神話となった魔光剣アルゴノート
かつてアルゴノートシステムは、粗悪宇宙コピー機に成り下がったタイムマシーンと並ぶ人類の希望だった。
空間を膨張させる程のエネルギーを生み出すアルゴノートは、後方空間を膨張させる事により相対性理論を崩すことなく、光の速さを超える事が出来る。もちろん時間膨張も発生しない。つまり、人類は荒れ果てた母星を捨て、恒星系への移住が可能になるはずだった・・・。しかし、粗悪宇宙コピー機から飛び出した、別宇宙の地球人との交戦により、資源の大半を消費しなければならない人類は、移住計画も恒星間宇宙船建造も中止、理論だけが無用の長物として残り、諦めの悪い少数が研究を続けていた・・・。システム理論根本は原子核。この世の物質は全て原子核から出来ている。人間でさえも主成分を炭素とした原子核で構成された物質の集合体でしかない。
万物を構成する原子核の中心は全てアップチャーム、ダウンチャームなどの3種類のクォークが結合し、ひとつの原子核を構成している。この原子核構成をゲージ破壊によりクォークを引き剥がし、光に変えてしまうのがアルゴノートシステム。これに触れた物は金属、水、空気でさえも光に変換される。膨大な光は膨大な熱となり空間を膨張させる。しかし、システムを稼働させるためには膨大なエネルギーを必要とした。恒星間飛行用に開発されたシステムだから、採算もエネルギー効率も度外視されたのが原因だが、惑星移住処では無くなった人類には無用の長物となるはずだったが、数十年の時を経て最終兵器として脚光を浴びる事となる。触れた物が全て光になるなら、この世の物は全て、何の抵抗もなく切り裂かれる事になる。光を放ちながら万物を切り裂くシステム。神話じゃない。現実だ。刃先に触れた物は全て光になり消えていく、これがアルゴノートソード。かつて、1本だけアルゴノートソードか作られた。
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義経「説明は以上だ。何か質問は?」
ボルツ「ああ。おおよそは解ったつもりだが・・・。
恒星間宇宙船に使うシステムだろ?
こんな骨董品屋で買ったような剣に、そんな物が入るのか?」
義経「切るだけなら、空間を膨張させる必要は無い。
刃先に触れた原子を壊すだけで済む。
宇宙船を飛ばす程のエネルギーも必要としない。
要するに大規模エネルギーシステムも要らない。
だから、骨董品屋で買ってきた剣でもアルゴノートソードになる。
もっとも、稼働させる為には膨大な魔力を要するがな。」
ボルツ「やっぱり骨董品かよ。
・・・繰り返す。
始めに厚さ4メートルの強化コンクリートを切る。
カーボンナノチューブ合金、厚さは2メートル。
全部切れば、実験終了だな。」
義経「そうだ。呑み込みがいいな。」
ボルツ「バカにするのは辞めろ。人間。
それで、発動と終了はどうすればいい。
骨董品ソードには、取扱い説明書が無いんでね。」
アルゴノートソードで特殊コンクリートを叩きながらの質問。システムが稼働していなければ、ただの骨董品と変わらない。疑問に思うのも無理は無いだろう。
義経「魔力を剣のクリスタルに注ぎ込めばいい。
システムが稼働すれば、剣の根元にあるクリスタルが青になる。
クリスタルが青の時はシステムが稼働中で
魔力を絶てばクリスタルは透明になり、システムはダウンする。
ただし、クリスタルを青にするには膨大な魔力を要するがな。」
ボルツ「青に変わらなければ、俺の魔力が足りないと?」
義経「そうだ。」
馬鹿にされてると思ったのだろう、力一杯にソードを握りしめ魔力を注ぎ込み始めるボルツ。だが一向に青に変わる気を感じないボルツは。
ボルツ「変わらないな。失敗じゃないのか?」
義経「足りないんだ。出来ないなら、他の候補者にやらせるが・・・どうする?」
実験には、他に強大魔力保有者を3名呼んでいる。ボルツがアルゴノートを稼働出来なければ、交代で実験をしてもらうのは勿論のこと、ライバル意識を煽る目的もある。
ボルツ「なめられたもんだな。わかった。魔力放出を最大にする。
少し離れてくれ・・・。
だが、魔力が強すぎて崩壊しないだろうな?この剣は。」
やはり同席させたのは正解だったようだ。
義経「心配するな。握り手に、もう一つクリスタルがあるだろう。」
ボルツ「この透明な奴か?」
義経「多すぎる魔力は、そのクリスタルに吸収される。
万が一に魔力が逆流した時も、そのクリスタルが
魔力を吸収してくれる。安全装置付きだ。」
ボルツ「全く人間は、抜け目がないね。じゃあ、始めるぞ!離れろ。」
義経「出来れば、魔力放出では無く、クリスタルに魔力集中してくれ。
最も、それが出来なければ、他に廻すがな。」
ボルツ「クッソ!クリスタルが粉々に砕け散っても知らんぞ!」
義経「やってくれ。粉々にな。」
ボルツ「その言葉、忘れんぞ!」
全身を赤く光らせながら、魔力を注ぎ込むボルツは唸り声をあげながら苦悶の表情を浮かべ、小刻みに震えているがアルゴノートソードに変化は一向に現れない。人型魔族よりも、一般的に魔力量の多い半獣魔族でもシステムを稼働させる程の魔力は無いのか・・・。そんな考えがよぎった刹那、ボルツが歓喜の声をあげた。
ボルツ「クリスタルが青に変わったぞ!・・・だが?これでいいのか?
