1.23.29 姫の間章 回帰
ここから間章が登場します。
間章では本編と同時期の別の場所での出来事について、ハルト以外の人物の視点で描かれていきます。
間章の一発目は、影の薄い彼女の『あの人は今』をお送りいたします。
■カムナ3019年 4月1日 日曜
◎ユウナ
何か長い夢を見ているようだった。
誰かに何か大切なことを告げられたような気がするのだが、全く思い出せない。
そうこうするうちに急激に意識が覚醒していく。
まるで肉体という容れものに、私の魂が注ぎ込まれていくかのような感覚を覚える。
その直後、今すぐ目覚めなければという思いに駆りたてられ、私はゆっくりと目を開ける。
目の前に飛び込んできたのはとても高い天井。
精緻を凝らして造り上げられた荘厳かつ神聖な、最高峰の建築技術の結晶である。
ここは良く知っている場所。
カムナ聖都にあるカムナ教会の中央大寺院の回帰の間だ。
わたしはどうやらその回帰の間に横になっている状態で、たった今目覚めたようである。
となればわたしが寝かせられているのは回帰の祭壇に違いない。
それはつまり、、、
わたしが死んだということを意味している。
この部屋には何度も来たことがあったが、自分自身が回帰の法の恩恵にあずかるのは初めての経験だった。
そうか、これが回帰なのか、と今さらながらにしみじみと思う。
だけどそんな呑気なことを考えていられたのはそこまでだった。
意識がはっきりして記憶が蘇ってくるにつれ、絶望的な気持ちがこみ上げてくる。
わたしたちはエンシェントドラゴンに敗けて全滅したのだ。
そしてそれはハルトが聖勇者に選ばれる可能性が限りなく厳しくなったということである。
勇者候補者にとって一度全滅することは、とてつもなく大きな減点要因になるからだ。
ただでさえわたしたちは第1勇者、ユウヤ様のパーティーに大きな差をつけられているというのに。
「ユウナ、目が覚めたか?」
わたしの思考を遮って声をかけてきたのはレンだった。
「えぇ、気分は良くはありませんが」
もちろん肉体的な問題ではなく、全滅してしまったという精神的な痛みによるものだ。
とりあえず寝起きに下級回復魔法を発動しておく。
キラキラとした光の粒子に包まれて、少しだけ気分がすっきりしたようだ。
もちろん回帰したばかりの肉体にはどこも治すべきところないので、回復魔法はただの気休めにしかならない。
だがそれでもこうやっていつものように回復魔法を使うと、精神的に落ち着くような気がする。
なぜなら回復魔法の効果範囲にあるものが、本来あるべき秩序だった姿に戻ったような気分になるから。
この全てがおかしくなった世界には、治すべきものがあまりにも多すぎるのだ。
わたしが回復魔法に頼るくらい気分が落ち込んでいることを気にしたのか、レンが慰めの言葉をかけてくる。
「なぁ、ユウナ。俺はほとんど役に立てなくてすまねぇな。ユウナが回帰するまでかなり時間があったから、あの後ユウナたちは相当頑張ったんだろ?」
「役に立てなかったのは私も同じです。王国で10本の指に入る魔術師と言われながらこのザマです。ユウナとハルトの足元にも及びませんでした」
レンに続けてカイトも、同じように謝罪を口にする。
だがカイトの悔恨の思いはレンとは比べものにならない。
一番大事な場面でわたしの役に立てなかったことが堪らなく悔しいのだろう。
もちろんその気持ちをレンに悟られるような隙は見せていない。
だけど長年カイトとともに過ごしてきたわたしには分かる。
このときのためにずっと仕えてきたのに、こんな結果になってしまったという無念の思いがにじみ出ているのだ。
カイトの瞳はいたたまれないほどの謝罪の気持ちを強烈に訴えかけていた。
「いえ、あれほどの相手がいるとは完全に予想外でした。何の準備もなく、あんな状況で、あれ以上のことはできなかったはずです。誰のせいでもありません」
「そうか、、、で、そうだ、ユウナ。ハルトは?もしかしてハルトがやってくれたなんて事はないのか?」
カイトへ気にするなと声をかけるが、それに応えたのはレンだった。
レンの言葉を受けて最後の記憶を思い起こす。
ハルトの背中に両手を当てて、ハルトにありったけのマナと信頼を伝えて。
そしてハルトは神級魔法の光槍を手にエンシェントドラゴンのブレスに向けて駆け出していった。
天恵のポーションを浴びながら。
そうしてハルトの全身が神々しい光に包まれ、いやそれどころかハルト自身が光の化身と化した。
そのハルトは凶悪なドラゴンブレスをものともせずに突き破っていき、エンシェントドラゴンの胸に光槍を突き立てようとして、、、
それを見届ける間もなく、わたしはドラゴンブレスの余波に飲み込まれたのだ。
「分かりません。可能性はあると思うのですが、、、」
レンに答えながらも考える。
もしハルトがエンシェントドラゴンを倒したのなら、今ハルトはあの伝説のダンジョンに1人きりで残されているはずだ。
