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リポップワールド ~ゲーム世界のバグは勇者を殺す~  作者: 佐倉コージ
第1章 弱くてニューゲームとかリアルでやったら死ねるから
21/166

1.14.20 迷宮の罠

 終わった。

 超級終わった。


 100匹近くの災厄級魔物が溢れかえるこの奈落に閉じ込められたのだ。

 もし見つかったら死ぬ。

 いや、見つからなくてもこの場の凶悪で濃いマナに晒され続ければ、すぐに体力の限界を迎えるだろう。

 そもそも出口のないこの場所に閉じ込められた以上、完全に詰んでいるのだ。


 いや、本当に出口はないのか?

 確かに俺が入ってきた出口は潰された。

 だが他にも出口が無いと決まったわけではない。

 そう考えると気持ちが落ち着いてきた。

 冷静さを取り戻した俺は、奈落の内部の様子をマナを頼りに探索することにした。


 そもそも奈落の底には大通路への入り口と出口が間違いなくあるはずだ。

 この奈落は最下層の前半と後半を繋ぐ大通路の途中に位置しているのだから。

 抜け道を通らずに最下層の大通路を真っ直ぐ進むと奈落にはまり込むということは、大通路への出口があるということだ。


 ただしその出口があるのはこの奈落の底、100匹近い災厄級魔物がひしめしている場所である。

 普通ならマナの反応を探知すれば地形を把握することができるのだが、奈落の底の方は凶悪な魔物の群れが発するマナに覆い隠されて、出口があるかどうか探ることなどできない。

 もっとも本当に出口があったとしても、あの魔物の群れの中を気付かれずにくぐり抜けて、出口に辿り着くことなど不可能だ。


 それにしても出口があるにも関わらず魔物たちが何故か外に出て行かないあたり、この奈落は謎だらけだ。

 だいたい多種多様な魔物が殺し合いもせずにここに密集していること自体がおかしいのだが。


 ともかく奈落の底の出口がダメなので、まずは壁のどこかに出口が開いていないかを探ってみることにした。

 この奈落の部屋は歪な四角形のような形となっており、その周りはほぼ垂直に切り立った壁で囲まれている。

 その壁のどこにも、外に通じているような穴は見当たらない。

 そしてその壁はここから30ジョウ(90m)ほど上方で天井にふさがれていた。

 

 だが俺のマナの知覚には、出口ではないようではあるものの、気になる場所が浮かび上がっていた。

 俺が今掴まっている壁は他の三方の壁と違って、天井から5ジョウほど下で途切れており、その先は平らな棚地のような横穴が広がっているみたいなのだ。

 マナの気配によると、その先の空間はそこそこの広さを持っている。

 外に繋がっているような感じはしないが、それでも魔物の気配はないし、何より平らで地面のある場所だ。

 いつまでも壁に掴まっていても、いつかは体力が尽きて落ちてしまう。

 それにあたりはまっ暗闇でマナを隠蔽しているとはいえ、下からまる見えのこの位置ではいつ魔物に見つかってもおかしくない。

 たとえ出口ではないとしても、ここに留まっているよりはその棚地を目指すのが最善だろう。


 とはいえここからその場所までは、垂直の壁を登ること25ジョウほど。

 先ほどの爆風でもかなりのダメージを受けている。

 何より壁の岩に掴まっている体力がもう限界に近い。

 このままではとてもこの高さを登って辿りつけそうにはない。

 だが、、、


 俺は魔法袋から下級回復薬の緑ポーションを取り出して飲み下す。

 爆風のダメージも、体力の消耗も、極度の疲労も、睡眠不足も、空腹も、のどの渇きも、全てが瞬く間に回復する。

 低下した今の俺のステータスなら、下級回復薬1本でほぼ全快することが可能なのだ。

 残るポーションは中級2本と下級5本。

 この先を思うと非常に心細いが、それでも今使わなければこの場で命を落とすことになっただろうから、使う以外の選択肢はなかった。


 回復した体力が残っているうちに、25ジョウほどの垂直な崖登りを開始する。

 今の俺のステータスは自分の体重を支えるだけでも困難が伴う。

 垂直の壁を登るなど気が遠くなるような難題だ。

 しかもあたりは完全な暗闇で、マナの探知頼りでは大まかな地形はわかっても、岩の掴まり具合などは実際に触ってみないと判断できない。

 先を考えると挫けそうになるが、それでも1歩、目の前の1歩だけに気持ちを集中して無心で登り続ける。

 腕の力ばかりを使うとすぐに体力を使い切ってしまうので、できるだけ足の力を使い、細心の注意を払って三点支持を意識しながら体を持ち上げていく。


 先のことは考えない。

 1歩。

 また1歩。

 一心不乱に崖登りを続ける。

 下の魔物に気付かれないように、静かに、慎重に。

 そんな気の抜けない崖登りは通常以上に体力を奪う。

 もうどれくらい登って来ただろう?

