紫陽花の影
紫陽花の影には何かがいる。
一面新緑の世界に、一輪だけ紫陽花が咲いている。紫陽花は群生しているイメージがあるので、意外だった。それは春の空のような水色をしている。紫陽花という名を語っているのに水色なのはこれ如何にと思いつつ、私はそれをひたすら眺める。それは私が持つ何かに似ていた。
「みぃちゃん?」
「ねえ、みぃちゃん。聞いてる?」
肩を知世に叩かれてから、私は現実に目を合わせた。
「ごめん。妄想してた」
「もお。みぃちゃんてばすぐ自分の世界に閉じ籠っちゃうんだもん」
彼女は白いワンピースをふわっと靡かせながら、つまらなそうに私を見た。
「そんなんだから、私が死んで五年経っても私より仲のいい友達ができないんだよ」
「知世のことを蔑ろにするくらいなら、私も死んだ方がましだよ」
彼女から目線を外すと、先程の水色の紫陽花の花びらが少し腐っているのが見えた。私はそれを見なかったことにしてしまおうと思った。
気が付かなければ、いいことだ。