D-VI.最初の旅①/砂漠での出会い
パチパチと小さな音を立てている焚き火を前に、リョウヤは手作りのお守りを手で持ってぼんやりと眺める。
布製のお守りの中に、折り紙で作られたお守りが入っているお守りだ。
言葉で表すと妙だが、布部分をルコが、中身をマコが作ってくれた物だった。
イーストジーハを経った日、明朝の出発にも関わらず多くの人が集まってくれた。
その中にマコ達の姿もあり、リョウヤとラナンはお守りを手渡された。
事前に笑って送ってあげようと言い聞かされていたマコは必死に笑顔を作ろうとしていたが、それが余計に泣きそうな顔に見えてしまい、リョウヤとラナンは逆に泣いてしまいそうだった。
(約束してあげられなかったな……)
また会いに来てねと言ったマコに、リョウヤは答えてあげられなかった。
ラナンが絶対に来るよと言ってくれたので、便乗し頭を撫でて誤魔化したのだ。
守れない約束はしないし、一度した約束は守る。
嘘は吐いても、約束は違えない。
リョウヤが自身に課したことだ。
マコは賢い。
最初の日、明日また会うことは約束だと言っていたのに、別れの日には言っていなかった。リョウヤのその僅かな差を感じ取っていたかもしれない。
それに気が付いていて、気が付かないフリをさせてしまったのかもしれない。
そう思うと、リョウヤは自己嫌悪に陥ってしまう。
「んっ……う、うん……」
焚き火を挟んだ向こう側でシートを敷き、寝袋に包まれて横になっているラナンの寝言に、気分の沈んでいたリョウヤはお守りから視線を外した。
お守りをしまい込みラナンを確認するリョウヤ。どうやら彼女は起きたわけではなさそうである。
寄り添っているリオンと共に熟睡中だ。
旅で汚れないようにと、アルマが用意してくれた体をスッポリ覆えるマントをラナンは纏っていない。移動中は使わせて貰っているが、就寝時は脱いでしまっているのだ。
リョウヤは膝にレイを乗せて火の番をしつつ、辺りを警戒しているので纏ったままだが、それは体が冷えすぎないようにするためだ。
砂漠は目と鼻の先。
夜の砂漠の風は非常に冷たく、砂も混じっている。それを少しでも防ごうと、砂漠から僅かに離れた半乾燥地帯に無造作に転がる巨岩の横で一夜を明かすことにしたのだ。
魔物避けが効いているのか、辺りに自分達以外の気配はない。
イーストジーハを出て丸三日が経過している。
明日は一日かけて砂漠越えだろう。
(ここまでは順調か……)
オンラインゲームの舞台であるウェスタンダート大陸と、オフラインゲームの舞台であるイスタンダート大陸では、当然だが前者の方が難易度が高い。
単純に敵のレベルの差があるだけではなく、フィールドやダンジョンのギミックにも多くの違いが出てくる。
が戦闘に於いてラナンは特に問題がなく、更に今日は休憩時に換装魔法の瞬間換装を練習する余裕まで見せた。
これが主人公補正かー、とついつい思ってしまったリョウヤは悪くない。
そんなリョウヤの旅初日は、ゲーム通りやれば大丈夫だと自分自身に言い聞かせていた。いくら調子を確認し、ゲーム通り動けると分かっていても不安は不安なのだ。尤もそれで上手くいったので、二日目以降も問題はなかった。
戦闘以外……旅自体も、換装魔法というある意味チートととも言える能力のおかげで水や食料にも困らず、シャワーユニットも買えていたのでシャワーまで浴びられてしまうという高水準さを発揮した。シャワーユニットと言っても布製の囲いと屋外用のポータブルシャワーだけではあるのだが、現代日本人のリョウヤも勿論、これにはラナンも大はしゃぎだった。
リョウヤの換装魔法は武器や防具に制限はあるが、道具の方にはない。詳しく言うのなら個々の最大所持数は決まっていても、種類が違う物なら最低一個は所持できる。アイテム所持数がプレイングによって変わるのもKODならではである。
無駄遣いはよくないが、それでもある程度の余裕が出来る位に換装魔法で道具を溜め込んでいたのだ。
旅を始めて、自分の本音と事情を打ち明けるかリョウヤは迷った。
だが異世界に来てしまったなんて話は、リョウヤ自身信じがたいのだ。ラナンに説明したところで、精神状態を心配されるだけに終わりそうだ。
変人扱いはリョウヤとて御免被りたい。
(三戒龍の話題が出たら話してみても良いか……)
空間を司る空戒龍についてなら尚話しやすいのだが、KODEのラスボスの三戒龍は周回によって変化する。
今エデンを異変が襲っているし、ファフニールもいる様子。ラナンという主人公もいる。ここまでくればシナリオ通りの展開になり得る可能性は非常に高い。
けれどここに至るまでに、リョウヤは自分が今いる場所がゲームの中ではないと思うようになっている。だからこそ、知っている展開を辿るかどうかはあくまで可能性なのだ。
(ラナンは物語に余り関わりがないが、ハロルドは恐らく活動を始めている……いや、それもハロルドが実行犯とは限らないのか?)