 さすがに体力の限界が近づいてくる。

 もう1本ポーションを使うか?

 いや、もう少し頑張れる。

 あと1歩。

 これが限界か?

 だがもう1歩。

 さすがにもう無理か。

 2本目のポーションを使うしかないか?


 ふと、これでどのくらい登って来れたのか気になった俺は、上空のマナを探知して地形を探る。

 脳裏に浮かび上がったのは、まだ20ジョウ近くも残っている絶望的な壁。

 思わず気が遠くなってしまう。

 先の道のりの長さに目眩がしたせいか、一瞬体の力が抜け、転落しそうになる。

 ここまで目の前だけに集中して登って来たのに、先に目を向けたのは失敗だった。

 慌てて崖に掴まり直すが、急に変な力を込めたせいで、右腕が痙攣を始めた。

 それと同時に体力が限界を超える。


 特級やばい。

 このままだと転落する。

 命綱は両足と左腕のみ。

 痙攣する右手を必死で動かして、魔法袋のポーションを探る。

 焦りから作業が上手くできない。

 右手がほとんど言うことを聞かない。

 それでもなんとかポーションを掴むと、最後は半ば魔法袋に口を突っ込むようにしてポーションの瓶をくわえ、口で栓を抜いてそのままポーションを飲み下す。


 急速に回復していく体力。

 特級助かった。

 深呼吸をして、早鐘を打っている鼓動を落ち着ける。

 危なかった。

 ポーションを温存して転落なんてしたら本末転倒だ。

 この先を考えればここで全てのポーションを使いきるのは避けたいが、まずは上の棚地に辿り着かないことには先そのものがないのだ。

 気を取り直して再び崖登りを始める。

 とにかく今は無心でひたすら上に進もう。


 1歩。

 また1歩。

 今度はもう、上も下も気にしない。

 ただ目の前の1歩だけに集中する。

 体力がまたしても尽きてくる。

 今度は限界まで無理をしたりしない。

 わずかに体力を残して3本目のポーションに手を伸ばす。

 本当に全てのポーションを使いきってしまうかもしれない。




 登る。

 さらに登る。

 どれだけ登り続けていたのだったか?

 時間の感覚が無くなってきた。

 1歩。

 また1歩。

 またしても体力の限界。

 そろそろ頃合いか?

 これで何本目だっけ。

 ポーションを口にしながらそんなことを考える。




 登る。

 もうどのくらい登っているのか定かではない。

 1歩。

 もう1歩。

 かなり登りにも慣れてきた。

 だが、またしても体力が限界を迎えそうだ。

 そろそろポーションを飲む頃合いか。

 いや、あともうちょっと粘れるか?

 1歩。

 まだ行けるか?

 もう1歩。

 そろそろ余裕がなくなって来るか?

 それでもさらにもう1歩、、、がない。

 伸ばした右手が空を掴む。

 ふと見上げると、いつの間にか垂直の壁の終点に辿り着いていた。

 なんとか最後の力を振り絞って、壁の上に体を持ち上げる。


 そこは平地ではなく、かなりの傾斜の上り坂になっていた。

 とはいえ転がり落ちる程の急斜面ではない。

 横になって休憩しても問題なく安定するくらいの傾きだった。

 そこに大の字になって倒れこみ、ひさびさの休憩を満喫する。

 油断してマナの隠蔽を解けば見つかってしまうかもしれないので、完全に気を抜くことなどできない。

 だがそれでも束の間の休息は疲れきった心と体には蜜のように甘美なものであった。


 十分に休憩をとって体力の回復を済ませると、棚地の探索を始める。

 といっても、実は休憩しながらもマナによる地形の探知は続けており、既に俺は気になる箇所を2つ見つけていたのだ。

 まずはその1つ目の場所に向かう。


 それはこの棚地の斜面を左右に分かつように、ちょうど棚地の中央を上から下まで一直線に走っている1ジョウ(3m)ほどの幅の半円形の溝だった。

 この溝はいったいなんだろう?

