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Knight Of Dragon  作者: 愛兎麦丸
第一章
7/28

D-VII.最初の旅②/彼女の事情

 使った魔物避けの効果は二時間程続くものだったので、リョウヤは紅にもその旨を説明する。その時にラナンが無邪気にも同伴を勧めると、リョウヤの予想に反して紅は誘いに乗った。

 亜人、というのは人間に対して悪い感情を抱いている場合が多い。

 現に紅も、出会った時は雰囲気が刺々しかった。それは眠りの邪魔をされたという理由だけではなかったはずだ。


「――不思議?」


 ほとんど無表情に見える紅が、自分の目を見て言った。その事実にリョウヤは僅かに、だが確実に体を揺らしてしまう。

 亜人(くれない)はそれを見逃しはしない。

 ラナンだけが、よく分からないと言うように不思議そうにしている。


「亜人の多くは人間を見下している。それは私達も……私もそう」


「え、でも紅ちゃんは……」


「これでも二人の何倍も年上だから、ちゃん付けはやめて」


「え!?」


 困惑しているラナンを見て、紅は少し楽しそうに見える。少なくともリョウヤにはそう映った。

 いまいち紅の性格(キャラ)が掴めず、しかも心を見透かされたリョウヤも、ラナンと同じで困惑しているのが実際のところだった。


「何を企んでいるか分からないんでしょう?」


 ラナンを見ていた楽しげな目のままで、紅はリョウヤに問いかける。


「僅かに首元がヒクついた……隠し事は下手じゃないけれど、それも人間レベルの話」


「……よく見ていることで」


「それはお互い様」


 リョウヤの頬が引き攣る。

 亜人と一口に言っても、多くの種類に大別されている。

 外見に特徴があると分かりやすいのだが、紅は完全に人間の姿をしているので判別がつかない。

 故に何かヒントを見つけようと、リョウヤは紅を違和感のないように細心の注意を払いながら注視していたのだ。

 それに加えて、自分の知らぬ人物であれば情報が欲しいというのもあったのだろう。

 だからこそ、少し焦ってしまっていたのかもしれない。


「……気分を悪くしたって言うなら謝る」


 それでも紅からしたら、リョウヤは自分を露骨に見ていた……そう言われたリョウヤは気まずそうに頭を下げる。

 それだけ観察していて、分かったことが無い――なんだそれ、とリョウヤは嫌になる。

 ワンピース調のシンプルドレスに着物を一枚羽織って帯を締めている。着物の下に何を着ているのかが分かるのは、着物の前を合わせていないからだ。そんな非常に個性的な姿をしているということしか分からない。


「構わない。人間が亜人を警戒するのは当然だから。寧ろ――」


 リョウヤが気に病んでいる様子なのに対して、全く気にしていないと言う風に答えた紅は呆れたようにラナンを見た。


「貴女に警戒心がなさ過ぎる」


 私!? とラナン。

 予想だにしていなかったと声を上げた彼女を横目に、紅はリョウヤへと視線を戻す。

 紅の言葉通り、ラナンの警戒心はリョウヤから見ても薄い。故に自分が警戒しなくては……というのがリョウヤの考えだ。


「貴方が師匠でしょう? 教えていないの?」


「いや、一応教えてある……んだけど」


 リョウヤが警戒しているからと言っても、ラナンに何も教えていないということはない。

 紅もラナンが純粋であることは既に察している。だからこそ、何処か批難している風を装った物言いになってしまった。

 そんなラナンを案じる様子の紅は、リョウヤの亜人に関する知識的には不自然なので、余計に紅という人物が分からなくなる。


「でも師匠も、実際に会ってみないとどんな人かは分からないって!」


 リョウヤはゲームをプレイしているので、亜人の全員が敵対するわけではないことを理解している。それでも亜人が人間を敵視しているということも、人間よりも能力が高いということも伝えてある。マコの家で行った座学の一つである。

 ただ性格上、ラナンとしてはリョウヤの考えに同調しているのだ。


「あぁうん……言ったな」


「実際、紅ちゃ……さんは良い人みたいだし!」


 警戒心皆無で接しなさいとは一言も言ってない。リョウヤとて、そこがラナンの美点であることは分かっている。共に行動する限りは自分が警戒しておけば良いとは思うのだが、如何せん師弟関係がいつまで続くが分からない。

 もしも――エデンの危機を回避する前に、地球へと帰る手段を見つけてしまったのなら。

 その時、自分はどうするのだろうか?

