D-V.プロローグ⑤
プロローグはここまでです(多分)。
ラナンがリョウヤに弟子入りを果たしてから数日が経過し、明日はイスタンダート大陸へと向かう船が出航する日だ。
ウェスタンダート大陸の最東端であるイーストジーハからの船で大凡三日程かかる……らしい、と言うのはリョウヤも知っている。
KODに限らず、ゲームには単語帳のような物でゲーム特有の単語を説明するシステムがある場合が多い。
KODに関してはワードブックやエネミーブック、ウェポンブックと言うようにブック、つまり本という形である。
本とは言っているが、実際はルーズリーフをファイルした物で……KODEではキャクターメイクをする際に筆跡も登録でき、それをしているとプレイヤーが自分で書き込んでいったかのような本が作れるというものだ。
その中のイーストジーハのページに各港までの航海時間が書かれていた。
KODOでの主要な町やフィールドへの移動は一瞬で済ませられるし、船などの移動は簡略化されている。だからリョウヤも航海というのは随分と久しぶり、というかKODでも本格的な船旅は初だった。
「換装魔法ってのは便利だねぇ……しまえる量は無限なのか?」
「まさか! 限界はあるし、容量も基本は人それぞれだよ」
どれだけ買っても荷物にならない利点を生かし、旅に必要そうな物を買っていくリョウヤ。
アイテム所持数にはまだ余裕がある。
プレイヤーの換装魔法というのは魔法ではあるが、あくまで道具の能力なのだ。
ゲームでよくある、何でも入り、いくらでも入る、主人公のみが持っている鞄イコール換装魔法、これがタネだ。
だからメニューのアイテム欄で所有物の確認ができるし、無限に入れられるでもない。
だから恐らくリョウヤの換装魔法とラナンのそれは、厳密には違うのだろう。
時間はまだ昼前なので、町中が活気づいている。
最近はずっとラナンと行動していた彼も、今日ばかりは一人で気楽に商人達の多い通りを歩いていた。
昨日までは欠かさずにラナンに付き合い、時に実戦形式で打ち合い、時にフィールドでモンスターと戦うのを見守り助言もしていた。
更に言うなら教えられるだけの知識も、基礎的なものから教えている。それら座学は食堂かバーの上の借り部屋でしていたのだが、途中で構って貰えなくなったマコが泣きながら乱入。
子供に泣かれてしまってはリョウヤも立つ瀬がなく、ラナンの「マコちゃんも一緒に勉強する?」という提案に助けられた。
アルマとルコもリョウヤの話には関心があったので、それ以降はマコ達の家で座学をするいうのが通例となっていた。
マコはリョウヤの膝の上で話を聞き、ラナンとルコは丁寧に紙に教えられたことを書き取り、アルマは家事やおやつを用意しながら聞く、そんなリョウヤの予想よりも大所帯の講義となってしまった。
(また泣かれる、かな……?)
船の出航日時は決まっている。
アルマとルコに伝えてあり、二人はマコにも教えたと言っていた。
だがリョウヤとて、マコにはかなり懐かれてしまったという自覚がある。
昨夜も別れ際には随分と寂しそうな顔を作られてしまったのだ。
(後ろ髪引かれるってのは、ああいうのを言うんだろうな……)
小さな溜め息と共にバーの裏口から家に入る。
最初はバーの正面入り口から入りかけたこともあったが、たった数日で慣れてしまった。
元から見知っていたせいか、馴染むのが早いとリョウヤ自身も思っていることだ。
「うん? 帰って来たのかい」
階段を上がってリビングに顔を出すと、ママが新聞を難しい顔で読んでいた。
リョウヤに気が付いたママは、新聞から目を外しておかえりと微笑む。
「……これ、今日まで世話になったお礼」
ただいまと返したリョウヤは、先ほど買ったばかりのお酒とつまみを取り出してテーブルに置く。
ゴトリと重い音を立てて置かれた酒瓶は、庶民では手が出ないような高級品だった。
「用意するだろうとは思っていたけど、随分と高いのを持ってきたねぇ……」
「金、結構あるからさ」
皮肉じゃないか! と笑うママ。