 しゃがみ込んで溝の壁に手を触れてみると、その表面はつるつるに磨き上げられた平面となっていた。

 登ってきた壁面や足下の斜面のようなごつごつとした岩と異なり、どう考えても自然の地形ではない。

 ほとんど手がかりが無く良く滑りそうで、周りの斜面と違ってこの溝を登ることは不可能だろう。

 何者かが岩を加工して滑りやすくしているようにしか思えない。

 だが、いったい誰が何のために?

 考えても理由が思い当たらない。


 しいて言うなら、溝の向こう側。

 溝はかなり広く、とても向こうに飛び渡ることなどできそうにない。

 この棚地を左右に分離して、行き来を制限したい何らかの事情があるのだろうか。

 とはいえここいらの魔物やハクでステータスを強化した人間なら、この程度の溝など簡単に飛び越えることができる。

 まあ、考えていても答えは出そうに無い。

 溝のことは置いといて、もう1つの場所を調べてみよう。


 それは溝を上に辿った先にある場所である。

 この棚地の斜面は7ジョウほど続いて天井に突き当たっており、どこにも外に繋がる出口は見つからなかった。

 だが斜面と天井がぶつかる突き当たりの場所の一部分、ちょうど溝の終点の真上にある天井の一箇所のみが、他とはマナの感触が違っていたのだ。

 それもただ単に材質が異なるだけではなく、魔法的な何かの仕掛けがあるように感じられる。

 実際にその場所の手前に立ち、溝の淵ぎりぎりから手を伸ばして様子を探ると、そこだけがつるつるとしていた。

 天井の他の部分はゴツゴツとした岩肌なので、その一部分だけが溝と同じように平らに加工されているのだ。

 その天井にある平らな手触りの部分は、1ジョウ四方ほどの四角い形をしており、周囲の岩のとの間にはわずかな隙間があいていた。

 それはまるで扉のような形状。

 ここが奈落の出口に違いない。


 だが力いっぱい押してもびくともしない。

 引こうとしてみたり、ずらそうとしたり、果ては何かの仕掛けがないかあたりをくまなく探してみたものの、どうやってもその扉を開けることはできなかった。

 あと何か、この扉を開ける方法があるとすれば、、、

 マナを通して扉を深く探ってみると、扉の内部に複雑な魔法回路が組み込まれていることが感じられた。

 何らかの魔法的な仕掛けが施されているのは間違いないようだ。

 だが今の魔法を使えなくなった俺では、この扉を開くことなど不可能である。

 わずかな期待を込めて、下の魔物に察知される危険を冒してまで、俺の持つわずかな無属性のマナを扉の魔法回路に流し込んでみたものの、仕掛けが動作する気配はなかった。


 そうやってあれこれ試すこと、半コク(1時間)ほど。

 開く気配のない扉に脱出の望みを打ち砕かれた俺は、いつの間にかその場に座り込んでいた。

 そして急激に襲い掛かってきた疲労に意識を刈取られ、気がつけば深い、そして久方ぶりの眠りに落ちていた。




ーーーーー




 急激に響き渡る轟音と、どこかから聞こえてきた悲鳴に飛び起きる。

 気付けば奈落の底の魔物の群れが色めき立っている。

 気付かれたのかと思い、背筋が凍りつくかのような焦りに襲われるが、冷静に観察するとそうではないようだ。

 魔物の群れは底から動くことなく、何かが起きるのを待っているように感じられる。


 すると再び響き渡った轟音とともに、天井の扉が奥の一辺を中心にぱかっと下に開き、何らかの物体が上から落ちてきた。

 それと同時にあたりが炎の明るい光で照らされる。


「落ちるーっ!」

「いやーっ!」

「助けてーっ!」


 そして時を同じくして、いくつかの悲鳴が火球の魔法の明かりとともに通り過ぎていく。

 まさか、人間?

 冒険者パーティーなのか?


 彼らはそのまま溝に落ちると、そのままつるつるの溝をものすごい速度で滑り落ちていき、斜面を飛び出して奈落の底へと消えていった。


 そうか!