 ふとそんなことを考えたリョウヤだったが、紅に見つめられていることに気が付き、思考を頭の隅に追いやる。

 興味深そうに見つめているのが丸分かりなのは、紅に隠す気がないからだろう。

 不快とは言わないが、妙な感覚だ。それを誤魔化すようにリョウヤはシートを敷き始める。


(珍しいタイプの二人組……)


 紅が遭遇したリョウヤとラナンを評するなら、その一言に限る。

 若い男女という組み合わせもそうだが、最初に言っていた纏っている気配、そしてその考えの持ち方もだ。


(それに……リョウヤ坊の方は下手をすれば私よりも強い……)


 紅は亜人だ。更に言うのなら、その中でも上位種である。

 相手の力量を見ただけで量ることにも自信がある。

 実際、リョウヤにはゲームでのステータスが反映されている節がある。

 体の値で体力が決まり、力で筋力、防で防御力、速で速度、魔で魔法攻撃力と魔法防御力、精で精神力と魔法防御力となるKODのステータス。

 紅は、そのステータスを一目で感じ取ってしまったのだ。


 ただ肝心のリョウヤ自身は、どこまでゲームのステータスが自身に反映されているのかを把握しきれていない。

 体力は間違いなく反映されていないだろう。ゲームなら数値がなくなればゲームオーバーだが、現実ならそうはいかない。単純な話だが、脳や心臓に傷を負えば即死だからだ。

 ゲームなら体力値は、常に頭に思い浮かんでいる。が現状ではそんなことはなく、自傷をしてみてもメニューのステータス画面に表示されている体力に変化はなかった。


 力値と精値はゲーム通りだと推察しているが、防値と速値は現実の肉体のもの。

 魔値に関しては魔法攻撃力は大凡ステータス通りだ。

 リョウヤの確認したところでは、防御関連は装備頼りになっている。


「――食うか?」


「いただきます」


 シートに座り込みリョウヤからおにぎりを受け取る紅は、自分から先の話題を蒸し返す。

 どうして亜人である(わたし)が、リョウヤとラナンに対して嫌悪感を抱いていないのか? だ。


「自分で振るのか、その話題」


「気になっていたでしょう?」


 表情はほとんどない癖にどこか強気な声音で煽っているかのような紅に、リョウヤは苛つきに頬を引き攣らせる。

 本日既に見ているリョウヤの表情に、ラナンは苦笑いだ。


「単純に言うのなら、二人は人間の気配に龍の気配が混じっているから」


 リョウヤの様子に満足した紅はサラッと言い放つ。

 ラナンは「ああ、なるほど」と、リョウヤ「だろうな」と素直に納得する。

 紅が素直に教えたのはラナンの純粋さと、リョウヤの亜人に対する偏見の無さに毒気を抜かれたからだが、それは言わないでおく。


「私は砂漠で堂々と眠っていたことの方が気になるな」


 昨日のうちに用意しておいたおにぎりを美味しそうに食べるラナン。

 具は梅干し、おかか、他に焼きおにぎりがある。ラナンが食べているのがおかか。紅が食べているのが焼きおにぎりで、リョウヤが梅干しだ。


「荷物がないのは……無くても保つからか?」


 おにぎりを用意しておいたのは、歩きながらでも食べられるからである。

 砂漠のど真ん中でゆっくりと座って食事とはいかない、そう思っていたのだ。

 実際、今のいる場所のような日陰がある方が珍しい。

 リョウヤは知っていたのでは? その答えはイエスでありノーでもある。

 砂漠の形状は同じでも、内部の状況は異なっていたのだ。

 リョウヤの知識では遺跡の跡など残っていない。正確に言うのなら風化した壁の一部だったり、倒れて砂に埋もれかけた柱などはあったが、今いる場所のような一見して建築物だと分かる外観は残っていなかった。

 ゲームでの年の一年前。

 その一年という時間の差なのかもしれない。


(……っていうかここ、崩れないだろうな?)