それにリョウヤが釣られ、二人で一頻り笑った後、ママは持っていた新聞をリョウヤに投げるように渡してきた。
「イスタンダートは今、かなり荒れてるみたいだよ」
ママの目は、本気で行くのか? そう尋ねている。
「……魔物と竜種の凶暴及び活発化、か」
新聞にでかでかと書かれた文字を目で追って、リョウヤは椅子に腰掛けた。
「俺としては、このままウェスタンダートに留まり続けなくちゃいけなくなる事の方が問題でさ」
パラパラと新聞を流し読むリョウヤ。
それを見て、ママはついつい勘繰ってしまう。
どこかの組織の人間なのではないか? と。
リョウヤ程の実力者なら有名でないことの方がおかしい。そこからも表だって行動できない組織の一員なのではないか? と。
それが邪推であることはママも理解しているし、リョウヤが悪い人間ではないことも分かっている。
そのことから更に察っせるのは――国直属の、それも国のトップの人間……恐らく個人に仕えている可能性。
ラナンが弟子入りをしたという報告は当人達から当日のうちに受けている。
その時に言っていた斬装魔剣士というのは、リョウヤが秘密裏に呼ばれている二つ名なのではないか? ママはそう考えていた。
実際はただのコアゲーマーで、ゲームの旅ならともかく現実での旅の経験など皆無なのだが。
(ウェスタンダートにいたが、イスタンダートを中心にする異常事態に呼び出された……)
国の重鎮なら転移門と呼ばれる移動装置で大陸を移動できるが、それを仕えるのは極一部の人間のみ。懐刀のような立ち位置のリョウヤが使用できるはずがない。
港町のバーという飲み屋はアンダーグラウンドな情報も集まる。それ故にストーリーがママの中で出来上がってしまう。
それを知る由もないリョウヤは軽い調子で続けた。
「ラナンが心配なら説得してくれ……俺には無理だ」
あいつ頑固なんだもん、と肩を竦めるリョウヤは楽しそうだった。
実際、ラナンは飲み込みが良い。そこに真面目さも加わるので、教え甲斐があるのだ。
「迷いの森に入るって言った時も、自分は絶対に引かないって目をしてたからね」
呆れながらも、それがラナンの長所だということが分かっているママは優しげに笑う。
そんな穏やかな時間をぶち壊すように、裏口の扉が開かれる音が響いた。
ドタドタと激しい音を立てて階段を上がる音まで聞こえ始め、ママは不機嫌そうに表情を歪めた。
少し褒めただけでこれかい、と呟くママ。
リョウヤとて、先の呆れた様子のママが口には出さずともラナンを評価しているのは分かったので、何とも言えない顔で乾いた笑みを浮かべた。
「――大変!」
勢いよくリビングに飛び込んで来たラナンは、開口一番にそう叫んだ。
「あんたね、もうちょっと静かに……」
「それはごめんなさい! でもそれどころじゃなくて……!」
異常なまでに慌てているラナンに、これはおかしいとママとリョウヤ。
ママは一度ラナンを落ち着かせようと近付いたが、そのラナンは「海が……えっと、船が……」と一人で呟き、ママの手を掴んだ。
そのままリョウヤの近くに寄り、今度はリョウヤの手も掴む。
するとラナンは――駆け出した。
あっという間に外に出される二人。
いつの間にか天気は薄暗く、空気も湿気を含んでいた。
グンッ! と引っ張られるように走り出すリョウヤとママ。いや、リョウヤはまだ良い。走り慣れているし、体力もそれなりにあるからだ。
だがママは……ラナンが目的地にまで着き、止まる頃には完全にグロッキーだった。
辿り着いた先は港だった。
既に人集りが出来ており中々進むことができない。そこで漸くラナンは二人の手を解放した。
振り返ったラナンの頭を、ママがヨロヨロしながらも引っぱたく。
「いったぁ!?」
叩いた勢いのまま倒れかけたママをリョウヤが支えると、それを確認したラナンも慌ててママに寄り添った。
「アンタね……アタシは、一般の……経営者なんだよ?」
ゼェーゼェーと息を荒くしているママに力なく睨まれたラナンは、これ以上無いほど盛大に目を泳がせた。
「ご、ごめんなさい……」
