僕と天音が付き合うまで その4 (リンに、ルナに会いたいよ)
父と長いこと二人きりの生活だった。忙しい父の為にほとんどの家事は僕がやるようになっていた……
特に料理は得意だと新しい母さんに伝えると、何故か凄く嬉しがってくれた。
母さんは父さんと同じ会社、部署は違えど忙しさは同じ、やはりなかなか早くは帰れない。一緒に住むので家から会社迄遠くなってしまった為に揃って遅くなるようになった。
あんな事がなければ妹と二人、当番制でご飯を作ったり、一緒に作って仲良く食べたりしたんだろうか?
最初はなるべく父も母も一緒に食べようとしてくれていた、でも最近はもっぱら独りご飯……まあ気楽で良いけどね、妹が一緒だとメシマズ状態だしね……
僕は冷蔵庫にあるおかずを出しレンジで温め、その隙に肉と野菜を手早く切り、さっと炒める
「はい出来上がり~~いただきま~~す」
野菜炒めは火力だな~~もっと火力が欲しい、でもウマウマ。
「あいつはご飯食べてるのかな?」
凄く痩せている、そして部屋から全然出ない……学校から帰って部屋に籠りきり……
まあ僕も人の事言えないけどね~
「それにしても、こんな生活いつまでも続けられないよな……」
二人きりの時間が増えるほど居心地が悪くなってくる……、兄として年上として改善しなくちゃいけないのかも……
僕はそんな事を考えつつ手早くご飯を食べ洗い物を済ます……
そして部屋に戻りPCを見つめる……いつもはこの後またネトゲをするんだけど、リンはまた明日って言ってたな……今日はもう来ないのかな? 最近夜中まで話す事がなくなってきた気がする……去年の僕と一緒……
「ひょっとしてリンって……受験生?」
僕は推薦だったけど成績は落とせないから、去年は夏休み前の今頃、夜中のログインは少し控えた……リンも最近は夜中迄は一緒に居なくなった……つまり……
「そうか! リンって高3か!」
大学受験か……、リンって頭良さそうだし良いところ狙ってるのかも……
ああ、でも……つまり頭が良くて、聡明で、明るくて……
「うう絶対にモテるよな……大学に行ったらサークルとか入ってネトゲから離れゃうんじゃ……それどころか、チャラいサークルとかに入って、新歓コンパでチャラい先輩にお持ち帰りとかされて…………やだああああああああ、リン~~~~~~~行っちゃダメだ~~~」
「いや、ひょっとして……今も居るんじゃ、彼氏と一緒に僕を見て笑って「こいつ、いつも私にべったりなんですけど、超うけるんですけど」とか言って……彼氏が「童貞野郎をからかうなよ」って隣で言ってたり、うう……どうせ童貞ですよ……」
「いや、リンに限ってそんなわけない! 僕の理想の人なんだから……多分おしとやかなお嬢様で、しっかりしているから年上のお姉さまみたいな人だよ、うん、チャットからも気品が溢れているって言うか」
「芦屋か成城か、成城が良いな~~芦屋は遠いからな~~でも来てなんて言われたらすぐに行っちゃうけどね、世界中どこへでも行っちゃう」
「リンに会いたい、リンに会いたい、リンに会いたいよ~~~どこに居るの……僕のリン~~~~」
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「最低最低最低~~~」
部屋に戻り持っていた着替えを床に落とす、白い下着が散乱するのを見つめる……
「キモいキモいキモい、私の着た下着見つめるとかキモいいいいいい」
「あんな顔して、やっぱりあいつも男なんだ、少し気が緩んでた……怖い、洗濯物とか盗まれてないよね」
ストーカーの事を思い出す、私の洗濯物を外から眺めていたあいつの事を……
「男なんてそんな奴ばっかり、どうせ告白とかも身体目当てなんでしょ……」
中学1年の時、ストーカーにあった、まだ目がそれほど悪くなかった私、学校でもそこそこモテていた……
ただ言い寄って来る人って、私の胸と顔ばかり見ている、中学1年にしてはそこそこあった胸、体型も今よりぽっちゃりしていて、ちょうどいい感じ……
私に告白してくる人はみんな録に喋った事もない、他の学校の人まで……それで私の事を何で好きになるの?
無下に断っていた。その一人がストーカーになった……
怖くなった私は不登校になり、拒食症を併発、そのまま転校した……
それからは最悪、ガリガリに痩せて胸は小さくなり、家から出れなくなってネトゲにはまり、目はものすごく悪くなった。転校先ではなるべく目立たない様に心がけた、そして未だに男性恐怖症は治っていない……
精神的にも肉体的にも最悪な状態だった……私が生きてこられたのはルナのお陰……ルナが居なかったら私ひょっとして…………
ルナと喋る様に少しずつ女の子と喋られる様になった。でも未だに男の子とは喋られない、拒絶の言葉を言ってしまう、兄に対してもそうだった。
お母さんは兄の事を信頼している。私に、あの子なら大丈夫よって言ってくれた……でも怖い、容姿は女の子みたいだけど兄は男、ストーカーと一緒……
「ルナ……ルナ~~」
涙が出て来る、ルナだけは私の心を見てくれている。容姿ではなくて私自身を……ルナなら男の子でも平気、ルナなら多分大丈夫、多分……
でもネトゲで会おうって言ってはいけない、好きという言葉も一緒……
そしてもし……ルナに拒絶されたら……
ルナとの会話が唯一の楽しみ、毎日ルナと喋られる幸せ。
それを無くすなんて出来ない、私から告白なんて無理……
「ルナ、ルナ、ルナ」
パソコンを見つめる……今ログインしたらルナが居るかも……でもさっき慌ててまた明日って言っちゃった……、これでログインしたら私がルナのストーカーみたいに思われるかも……
「ルナって学生って言ってたよね、そして去年今頃あまり夜ログインしなかった、早めに落ちてた」
「ルナってひょっとして……」
頼りがいがあり、包み込んでくれる優しさを持っている。
「ルナってひょっとして大学生?」
私が中3って知ったら引くんじゃ、子供って、今時中学生となんて危険って思われるかも……嫌だ、嫌!
「それどころか、ひょっとしてルナ、もうチャラいサークルとかに入って、新歓コンパで同じ新入生や色っぽい先輩と気があって、そのまま…………いやああああああルナああああああ行っちゃだめええええええ」
「それどころか、もう彼女が隣にいて、「こいつ俺に付きまとってさ、自分がストーカーって分かってないんじゃね? 超受けるんですけど」とか言って…………彼女が「処女からかってないで私と……ね」、とか言って……どうせ処女ですよ!」
「いや、そんなわけない、ルナに限ってそんな事しない! 優しくて、格好良くて、頼りがいがあって、ルナってお坊っちゃまなのかも、言葉にスマートさがあるのよね、今日も指輪を用意するとか格好いい……」
「箕面か田園調布か、田園調布が良いな~近いし、でもルナが来てって言ったら何処にでも言っちゃうかも……世界の果てでも宇宙にでも……」
「ルナ、ルナ、ルナに会いたい、ルナに…………会いたいよ……」