だがそれを言い始めるとキリがない。
バタフライ効果という言葉がある。
小さな誤差が時間経過などによって大きな誤差となり、最後にはどうなるか分からないという意味の言葉だ。
既にリョウヤの知る展開とは違っている。
その誤差が後々どのような影響を与えてくるのか考えてしまうが、答えが出るはずもない。
リョウヤが溜め息を吐くと、レイが自分を見上げていることに気が付いた。
――レイはリョウヤと全く同じ状況の龍だ。
リョウヤが地球からエデンへの異邦人ならば、レイは異邦龍。
レイはゲームの存在の筈なのだが、旅以前にリョウヤが確認したところ、普通ではない事態に気が付いていた。
リョウヤと同じ状況にいる、リョウヤと非常に親しい龍。
それはリョウヤの理解者でもあり、同時に心の支えだった。
「ああ、じゃあ交代頼むな」
二人と二龍の旅。
戦力的にもそうだが、見張りの交代もできるのはありがたいことだった。特に龍は腕輪で休むことが可能で、一晩を見張って貰っても翌日は腕輪で過ごせば良いという人間には不可能な芸当が可能だ。
これは人間二人にとって大きなメリットだ。
おやすみと一言告げて微笑んだリョウヤは、マントをしまい、寝袋に潜り込むのだった。
翌朝。
まだまだ寒い時間帯に起き、日が出ると同時に砂漠へと足を踏み入れる。
ママは一日で砂漠越えることができると言っていたが、今日までに進んだ距離を地図で確かめてみると、日の出と共に歩き始めれば日の入りには砂漠を抜けられる計算になったからだ。
「……暑い……凄く暑い……」
「喋ると余計に体力使うぞ……」
砂漠が初のラナンは呻き、同じく初のリョウヤも低いテンションで返す。
時刻にして十一時。
本格的に暑くなってくる時間帯だ。
太陽はちょうど真上で燦々と自己主張しており、二人は砂漠地帯用のフード付きマントを纏いながら滝のような汗を流す。
普段ラナンはショートパンツからふんだんに足を晒しているが、今日ばかりはサンオイルを塗った上から黒いタイツを履いている。照り返しだけでも肌が焼けてしまうので、ママの助言に従って紫外線カットのタイツを買っておいたのだ。
対してリョウヤは長袖長ズボンでほとんど肌を晒していないので、最低限のサンオイルを塗っただけだ。暑さに関してもまだ耐えられる。
日本の夏って異常だったんだな、としみじみと思うリョウヤ。とは言えまだまだ気温が上がるのを考えると、そんなことは言っていられなくなるだろう。
「あ……サンドスコーピオン」
ラナンよりも前を歩くリョウヤが呟き、意識を臨戦態勢に入れ替える。
砂中から這い出て来た犬や猫を優に上回るサイズの大きな三匹の蠍は、擬態するかのように砂と同色だ。
砂漠に入り最早何度戦ったか分からない相手を前に、ラナンは据わった目でサンドスコーピオンを睨んだ。
「モンスター……」
苛つきを含んだ呟きと同時に、砂漠蠍は動き始める。
虫特有のカサカサとした動きだ。
甲殻が比較的堅いのが甲虫型モンスターの特徴なので、ラナンは刀剣ではなく一本の杖を構えている。リョウヤは短刀だ。
これがゲームならリョウヤは大剣か大鎌を振り回すだろう。
が、現実で砂漠のような暑い環境で大型の武器を振り回すと非常に体力を消耗する。
最初に片刃の短刀を両手で逆手に構えるリョウヤが突っ込む。
目的の一つがラナンの成長なので、比較的ダメージを与えるようなことはしない。
鋏となっている前足を弾き、毒針となっている尻尾を避ける。
それだけ聞くと簡単だが、これを三匹同時にこなしている。自分には真似が出来ない芸当だと、ラナンも最初は大仰に反応したものだが、今となってはそんな元気はない。
「師匠、退いて……」
相も変わらず苛ついているラナンの指示に従い、リョウヤは一足で三匹の砂漠蠍から距離をとる。それは地味に【縮地】と呼ばれるスキルの最上級だったりする。
「フリーズランサー……!」
水色の魔法陣を足下に広げたラナンの頭、右肩、左肩の上に現れた氷柱が勢いよく射出される。