全く気にしていなかったというラナンの謝罪を受けたママは、リョウヤ達の支えを自分で解き、シッシと追い払うように手を振る。それが自分を置いて行けという意味なのは明白だった。
リョウヤとラナンの二人が人集りに近づくと、それに気が付いた町民達が道を空ける。それは一人二人ではなく、さながらモーゼの十戒のようだ。
流石にそんなことをされては二人も戸惑ってしまう。
何が起こったのかを人伝いに聞いていたラナンはともかく、何よりもリョウヤの戸惑いを加速させたのは道を空けてくれた人達から自分達に向けられた同情の視線だ。
経験上すぐに視線に込められた感情は分かったが、それがなぜ今向けられているのかは分からない。いや、分からなかった。
人集りを抜けた先に広がる海を見るまでは。
「これは……!」
予想していなかった光景に息を飲むリョウヤ。
海面には一目で大型船だったと分かる残骸と、大量の魚の死骸で覆い尽くされていたのだ。
波に揺られる異様に視界を埋め尽くされ、嫌な予感がリョウヤの頭を過ぎる。
「……イスタンダートとウェスタンダート間を航海していた船だ」
「浜の方には人が打ち上げられていたって……」
二人に教えるように男女が呟いた。
ラナンは強く拳を握りしめ、リョウヤは一つの可能性に思い当たった。その瞬間、水平線の果てから巨大な水しぶきが勢いよく上空に立ち上る。
リョウヤ以外、ラナンも含めた全員が体をビクつかせる。
なんなんだ!? と辺りが騒がしくなった所で、リョウヤは静かに告げた。
「――今のは海竜のブレスだ。それも桁違いにデカイ奴の、な」
その一言で、先ほどとは比べものにならない程ザワつき始める町民達。顔を青くし、中には悲鳴に似た声を上げた者までいる。
大陸の端の町に実力者が来ると言うことは少ない。そんな町に住む彼らにしてみれば、リョウヤの発言力は非常に高くなっているのだ。
「暫くは船での漁は控えた方がいい」
反感を買うかもしれないと思ったリョウヤの意見は、思いの外簡単に受け入れられた。
皆命が惜しいし、ある程度の自給自足が成り立っているからだ。船が出せずとも釣りはできるし、ウェスタンダート大陸内なら海を渡ることなく移動できるのも大きい。
慌てて町中に知らせに行く者を見送り、リョウヤは海の果てを見つめる。
(ゲームでの話でいくと、戦っているのはレイドボスに当たる竜と魔物……)
二体が争い、船が出せなくなるというのはシナリオ通りだ。
現状ラナンがウェスタンダートにいることからも分かるが、トマリージハスタ諸島からウェスタンダート大陸行きの船はある。
だがKODEの舞台はイスタンダート大陸。ゲーム上、トマリージハスタ諸島からウェスタンダート行きの船が来ることはない。
船が来なかった理由はKODOで明かされ、それが大型の海竜と大型の海魔による争いなのだ。
レイドイベント自体もかなり大規模だ。
船を出して海上で戦うことができないので、二体を浜辺の方にまで誘い出して戦わなくてはならない。その誘い出しが第一フェイズ。
浜辺での戦闘が第二フェイズ。
逃げ出そうとするボスを逃がさないようにする第三フェイス。
背水の陣で向かって来るボスと戦う第四フェイズ。
これら四つのフェイズからなるレイドイベントで、ボス二体が恐ろしく巨大なこのイベントは怪獣決戦と呼ばれていた。
いくら高ランクプレイヤーのリョウヤでも、一人ではどうしようもないのは明白だった。
「師匠?」
「うん? ああ……プランの練り直しがいるな」
不安げに自分見つめるラナンにリョウヤが返すと、海面の遠くの方が雨に打たれ始めていた。それはあっという間に港にまで近付いて来、とうとう雨粒は港を襲う。
遠くを見るリョウヤの手に、持ったままだった新聞のインクが溶けて落ちていく。
(目的が定まって、いざ向かおうと思った矢先にこれか……)
どうしてもう少し早く船が来ていなかったのか、そしてどうしてもう少し後に竜と魔物が争いを始めなかったのか。
海上で争いに巻き込まれなかっただけマシなのは分かる。
