D-IV.プロローグ④
ナイトオブドラゴンには剣士や弓兵、槍使いといった職がシステムとして存在しており、設定するとそれぞれ異なった効果を発揮する。
それは例えばステータス補正だったり、スキルの発現だったりと様々だ。
初期や中期と格付けされていて、後期、終期と続いていく。
そんなよくあるジョブシステムだが、他の多くのゲームと異なるのは武器に制限がないことだろう。
剣士が弓を装備できるし、弓兵が槍を装備できる。
剣士ジョブなら当然ながら剣を使うのに有用な効果が発動するのだが、それは言うなればメジャーであり他のゲームとなんら代わり映えのない組み合わせだ。
だが弓兵で剣を装備すると、遠距離戦を主体とした剣士という変則スタイルがとれるのだ。しかもこの組み合わせは投剣士職を取得するのに必要な条件でもある。
プレイヤーには武器毎に熟練度があるので、一つの武器を極めたいというプレイヤーにはありがたい仕様だった。
小説版KODの主人公であるラナンの初期職は剣士。
他のパーティーメンバーを食わないようにと、基本的には中期後期ともに"前衛の剣士系職"を貫いたキャラクターだ。
小説版にはジョブシステムというの単語は存在しなかったので、あくまでもリョウヤの推察になるが、使っていたスキルや作者後書きからしてほぼ間違いはない。
「私を弟子にしてください!」
現在、そんな主人公に頭を下げられているリョウヤはというと――硬直したまま立ち竦んでいた。
昨夜、どうにか彼女のパートナーであるリオンとの自己紹介を済ませたリョウヤとレイ。終始ガチガチだったリオンにリョウヤは和んだが、後になって小説版のラナンの龍と種類も名前もが違うことに気が付いき困惑したりもした。
その翌日。
木々に覆われた山中にて、リョウヤは自身の調子を確かめに来ていた。
リョウヤの職は、こちらに来てから斬装魔剣士から変更ができない。
終期職に当たり、剣を中心に斬撃系の武器を使うのだが、その最たる特徴は戦闘中に武器を入れ替えることにある。
武器の入れ替えは換装士と呼ばれる職だ。つまり斬撃属性の武器を換装し最低限だが魔法を使う剣士、それが斬装魔剣士だ。
取得条件の判明していない上に聞いたことの職だったので、会得した時はリョウヤも大いにハシャイものである。
現実のKODでも珍しい職で、その戦闘方法も特殊だ。
(戦闘方法に関しては元から珍しいんだけどさ、俺)
リョウヤは斬撃系……剣、短剣、大剣、刀、大鎌といった武器を好んで使う。
それを戦闘中に換装して使い分けるのだが、そんなプレイヤーは極僅かだ。
彼の所属していたギルドのメンバーは同じ事をできるが、それでも少ない。
そもそも武器の熟練度システムのせいで、一つの武器を極めた方が良いという風潮があった。そして一つの系統で一武器を極めたら、次は他の系統を、という風潮だ。
系統は斬撃、打撃、刺撃、射撃、魔撃なので、好みにしろ相性にしろ順にサイクルしていくことで網羅していくのがセオリーだ。
リョウヤの場合は斬撃系統特化で、それを魔法で補うという非常に変則的なスタイルだ。
それを一部とは言えそのまま見てしまったラナンからすれば、物珍しいと思うだけで済みはしない。しかもリョウヤは特化型ではあるが、扱う斬撃系武器の熟練度は最大だ。
更にリョウヤは長い時間をKODに費やしているので、動きが洗練されていて無駄がない。現実では役に立ちそうもないのだが――
「お願いします!」
――強くなりたいと思っていたラナンが、こうして必死に頭を下げるのは当然だった。……が、当のリョウヤからしたら堪ったものではない。
確かにシナリオに介入する必要があるかもしれないと思っていたし、いざとなれば実際に介入しただろう。だがそれはあくまで主人公の一人であるラナンが物語を歩まず、尚且つ世界が物語道りの運命を辿ろうとした場合だ。
姿を隠すことに特化した装備が使えれば、ソレを使うことも視野に入れていた程だった。
(ラナンがここまで絡んで来るのは予想外だった……)
