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リポップワールド ~ゲーム世界のバグは勇者を殺す~  作者: 佐倉コージ
第2章 バグってデータ消えましたって、詫び石よこせよクソ運営
53/166

2.21.51 旅立ち

■カムナ3019年 4月21日 水曜

◎ハルト



 そうだ、俺の原点はあのときなんだ。

 目の前でハルカが取り返しのつかない傷をつけられるのに何も出来なくて。

 両親も殺されて。

 それなのにあまりにも無力で。

 ただ守ってもらうだけの存在で。


 そんなことは二度と御免だと、次は俺がみんなを守ると誓って努力を重ねてきた。

 にも関わらず圧倒的な存在の前には変わらず無力なままで。

 再び大切な『両親』を目の前で殺されて。

 ただでさえ悲惨な運命を背負わされている妹が、再び絶望的な傷を負わされるのを守ってやることが出来なくて。


 そうして力の無い勇気も、結果に繋がらない努力も、全てが意味のないことだと知った。

 だから俺は強さを、結果を、全てに優先する。

 自分の体など省みない。

 結果に結び付かない物事など無視して、とにかく強さに繋がる行動だけを極限まで突き詰める。

 それはあのとき心の根源に深くに刻み付けられた、今の俺を形作る覚悟によるもの。


 目の前のか弱き人々を助けたい。

 もう誰も俺の前で傷付けさせない。

 それが俺の覚悟。

 俺の原点なんだ。


 ハルカの言葉が沈みこんでいた俺の心の奥底から、失われかけていた気持ちを呼び覚ましていく。

 か弱き人々を守ると決めたはずではなかったのか?

 そんな妹を前にして、俺が戦いから逃げ出すことなどできようか?


 だが力無き覚悟など何の意味もないこともまた思い知っている。

 今の全ての力を失ったこの俺に、本当に何かができるのだろうか?

 再び魔王に立ち向かうことができるのだろうか?


「俺にできるかな?こんな俺でも?」


 気づけば俺はそんな弱気な言葉を、腕に抱きとめているハルカに問いかけていた。


「お兄ちゃんなら出来るよ。それに、、、」


 ハルカが弱々しい体からは想像できないほどの力強い声で答えを返す。

 閉じたままの目で。

 だけど信頼に満ちていることがはっきりとわかるその目で。

 俺をまっすぐに見つめながら。

 ああ、俺はこの目を知っている。

 これはあの人と同じ、、、


「ユウナさんはいいの?お兄ちゃんがユウナさんを守らなくていいの?」


 ユウナと同じ目だ。

 1スンの迷いもなく俺が聖勇者になると確信している、俺への信頼に満ち溢れた目だ。

 そうだ、今まで敢えて考えないようにしてきたが、ケイの話が本当ならば、俺が千年魔王を倒さない限りユウナが死ぬ。

 それなのに俺が全てを投げ出すことなど許されるはずがない。

 ユウナを見捨てて、俺一人このまま無為に生き延びたとして何になるのだろう。


「そうだな、俺がユウナを守らないといけないよな」


 ハルカの言葉に俺は今度こそ決意を固めてそう答える。


「ハルちゃん、やってくれるの?魔王と戦ってくれるの?」


 俺とハルカの会話を後ろで黙って見守っていたケイが、顔を輝かせて問いかけてくる。


「あぁ、力を失った俺だけど、ここから、、、一からまた始めるから、ケイ、俺に力を貸してくれ」


「まかせて、ハルちゃん。すっごくすっごい天才のケイが助けてあげるから安心するの。二人れ千年魔王をちょちょってやっつけるの!」


 いやいや、これっぽっちも安心できないからな!

 そんな俺とケイのやりとりに、ハルカがフフっと笑いをこぼす。


「お兄ちゃん、私やケイさんが言ってもダメだったのに、ユウナさんの為なら一瞬なんだね」


「そ、そんなことないって!ハルカの言葉のおかげだから」


 思わず慌ててしまう。

 ユウナじゃなくてハルカのおかげだから!