攻撃魔法スキル【フリーズランサー】によって捉えられた三匹の砂漠蠍は氷柱に突き刺される。容赦なく突き刺し、氷らせ、砕け散らしたラナン。
ゲームに於ける【ファイアボール】はほとんどが初期魔法の一つだと思う。それはKODでも同じで、その属性互換の一つがフリーズランサーだ。
つまり氷属性の初期魔法。
氷の魔法を選んだのは、砂漠地帯の敵には大概通る属性だからだ。
ラナンも当初は氷柱を一本しか出せず命中率もイマイチだったが、今ではとてもそうだったとは思えない。ステータスこそ見ることができないが、既に熟練度は上がっているのが分かる。
リョウヤの知識と判断では、ラナンのフリーズランサーは最低でもレベル三以上、恐らくは五である。初期魔法の最大レベルが十なので、この値は良くはないが悪くもない。
(気温が上がりきる前に魔法の扱いに慣れたのは幸いだったかな……)
それに、まだまだ低レベルであろうラナンが低レベル武器でもウェスタンダートで戦えているのを見るに、主人公補正云々ではなくレベルの概念がないのが窺える。
そうなるとリョウヤのステータスはどうなるのかと言う話になるが、今は異邦人だからと置いておくことにする。
エデンの住民にはゲームのスキルがスキルと認識されていない。スキルと呼ばれることならばあるが、"そういう能力"がある程度だ。けれど確かに存在はしている。
攻撃スキルは言わずもがな。
攻撃以外の汎用スキルもだ。
そのスキルの中には加護スキルと呼ばれるスキルがある。
パートナードラゴンによって異なる効果が発動するスキルだ。
リョウヤの場合は高ランクの【星龍の加護】が常時発動しており、その効果には状態異常耐性が含まれている。
そして低温状態や高温状態は状態異常に当たる。
流星雷光龍衣事態も状態異常耐性が高い。
恐らくそのおかげで、現時点でリョウヤが感じている気温は日本の夏程度のものになっているのだろう。
「休憩するか?」
ゴクゴクと水筒の水に口を付けているラナンにリョウヤが問いかける。
味付けされた水筒の中身はスポーツドリンクだ。水にハチミツや塩、レモン果汁を混ぜたリョウヤのお手製である。
大汗かいたら水分補給をとはよく言うが、現実には水だけ飲めば良いというわけではない。
汗には塩分も含まれているからだ。
発汗により水分と塩分を失った状態で水だけ飲むと、体内の塩分濃度が下がる。そうなると虚脱感や疲労感は増すし、最悪死に至る場合もある。
故に大汗にはスポーツドリンク等が望ましい……そんな知識は持っている人も多いだろう。が、簡易的とは言えスポーツドリンクを手作りできる人はどれくらいるんだ? なんてことはリョウヤとて自覚はあった。
これに関しては、いつか話した通りリョウヤは母に言われて運動はする方だ。その際にスポーツドリンクを使うのだが、市販の物より手作りした方が安い。
リョウヤの家は決して貧乏ではなかったが、自分なりに節約してみたという話だ。
エデンにスポーツドリンクというのは存在していないが、成分的にベストだと言われた飲み物と、その説明にラナンは素で驚かされたていた。
「ん……早く抜けたい……」
力の無いラナンに返事に、リョウヤも「だろうな」と汗を拭いながら答えた。
これから更に暑くなるだろうし、長居し過ぎて砂嵐などの災害に巻き込まれるのも危険だ。
しかし一度も禄に休憩しないというのも問題なのは明白。
「少し離れた所に見えるのは遺跡跡か……あそこで一回休憩だな」
「……はぁい……」
口数少ないラナンではあるが、リョウヤの指示には絶対に従ってくれる。
幸いにと言うべきか、遺跡跡に着くまでに一度しかモンスターとは遭遇しなかった。尤もその一回が砂漠蠍だったので、ラナンは更にストレスを溜め込んだが。
遺跡跡は文字通り遺跡があった跡で、廃屋どころかギリギリで外壁が残っている程度のものだ。それでも日陰がある箇所もあり、中には広い日陰も存在する。
当然選んだのは広い日陰だ。