ラナンは人当たりこそ良いが、ナンパしてきた男には塩対応をするような子だ。
マコの件があったとしても、まさか弟子入りなんて請われるとは思っていなかったリョウヤは、たっぷりと間を置いてから――
「はい?」
――と間抜けな顔を晒した。
幸いにもその顔は、頭を下げているラナンには見られていない。
「覗き見してたのはごめんなさい! でもリョウヤ君しかいないの!」
申し訳ないとも思っているラナンは、先ほどまでより深く頭を下げる。
何がだ、何が俺しかいないんだ、そんな言葉がリョウヤの脳を過ぎる。過ぎって、少し考えてみて分かった。
今のラナンの発言、マコの件もそうだが、龍を連れていたのが決定的だろう。
自身より明らかに上の実力、人助けをする人柄、龍を連れているという共通点。それだけ見ると確かに弟子入りするにはうってつけかもしれない。
(安全面を優先して迷いの森を選ばなかったのは失敗だったか)
そちらで行動していれば流石にラナンも隠れて着いては来なかった。というか着いて行けなかったし、仮に行っても下手をすればマコの二の舞になっていた。
リョウヤ的には自分が森から帰れなくなった場合を危惧していたのだが、それが裏目に出た結果、ラナンの追跡を許してしまい、演舞にも似た体の調子の確認を見られてしまった。
「とりあえず顔、上げてくれ」
頭を掻いたリョウヤが言うと、怖ず怖ずと頭を上げたラナンは真剣な目でリョウヤを見つめる。
「……俺に何か教えるとかは無理だ」
「それは見て盗めってこと……?」
(ちげーよ!)
リョウヤの予想よりも前向きな言葉が出てきたが、ツッコみの言葉は口には出さない。
「俺の戦い方を見た奴には斬装魔剣士なんて評されたけど、そんな単語聞いたことないだろ?」
方便である。
恐らくこの世界にもジョブの概念はない。ならば斬装魔剣士は人から付けられた呼び名と告げた方が良い、そう判断したのだ。
「ざんそうまけんし……うん、聞いたことない」
リョウヤが斬装魔剣士の戦い方を簡単に説明すると、ラナンはより一層顔を輝かせた。
(あ、これ駄目なやつだ)
そもそも主人公故なのか、ラナンは粘り強い性格をしている。
相手がどれだけ強大でも立ち向かうし、何度倒れても立ち上がる。何事も諦めない。
リョウヤがラナンを知っているのは小説のおかげで、実際に動いている彼女は見たことがないし、当然会話をしたこともなかった。
読むだけではほとんど感じなかったことだが、こうして話して見て分かった。
単純に頑固でもあるのだ。
人が一長一短のは当然として。長所も見方を変えれば短所になり得る、そういう話だ。
(どうしたもんかな)
頭をガリガリと掻くリョウヤ。
「私、故郷で黒竜にボロ負けして、どうにか撃退こそしたんだけど……でも竜って一度獲物に定めた相手を執拗に狙うんだよね?」
(そりゃ古い伝承の話だ……俺からしたらゲームの中のな)
故にその伝承を真に受けている者が時代遅れなのだ。
だがそんな連中によってKOD主人公は故郷の島を追い出される。島民の全てがそうではないのだが、この時点では誰もそのことを指摘はしていないだろう。ゲームならそれが旅立ちの要因だったので尚更だ。
後々ストーリーが進むとトマリージハスタに戻らなくてはならなくなり、戻った際の島長達の主人公に対する悪辣な対応に仲間キャラクターが怒りを露わにするというイベントだ。
「そういう伝承は確かに多いな……正直、確認のしようがない眉唾な話だけど」
それに島長達の考えは良くも悪くも的中する。人の意思の影響を受けた黒竜は確かに主人公を狙い、ラスボス戦の連戦にまで組み込まれているのだ。
「……可能性はあるんだよね?」
ラナンの言葉と態度に滲み出るのは、焦りにも似た使命感。
(本人からしたら何処で襲われるか分からないし、次もまた生き残れるか分からない……いや、彼女の場合はソレで自分以外の誰かが傷付くことを忌避する、か)
リョウヤとてかなりの時間をKODに費やしている。それはKODEやKODOだけでなく、小説や各種ゲームもだ。
その分、思い入れも大きいのだ。
