2.14.44 逃亡劇
「俺はもう終わった、、、」
絶望の嘆きが思わず口からこぼれ出る。
「ケイももう終わったの、、、」
俺の左隣から同じような感情の込められた呟きが聞こえてくる。
あの場から逃げ出した俺は嫌な予感がしたので、すぐにソウマの街を脱出するべく北門に急いだ。
だがしかし案の定そこには、権大僧正の追手と思われる紫色の入った袈裟を着た僧兵が配置されていた。
なんとか見つからずにその場を離れた俺だったが、大門を抜けない限りはこの街の外に出ることはできない。
おそらく南門も同じように見張られているのだろう。
しかも街中にも俺を探していると思われる僧兵が巡回していた。
行き場をなくした俺は、追手に見つからないように下町の住宅地区の路地裏に逃げ込んだ。
とはいえもはや行く宛もない俺は、置かれていた木箱の陰に隠れて膝を抱えて座り込んでいた。
こうやっていると、自然と気分が沈み込み、知らず知らず悲観的な呟きが口をつく。
「俺って何なんだよ。もう生きてる価値すらないんじゃないのか?」
「ケイ、ろうなっちゃったの。これから何のために生きていけばいいの?」
さっきは生存本能に駆られて、必死でここまで逃げてきた。
だけどこの先生きていたとしても、全てを失ったまがい物のこの俺にどんな存在価値があるというのだろう。
そして俺の隣からは、同じように生きる意味を無くした者の力ない声が聞こえてくる。
「俺はこれから先どうすればいいんだろう?」
「ケイはこれから先ろうしたらいいの?」
途方にくれた二人の言葉が重なる。
二人の、、、
んっ?
二人!?
自分の世界に沈み込んで絶望に呻いていた俺は、驚いて顔を上げ左を見る。
そこには幼女堕天使が俺と同じく両足を抱えて絶望に沈んでいた。
いつの間に隣に来ていたんだ?
どうやって俺の居場所を見つけた?
そしてどうして俺のところに来たのだろう?
その幼女堕天使は俺に用事があるような様子には見えない。
俺が視線を向けても何の反応もせず、ただただ重い雰囲気をまとって打ちひしがれていた。
何にしても、俺はこの幼女堕天使に聞きたいことがたくさんあった。
さっきは身の安全を優先して尋ねるのを諦めたものの、向こうから俺のところに来てくれたのは幸運だった。
とはいえいろいろ聞き出す前に、俺にはまずやるべきことがある。
俺は恐る恐る幼女堕天使に声をかける。
堕天したとはいえこの元天使はとんでもない力を持っており、機嫌を損ねないように細心の注意を払う必用があるのだ。
なんせ俺はあいつと違って勇者じゃないからな。
二重の意味で。
「なぁ、天使。ケイっていう名前だっけ?君に話したいことがあるんだけど」
「ケイ、もう天使じゃないのぅ」
幼女堕天使はそう答えてまたしても泣きじゃくる。
「あぁ、すまない。じゃあケイって呼んでいいかな?とにかく君に俺は謝らないといけない」
そう言った俺をケイは真っ赤に泣き腫らした目で見上げてくる。
とんでもない美幼女なこともあり、そんな姿を見せられるとものすごい罪悪感と背徳感に襲われる。
とにかくちゃんと謝らないと。
俺は真剣な面持ちでケイの目をしっかり見つめると、頭を下げて謝罪の言葉を口にする。
「君の大切な持ち物を勝手に持ち出して、2本も使ってしまってすまなかった。そのせいで君は、、、」
「うん、もういいの。もうケイ、追放されちゃったから、ぜんぶおしまいらから」
やはり俺のせいでこの子は追放され堕天させられたのか。
俺はなんということをしてしまったのだ。
俺はこの子にどう詫びればいいのだろう?
「良くないよ。俺のせいで君の全てが滅茶苦茶になったんだろう?償わせてくれ。俺にできることなら何でもするから」
「いいよ、もうぜんぶ、ろうれもいいの。それに元はケイのせいなんらし」
ん?この子のせい?
どういうことだ?
「ろうせケイ、もうらめらから。ろうせもう、もろれ(戻れ)ないから。許してもらうにはパパの命令をやらなきゃらけろ(だけど)、そんなのぜったい無理らから、らからもう絶対許してもらえないの」
パパって何だ?
知らない言葉だが、ケイに命令したってことは、きっとあの上空の大天使のことなのだろう。
ケイの話から想像すると、ケイはあの大天使に追放されて、堕天させられて、許してもらうためには大天使の命令を遂行しないといけないということなのだろう。
いったいどんな命令なんだ?
そう言えばあのとき大天使は俺の方を見ていた。
あのとき大天使が何を言っていたのか、俺はそれが気になっていたのだ。
「命令って何をすればいいんだ?難しいことかもしれないけど、俺も手伝うから。俺はもう勇者じゃなくなってしまったし、もう何もやるべきことがなくなっちゃったから、せめて君に償いがしたい」
ケイに話しかけながら、全てを失った俺がすべきことはこの子に償いをすることなんじゃないかと思い始めていた。
「もう何の力もない俺だけど、どれだけ時間がかかるか分からないけど、それでも出来る限り頑張るから」
使命を無くした俺の唯一の存在意義が、この子への償いなんじゃないかと思えて来たのだ。
だってそうじゃないと、何か目的がないと、俺は何のために生きていけばいいのか分からない。
そして俺の言葉を聞いて、ケイが不安げな、そしてすがりつくような表情で問いかけてくる。
「僕ちゃん、やってくれるの?たいへんらよ」
僕ちゃん?大変?
いや、とにかく俺はこの子にできる限りの償いをするべきだろう。
「ああ、俺にできることなら、やれるだけのことはやりたいと思う」
決意を込めてそう答えると、ケイの目に光が戻ってくる。
「そっかぁ。すっごくすっごい大変らけど、それれもやるしかないよね。ろっちにしても、僕ちゃんがいないと始まらないんらし、がんばろっかぁ」
ん?やっぱり僕ちゃんって言った?俺のこと?
「あぁ、俺はハルト、よろしくな!」
「ハルちゃん、よろしくね」
遥かに年下のちびっ子にちゃん付けされるのは変な気分だが、天使とはそういうものなのだろうか?
天使から見れば人類というのは見守ってあげるような弱々しい存在ということなのだろう。
いや、呼び方に気をとられていたけど、そんなことより俺がいないと始まらないってどういうことだ?
「じゃあハルちゃんにはこれを返しておくね。もうハルちゃんのらから」
混乱する俺にケイが何かを手渡してくる。
何か凄まじいマナを発するもの、、、
って!これ、天恵のポーションじゃないか!
どうやら最後の1本は暴走勇者に奪われることなく守りきれたようだ。
というか、えっ!?
俺のってどういうこと?
「それはね、天恵のポーションはね、天界が聖勇者に授けるものなの。それじゃ、ハルちゃんは今日から本物の聖勇者らから、ケイと一緒に千年魔王をやっつけようね!」
満面の笑みを浮かべながら無邪気な幼女堕天使は驚愕の事実を俺に告げるのだった。
裏口合格により、史上最弱の聖勇者ハルト、爆誕!
やったね!ハルト!夢がかなったよ!
第1勇者ほか「あのー、、、」
次回 第45話 『聖勇者』