 そう、俺の目を覚ましてくれたのは、間違いなくハルカだ。

 ん、ケイ?

 あれはまあ、ねぇ、、、


「お兄ちゃん、やっぱりユウナさんのこと好きなんでしょ」


「い、いいいやいや、そんなことないって!ユウナは聖女で大切なパートナーで、それだけだって!」


 図星をつかれて今度こそ本気で慌ててしまう。


「そうかなぁ、村長さんにカムナ版読んでもらったけど、ユウナさん、とんでもない美人さんなんだってね」


「まぁ、うん、ユウナはとても綺麗だよ、うん」


 思わず声が上ずってしまう。


「それでね、お兄ちゃんが一緒に写ってる記事があったんだけど、お兄ちゃんの顔、デレデレだったって村長さん言ってたよ」


 おいーっ、村長!

 何てこと教えてんだ!

 ハルカの面倒を見てくれているのは助かるんだけど、だからって変な嘘を言うなよ!


 って、嘘だよね?

 俺そんなに顔に出てたの?

 普段はカムナ版を見るのを避けてるから知るわけないんだけど、まさかね。

 まさか全世界にだらしない顔が晒されたってこと?

 いやいやいやいや!

 ないだろ!

 やばい、超級やばい!

 聖級恥ずかしい!


「い、いや、村長の冗談だよ、それは」


「冗談かなぁ?」


 咄嗟に言葉を返すがハルカは納得したようには見えない。

 というか、俺って本当にどういう顔で写っていたのだろう?


「それで、村長は何て言ってたの?俺そんなに変な顔してたって?」


「お兄ちゃん、、、」


 ハルカ、お兄ちゃんをそんな呆れ顔で見るんじゃありません!


「うん、ハルちゃん、すっごくすっごいれれきった顔れ写ってたよ」


 そこに割り込んでくるケイの声。

 お前、カムナ版読んでるのかよ!

 ってかマジですか?

 やばい、全世界にデレ顔晒されるとか、神級恥ずかしい。

 とんでもない事実の発覚に身悶えている俺にハルカの寂しそうな声がかけられる。


「あーあ、お兄ちゃん、ユウナさんに取られちゃったなぁ」


「ハルカ、そんなことないって!俺にとって一番大事なのは間違いなくハルカだから!」


 思わず腕の中のハルカに言葉を返すが、俺の本当の気持ちはどうなのだろう?

 少し前までならそれが嘘かもしれないと、後ろめたい思いになったかもしれない。

 だけど今、ユウナの隣にいるのはあいつなんだ。

 この俺は遠くからユウナを見守ることしかできない。


 だから今の俺にとって一番大切な人はやっぱりハルカだ。

 そう自分を納得させつつも、この胸にわだかまる想いはいったい、、、

 そんな俺の思考を遮ってハルカが優しい声で言葉をかける。


「ううん、ユウナさんなら仕方ないかなって思うの。本当はいつかお兄ちゃんを誰かに取られちゃうのかなって、すっごく嫌だったんだけど、ユウナさんってすごい人なんでしょ?それにとても優しい人だって聞いたよ」


「ああ、ユウナは物凄い天才だし、それにどんな人にも優しいし、本当に天使みたいな人で」


 ハルカにユウナのことを伝えたいと、思わず早口になってしまう。

 それを見てハルカが笑顔で吹き出す。

 そしてケイ、『天使』にピクっと反応するんじゃないっての!

 お前は天使じゃねーからな、二重の意味で。


「お兄ちゃん、本当にユウナさんのこと好きなんだね」


 ハルカ、だから違うって!