わざわざラナンに傷付いて欲しいとは思わない。
それに、今の会話で重要な事も知れた。
ラナンが黒竜に襲われていたという事実。
それだけは、どうあっても聞き逃せないことだった。
恐らく黒竜とはファフニールのことで間違いがない。
ならば物語は確かに進み始めていて、主人公はリョウヤではなくラナンだ。
ファフニールの打倒には魔剣グラムが必須で、グラムを装備できるのが主人公だけ。主人公だけが扱えるのは龍の民の血を引いているからになる。
ラスボスキャラクターはファフニールを操り、龍の民に関わりのありそうな人物の抹殺を企てていた……というのが主人公がファフニールに狙われていた理由となる。
(俺は魔剣グラムも聖剣バルムンクも手持ちにない)
グラムが闇属性。バルムンクが光属性。それぞれがスキルで竜殺し、そしてKODEではファフニールキラーを常時発動させる。
キラーというのは対象に対する火力の向上という系統のスキルでは最も高い向上率持ち、対象を名指ししている場合は更に高い。
シナリオで手に入るのはグラムなので、闇属性のファフニールとの属性相性は決して良くはないが、二種類のキラーによる火力は正しく馬火力だ。
設定上グラムかバルムンクでなければファフニールにダメージはほぼ通らず、バルムンクは隠し武器となっている。
必然的に一週目はグラムで戦わなくてはならない。
現状のリョウヤの手持ち武器で、ファフニール相手に何処まで削れるのかは分からない。KODOの武器でKODEの敵と戦ったことがないからだ。
装備上、毒などの状態異常には強い。火力も充分だろう。がグラム無しで特殊な立ち位置のファフニールと戦うことになった場合、果たしてどうなるか分からない。そんな本音から成る不安をリョウヤは抱いていた。
「だから、お願いします!」
再び頭を深く下げたラナン。
いつの間にか出て来ていたのか、リオンまでが地面に下りて頭を下げる始末だ。
リオンは肌でレイの強さを感じ取っていた。だからこそ、そのパートナーであるリョウヤの実力もラナンよりも感じ取っていたのである。その実力がゲームで培ったものなのは関係が無いし、そもそも気が付きようのないことだ。
「斬装魔剣士ってのは換装士の上位系。それを僅かな魔法でサポートするってのはさっき話したな?」
リョウヤが確認すると、ラナンとリオンも頭を上げて頷いた。
「俺は一人で戦うことが多いから、最終的に多くの武器種を扱うためにそういう型に落ち着いたって言う話で……別にラナンが俺の戦い方を真似る必要はないんだぞ?」
打撃系武器の熟練度が最大値ギリギリで止まっているのは、リョウヤが斬撃系武器を最優先にしていたからだ。そして斬撃優先だったのは唯の趣味だ。
「でも私も、出来るなら一人……ううん、私とリオンだけでも戦えるようになりたいから」
一人と言いかけた時、リオンがラナンの足を頭で小突いていた。そのことに顔を僅かに綻ばせたラナンは真剣なまま言い切った。
その様子を見て「良いコンビだな」なんて思ってしまうリョウヤは、既にエデンの世界に毒されている。そのことについて本人は、プレイ時間的には仕方がないと言う。
「武器、何持ってる?」
「え? えっと片手剣と……ナイフ……かな」
「ならまずは買いに行くぞ」
ラナンは踵を返したリョウヤを呆然と見つめた。
リョウヤの足はイーストジーハの町まで真っ直ぐに向かっている。
あれ? え? と困惑しているラナンに気が付いたリョウヤは、十メートル程歩いてから振り返った。
「俺に教鞭の才能があるか分からないけど、出来るだけ力になるってこと!」
言わせんな、とぼやくリョウヤ。
距離が空き、自身の弟子入りに喜ぶラナンはリオンと戯れ気が付いていないが、彼は変なところで照れていた。気が付いたのは腕輪の中のレイだけで、小さく一鳴した。
リョウヤは友人が少ない――というかほぼいなかったので、現実での人との関わりには苦手意識が根底にはある。相手が同年代の女子なら尚更だった。
木々に囲まれた広場のような空間から、綺麗に整えられた土の敷かれた道に出る。