いや、正確には1日前からずっと1人で待ちぼうけていることになる。
回帰の法が発動して回帰するのに、きっかり丸一日が必要だからだ。
回帰の法は加護を受けた者が死んでからちょうど12コク(24時間)をかけて回帰の準備を行う。
そして準備が整うとこの回帰の祭壇へ肉体を再構築し、保護していた魂を戻すのだ。
つまり、レン、カイト、わたしと死んだ順に、死んだときと同じ時間差で、ここで回帰することになる。
だとしたら1日前からあそこで待っているハルトは、わたしたちの回帰を待って遷話を使って連絡をくれるはずだ。
だけどもしハルトがエンシェントドラゴンに敗けたのだとしたら、間もなくここに回帰してくる。
わたしとハルトが死んだ時間には、ほとんど差がないはずだからだ。
それなのにハルトが回帰しない理由があるとしたら、ハルトが死んでいないからか、あるいはまだわたしが回帰の祭壇の上にいるから。
前に回帰した者が祭壇から降りない限り、次の者の回帰は起きないのだ。
つまりわたしがここを降りた次の瞬間にハルトが回帰してくるかどうかで、ハルトの勝敗が、わたしたちの運命が判明する。
そう思うとこの祭壇から降りるのが堪らなく恐ろしくなる。
いや、弱気になっている場合じゃない。
大丈夫、ハルトを信じましょう。
だってハルトが敗ける訳が無いんだから。
何故ならハルトの未来は、、、
その運命は、、、
そこまで考えて思考を切り替える。
予想外の事態で回帰することになってしまったが、カムナ聖都に立ち寄ることができたのは不幸中の幸いだった。
ここからだとカムクラ王都もすぐそこなので、王城にこっそり顔を出すこともできるかもしれない。
ハルトとレンに隠れてこっそりと定時報告を受けているとはいえ、自分の目で確認しないといけないこともたくさんあるのだ。
わたしが留守にしているうちにクナイ派や大僧正派の連中が何か良からぬことを企んでいるとも限らない。
母上や叔父上、そして聖下の様子も気になる。
さらには伝説のダンジョンや天恵のポーションなど今回発見した新事実について、戦略部のみなに話して分析してもらいたい。
できることなら天恵のポーションについて、カムクラ王国やカムナ教会の極秘資料に目を通して自分で調べてみたいくらいだ。
だがさすがにそこまで時間が取れないので、側近に閲覧許可を与えて調査を指示するしかないだろう。
それに何より途中で目にした古代遺跡の階層。
あれは間違いなく先史文明のものだった。
父さまや兄さまがずっと探し求めて、だけどついに見つけられなかった失われた遺産。
あそこにはその先史文明の資料が残っているかもしれない。
今回はハルトとレンの目もあったしダンジョン攻略を急いでいたので、何も調べることができなかった。
だけどもしあの遺跡に先史文明の情報があれば、いろいろなことが判明するかもしれない。
失われた先史文明の技術とは何なのか?
どうやって千年魔王は生まれたのか?
なぜ魔王は人類と先史文明を消し去ろうとするのか?
そして、、、
何故この世界には先史文明の情報が、全くといってもいいほど残されていないのか?
決して魔王だけのものではない、もっと大きな力が働いている気がする。
わたしは生まれ育ったクミヤマ村が魔物の襲撃で滅んだ後も、父さまたちの意志を受け継いでいろいろと調査を続けてきた。
その結果、驚くべきことが判明したのだ。
父さまのように先史文明を研究していた者の多くが、その途中で亡くなっているということに。
ただの偶然かもしれないが、それでも何か裏があるような気がしてならない。
わたしの村が襲われたのは、突発的な魔物の大量発生が原因だとされている。
だけどあの悲劇は本当は何者かが意図的に引き起こしたものではないのか?
もしそうだとしたら、、、
絶対に真実を究明してみせる。
それがわたしの決意。
あの遺跡についても調査指令を出したいところだが、先史文明については側近以外には伏せておいた方がいいかもしれない。
とにかく、もしハルトがまだ伝説のダンジョンにいるのなら、合流するまでに時間がかかる。
少しくらいならレンの目を盗んで別行動し、王城や本家にも顔を出すこともできるはずだ。
そうと決まれば無駄にしている時間はない。
わたしはハルトが回帰してこないことを確かめるために、回帰の祭壇を降りるのだった。
第1章 『弱くてニューゲームとかリアルでやったら死ねるから』 完
これにて第1章は終了です。
ついに地獄のダンジョンを抜け出したハルトは、状態異常を治しユウナたちと無事に合流できるのか?
久々に登場したメインヒロイン?のユウナは次章こそちゃんと本編に登場できるのか?
ユウナとカイトのただれた関係とは?
そしてヒロインっぽく登場したリリナの出番はあるのか?
次章からは復活したハルトの俺TUEEE無双が始まるっ!といいよねー
次回 第2章 『バグってデータ消えましたって、詫び石よこせよクソ運営』