 これはトラップだったのか!

 この溝はトラップにかかった冒険者を奈落に落とすためのもののようだ。

 ん?

 トラップだって?

 そのとき俺の脳裏に閃きが走った。

 カムロ大迷宮のトラップと聞いて真っ先に思い浮かぶものがある。

 その予想が正しければ、もしかしたら!


 そうこうするうちに、下から恐ろしい戦闘の音が聞こえてきた。

 どうやら冒険者パーティーは奈落の底に着地し、そのまま魔物の群れとの戦闘に突入したようだ。

 あの高さから落下して無事に着地できるとなれば、高級あたりの優秀な冒険者パーティーなのだろう。

 だが、、、

 奈落の底から断末魔の絶叫が聞こえてくる。

 一つ、また一つ。

 その度に冒険者たちのマナが一つずつ消えていく。

 彼らも決して弱くはないのだが、あまりにも相手が悪すぎる。

 可哀想だが、今の俺には彼らにしてやれることなど何も無い。


 それに彼らがマナの気配通りに高級の冒険者であるならば、回帰の法により復活できるのだから心配する必要などない。

 それどころか逆に危険なのは俺の方である。

 何体かの魔物がこちらに向かって来ている気配が感じられるのだ。

 トラップにかかったものの、下に落ちずにこの辺りにとどまっている獲物がいないか探すつもりなのだろう。

 慌てて逃げ場を探す俺の耳に再び轟音が飛び込んでくる。


 上を見上げると、先ほど開いた扉が元に戻るように上に持ち上がって、閉じ始めるところだった。

 扉の上の方には何かの明かりがあるのか、青緑色の光が射し込んでいたのだが、扉が閉まるにつれあたりが徐々に暗くなっていく。

 まずい、早くここから逃げないと!

 それに先ほどの閃きが正しかったとしたら。

 俺は反射的に駆け出し飛び込んでいた。

 上がっていく扉に飛びつき、その上の様子を探ると、扉の上部は別の部屋になっているようだ。

 急いで部屋の床に手をかけると、懸命に体を引き上げる。

 閉まりそうな扉に挟まれかけた下半身を寸前で引き込み、扉の内部に全身を滑り込ませる。


 そうして飛び込んだ扉の上部にあったのは無機質な黒い石材で囲まれた広い部屋。

 その石材の壁のかなり上方にいくつか設けられている魔法照明装置には青緑色の明かりがゆらゆらと灯っており、部屋を薄明かるく照らしている。

 そこは先ほどの閃きの通り、俺が期待していた通りの見覚えのある場所だった。




 カムロ大迷宮には19の階層がある。

 先ほどまでいた奈落があった最下層は19層。

 そして俺が目指すのは9層のフロアマスターの部屋の前にあるセーフティーゾーン。

 そこに辿り着くまでには、19層から10層までの10の階層を抜ける必要がある。

 そしてそれらの各階層の間にはフロアマスターの部屋があり、フロアマスターが立ちはだかっている。

 18層から9層までの10箇所のフロアマスターの部屋と、9匹のフロアマスターが。

 そう、部屋の数は10部屋なのに、フロアマスターは9匹しかいない。

 なぜならば、12層にはフロアマスターがいないからだ。


 だからといって、12層のフロアマスターの部屋の難易度が低いわけではない。

 それどころか、12層の犠牲者は他の階層と比べて多いくらいなのだ。

 なぜならば12層のフロアマスターの部屋は有名なトラップの部屋となっており、中には凶悪なトラップがこれでもかというくらいに仕掛けられているからだ。


 雷撃や火炎などの属性魔法攻撃のトラップ。

 体の自由を奪う封印系のトラップ。

 マナを吸いとるものや、毒、状態異常系のトラップ


 中でも最も厄介なのは、落ちて生還したものがいないと言われている落とし穴の存在だろう。

 その落とし穴の先に何があるかは知られてはいないが、魔物の群れが待ち受けているだの、ミカグラ大火山の溶岩に直行だの、様々な説がまことしやかに噂されていた。

 中には最下層にある奈落に叩き落とされるんだという話もあるのだが、今の俺はその説が正解だったということを確信していた。


 なぜならばそう、そこは12層のフロアマスターの部屋だったからだ。


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 やったね、ハルト。

 脱出までもう一息。


 次回 第21話 『浮上』


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