 今更ながらに、現在自分達のいる場所に不安を覚えるリョウヤ。

 しっかりと形を保ってこそいるが、壊れかけた遺跡には違いがないのだ。


「確かに私は一ヶ月位なら飲まず食わずでも生きていられる」


 リョウヤの不安に気が付くこと無く、紅はさも当たり前の様に答えた。一ヶ月という単語にラナンはおにぎりを落としかける。


「地図、ある?」


「ん、全国?」


「地方」


 リョウヤが換装魔法でウェスタンダート大陸の地図を取り出す。ごはんやシートを出すときにも使ったが、換装魔法自体に紅は大して驚きはしなかった。

 広げられた地図。その海岸付近を指さす紅。


「この辺りから砂漠に入ったと思う」


 海岸からすぐに乾燥地帯になっているのが、ウェスタンダート大陸の東側だ。海があるのに乾燥? とイーストジーハの町でラナンは首を傾げたが、紛れもない事実だ。

 海岸と言っても砂浜が続いているわけではない。

 一面の岩石地帯なのだ。

 それもその岩石が特殊な鉱石で、周囲の水分を急激に奪う性質を持っている。

 海と面している箇所はそれほどでもないが、五百メートルも離れればそこは半乾燥地帯となり、一キロなら完全に乾燥地帯だ。


吸水岩(きゅうすいがん)の岩場を越えたのか?」


「え? でも師匠、その岩場は人が上り下りできる環境じゃないって……」


 ラナンの言っている通りの理由で、リョウヤ達は海岸線を進むと言うことができなかった。

 岩場と言っても、その岩の高低差が大きいのだ。

 一軒家程の岩場を上ったと思えば、その倍を下りなくてはならなくなることもある。

 当然モンスターも沸く。

 一段階でも進化できる龍がいるのなら飛行も可能なのだろうが、それをしなかったのはラナンの経験稼ぎをしたかったからだ。

 それに龍に騎乗していても、モンスターに落とされる可能性もある。

 それらを踏まえての砂漠越えなのだ。


「俺が言ったのは、あくまで人間の話だよ」


(身体能力が高くて、人間の姿の亜人……狐とか狸の類か?)


 化かし合いという意味の能力を持った亜人でポピュラーなのは狐や狸の亜人だが、リョウヤ自身自覚がある位には安直だった。すぐに「ないか」と否定する。

 そういうこと、と紅がリョウヤを肯定し続けた。


「砂漠に入ったはいいけど……休んでいる間に荷物を魔物に盗まれて、今はそれを取り戻そうとしているの」


 もしかしなくても……さっきみたいに堂々と眠っていたんだろうな。リョウヤとラナンはそう思い、渇いた笑みを零す。


「でもそれなら私達も手伝うよ! ねっ、師匠!」


 手伝う、と言うのは荷物探しのことだろう。

 反射的に「え?」と出かけたが、どうにか堪えるリョウヤ。

 マコの件があったからか、困っている人を見過ごせない性格だと思われているのかもしれない。


「……それは良いけど、当てはあるのか?」


 だだっ広い砂漠で奪われた荷物を、何の情報もなしに探し歩く。もしそうなのだとしたら、流石にリョウヤもお断りするつもりだった。

 どうなんだ? リョウヤが紅を見ると、何やら開いた口が塞がらないようである。


「――……手伝ってくれるの?」


 紅の反応を見て、リョウヤはホッとした。

 ラナンの提案が普通ではないのが確認できたからだ。

 普通は簡単に人の事情に首を突っ込まない。人間と亜人なら尚更だ。ゲームでなら待ったなしで首を突っ込む可能性のあるリョウヤだが、現実では色々と考えてしまうのだ。

 お節介ではないか? とか、逆に悪い結果になるのではないか? と。

 その上で自分が介入するべきかを決める。

 だがラナンは当たり前の用に手伝うと即断した。

 リョウヤも困惑してしまったのだ。


 そして困惑したのは彼だけではない。

 紅もだ。

 ラナンが種族に関して無頓着なのは分かっていたが、それでも少し世間知らずなのでは? と考える。師匠(リョウヤ)は何か言うべきでは? とも。

 しかしリョウヤも一瞬考えた様子を見せただけで、すぐにラナンに従うかのように自分に対して確認を取ってくる。

 種族間の確執とはなんだったのか。

 長い時を生きる紅が初めて会うタイプの人間だ。しかもそれに二人同時に遭遇してしまったようだ。


「困っている人は放っておけないもん」


 ラナンに優しい笑顔を向けられた紅は、呆然とリョウヤを見る。


「連れがこう言ってるしな」


 苦笑ではあるが、不満はないと言ったリョウヤ。

 師匠だって放っておけない癖にー!