他に何も変化が無いのだが・・・。」
義経「軽く振ってみてくれ。」
アルゴノートソードを一振りしたボルツは感嘆の声をあげた。
ボルツ「おお!光った。これがアルゴノートか!」
義経「成功だな。今の光は大気を構成している原子核が光に変換されたんだ。
今度は実験材料を切ってくれないか。力を入れないでゆっくりとだ!
理論上は触るだけで、どんな物でも簡単に切れるはずだ。」
力一杯に振り回そうと思っていたボルツは、大丈夫なのかと素振りで意志を伝えるが、私も大丈夫と素振りで伝える。少し落胆した様子を見せ、つまらなそうな顔をのぞかせながらも、素直に従ったボルツは何の抵抗も無く、さらっと切れる強化コンクリートを次にカーボンナノチュウブ合金を切り刻んでゆく。どれもなんの抵抗も無くあっさりと光を放ちながら2つに切れる。切り裂かれるのではない。ただ切れるのだ。ナノチュウブ合金をまるで野菜のように賽の目切りにしたボルツは驚愕の余り、声も出さずに金属を切り刻んでいた。
ボルツ「なんだこれは?ただ動かすだけで切れる!
俺は本当にナノチュウブ合金を切っているのか?
野菜を切る程の抵抗も感じない・・・どうなっているんだ!」
同席した魔族も驚きの色を隠せないらしい。駆け寄り、切り刻まれた金属片とアルゴノートソードを見比べ信じられない様子で、それぞれに金属が本物かどうか品定めしてから、もう一度切ってくれとせがんでいる。リクエストに応え、金属を切るが全く抵抗を示さずに、光を発しながら切れていく。そろそろ実験を終了させようと思った矢先に、ソード自体が輝き出しボルツが悲鳴をあげる。
ボルツ「魔力が、吸いあげられる!手が離れない!」
アルゴノートが魔力を吸い上げる?・・・ユーザーの意志に反して吸い上げているのか?慌てた魔族が、アルゴノートをボルツから引き剥がそうと助けに入るが、まるで感電しているように触れた瞬間、張り付いてしまった。感電・・・逆だ!吸い上げられているんだ。ボルツに吸着した全員が魔力を吸い上げられているんだ。
アルゴノートシステムが魔力を欲したのか?そんな・・・あり得ない。アルゴは意志を持たない。為す術なく呆然と立ち尽くす・・・。ほんの数秒でアルゴノートは魔族4人分の魔力を全て吸い尽くし、ボルツの手から離れ落ち、光りながら床を突き抜け地中深く沈んだ。
おそらく、システム稼働したままのアルゴノートは、岩盤を光に変えながら地中深く沈み込み、地球の中心であるコアまで達したと考えられている。そして恐ろしい程の重力に捉えられ、地球の中心に鎮座しているだろう。数年後、大規模な調査により、コアの中心に位置するアルゴノートソードが確認され、何人たりとも近づく事さえ許されぬ魔剣、光魔剣として記録された。
そして新しい神話がひとつ、語り継がれるようになる。
いつしか惑星牢獄を超え解放せし者あらわれ、光魔剣は輝きと共にアルゴノートの名を取り戻すであろう。