「……」
「……」
日陰一歩手前、まだまだ陽光を存分に受ける位置で立ち止まる二人。
遺跡跡は砂漠にある古い遺跡というだけあって石作りをされている。壁という壁など崩れ去り、屋根として機能がある部分は二階の床という始末だ。
そんな中、一人の見知らぬ少女が眠っている様は幻想的でもあったのだ。
とは言え、暑い上に疲れているリョウヤとラナンは見惚れたわけではなく、単に状況の理解に時間がかかっただけだったりする。
まず最初に「え? 誰?」と思った二人は、すぐに「じゃなくて!」と慌てて少女に駆け寄った。
「息はある……良かった」
ラナンが少女の手を取り脈を確認しながら呟く。
壁にもたれ掛かって目を瞑っている少女は、洋装に藍色の着物を羽織るというリョウヤとある意味で似た姿をしており、そのセミロングな髪は艶やかな黒だ。
リョウヤとの共通点の多さに同郷かと思ったラナンの考えは普通である。尤もリョウヤの故郷は文字通り違う世界にあるので、それはありえないと断言できる。
リョウヤは見覚えのない少女を前に、魔物避けを発動する。ケミカルライトのように折ることで効果を発揮する魔物避けだ。
スティックを持ち運べば魔物を寄らせずに移動できそうだが、実際は折った位置を中心に結界が広がるので、移動すれば結界の範囲外に出てしまうのがオチだ。
「……ん……人間?」
気怠げに瞳を開いた少女。
ゆっくりとだが立ち上がろうとする少女に、ラナンはそのままで良いと言いながら水筒を手渡した。
「飲める?」
「……。……水じゃない」
「汗かいたら塩分も取らなきゃいけないって師匠が作ってくれたの。レモンとハチミツで味付けされてるから美味しいよ?」
水筒に鼻を近づけたのは匂いを嗅ぐためだったようで、ラナンの言っていることがすぐに真実だと分かった少女は一口だけお手製スポーツドリンクを飲んだ。
悪くなかったと一言だけ感想を述べ、立ちが上がろうとする少女。
「結界使ったし、調子が悪いなら休んでた方がいい」
「そうだよ! あ、何か食べる?」
立ちが上がるのを止めようとしたラナンだったが、少女の予想外の怪力に力負けする。
そのまま立ち上がった少女は、服に付いた汚れを払うように叩き一言。
「私は眠っていただけ」
――は?
リョウヤとラナンは揃って口を開ける。
余りのも当たり前の様に、しかも起こされたことに不満のあるような言い方に、唖然とした言っても良い。
言葉の意味をすぐに理解ができなかった
「眠ってたの!?」
「あんなに無防備にか!?」
驚愕に声を荒げた二人を無視して鼻を鳴らす少女だったが、何かが気になったのかラナンに顔を近づけた。
謎の少女の身長はラナンより頭一つ小さいので、ちょうど胸元辺りだ。
どうやら匂いを嗅いでいるようで、それに気が付いたラナンは慌てて後退る。
砂漠を歩き、盛大に汗をかいているのだ。
十五歳の少女が気にしないはずもない。
「なっ、何! かなっ!?」
ラナンの頬が赤いのは暑さのせいはない。
ラナンもリョウヤも香水を付けて誤魔化してはいるが、それでもこの状況で匂いを嗅がれるのは嫌だろう。
「……汗臭いとかではない。二人とも同じ香水だから混じって変な香りになっているわけでもない」
淡泊且つ冷静な少女はリョウヤを見る。
男ならそこまで気にしないだろ、そう言われた気がしたリョウヤは、見知らぬ少女を観察することを諦め、代わりに息を吐いた。
「何がそんなに気になるんだ?」
「貴方たち……特に貴方の気配は変だから」
変だと名指しされたのはリョウヤの方だった。
ドキリとする。
まさか自分が異世界人だと分かったのか? と。
「人間なのに、龍の気配が濃い……それに――いえ、なんでもない」
目を細める少女だったが、諦めたように首を振る。
反対にリョウヤは納得した。最後の一言には不安を煽られたが、問い質したところで少女が答えてはくれないことが目に見えていた。
「龍の民……いや、亜人か?」
「思ってたより賢いのね」
