.9 神樹の中庭
コニアは中庭の世話係を賜った晩、眠ることができなかった。
彼女が幾度となく思いを馳せた中庭。そこに立派にそびえ立っているであろう“神樹”を、いよいよ目にすることができるのだ。
期待に胸を膨らませ興奮で寝付けないなど、彼女にとっては産まれて初めての事であった。
朝が待ち遠しく、眠れば朝は早く訪れるというのに、眠気は追いかければ追いかけるほど、跳ねるウサギのように逃げて行く。
娘は寝床の中で焦れて、繰り返し寝返りを打つ。寝返りもまたウサギを驚かせる一因となってしまい、ウサギはすっかり視界から去って行った。
コニアには、幼いころより憧れがあった。荒廃した土地で暮らす生き物たちにとって、豊かな自然というものは貴重だ。
生物は皆、いのちを繋ぐためには進んでその恩恵を受けに行かねばならない。
虫が蜜に集まるのにも、良い場所を巡って諍いを起こす。それはしばしば、いのちの危険にも繋がる。
争いのある環境に身を置くには、彼女の“群れ”はあまりにも力が弱かった。
危険を冒してまで豊かな資源に近寄るよりも、他のものを寄せ付けない貧しさの中に安全を見出していたのだった。
そんな“群れ”で生まれ育ったコニアは、豊かさに対して「危険」や「禁忌」を感じるようになっていた。
だが、身を守るための擦り込みであったはずのそれは、子供の好奇心によって娘の心を惹きつけ、虫たちとは別の形で彼女にとっての甘美な蜜となっていたのだ。
――“神樹”はいったい、どんな色の葉を付けているのだろう? 一体、どんな花が? どんな実が?
その実はどんな味が? 大きな木だから、沢山実るのだろう。もしかしたら、その実だけでもずっと暮らしてゆけるほどかもしれない。
幹はどのくらい太いのだろうか? 抱き着いても腕が回らないくらいに太いだろう。木には何か生き物が住んで?
きっと鳥や虫が沢山居て、彼らの為の町のようになっているに違いない。中庭には“神樹”だけではないかもしれない。
もっといろいろな植物があるのだ。きっと視界に映るぶんだけでも、故郷にあった草木全部を合わせたよりも、たくさんの緑が……。
コニアの夢想は続く。
今までで一番長い夜が明けてもなお、彼女は眠りに就けていなかった。
本来ならば、窓の隙間から差し込む光が朝を知らせたのであろうが、打ち付けられた戸板によって、それは妨げられている。
彼女は朝食を運ぶ兵士が扉を叩くまで、朝が来たのに気づかない生活を送っていた。
いつもならば、あの喧しい教育長の話を聞くために部屋から出なければならなかったので、朝食はともかく、兵士が扉を叩く瞬間はなるべく遅く来て欲しいと願うところだ。
惰眠を貪っているほうが良かった。
だが今日に限っては、兵士が呼びに来るのが待ち遠しかった。
寝床でじっと息を潜め、部屋の外まで感覚を広げ、部屋を訪れる彼の足音が聞こえてくるのを、今か今かと焦がれた。
そして、ようやく、やっとの待望のときが訪れた。
「おい、起きてるか? 朝だぞー」
聞きなれた軽い調子の声が、扉の外から聞こえた。
彼女の世話係だった兵士ヤンキスは、日を追うごとに馴れ馴れしくなっていた。
今ではもう、祭司長や教育長の前以外では、彼が畏まった態度を取ることは無い。友人か、それよりももっと馴れ馴れしかったかもしれない。
コニアのほうはあまり積極的に話すことはしなかったが、ヤンキスは彼女の事を尋ねたり、自分に起こった出来事を話したがった。
正直なところ彼女にとっては面倒なだけであったが。まあ、話したがったのは別に彼に限ったことではなく、他の兵士もそうであった。
城内に詰めている兵士は、立って見張るか、誰かに呼ばれ用事を言いつけられるのを待つのが仕事の大半であったからだ。
「よう、おはよう」
