ。喜んでいいぞ」


 そんなことを言われても、素直に信じられるはずもない。

 レイカイ中僧正も腐敗しきった大僧正派の人間なのだから。


「さて、リリナといったか。ソウマの街の孤児院出身の14歳4ヶ月。幼少時から才能に恵まれ、12歳で中央大寺院へ異動」


 レイカイ中僧正が手元に浮かべた青白い光の板を眺めながら、私の経歴を読み上げる。

 上級僧階の者だけが使える奇跡の力、『閲板えっぱん』である。

 使用者の権限に応じて『万物ばんぶつ謄本とうほん』や『カムナの書』などの文献を閲覧したり、使用者同士で文章のやりとりを行ったりできるものだ。

 今はおそらく『受戒者じゅかいしゃ名簿』から私の情報を読み出して表示しているのだろう。


「現在はテンソウ小僧正の下で基盤システムの管理に従事。まだ僧階に就いていない一般巫女にも関わらず、既に高級上位のステータスに到達している。基盤システムへの適性は中央大寺院で第3位。カムナの加護の習熟度も申し分ない」


 中僧正の言葉は私を褒めるものなのだが、なぜだか生理的な嫌悪感を覚える。


「素行に問題があるとはいえ、優秀な巫女であることには変わりない。本来であれば中央に留まることなど許されない程の問題を起こしたのだが、、、今の教会にはそなたほどの人材を使い潰す余裕などない。だからこそ、あの程度の罰で済んだのだ。全ての罪が許された訳ではない事を、ゆめゆめ忘れぬように」


「承知いたしました」


 大人しく返答する。

 これ以上私の、いえ、シオンの立場が悪くならないように気をつけないといけない。


「さて、どうやら反省もしているようだし、堅苦しい話はここまでとしよう。今回呼び出したのは他でもない。そなたたちのことが上層部で話題に登ってな。例の事件のこともそうだが、懲罰でそなたらが献納したマナの量が大きな注目を集めている」


 謹慎期間中に課せられた献納作業のことか。

 確かに私は子どもたちを救えなかった痛みを紛らわすために、必要以上に多くのマナを献納した。

 マナ容量のステータスなら特級に届く私が、命に関わるほどのマナを毎日納めたのだ。

 しかもシオンも私に付き合うように、同じくらいのマナを奉納している。

 教会の上層部を驚愕させるほどのマナの量になっていてもおかしくない。


「このまま腐らせておくには惜しい人材だということになってな、上層部でそなたらの扱いが議題に上がった際に、リリナ、そなたのことが大僧正の目に留まったのだ」


 大僧正に目をつけられた?

 ものすごく嫌な予感がする。

 心臓が早鐘をうち、冷や汗が吹き出してくる。

 この先の話を聞きたくない!

 だが無情にもレイカイ中僧正が口を開き、、、『最悪な現実』が私に突きつけられた。


「喜ぶがよい。リリナ、そなたは大僧正の側室となることが決まった」


 えっ???

 いま、なんて?

 あまりのことに呆然となり、うまく話が飲み込めない。


「半年後、15歳になったら、大僧正の第4夫人となるのだ」


 私が、大僧正の側室になる?

 あの、諸悪の根源である、腐りきった大僧正カンナギ・ミコトの?

 いやっ!

 そんなの、絶対に嫌だ。


「そなたには天賦の才があるし、器量も良い。さぞや良い母親になるであろう。カムナ教会を支える優秀な子を産むことが、これからのそなたの役割だ。地方の孤児がカムナ教会を率いる大僧正の側室となるなど、とてもこうえいなこ※※※※※※」


 レイカイ中僧正の話は続いているが、もはや私の耳には届いていなかった。

 頭がぐちゃぐちゃに混乱して、とめどなく涙が溢れ出してくる。


 お嫁さんになりたい、いつか結婚してみたい。

 それが私の子どもの頃の夢だった。

 受戒してカムナ教会の巫女見習いになるときに諦めた夢。

 それが今、最悪の形で現実のものになろうとしていた。


 あんな醜悪な男に嫁がされることになるなんて。

 次の世代で教会を食い物にする後継者を産むために。

 しかも子を成すということは純潔を捧げるということであり、それはつまり『カムナの加護』を使う資格を失うということである。

 私はカムナ教会を支える力を失い、母親として以外には、全くの無価値な人間に成り下がるのだ。

 世界を変えるために、幼い頃からあれだけ必死で努力を重ねてきたのに、その全てが無駄になってしまう。

 そして一介の巫女である私には、この不条理な命令を断る権利などない。


 こんなの、私が考えていた結婚じゃない。

 私が夢見ていたのは、心から愛する人と結ばれることだ。

 本当に尊敬できて、ずっと一緒ににいたいと思えるような、そんな人と。

 たとえば、、、


 そのとき私の脳裏に浮かんだのは、『彼』の笑顔だった。

 その瞬間、私は初めて自分の気持ちを自覚した。

 今さらになって気づいた。

 全てが手遅れになった今になって。



 私は、、、シオンのことを愛している。


 次はハルトの回想入りまーす。

 回想は死亡フラグ。

 これは死ぬ、今度こそ死んだな、ハルト。

 ハルトは無事に第3章を生き延びることはできるのか?


 次回 第71話 『脅威』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