それでもどうしようもない苛立ちを感じていたリョウヤの手を、遠慮がちに引くラナン。
ラナンとしては師匠が考え事をしているようなのでソッとしておきたかったが、既に辺りにいた人達も散り散りになってほとんど残っていなかったのだ。
復活していたママだけが、気遣うように二人を見つめている。
リョウヤが少し慌てた様子で「戻らないと風邪ひくな」と促し、ママを含めた三人で急いでバーに戻る。
「――はぁ、今日は走らされっぱなしだね……」
ママがタオルを持ってきてリョウヤとラナンに手渡す。
バツの悪そうな顔でタオルを受け取るラナン、無駄に雨に濡れさせてしまったと罪悪感に襲われたリョウヤ。
更には船がダメになり、死者も出ているようだった。
リビングの空気は重い。
だが適度に水気を拭き取ったリョウヤは、場の空気を払拭する意思の強い声音で口を開いた。
「俺は当初の予定通り明日にはこの町を出る……ラナンはどうする?」
この問いかけに、残っていても構わないという意味が込められているのはラナンにも理解できた。だが彼女にとって、予定道りに町を出るという案は渡りに船だった。
何故なら長居すれば、それだけ黒竜に見つかる可能性があると思っているからである。
だからと言って人との関わりを絶てる筈もないが、一カ所に留まる期間が長くならないようにとは考えていたのだ。
「一緒に行く! だけど……どこに?」
勢いよく答えたが、イスタンダートへの道筋が途絶えたと思っているラナン。
リョウヤはテーブルに地図を広げて答えた。
「ウェスタンダートからイスタンダートへ行けるのは、何もこの町だけじゃない」
「なるほど確かに……手段にしたって船だけじゃない」
リョウヤの言いたいことが分かり、ママも納得顔だ。
「それにしても、かなり良い地図持ってるね」
「本当だ! 自分のいる場所が分かる!! それに方角も!?」
「……金払ってる分、性能が良いからな」
最初に迷いの森で確認した全国版ではなく、地区版……ウェスタンダート大陸の詳細な地図には、地図のある場所……つまり現在地が点滅している。そして右上にある方位記号は二重になっており、地図を平面に置いた際には片方が必ず北を指し示すのだ。その機能を用いて、地図の向きを方角に合わせる。
ちなみにKODでは地図にも種類があり、リョウヤの持つ地図は結構な上位のものとなる。とは言えKODOでは地図を使う機会自体は大して多くないので嗜好品に近い。
「それは置いておいて」
リョウヤは地図の現在地から北西と南西に向かった場所にある町を指さす。
「船自体はここや……ここでも出る」
「だが海路は危険なんじゃないのかい?」
ママの指摘に頷くリョウヤ。
ウェスタンダート大陸は十字のような形をした大陸だ。
その東側の最先端にあるのがイーストジーハになる。
「北側に飛空挺が出てる町、ホクスカイトがある」
「飛空挺!!」
リョウヤの当ては空を飛ぶ船、飛空挺だった。
見たことはあっても乗ったことはないラナンが目を輝かせる。
飛空挺は船とは比べ物にならない程の金を取られる。大丈夫なのかとママは思ったが、よくよく考えればリョウヤはかなりの額を持っているようだったのを思い出し、特に追求するのをやめる。
リョウヤがお金を負担するとして、そのことを知ったラナンの反応が目に浮かんだからだ。
(絶対に遠慮ないし、時間をかけてでも返すって言うだろうからねぇ)
(流石はママ、こちらの意図をすぐに読み取ってくれた)
リョウヤはママが何か言いかけたのを見逃さなかった。その一瞬、二人は目が合い、ママは黙ったのだ。
「ホクスカイトに向かうなら砂漠越えかい? 馬の調達できるかね」
イーストジーハからホクスカイトに向かう場合、大陸中心部の帝都へ向かってから北に上がるのが正規のルートだ。
その道筋には、イーストジーハから帝都への間には砂漠が存在している。
「……いや、砂竜が狂暴化してる可能性が出てくると、北西に突っ切って向かった方がいいかもな」