扉を開けるとヤンキスが立っている。いつも通りの、眠たそうな顔。今日は朝食は持って来ていないようだった。
「おはよ」
コニアも挨拶を返した。神経の昂りためか、自分でも驚くほどうわずった声が出てしまい、思わず言葉の尻を切ってしまった。頬が少し熱くなった。
「なんだ、今日はやけに明るいな。いつもはもっと素っ気ない感じなのに」
「今日から、モルティヌスの話を聞かないで済むのよ」
コニアは中庭に行けるのが嬉しいという言い回しを避けた。その楽しみは彼女だけの“秘密”の悦びにして起きたかったのだ。
「……らしいな。それは良かったよ。でも、もしかしたら俺と会うのも今日で最後になるかもな」
「どうして?」
「あ、いや。中庭には小屋があるんだよ。今日から、そっちで生活してもらうことになるからな。俺はもう、君を起こしに行かないのさ」
「ふうん」
中に小屋を建てられるほどの中庭。やはりとても広いのだろう。さらに中庭への期待が高まる。
朝になってからようやく、彼女の下に眠気が戻ってきていたが、それもまた、今のやりとりでどこかへ去って行った。
「寂しいか?」
にやつくヤンキス。
「別に」
「なんだよ連れねえなあ。親切に面倒見てやったのに」
「それも役目でしょう」
「ま、そうなんだけどね」
そう言うとヤンキスは、少し嬉しそうな寂しそうな顔をした。
今日はコニアの機嫌が良く、いつもの一方通行気味の会話とは、少し違った会話ができたからだろう。
そして、もしかしたらこれが、最初で、最後になってしまうかもしれなかったからだった。
ふたりは中庭に通じる扉のある廊下へと出た。扉の前には既にエスス祭司長が待っていた。
相変わらず目の下に隈を作っており、まるで一晩中寝ずにここで待っていたかのように見える。
「おはようございます、エスス祭司長」
兵士ヤンキスが挨拶をした。
「おはよう。さあ、“コニア祭司”。早速だが、中庭を案内しよう」
エスス祭司長は“にっこり”笑うと、扉のほうへ向き直った。扉には、木と鉄でできた頑丈な錠がはめられている。
祭司長が鍵を差し込み、ゆっくりと回した。ごとりと音がなり、錠が外れる。
そして、錠が外れて自由になったかんぬきを引き抜き、両手を使って、体重を掛けながら扉を押した。
扉は、木と鉄の震える大きな音を立てながら動き始めた。
なぜか兵士ヤンキスが鼻をつまんだ。新鮮な青臭いにおいが廊下に入ってくる。
薄暗かった廊下に光の筋が差し込み、宙に舞った埃をきらきらさせた。
光の筋は徐々に幅を広げ、真っ白に光る扉の向こうと廊下を一緒くたにした。
コニアは眩しさにまぶたを下ろしそうになった。
だが、初めて見る中庭の風景を必死に焼き付けようと、顔をしかめながらも、真っ白な向こう側から目を離さなかった。
次第に目は慣れ始め、彼女の黒い瞳の中いっぱいに、中庭の光景が広がった。
「綺麗……」
娘の唇から呟きが漏れた。
中庭の様子は、彼女が想像していたものよりも、遥かに素晴らしいものであった。
最初に目に飛び込んだのは、綺麗な緑の絨毯。短い草の広がる合間に、色とりどりの花が顔を出している。
空にはたくさんの木の枝が張り巡らされ、隙間から白い光がいくつも差し込んでいた。
地面の所々で低木が互いに身を寄せ合い、いくつもの茂みを作っている。
低木の葉は水をたっぷり含んで艶やかで、空から注がれる光を反射して星空のようだ。
地面のくぼんだ部分には、まだ青いドングリが溜まっていた。
中庭には小川までもあり、砂漠の娘を驚かせた。流れの出どころを目で追うと、城の壁に行きつく。
用水路を利用したものだろうか。建物の壁から流れる小川には、人の手が加わった様子があるものの、流れは次第に庭に溶け込み、さも自然の川のように収まっていた。
「どうだね。見事なものだろう!」
