3.13.66 弱者
リーダー格の冒険者の方へ一歩ずつ近づいていく。
相手は体格に恵まれた筋骨隆々の大男である。
マナの気配からしてステータスは中級くらいだろうか。
残る2人の冒険者は、坊主頭の男とやや小柄な男だ。
最初の男よりは少し劣るが、それでも2人とも中級に届くくらいの力を感じる。
普通に考えれば、低級のステータスの俺がこの3人をまとめて相手にするのは無理がある。
冒険者の強さはステータスや体格に左右されるからだ。
だがそれらと同じくらい重要な要素がある。
戦闘技術だ。
そしてそれがあるからこそ、俺は自信を持って三人組に立ち向かっていけるのだ。
「何だテメぇ、ガキだからって容赦しねぇぞ」
間合いを詰めていくと、リーダー格の男が睨みをきかせながら威嚇してきた。
あとの2人はニヤニヤと油断しきった態度で眺めているだけだ。
相手の本気が理解できていない時点で、こいつらは話にならない。
無駄口を叩いている暇があるなら、さっさと行動に移せばいいのだ。
こんな風に、、、
腰の魔剣オボロヅキをさっと抜くと、獣人の男の子を締め上げている右腕に向けて一閃する。
マナを込めるのは攻撃を当てる一瞬だけ。
それだけで十分だし、そもそもそんなに長い時間込めていられるほど、俺のマナは多くない。
だがこの程度の相手ならこれで十分。
というよりむしろ、威力が強すぎて腕を切り落としかねない。
なので、刃ではなく刀の腹の部分で軽く撫でる程度にとどめる。
だがそれだけ骨が折れそうなほどの苦痛を感じたのか、男は悲鳴をあげながら腕を緩めた。
落下してきた獣人の男の子を受け止めると、冒険者の横で心配そうにしている人間の男の子に預ける。
相手が呆気にとられているうちに、今度は獣人の女の子を締め上げている坊主頭の冒険者の方に向き直る。
その頃になってようやく、男たちは本気の戦闘態勢に入ったようだ。
「テメぇ、やる気か!」
「もう許さねぇぞ」
「いてぇ、、、このガキ、いきなり何をしやがる」
三人が警戒を露にしながらも、俺を囲むように位置をとる。
だがその隙だらけの動きなど一切気にすることなく、俺は女の子を捕まえている坊主男の方に向かって距離を詰める。
「ハルちゃん、らいじょうぶ?ケイがてつら、、、」
「1人で十分だからそこで待ってろ。ってか、ケイだとこいつらを殺しかねないからな!」
余計なことをしそうになるポンコツを制止して、男の目の前まで歩み寄る。
間合いに入った瞬間、間をおかずにそのまま魔剣オボロヅキを振り上げる。
先ほどと同じ光景が繰り返された。
腕の激痛に悲鳴を上げ、坊主男が女の子を放り出す。
すぐさま女の子を受け止めるが、今回はそこを狙って残り2人の男が飛びかかってきた。
とはいえ女の子を抱えながらであっても、こいつら程度では俺を捉えることなど不可能だ。
左後ろから飛びかかってきた3人目の小柄な男を、振り返りすらせずにかわす。
素早く右後ろに飛び退きつつ、そいつの足を払って転倒させた。
例え後ろを取ろうとも、マナで相手の位置を測れる俺の不意を着くことなど不可能だ。
少し遅れて殴りかかってきていた最初のリーダー格の男だったが、俺の動きに虚をつかれて一瞬動きを止める。
その隙を見逃さず一気に間合いをつめると、沈み込んで相手の死角に潜り込む。
そこから跳ね上がるように伸び上がって、男の喉に手刀を叩き込む。
急所への的確な攻撃によって崩れ落ちる男を尻目に、盛大に転んでいた3人目の男の背中の一点を踏みつける。
ここを押さえられると、立ち上がろうにも上手く力を込めることができないのだ。
まったくこいつら、ステータスだけなら俺より一等級以上も上のくせに、身のこなしがまるでなっちゃいない。
「ケイ、この子を」
