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最後の最後まで悲喜劇だ。
滑稽で笑えるだろう。滑稽で悲しいだろう。
役者は人形で人間。
何処までも滑稽じゃないか。
バグはクツクツと笑いながら話を締めくくった。
話の最中から子守唄を歌いだした少女の手を取り、その内側にバグは頬を寄せる。冷たい人形のようなその手でも手首の太い血管は強く脈打っている。
そのリズムに合わせて己の内に沸くような酩酊感が高まっていくのを心地よく感じながら、バグは脈に舌を這わせ、唇を寄せて白い肌に歯を立てた。
今まで何千と喰ったどの人間とも似ていないその味に何かが深く満たされる。同時に飢えを強く感じ貪りつきたい衝動が膨らむ。
しかしそれを抑えてバグは口を離した。
少女の腕を血が一筋つたう。
少女の歌が止まった。
己の流す血を数秒見つめて、歌う時以外は抑揚のないいつもの声で口を開く。
「あい【愛】まじりけのない気持ち。大切だと思う気持ち。多分、解った。
あう【会う】出会う。バグと会えてよかった。
あえ【饗】もてなす。私を食べればいい。
あお【青】色の一つ。空の色。
あか【赤】色の一つ。血の色…」
辞書を読み上げるように続く言葉を遮るように、バグが掴んでいた少女の腕を強く握る。
少女がふと顔を上げる。
「食べるの?」
なおも感情の映らない表情は、バグと今始めて出会った様で。
それでもバグは舌で唇を舐めると、唇の端を引き上げ小さく笑った。
「特別な感情だから愛が知りたかったのではなく、辞書で最初に理解できなかった言葉の『愛』を知っただけでは、足りないか」
「食べないの?」
「いいや、喰う。…だが今は空腹ではない。俺を本当に満たす記憶の主は数人しかいなかったが、それでもつい今しがたたくさん喰ったところだ」
「そう」
「お前、何処までわかっているんだろうな」
楽しそうにいいながら、バグは答えを待つことはせず、一度離した少女の腕を再びとる。
「必ずお前を喰う。もう少し先に、な」
そして少女の白く美しい小指を口に含み、舌を絡ませた。
その様を無言で見つめる少女の目を見つめて返して、小指を根元から喰いちぎる。
バグに掴まれている腕が震えた。
「…痛い」
「上等だ」
バグの喉がごくりと動き、赤い舌がチラリとのぞく。
バグが口を離すと、小指のあった場所は傷ではあるものの不思議と血が止まっている。
少女は指が4本になった右手を見つめた。
痛みに反射的にしかめられていた眉がとける。
少女はバグを見つめ、ほんの微か、微笑んだ。
次の日。王都で王族が、王都に隣接するサンマトリー家の領地で領主館の全ての人間の姿が、忽然と消えていることに人々は気づき大騒ぎとなった。
しかし原因は不明で、消えた人々が再び姿を現すことは無かった。
そして、塔から歌声が聞こえることも無くなった。
これにて完結です。最後までお付き合い頂きありがとうございました!
そして、評価のポイント入れてくださった方、この場にて御礼を。
ありがとうございます。
さて、この作品は情景が浮かぶ文章を心がけて書きました。
アニメ化したら綺麗だぞ、みたいな。アホですね(笑)
あと、バグと少女のパートはエロくないけどエロい感じになればいいなと、一生懸命イチャつかせたつもりですが…まだまだですね。
この作品は過去に○○大賞みたいのに応募した作品、且つ、数人の知人友人に読んでもらった唯一の作品です。
つまり身バレする可能性がホンの少しあるし、賞は箸にも棒にもかからなかったし、封印していた作品でした。
でも久しぶりに見直すと、色々気づけたり直すところが見えたり楽しかったです。
直しきれないで当時のままいってまえってこともありましたが。
そして、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
さて、次回こそ「欠けない月」の続きをあげたい。
今年中に頑張るつもり!です。
またお会いできることを願って。
改めて、読んでいただき、ありがとうございました。