エスス祭司長が言った。
コニアは一瞬、その言葉を誰が放ったのかわからなかった。
祭司長の声には、いつもの“にっこり”でもなく、“祭司長としての自慢”でもなく、なんだか不思議な甘ったるさがあったからだった。
ところで、コニアはこの中庭において一番肝心なものをまだ見つけられていなかった。
中庭の主役。大楢の国の象徴。信仰の対象。“神樹”を。
「“これ”が、我々祭司の祀っている、大楢の神樹だよ」
エスス祭司長は中庭に入ると、こちらを振り返り、両手をまるで、中庭全てを抱きかかえるかのように広げた。
コニアは祭司長が“どれ”を指しているか分からず、あたりを見回した。
そして、すぐに自分の間抜けさと……感動を越えた感動に頬が熱くなったのを感じた。
エスス祭司長の真後ろに、茶色い大きな壁のようなものがあった。そう、それが“神樹”だったのだ。
あまりにも大きすぎて、かえって娘の視界から外れてしまっていたのだ。
楢の木は巨大だった。幹はまるで塔のように太く、所々苔むしたり、キノコが生えていたりしており、大地と一体化していた。
岩だと思っていたものはこれの根だった。
枝は方々に伸び、中庭の空の大半を覆っていた。それがまるで森の中に居るように錯覚させて、コニアに一本の木であることを気づかせなかったのだった。
枝のあいだを動くものがふたつある。小麦色をした小鳥だ。
彼らは枝々を飛び移って、互いを「チリリ」と呼び合ったり、羽のあいだに頭を突っ込んで繕ったりと、常に忙しなく動き回っていた。
「コニア祭司!」
コニアは急に近くで呼ばれ、身体を跳ねさせた。
中庭に見入ってしまい、エスス祭司長の事など、すっかり意識の外へとやってしまっていたのだった。
「何を呆けてらっしゃる? 中庭のあまりの美しさに? そうでしょう、そうでしょう。
あの小鳥が気になりますかな? ミソサザイですな! それともあの花の群れが?
赤いのも白いのもハナイチゲですな! 我が国の誇る花でございます!
ここでは年中すべての草木が花を付け、実をつけるのです。どれもこれも我らが“神樹”を引き立てる素晴らしい、いのち!」
エスス祭司長は呆けたコニアを叱らずに、ひとりでしゃべり納得した。
勝手にしゃべり続ける彼の姿は、コニアにあのやかましい教育長を思い出させた。
彼女は中庭よりも珍しい物を見た気がした。
出逢ったときのエスス祭司長が冬だとしたら、モルティヌス教育長が夏で、今のエスス祭司長は春といったところだろうか。
「今日から、あなたにはこの中庭の小屋で生活をしてもらいますからな。小屋に案内しますぞ」
エスス祭司長に連れられ、大きな幹を迂回する。
すると、木の板で作った小さな小屋が現れた。
小屋全部で金持ちの部屋ひとつくらいの小さなもので、大楢の幹と同様に苔むしていた。
小屋の中も質素で、寝床と、ロウソクを置くための小さな台があるだけだ。
窓には戸板もなく、そのまま中庭と繋がっている。庭から飛び込んだどんぐりや葉っぱが床に散らかっていた。
小屋はおんぼろと言っても差し支えの無い作りであったが、それがかえって自然に溶け込み、コニアの気に入った。
ここで暮らし、木の世話をする。
彼女にとってはまるで楽園に来たかのようなことであった。
「気に入って頂けたようですな」
祭司長は小屋の入り口からコニアの反応を見ることもなくそう言った。気に入ることが当然のように。
「それでは、私は仕事が山積みなので、この辺で失礼させていただきますぞ」
唐突に踵を返す祭司長。
コニアは困惑した。彼が彼女の気持ちを言い当てたからではない。神樹の世話とはいったい何をすればいいのか? ということに気が付いたからだ。
「あの……」
呼び止める娘。
「なんですかな?」