ケイに腕の中の女の子を手渡すと、腕をさすりながら立ち上がりつつある2人目の坊主男に視線を送る。
「テメぇ、人間相手に暴力をふるいやがって、こんなこと許されると思ってんのか?」
その男にはもはや、挑んでくるだけの勇気は残されていないようだ。
それでもこちらを睨みつけて、忌々しげに怒鳴ってくる。
汝、隣人を傷つけることなかれ
確かに人間が人間に暴力をふるうなど、カムナ三原法に背くあってはならない蛮行なのだが、、、
「暴力だって?軽く撫でてやっただけだぞ。それともまだやる気か?そん時は、本当の暴力ってのがどんなもんか、お前の体に叩き込んでやるよ」
軽く脅しをかけると男の顔色が青くなる。
「それに王国の法では、人間と同じく獣人への暴力も認められてはいない。それでこの子たちが何をしたって?」
「なんでそんな家畜どもを庇うんだよ!そんな獣臭い奴らが人間様に混じって町中を我が物顔で歩いてやがったんだ!躾をしてやるのが当然だろ!」
「ほう、つまりお前らはただ歩いてただけの子どもを襲った暴漢ってことか。王国の法を侵した犯罪者だって自白するわけだ」
「そ、そりゃあ、、、」
反論に窮した男を睨みつけながら、踏みつけていた男を蹴り飛ばすと、さらに脅しをかける。
「しかも冒険者の獣人じゃなく、か弱い子どもを狙うとか情けねぇ。犯罪者の上にクズってんなら、ここで性根を叩き直してやるべきだな」
そう言って魔剣オボロヅキを突き付ける。
顔面蒼白となった男たちは、我先にと逃げ出していった。
その後ろ姿を眺めながらやるせない気分になる。
とはいえ注目を集めてしまった以上、早々に立ち去るべきだ。
「大丈夫か?」
「ありがとう、助けてくれて」
子どもたちに声をかけると、人間の女の子が礼を述べる。
男の子の方は冒険者たちへの怒りでそれどころではないようだ。
そして獣人の子どもたちは未だにぐったりとしている。
とはいえ大きな怪我はないようだ。
「手を貸すからとりあえず村を出て休ませよう」
「うん」
周りの村人たちも、獣人に対していい感情は持っていないようである。
ここにとどまっていても、ろくな事にはならないだろう。
そう思って女の子に提案すると、大人しく了承してくれた。
俺とケイの2人で獣人の子どもたちを1人ずつ抱えると、俺たちはカムロ村を後にする。
とにかく早く獣人の子どもたちを休ませてあげないといけない。
いい場所がないかと探しながら歩いていくと、村から少し離れたところに柔らかそうな草地を見つけた。
そこまで移動して獣人の子どもたちを寝かせると、人間の子どもたちに問いかける。
「俺はハルト。で、こいつはケイ。君たちは?」
「わたしはセナ。こっちは弟のセイジ。ポメ兄さんとヒャウ姉さん」
答えたのはセナという女の子だ。
弟だというセイジの方は、まだ俺たちに気を許していないようだ。
そして獣人である2人の兄妹は、ポメとヒャウという聞き慣れない変わった名前だった。
獣人にとっては、それが普通の名前なのだろうか?
それにしても、、、兄さん?姉さん?
セナと2人の獣人の子どもたちは、兄弟だということか。
両親のどちらかが人間で、もう一方が獣人なのだろうか?
だけど人間と獣人の間でも、子どもって作れるんだっけ?
それに子どもができたとして、その姿は人間と獣人の中間になる訳ではないのだろうか?
田舎の村育ちでずっと鍛錬や魔物退治ばかりやってきた俺には、そういう知識など全く無いので分からない。
「4人兄弟なの?」
「んーん。妹があと1人。家で待ってて」
5人兄弟ということか。
それにしてもこんなに小さな子どもたちだけで行動するなんて、危険にも程がある。
しかも着ているものもみすぼらしいし、もしかしたら孤児なのだろうか?