「あぁ、イスタンダートじゃあ砂漠の魔物も凶暴化してるんだったね。海が荒れ始めたから、砂漠も……やっぱり大したモンだね、アンタは」
ママに褒められ、そんなんじゃないと謙遜するリョウヤ。
バーに戻った時点での重い雰囲気は、もう影も残っていない。
だが忘れないで欲しい。
今この部屋には三人いるのだということを。
「もー! 私にもちゃんと説明してください!!」
怒り半分寂しさ半分と言ったラナンの叫び。
リョウヤはゴメンゴメンと苦笑し、ママも悪かったねと狂暴化についての説明をする。
イスタンダート大陸を中心とした魔物と竜種の凶暴化と活発化が進んでおり、それにはイスタンダートの砂漠も含まれている。
そして今日、ウェスタンダート大陸付近の海の竜と魔物が暴れているのが確認された。
そこから、狂暴化と活発化の範囲が広がって来ていることが窺える。
つまりウェスタンダート大陸の砂漠でも同じことが起きる可能性があるのだ。
「砂漠にも大きな竜が……?」
それを聞いたラナンは恐る恐る問う。
「いや、魔物がね。……それにそもそも素人の砂漠越えは危険なのさ。アンタ、経験ないだろう?」
「ないです……」
ママはリョウヤが素人とは毛ほども思っていない様子でラナンの心配をしている。実際はリョウヤにとっても砂漠越えは危険なのだが。
(砂漠……えっと、水は喉が渇いてなくても小まめに飲まなくちゃいけなくて……)
頭の片隅で必死に砂漠に関する知識を掘り起こすリョウヤ。
現代なら車が必須なのだろうが、生憎とエデンに車などない。それにリョウヤは免許もない。
必要なのは肌を焼かない為の長袖、帽子、携帯食料、水分。
十一時から十五時が最も暑い。
そんな情報を纏めつつも、リョウヤは口を開く。
「北西に突っ切る場合……道こそ整備されてないけど、砂漠地帯は極僅かだ」
「アンタ達なら一日で抜けられるだろうね」
ママのなんとんく告げられた一言に、リョウヤはラッキーだと思った。実際に生身で旅をしたことのないリョウヤにとって、そんな情報はないからだ。
リョウヤの地図があれば迷うこともないだろう。
何より二人揃って換装魔法を使えるのが大きい。手荷物はなく、それでも多くの道具を持ち運べるからだ。
「真っ直ぐに向かえる分、かかる時間も少なく済む……問題は町で休息がとれないこと」
リョウヤの案では砂漠の危険が少ない分、ルート上に町がない。
エデンというのは龍脈に沿って作られている。
KODは町や村が外壁に覆われ、その壁で外部からの魔物や竜の襲撃を防ぐのでは無く、龍脈のエネルギーで魔物や竜からの襲来を防いでいるのだ。
それは物語を進めることで明かされるのだが、エデンの住民にとっては常識の一つだ。
「あ、でも私、簡易結界持ってるよ?」
「俺もある……ま、時間との勝負になるな」
魔物避けは周囲に魔物を寄せ付けなくなるアイテムだ。発動すると周囲一帯に小さな結界を張り、魔物から避けられる。が結界自体は動かないので、魔物に会いたくないなら自分も動けなくなる。
KODでの使用用途は精々がHPやMPの自動回復をする為の時間稼ぎだが、現実的に考えれば夜間など旅の休息を計るにはちょうど良いのだ。
アイテムブックに書かれた詳しい説明では、簡易結界の最上位で最大十時間は効果が続く。充分だろう。
「聞くが、どっちのルートがいい? 正直どっちも長所と短所があるぞ」
前者なら凶暴な魔物と遭遇する可能性があり、砂漠地帯も広い。馬を用いても長い時間を砂漠で過ごすことになるだろう。けれど砂漠を抜けられればすぐに帝都となる。
後者なら砂漠地帯は狭く、狂暴化など件の魔物と出会うことはほぼない。一日で砂漠を抜けられ、目的地まで前者よりも早く着くだろうが、それまで町での休息がとれない。
後者のルートで砂漠を抜け帝都に向かうのも可能だが、それなら真っ直ぐに砂漠を抜けた方が早い。それにホクスカイトの方が帝都よりも近くなる。
リョウヤから分かりやすく説明を受けたラナンは「さすが師匠」と無駄に感動していたが、すぐに悩む姿勢を見せた。
五分程悩んだ後、ラナンが出した答えは――。




