母なる悪魔の世代 -古事記より引用-
死闘の末。俺が勝利したあの悲惨な戦争から30年。・・・ウソです。ホントはテスト弾丸をふざけて鼻に装填したばっかりに、マジもんの弾丸で弾道テストをしたあげく誤射してヘイトの額を直撃・・・。その後の事は話したくない。
とにかく、マジもの対人エアー弾を額に受け死亡したはずのヘイトが何故か生き返り、誤射だと訴える俺に耳もかさず、ボコボコにされた・・・。あの戦争から15年。なぜヘイトは生きていた?とか、15年経ったらもうオッサンだろ・・・。
西暦2876年を知らない人間には謎だらけだろうけど・・・ね。
そもそも、4度の核戦争を生き残ったの人類は、とても少ない。私たちの先祖となる、この生存者を俺達はノーマル世代又は最上級の愛と尊敬を込めて母なる悪魔世代と呼んでいる。もっとも、古文書を直訳すれば「母なる悪魔の世代」となり、厳密にはノーマル世代とは異なるようだが・・・とにかく、この世代の寿命は、長寿と言われた者でも100年程度。病気やケガで簡単に死んでしまうのが、この世代の特徴だ。さらに核戦争がもたらした高濃度放射線に気候変化。そんな劣悪な環境で、人類が生存できる可能性はごくわずかだ。なにしろ、自力で人類が進化し手に入れたのは、耐放射線能力だけだから。
そんな進化も数百年の間に行われた4度の核戦争で、やっと一握りの人類が手に入れた程度でしかない。弱いノーマル世代は人類復興を強く望み、冷え切った地上を駆け回り、全ての生存者を比較的生存に適した赤道付近に集結させ生き延びた。肌の色。言葉の違い。そんな些細な違いが障害になったのはわずかな時間でしかなかった。あらゆる語源が混じり合い。たった一つの言葉が生まれたのも、この時代。
数万年の時を争い、互いを軽蔑し殺しあった人類が初めて、一つになったのもこの時代だった。
赤道付近に作られたコロニーの人口は約300万人。人類の全盛期なら、どこかの都市人口とほぼ同じぐらいでしかない。寒さと貧困に流されてしまえば、文明を失い原始時代に戻っていただろう。そんな過酷な環境を彼らは生き、多くの犠牲を払い科学を発展させた。『生き残る。そして次の世代には幸福を。』ただ、それだけを胸に残し、全てを犠牲にして未来を創ったノーマル世代は悪魔と化した。この時代の詳しい事は解っていない。
しかし、母なる悪魔の世代を憐れんだ第一世代が少しだけ語り継いでくれた。
血で血を洗う歴史を数万年続け、わずかに生き残った数少ない人類。ノーマル世代は『人類復興』このたった一つの単語のもと暖かな愛と、冷たい鋼鉄の意志を持って、涙を流しながら数万の命を奪った末に、平均寿命165年の第一世代を創り出した母なる悪魔の世代だと。
母なる悪魔の世代に憎悪と感謝、それと憐れみを一つにしたような複雑な感情を持つ第一世代は歴史に一言だけ追記した。
「未来の子供達よ。理解してほしい」と。
母なる悪魔の世代は全て一つの墓に埋葬されている。それが彼らの望みだったからだ。数百万の人が眠る色あせ風化した、小さな墓標に個人名は一つも無く、ただこう刻まれている。
「私の子供達よ。罪は我が犯した。全ての罪は我が身と共に、この地に葬る。
私の子供達よ。過去を振り返ることなく争うことなく未来をみよ。
私の子供達よ。願わくば、我の罪を許してほしい。」
互いに憎しみ、殺し合い。そして・・・我が子さえ人体実験に使った母なる悪魔の世代は、全ての罪を背負い死に絶えた。
仕方が無かったんだろう。
核戦争の影響が彼、彼女らをそうさせた。人類の雌化。男性2に対して女性8。そじて何より女性の90%は不妊症だった。子孫を残せる可能性を有する女性は、ごく僅かに8%。人類が雌化したのは、種を保存するための自発的進化だったとされている。種を保存するために雌化したとはいえ、ノーマル世代は病気やケガですぐに死んでしまう。子孫を残せる年齢まで生きる確率と病気、ケガ等のバトラック。更に妊娠する確率。それらを考慮すれば誕生する子供は奇跡の子。そして、その子が子孫を残す可能性は簡単な式で表された。