「それで子どもだけで何をしてたの?悲しいことだけど、獣人の子どもだけで村に入るのはとても危ないんだ」
「何でだよ!みんな同じ人間なのに!何で誰も助けてくれないんだよ!」
セナに問いかけると、セイジと呼ばれた男の子が怒鳴り返してきた。
周りの大人たちが誰も助けてくれなかったことが、たまらなく悔しかったのだろう。
ずっと押し黙っていたその子が始めて口にしたのは、そんな恨み言だった。
「セイジ!ハルトさんがせっかく助けてくれたのに、なんてこと言うの!」
「いや、いいんだ。俺だっておかしな話だって思うし」
そんなことを大声で話していたせいか、獣人の子たちの意識がはっきりしてきた。
男の子の方が何事かをボソボソと口にしはじめる。
だがかなり衰弱しているため、うまく言葉にならずない。
体を起こすことすらできないようだ。
何とかしてあげたいが、ポーションはもう残っていないし、回復魔法も使えない。
子どもたちも見るからに貧しそうで、当然ながらポーションの類は持っていないだろう。
セナが助けを求めるように見つめてくるが、俺たちにはどうしようもない。
「ちゃんとした所で休ませてあげた方がいいな。家はこの近くなの?それとも村の中?」
「えーと、わたしたちの村はここから森の中を1コクくらい歩いたところにあって」
「それは急いで戻らないとまずいな」
今から1コク(2時間)だと日が暮れてしまう。
夜は魔物の活動も活発になるし、道に迷う可能性が高くなる。
そんな暗くて危険な夜道を、子どもだけで歩いて帰るなんて自殺行為だ。
しかも獣人の子ども2人は弱っていて、そんな距離を歩けるとは思えない。
そもそも子どもたちだけでこの村まで来れたこと自体が幸運だったのだ。
とても見捨てることなどできない。
子どもたちを家まで送ってやることにした俺は、ビャクを馬留めから連れてきて、急いで出発することにした。
セナに案内されたのは、カムロ村の西側の方だった。
森に入るあたりに、木でできた小さな標識が立っている。
知らないと見落としそうなもので、セナは良く迷わなかったものだと感心する。
その先には道とまでは言えないものの、人が頻繁に通っているのだと思われる轍が続いていた。
その道跡をたどって歩き出してみると、この森はそれほど木々が生い茂っている訳ではないようだった。
十分に日が差し込んで明るいので、午後の遅いこの時間でも道を見失う心配は無さそうだ。
これならビャクで走れば30分程で到着できるのだが、さすがに全員が乗るのは難しい。
それに弱っているポメとヒャウでは、乗馬の揺れに耐えきれないだろう。
というわけでセナとセイジだけをビャクに乗せ、ケイと2人で手分けして獣人の子たちを背負って進むことにした。
男の子のポメより、女の子で、しかも話によると1つ歳が下だというヒャウの方が軽い。
なので当然ポメをケイに押し付けて、俺はヒャウを背負う。
セナが不思議そうに眺めているが、ケイのほうがステータスは遥かに上だからな!
というか、今の俺のステータスだと、こんな小さな女児でも十分に重いわ、これ。
一方、隣ではケイがポメを抱え上げようとするが、、、
「お前みたいなチビっ子に任せられるか!」
セイジがケイに突っかかってくる。
まあ幼女が自分より大きい子を運ぼうとしていたら、男の子としては任せておけないよな。
「ケイは大人のお姉さんなんらからね」
いや、お前、婆ちゃんだろ!
「どこかだよ!俺よりチビのくせに」
「チビじゃないもん!ケイはすっごくすっごい天才なんらからね!」
いや、天才でもチビはチビだろ!
しかも天才じゃなくてポンコツだし。
どう見ても幼児同士の頭の悪い喧嘩にしか見えない。
まあ、放っておいても大丈夫だろう。
というか、こんな子どもの口喧嘩に巻き込まれるのは御免だ。
日没まで時間もないことだし、ポンコツたちは放置して、セナだけをビャクに乗せて歩き出す。
せっかくなので、俺はセナに事情を聞いてみることにした。
セナによると4人は買いたいものがあって、日帰りでカムロ村までやって来たそうだ。
そして午後遅くなり、そろそろ帰らなきゃと思っていたところで、あの冒険者たちに絡まれたのだという。
そんな顛末を聞きながら歩いていると、ケイがポメを軽々と抱えながら、ものすごい速さで走ってきた。
セイジはそんなケイに付いてくるだけで精一杯のようである。
しばらくしてようやく追いついてきたのだが、膝に手を付いてはぁはぁ言いながら目を丸くしている。
どうやら話はついたようだ。
ってか、あのポンコツ堕天使、体力あり過ぎだろ!