祭司長が振り返る。またあの“にっこり”だ。
「お、お世話って、どうすれば?」
「何も」
エスス祭司長は短く言った。
「何もって、何もしなくて?」
「そうです。世話係とは便宜上の役職。ここで一日の大半を過ごしてもらえば、それで良いのです。
“神樹”には水をやる必要も、雑草を抜く必要もありませんからな。
まあ、儀式みたいなものと思っていただければよい。
“神樹”と暮らし、慣れ親しんでいただければ、それで結構なのです。食事の時だけは、城内に戻ってきてくだされ。
ここにはどんぐりくらいしか食べるものがありませんからな。あなたはリスだというのなら、それでも構いませんが」
自分の冗談にひとりで笑うと、エスス祭司長は足早に去っていってしまった。
つまるところコニアは自由というわけなのだろうか。
退屈な城内とは違い、この素晴らしい中庭ならばいくらでも時間が潰せるだろう。
儀式みたいなものとやらが何を意味するのかさっぱり分からなかったが、娘は祭司長が姿を消してすぐに中庭を味わい始めた。
扉でずっとっ待たされていた兵士ヤンキスは、あくびを途中でやめてしまわなければなかった。
エスス祭司長が戻って来たのだった。
「お、お戻りになりましたか」
「うむ。さて、今日もしっかり国務に打ち込まねばな」
エスス祭司長は首の筋を伸ばし、腕を回した。発する言葉には陽気さを孕ませていた。
ヤンキスはぎょっとした。
祭司長は普段、こういう態度をとる人物ではない。
人々に接するときは確かに優し気ではあったが、どこか事務的で、あまり冗談も言わない。
目の下に隈を作ることはあっても、まるで手伝いから解放された子供のように体を伸ばしたりなどする人ではなかった。
きっとあの娘が余程のお気に入りなのだろう。――でも、だったらどうして、“神樹の世話”なんてやらせるんだ?
「あの、エスス祭司長。ひとつ質問が」
「なにかね、ヤンキス君」
「コニア祭司は大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫、とは?」
「ええと、そのう」
「“あの噂”の事かね」
「そうです」
あの噂。城内には、中庭についての悪い噂があった。中庭が立ち入り禁止になったのは、つい最近の事だ。
元々中庭は出入り自由で、城内に詰めていない国民も、許可を得れば立ち入ることができた。
だが、あるとき、中庭に居た人々が急に体の調子を悪くし、医者のもとに運ばれることになった。
頭が痛いだとか、気持ちが悪いだとかいったくらいで、大した症状ではない。翌日に中庭に来た者には、特に何も起こらなかった。
しかしまた別の日に、中庭に居たものが運ばれることになる。今度は最初のときよりも重篤で、高熱を出したり、繰り返し吐き下したりした。
何人かはそのまま弱って、いのちを落としてしまった。
原因は不明。中庭に近づいた者だけに症状がでたことから、急遽、中庭は立ち入り禁止となる。
祭司長は禁止にしなくても良いと言ったが、他の祭司や兵士が一斉に反対し、しぶしぶ了承された。
その後、「中庭を紫の霧が覆っているのを見た」とか、「木から黒い煙がでていた」とか、そう言った噂が囁かれ始める。
祭司会には国民から真偽を確認するための質問が相次いだが、それはあくまで噂で、そのような事実は確認されていないと回答された。
回答とは裏腹に、中庭に面した窓の全てには板が打ち付けられ、中庭からの空気を入れないような処置が施された。
……という次第だ。
「君も神樹が毒を出すなどという噂を信じとるのかね?」
「噂、というか。みんなもう、本当のことだと思ってしまっています」
ヤンキスは恐る恐る言った。そしてそれと同時に、余計なことを言ったと大いに後悔した。