 いや俺はそっちの主張に従うだけだから……。

 ウッソだー!

 二人の賑やかなやりとりを前にして、紅は自分が僅かに笑っているのに気がついた。それは出会ったばかりのリョウヤとラナンには気がつけない程の小さな笑み。紅自身が鏡を見ても、気がつけなかったかもしれない微笑みだった。


「実は――……」


 紅はイスタンダート大陸からウェスタンダート大陸行きの船に乗っていた。それが海竜と海魔の争いで大破。どうにかウェスタンダート大陸まで泳ぎ切り、吸水岩の岸辺を這い上がった。

 遠泳をするはめになった紅は、流石に体力を消耗していた。

 それでも砂漠までは歩いていたのだが、一度休息をすることにしたのだ。

 亜人である紅は、砂漠のど真ん中で眠ってしまっても問題が無い。

 睡眠中でも襲われそうになれば気がつけるのだが、紅自身は無視して荷物だけを狙われるとどうしても反応は鈍る。特に砂漠蠍(サンドスコーピオン)は砂漠に生息していることもあり、砂上を動いてもほとんど音を立てない。

 気がつけば、荷物を掴んだ砂漠蠍が砂中に沈んでいく所だった。


「砂漠蠍が荷物だけ盗んだの!?」


 それまで黙って聞いていたラナンが驚愕する。

 リョウヤは何かを察したようで、どことなく嫌そうな顔を作ってラナンの疑問に答える。


「魔物には特異な個体がいるって話はしたろ?」


「あ、うん。力が強かったり、動きが速くなるなんてのが多いって」


 ラナンは座学の内容はきちんと憶えているようだ。

 この特異個体というのはゲームでも存在している。


「知性を得たのもいるんだ」


 ラナンがあげたものは文字通りの能力が強化された個体。そしてリョウヤの上げた、知性があると言うのも、前者二つと同様に変化は攻撃モーションだけだ。というのがゲームの話。

 知性云々というのは、戦闘以外の要素から知り得る情報だ。


「盗んだのが知性のある個体?」


「知性を有しているのは別個体でしょうね」


 紅の言葉にピンときたラナン。


「つまり司令塔がいる?」


「勘は良いのね」


「というか頭の回転は速いんだよ、ラナンは」


 紅の出した評価を訂正するようなリョウヤの褒め言葉に、得意げに胸を張るラナン。

 その嬉しそうなラナンを見て「答えを出すまでに紆余曲折するから、なんだかんだで時間がかかるタイプだけど」と付け足すのは憚れた。

 そもそも師弟関係とは言え、そこまで上から目線で人様にどうこう言えるような人間でもない。ラナンがあまりにも持ち上げてくるのでリョウヤも勘違いしがちだが、両者に年齢差は一年しかなく、師と仰がれているのはゲームの経験とステータスのおかげなのだ。


「……けど、その個体を探すのも骨が折れるんじゃないか?」


 最早断れない空気であるのを感じながら、リョウヤは紅に確認をする。

 当てはあるのか? と。

 その発言は、自身が乗り気であるのと同義だった。

 紅がかなりの実力者のは彼女の発言の節々で分かる。

 例えば、魔物に襲われないという発言。これは魔物の方が紅に手を出したらマズいと本能で判断していることが窺える。

 実力者(クレナイ)がいる中、ラナンの経験を増やし、特異個体(ボスクラス)の相手と自分(リョウヤ)がどれだけ戦えるか試すチャンス。

 これだけの好条件が揃っているのなら、試さない手はない……リョウヤはそう判断したのだ。


「この砂漠には地下空洞が広がっているの」


「砂の中にいるサンドスコーピオンはそこにいる……?」


 おそらくは、とラナンを肯定した紅。

 尋ねたリョウヤは口元に手を当て、考える仕草を見せる。


(KODでは砂漠の下に遺跡があって、更にその下に空洞が広がっていた……ってことか)