 だが俺が慌てて否定しようとする前に、ハルカが真剣な表情になって言葉を続ける。


「お兄ちゃん、今度ちゃんとユウナさんを紹介してね。私、お兄ちゃんが好きになった人がどんな人か話してみたいな。だから、お兄ちゃん、ユウナさんを連れて来てね、千年魔王を倒した後で」


 ハルカのその真剣な言葉に、俺は誤魔化しは許されないと思い知る。


「ああ、ハルカ、約束する。姉さんたちの想いを背負って、千年魔王を倒して、必ずここに帰ってくる」


 そう、これは『男と男の魂の約束』だ。

 そして俺に全てを託してくれたあの人と、こんな俺を変わらず信じていてくれる妹への誓いだ。


「うん、お兄ちゃん、わたしずっと待ってるから。お兄ちゃんのこと信じてるから」


 ハルカが1年ほど前と同じ言葉を口にする。

 ハルカをたった1人残してこの村を旅立ったあのときと同じ言葉を。

 だけどあのときとは重ねた経験が違って、背負うものが違って、、、


 俺は遥かに固い決意を持ってその約束を心に誓うのだった。




ーーーーー




 そうして翌日、俺たちは夜明け前に慌ただしくウルギ村を出発しようとしていた。

 実家で一泊した後、村人たちが起き出す前に、ハルカにだけ別れを告げて旅立つのだ。

 約束は昨日の夜に既に交わしている。

 だから俺はハルカに簡潔に別れの言葉を伝える。


「俺が全てに決着をつける。見てろよ、ハルカ、これが俺の聖勇者としての旅立ちだ」


 そこにケイも言葉を重ねる。


「うんっ、ハルちゃんっ!2人れぜったいに千年魔王をやっつけようね」


 そうして俺とハルカとケイは誰からともなく握った拳をぶつけ合った。

 3つの拳を優しく預けあって、、、そして俺は2人と視線を交わし合う。

 誰よりも大切なハルカのために、魔王を倒し、この世界を救うという決意を込めた視線を。

 そのためにケイと2人で最後まで戦い続けるんだという覚悟に満ちた視線を。



 勇者であること、そして自分自身の存在すらも奪われ、戦う力を失くした聖勇者。



 天界から追放され、天使たる力を剥奪された堕天使。



 世界からはじき出され全てを失った2人。

 今日その2人が決意を交わし、この理不尽な世界に抗うべく、立ち上がったのだった。




 そう、今日ここから俺は旅立ちを迎える。

 11年前に同じくこの村で旅立ちを迎えたレイヤとあの人のように。

 真の聖勇者として俺は今日ここから旅立つのだ。

 ただの聖勇者ではない。

 最後の聖勇者として。


 これまで数多くの聖勇者が斃れてきた。

 始まりの勇者ホノカ以来、3000年以上に渡って繰り広げられてきた聖戦において。

 だがその戦いは俺が終わらせる。

 見てろよ、ハルカ。

 レイヤを超えて、ホノカを超えて、俺が3000年以上にわたる戦いに決着をつける。




 約束を果たせず夢半ばで倒れたあの人の旅立ちに想いを馳せる。


 あの人とレイヤがどんな想いで旅立ったのか?

 それは俺が一番よく知っている。

 そしてそれが叶わず、俺たちに戦いの順番を回すことになったときに、どれ程の悔しさを覚えたのだろうか?

 そしてそんな中で、この聖剣リンネとともにどんな想いを俺に託したのであろうか?




 この永きに渡る戦いの始まりに想いを馳せる。


 3000年以上前にホノカはどんな想いで聖戦を始めたのだろうか?

 それを知る者は今はもう誰一人いない。

 きっととてつもない悔しさとともに、次代の聖勇者に想いを託したのだろう。




 そんな数々の想いを背負い、その全てに俺が決着をつけるのだ。

 そうして俺は全ての始まりに思いを馳せ、、、

 そして俺が全てを終わらせるんだと、決意を胸に刻み込むのだった。



ハルト「俺なんか、うじうじ」

ユウナ「私のために頑張って」

ハルト「わかった!命捨てます!」

ハルカ『チョロっ!』


 第2章の本編はこれにて終了ですが、次回の断章が最終話となります。


 次回 第2章最終話 『始の断章.9 目覚めし勇者』



ーーーーー


2章ラストなので、本日、後ほどもう1話投稿します。


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