まぁどうでもいいことなので、無視してセナの話の続きを聞く。
セナは一度だけ母親にカムロ村まで連れてきてもらったことがあるらしい。
最初はそのセナと、弟のセイジの人間の2人だけで来るつもりだったそうだ。
獣人の子どもたちは絶対に他の村には近づかないようにと、母親にきつく言い聞かせられていたからだ。
しかし5歳10ヶ月だというセナと、4歳4ヶ月のセイジだけでは、カムロ村まで歩くのはあまりにも危険である。
この付近は冒険者が多いおかげで、野生の魔物などそうそう残っていない。
だがそれでも生き延びた魔物や危険な動物に出くわす可能性もなくはない。
そこで体の強い獣人の兄と姉に付き添ってもらうことにしたのだそうだ。
まぁ、その2人も6歳9ヶ月と5歳6ヶ月らしく、危険すぎることには変わりないと思う。
そもそも獣人の子だけでなく、セナやセイジも勝手に村の外に出ることは禁止されていたらしい。
そしてどうせ母親のいいつけを破ることになるのだから、だったら4人で行くのがいいと考えたそうだ。
獣人が子どもだけで人間の村に行くなど、王国の現状を知っている者からすれば、危険すぎてあり得ない行動だ。
だけど子どもたちはこんなことになるとは思っていなかったそうだ。
この年の子が獣人差別というものを理解するのは難しいことだから、仕方のないことなのかもしれない。
彼らは普段は自分たちの村を出ることはないそうなので、余計に分からなかったのだろう。
今回は特別な用事があって、生まれて初めて子どもだけでカムロ村までやって来たらしい。
だがその用事はぜんぜん上手くいかず、困っているうちにこんな時間になってしまったらしい。
「今月はね、お母さんの誕生月なの。だからね、今月のうちにお祝いをしたいって、みんなで話して決めたの。それで果物とかはこっそり集めたんだけどね、やっぱり何か贈り物をしたいって思ったの」
話によるとこの子たち5人兄弟は、母親と6人で暮らしているらしい。
その母親はいま仕事に出かけていて、しばらく留守にしているそうだ。
今月が母親の誕生月だと聞いたセナたちは、母親が留守の間にこっそり準備して、帰ってきたときにお祝いをして驚かそうと考えたらしい。
「それでね、カムロ村に行けば良いものが見つかると思って、みんなで来たの。いっぱい果物を持ってきて、それを売ったお金で何か買おうと思って、、、だけど、買ってもらえなくて、ぜんぜんダメで、、、」
話していたセナの声がだんだん涙混じりになっていく。
悲しいことだが、見るからに貧民の子どもと獣人の子どもでは、そういう扱いをされても不思議ではない。
「いっぱいいっぱい探して何とか買ってもらえたんだけど、そのお金じゃ何も買えなくて、、、」
きっと騙されて二束三文で買い叩かれてしまったのだろう。
こんな小さな子どもたちへのあまりにも酷い仕打ちにやるせなくなる。
「それでも何か一つだけでもってね、頑張って探してたんだけど、、あの人たちに捕まって、、ぐぅずっ、、お金も、うっ、取られちゃって、、、」
そのときの悔しさを思い出したのか、今やセナは涙が止まらなくなっていた。
あいつら、子どもに手を上げただけじゃなく、なけなしの小銭まで巻き上げたってのか!
あまりにも酷すぎる。
「うぉがぁさんに、、うぅっ、ありがとぅっってぇっ、、、あげだがったのにぃぃっ、、、」
セナはそれ以上はもう話すことはできず、大声で泣き出してしまった。
俺が背負っているヒャウとケイが抱えているポメも、ぐったりしていたにも関わらず、それを見て一緒に泣き声を上げ始める。
後ろを歩くセイジも目に悔し涙をためながら、怒りに震えていた。
これがカムナ教会やカムクラ王国から切り捨てられた人々の現実なのだ。
教会や王国の庇護下にある街の中はこの厳しすぎる世界のほんの上辺にすぎず、その外側の世界の現実はあまりにも痛ましい。
知ってはいたが、こうやって目の前で見せつけられると、堪らなくやるせない気持ちになる。
俺は、聖勇者は、、、絶対にこんな世界を変えないといけない。
性勇者ハルトの連れ去り事案がまたしても発生!
ロリもショタもケモナーも、なんでもごされの変態紳士にカムロの村が戦慄する。
勇者ソウタ様!勇者マモル様!お助けをー!
次回 第67話 『世界の外側』