エデンで龍の気配を感じ取れる存在は決して多くはない。
リョウヤが言った龍の民は登場回数こそ少ないがゲームのキーパーソンであり、亜人は人間よりも生物の気配に敏感なので龍の存在を感じ取れる者もいる。
少女は後者のようで、リョウヤの出した結論に対する返答は淡々としてこそいるが、ここに来て初めて雰囲気を和らげた。
「亜人! 初めて会った!」
「まぁ、ハスタ諸島から出たことないんじゃそうもなる」
ラナンのはしゃぐ反応は初心で微笑ましい。
初めての出会いや経験で喜ぶ姿は誰の目にも微笑ましく、これにも少女は頬を僅かに緩めた。それでも無表情に近い辺りかなりの警戒心を抱いているのか、それとも素なのか。
「私、ラナンっていいます! あなたのお名前は?」
悪意の全くない言葉。
リョウヤにとってはありがたい展開だった。
ゲームで知らない人物の情報だが、リョウヤが直接聞くのではどうしても打算や警戒が混じってしまう。声に混じってしまうそういった感情も、恐らくは亜人である少女は感じ取ってしまうだろうから。
「私はしゅ……紅、そう呼んで」
しゅ? とリョウヤの中に疑問が生まれ、すぐに名乗ったのは偽名なのだと理解した。
(しゅ、ね。紅と名乗ったことから考えると朱か? 姿から見ても日本人をベースにしたキャラクター……って言う判断がもう無意味か)
これがゲームの話だったのなら、そこから情報を取捨選択していけば彼女の正体に近づけるのだろう。
事実KODでリョウヤはそうやってプレイしてきた。
攻略サイトもつい最近まで頼ったことはない程だ。
「師匠?」
「ん? ああ……俺はリョウヤだ。よろしく、紅」
ラナンに呼ばれ、少し遅れてリョウヤが名乗る。
「それで……そう、龍だったか? そいつは多分――……相棒」
リョウヤが呼びかけると龍庭の腕輪から躍り出るレイ。それに釣られるようにラナンの腕輪からリオンも現れ、紅は驚愕に目を見開いた。
「……なるほど。常に一緒にいれば気配も混じる、か。……ラナン嬢も長いのだろうけど、リョウヤ坊の方はそれ以上に龍との付き合いが長いということ」
驚いた様子を見せたのも一瞬で、すぐに表情を戻す紅。
納得させておいて何だが、リョウヤ自身は龍の気配の濃さの原因は他にもあると思っている。
それはスキル【龍人同体】だ。
リョウヤのダメージがレイに、レイのダメージがリョウヤにそれぞれフィードバックされる。リョウヤの種族に龍が、レイの種族に人間が加わる。加護スキルの効果上昇。リョウヤとレイが同時戦闘時にステータス上昇補正。
そんな四つの効果が発動するスキル。
効果としては、最初の一つは完全にデメリット効果だ。
二つ目の種族が加わるというのは特殊なスキルだが、龍殺しや人間殺しが互いに通るようになるという分かりやすいデメリットが存在する。がKODでは種族間に小さな値で変化する相性があり、種族が二つになった場合はより有利な方で攻撃や防御となる。また二つの種族が相手に対して有利になると効果が足される。つまりメリットは二つあるのだ。
三つ目は文字通り。
四つ目も文字通りで、詳しく説明するなら、リョウヤとレイの場合は互いの距離が遠い程に補正は上がる。ただし離れ過ぎては効果自体が発動しなくなる。
龍人同体はパートナードラゴンとの絆が最大になった際に会得したスキルで、流星雷光龍衣にデフォルトで備わっている。
流星雷光龍衣……これは所謂"絆防具"で、プレイヤーのパートナードラゴンによって異なる物が手に入るのだが、この入手条件はパートナードラゴンとの絆を最大にすることと、パートナードラゴンのランクの最大解放だろう。と言うのがリョウヤが所属しているギルドの面々の見解だ。
龍人同体のことをリョウヤは説明はしない。
エデン的に異常なスキルなのは分かりきっているからだ。
だが、スキルの名や発動する効果から見ても、リョウヤが龍の気配を濃く纏っている理由の一つとしては充分過ぎる説得力だった。