 知らない知識が出てきたからだ。

 元より察してはいたが、どこまで自分の知識が当てになるのか分からない。

 しかも今のように、ついついゲームと比較してしまうのは、それだけ考え方がゲームに傾倒しているということだ。

 良くない癖に、頭を悩ませつつ今の話題に思考を戻す。


「地下への入り口は?」


「すぐそこ」


 ここまで来ると、ラナンも落ち着いていた。

 驚きではあるのだが、「あぁ、そうなんだなろうな」と納得してしまうのだ。

 これが年の功? あれ、そう言えば紅さんって何歳(いくつ)なんだろう? などと一人思うラナン。疑問に思っても口にしない。それが女性に対してタブーなのは理解しているからだ。


「……だからここで休んでたのか」


 リョウヤもリョウヤで、紅が馬鹿ではないことを理解している。

 ここで眠っていたのも、一休みしてからすぐに地下に向かえるようにという理由があったのだろうことは察することができた。どうして地下への入り口を知っているのかという疑問はあるが、それは道すがら聞けば良いことだ。


 荷物を片付けたリョウヤとラナンは、紅を先頭にして歩き始める。

 時間にして一分二分ほど歩いただけの、非常に近い距離だ。

 日陰にいたからか余計に強く感じる日差しが注いでくる、周囲を壁の残骸に覆われた広場のような空間に出て、ラナンは感嘆した。


「凄い……」


 太陽と月がドラゴンを挟んでいる巨大な壁画が残っていたからだ。

 ドラゴンは三体おり、三角形を描くように描かれている。そしてその左右には太陽と月が佇んでいる。


(ドラゴンが三体……三戒龍、か?)


 抽象的な絵なので判断はつきにくいが、頂点のドラゴンは正面を、残りは左右の下方を見ていて、太陽と月はドラゴンではなく外側を見ている。

 壁画の下部は崩れ落ちてしまっていて、どのような絵が彫られていたのか分からない。

 まるで警戒するかのように龍と太陽と月が周囲に目を向けている壁画。

 三戒龍の存在を知っているリョウヤが見れば、描かれているドラゴンは三戒龍だとしか思えなかった。

 一方のラナンは、その絵が放つ神秘的な雰囲気に目を離せずにいた。彼女は三戒龍など知らないが、それでも絵が放つ異様な存在感は感じ取れたのだ。


「……二人にも見えるんだ」


 壁画に目を奪われている二人を見て、紅が予想していたかのように納得する。


「それ、普通の人間には見えないから」


「え! そうなの!?」


「そうよ」


 声を上げたラナンとは逆に、リョウヤは一つの考えに至った。

 壁画を作り上げたのが龍の民で、一般人には見えていないから今にも崩れてしまいそうになっている。

 エデンでも古くからの建造物を保護し、保存しようとする人間はいる。ただのどこにでもある遺跡はダンジョンとして扱われているが、壁画なら価値を見いだすだろう。

 遺跡を保存したいと考える人間が少ないのは、世界の違いとしかリョウヤには言えない。

 

 壁画を残したのが龍の民と結論付けたのは、彼らが三戒龍を奉っていたからだ。また彼らは特殊な能力があるので、普通の人間に見えなくすることも可能だろう。

 単にゲームで重要な建造物や武具を作っていたのが龍の民だから、というのも思考のベースにはなっているが問題はない。


(問題ない、よな……?)


 そもそも、この壁画を見たからどうこうなる話ではない。

 ゲームで見たことのないものだったので驚きはしたが、現状では特に重要でも無いだろう。そう考え、それもないよな? と不安になるリョウヤ。

 物語序盤で訪れた場所が、話が進むにつれて重要な場所だったと分かるなんてこと、ゲームではよくある。

 それもゲームと同じで、情報が増えないと判明はしないので、結局はどうしようもない。


「――これで、よし」


 床に使われている長方形のブロックを踏んだ紅。

 踏まれた石は沈み、それを四箇所繰り返す。すると沈んだ四つの石のちょうど中央の床が消えていき、階段が姿を現した。

 対角線上の二箇所、そこから横方向にある一箇所、更にそこから対角線上の一箇所を踏んだことから、順番が決まっていることが伺えた。


 リョウヤとラナンが階段の奥を覗き込む。

 中は意外と明るく、かなり長く続いているようだ。

 明るいのは単に日の光が入っているというのもあるが、光り輝く特殊な鉱石が一定の距離間で埋め込まれている。


「ようっし! じゃあ行こうか!」


 手早くサイドに髪を結ったラナンの、気合いの入った声を切っ掛けに三人は階段を下りていくのだった。

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