女性に生まれる確率約80%×10%×受胎可能までの生存率×バトラック発生率=数世代後に人類は死滅。
悪魔と化したノーマル世代を許すか等と論じる者は一人もいない。そして、いつの頃からか祈りを捧げる言葉はこうなっていた。
「母なる悪魔の世代に感謝と安らぎを」
第一世代は、その長い寿命を使いノーマル世代の夢『人類復興』を一気に成し遂げた。彼らが成し遂げた事は、平均寿命250年の第二世代を一人の犠牲者も無く創り出した事。7つのタイムマシーンを完成させた事。出来なかった事は、人類の雌化を阻止で出来なかった。侵した罪は、タイムマシーンで宇宙を分岐させてしまい、出遭うはずの無かった進化の異なる地球人達との争いが始まった事だ。
7つのタイムマシーン。その名前が間違っているのかもしれない。
正確に言えば、宇宙コピー機が正解かな。しかも出来上がったコピー機は粗悪品だった。開発した本来の目的は一切、果たすことも出来ず。コピーされた宇宙は物理法則さえ異なる事もある程の別宇宙。7つの宇宙の内3つは物理法則が違い過ぎコンタクトを取る事さえできず、いまだに封印されている。残りの4宇宙の内2つの宇宙と争いを起こしたのもこの世代だ。
意図されず創り出された7つの世界。その中で多分、一番貧困かつ、弱いのがこの世界。但し科学力では他を圧倒していた。一番強かったのが、生物としての最低基準でしかない単純な生物。個体としての意識すら持つ事も無く、星を覆いつくす程の量に達した、多細胞生物。解りやすく表現すれば、『一つのスライムが星を覆いつくす程、大きくなった。』だろう。もちろん知能のかけらもなく、単純に食らい生きるのみ。それだけに特化したから途方もなく強かった。圧倒的な防御力で殆どの化学兵器が効かないほどだった。
もう一つの世界は爬虫類型ヒューマノイド「恐竜種」。全ての者に攻撃を仕掛ける危険種だ。
まず恐竜種が人間を襲い、続いて液状種族が侵略してきた。どちらも粗悪品の宇宙コピー機から、こちらの世界にやってきた。あふれ出した液状種族をタイムマシンに押し戻し、封印するまでに地上の15%を彼らに食いつくされながら、数十年の歳月を要した人類は代償とし、殆どエネルギー生命体と言っていい彼らから無限のエネルギーを手にした。人類が手にした無限のエネルギーはその後の世界と恐竜種との争いに大きな変化をもたらしたが、恐竜種をこの世界から追い出すことは出来ず小規模ながらまだ争いは続いている。
ある程度の知能を持つ彼らと、何度かコンタクトを取る事は出来たが、和解に持ち込む事は出来なかった。そもそも、殺し合う事が当たり前の彼ら、に争いを辞めさせる事など無理な話だったのだ。恐竜種をタイムマシンの奥に押し戻し、封印するまで戦い続ける道しか残されなかった人類は、飛躍的に戦闘術が特化していった。ゲリラ戦しか行わない彼らは、卓越した戦闘術を持ち、こちらの世界に居るどんな生物よりも数段上の運動能力とパワー、知能まで持っている。何よりその数が圧倒的に多く、そのすべてが戦闘員。そんな彼らに人類が対抗出来たのは、3つの要因が重なったからだ。
一つ目は、母なる悪魔の世代が人類復興の為に行った遺伝子操作で得た、長寿と自己回復力の向上を元に生み出された第二世代だ。個人差はあっても200年ぐらいは30代前半の容姿と能力が保てるから戦闘術は強敵が現れた事もかさなり爆発的に進化した。