祭司の長がご神木を毒と言われれば、気分を害するのは当然だ。
彼は昔から、どんなに忙しくとも、毎朝“神樹”の前に行き、幹に手を当てて、何か祈りのようなものを行っていた。
それは単純に、儀式的な意味合いの事だと思われていたし、祭司長がときおり、“神樹”から“神託”を受けて政治を決定することもあったから、そのたぐいだと思われていた。
“神託”については、先王の頃から行われていた由緒正しい習わしだったし、祭司において“自然”と同調し、精神を調律することが必要不可欠なことなのは、誰しもが知っていることだった。
ところが“噂”はひとつではなかった。
兵士の一人があるとき、その祈りの内容を聞いてしまったのだ。
たまたま中庭をぶらついていた彼が、木の幹をぐるりと一周しようとしたら、その反対側に祭司長が居たのだった。
彼は怠けているのが知られると思い、とっさに隠れた。すると、エスス祭司長の口から何やら、似つかわしくない言葉が紡ぎ出されているではないか。
「愛しているよ」
エスス祭司長と兵士の他には誰も居ない。「え、俺を?」いやいや、祭司長はいつものように木に手を当てている。
つまりそれは、祭司長が“神樹”に向かって放った言葉であることが推測された。
疑問に思った兵士は朝の祭司長の行動に注意した。近づいて内容を聞くことは憚れたが、やはり毎日中庭へと足を運ぶ祭司長。
その習慣は、中庭が立ち入り禁止になっても、途切れることなく続けられていたのだった。
そんなわけで、「エスス祭司長は“神樹”を溺愛している」という噂が、毒の噂とは別にまことしやかに囁かれていたのだ。
真面目で厳しい印象の彼に、そういった話が持ち上がったことは、城内の良い退屈しのぎになった。中には彼を変人と笑うものまで出る始末。
「“あの噂”は本当のことだ」
エスス祭司長が言った。
「今、“神樹”は危険な状態にあるのだ。その噂通り、毒がでておる」
祭司長の反応に、ヤンキスはほっとした。どうやら“あの噂”は毒の事だけを指していたようだった。
祭司長の耳には、件の噂は入っていないらしい。万が一、陰で祭司長を面白がっているのを知られれば、ヤンキスはこの場で締め上げられたのではないかと考えていた。
「でも、それならどうして、コニア祭司をあそこにやったのですか?」
「あの娘は“祭司の才能”に溢れておる。真の祭司なれば、“神樹”の発する毒など全く影響がないのだよ。現に私にも毒は通じぬ。それを確かめるために、あの娘を小屋へやったのだよ」
「な、なるほど。もしコニアが毒で死んだりしたら?」
「そのときは仕方がない。残念だが、根の穴へ葬ってやるしかないだろう」
エスス祭司長は表情一つ変えずに言い放った。
ヤンキスは背筋が冷たくなるとともに、腹が少し熱くなるのを感じた。
ヤンキスは長いあいだ一緒に仕事をして、祭司長のことをよく分かっていた。
エスス祭司長は、真面目で、正しいことには優しく、間違ったことには厳しい。国民にも愛される人格者である。
だがそれは、あくまで“祭司長”としての顔である。
エススは、国務と祭司の任を忠実にこなしながらも、腹では全く別の事を考えているのではないかと感じることが何度もあった。
その考えまで読み取ることはできなかったし、恐ろしくてしたくもなかったが。
今の一言もそれの一つだ。エススはコニアの事をひとりの人間としては見ていないのではないのだろうか。
それでも、毒で死なないというのは確信しているようであったが。だがエススは、彼女の味方ではないだろう。そんな気がした。
ヤンキスは心の中で祈った。哀れな娘が“神樹”と“祭司長”の発する毒で死んでしまわないようにと。
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