2つ目は、残ったタイムマシーンが作った世界からの訪問者、魔族との融合だった。魔族が住む世界は極端に地軸が傾いているせいで一年の内7割が闇に包まれている。彼らは毎日、日が昇るこの世界に憧れた。とりわけ核戦争前の自然にあふれたこの世界にだ。人間と同じ知能を有しながら、特殊能力にたより科学に目覚める事が無かった彼らは、人類史の1800年代後半ぐらいの知識で闇に生き、貧しい生活を永遠と続けていた。電球が裕福な家庭に付いた程度の暮らしと言えば解りやすいだろう。
こちらの世界に魔族が遅れてやってきた事も人類にとって幸運だっただろう。人間と何ひとつ変わることない容姿を持つ種族から恐竜種、スライム種まで様々な形態を持つ諸族が、一つの世界で共存していた彼らは魔力と魔法にも似た特殊術で人類とは別次元の戦闘力をもち、もし恐竜種より早く彼らが来ていたら魔力を持たない人類は簡単に、彼らに征服されている。それ程、彼らは強い。だが恐竜種と戦う人類の戦闘能力と所持する兵器を目の当たりにした彼らは、自分達とは全く異なる異次元の戦闘力と、かつて母星をも亡ぼした科学力に恐怖し、人類との共存とこちらの世界に移住することを申し出た。これ以上敵を増やせない人類は喜んで申し入れを受けた。
そして出来上がったのが今の世界だ、魔族の母星と地球を融合させたのだ。少々変わった生物と植物が住むものの、地球は本来の姿を取り戻した。魔族と人類も能力的に融合し、個を維持したままに魔族は放射線と太陽に順応し人間は魔力を手に入れた。魔力を手に入れた人間と太陽に順応した魔族が第三世代。そして俺やヘイトのように、魔族と人間の血が混じり合った者が第四世代。魔力を持ち魔法を使い、近代兵器を使いこなす戦闘特化人間の誕生だった。誤解の無いように付け加えると、融合は魔族と人類が話し合い、人類の制御の元行われた。だから、純粋な魔族も、第二世代も健在だ。今では、この世界は多種多様な種族が共存する世界となった。第二世代。第三世代。第四世代。純魔族。そして地球に元々いた動植物と魔界にいた動植物。さらに純粋な獣魔に妖精と精霊。精霊はピートやジェミニを達のように使途と呼ばれることもある。
そして、最も重要なのがイマジン世界。
この世界は粗悪コピー機の副産物だが、スライム世界をコピーしたマシーンだけが、この世界を創った。イマジンは仮想現実世界に限りなく近い。地球によく似た環境で木や草はもちろん沢山の動物が住むが動植物でも無機物でも、こちら側に持ち帰ると不思議な事に約半年で消えて元の世界に戻る。こちらの世界に持ち帰ったものを破壊すると、瞬時に元の世界に戻ってしまう。逆も全く同じ。イマジン世界で誰かが、死んでも瞬時に戻り、ケガも治っている。イマジンに移住しても、約半年で強制的にこちらの世界に戻される。なぜ、そんな事が起きるかは全く解らないが、最近になってイマジン世界はスライムが作り出した墓場ではないかとの仮説が浮上してきている。それが本当かどうかは科学者に任せる事にして俺達は、すべての争い事はイマジン世界で行うことで、事実上の争いを0にしている。なんど死んでもやり直せるのだから、死を超えた経験が積み重なり強くなる。但し、仮想空間の死と言っても本物の死と変わらないものがある。痛みだ。何度経験しても、この痛みは言葉では言い表せないほど痛い。実際に死の痛みを超える事が出来ず、眠ったままの者や狂った者もいる。
これが西暦2876年。だから15年経っても年を取らないし、ヘイトも俺も第四世代。
防御マークも皮膚硬化もなしで直撃弾を受けたヘイトが気絶ですんだのもこの時代だからこそだ。
人類は化学が発展し、魔力さえ手に入れたのに争いを辞められない。恐竜種との争い。魔族間抗争。人類抗争。世界は争いに溢れている。
そして・・・200年にわたる争いが始まる。歴史は繰り返す。争いを永遠に。
200年後の俺は、母なる悪魔の世代を恨むだろう。貴方たちの墓標には、こう刻むべきだった。
争いは憎しみを生み、やがて憎しみは憎悪に変わる。その先は苦しみと悲しみに満ちた破滅だと。
-アラン・ゼビ・ルーハイル-