歩くリョウヤに、ラナンはリオンを腕輪に戻して追従している。
「師匠!」
「……」
「師匠?」
「……」
「リョウヤ師匠!」
「師匠はやめてくれ……」
やっぱり俺なのか、と何とも言えない表情をするリョウヤ。
師匠なんて呼び名、日常では使うことのほぼない世界の人間なのだ。
尤もラナン達の住むエデンではそう珍しいものではなく、彼女自身が師弟の関係に憧れを抱いていることから妥協したくないことだった。
「えー? ダメなの?」
軽やかな足取りとは裏腹に、ラナンの顔は不服そうだ。
生まれた時から一人な彼女は、人との繋がりを大切にしている。
お母さんと呼ぶべき人物も、お父さんと呼ぶべき人物もいない。けれど今、師匠と呼べる人物ができた。このことはリョウヤの思っている以上に、ラナンにとっては大きなことだった。
「そう呼びたいなら、それでいいけど。……悪目立ちしそうだな」
最後の呟きは本当に小さなもので、やったー! とハシャぐラナンの耳には届かなかった。
「とりあえず王都に着くまでの関係で良いんだよな?」
「え!?」
互いの目的地が一致していたからこその提案じゃなかったのか! リョウヤは足と顔を凍り付かせたラナンを見て強く思う。
え? と言いたいのは自分の方だと。
「その後も一緒に行動することになったなら続くけどな」
「そ、そうだよねっ! その時になってみないと分からないよね!」
ホッと一息吐くラナン。
実際の所、王都に着いてからのことはリョウヤとしても考え倦ねている。
ラナンが主人公として物語が進むのならば、その時点で別れる必要もないだろう。物語の乖離など、既にしているのだ。
寧ろ一緒にいた方が三戒龍と接触する機会も多い。
ラスボスの一角であり主犯でもあるハロルド=ベルセ=マグナに目を付けられる可能性が高いのは考え物だが、そのハロルドは武術的にも学術的にも天才だ。
(空戒龍を知っているんだ、世界間の移動に関して何か知っている可能性はある)
リョウヤの中では、自分がエデンに来てしまったのはハロルドのせいという可能性も一応ある。その可能性は限りなく低いとは思うが、その膨大な知識には多少なりの期待をしているのだ。
「私も斬装魔剣士になれるかな?」
「ん? まぁ……そういう戦い方を望むなら出来るだけ教えようとは思うが、決して万能ではないぞ?」
「そうなの?」
「斬装は斬撃特化と言ってもいいからな」
それを魔法で補うわけだ、とリョウヤ。
「魔法で?」
首を傾げるラナン。
確かに斬装魔剣士の文字には魔がある。ラナンは魔剣でも使うのかと思ったが、どうやらそうではないようだ。……一応リョウヤも一度は説明しているのだが、その時のラナンは彼女にしては非常に珍しいテンションだったので憶えていなくても仕方がない。
「詳しく言うなら付加魔法だ」
「エンチャント……って炎とか氷とか……属性を武器に付ける魔法だよね?」
「そう、その中に物理属性を付けられるものもあるから、俺はそれで斬撃以外の攻撃手段を増やしてる」
剣に物理属性を付与すれば、斬れなくなる代わりに叩けるようになる。
斬るか叩くかの極端になってしまうし、付加される時間にも限りはあるが、リョウヤはそんな珍しい戦い方を好んだ。
ゲームではMPを消費する。それでも近接戦闘は遠距離戦闘に比べてMPの回復が早いので、これが以外と使い勝手の良い戦い方なのだ。
それでも普通は打撃系武器の一つを極めるのが通例と言えるのだが、リョウヤは一人勝手に縛りプレイをしているので例からは漏れる。
リョウヤは徐ろに刀を取り出し右手で抜刀し、左隣に並んだラナンに刀身を見せる。
不思議そうに刀身を眺めていたラナンだったが、そこに冷気が纏われ、次いで炎が纏われて、それが付加魔法の実演なのだと気が付いた。
それぞれ【エンチャント・フレイム】と【エンチャント・フリーズ】に属する刀剣スキルで、リョウヤの装備しているスキルは一つでそれらを付加させるというものだ。
「何も付加されてない剣は当然斬るしかできない」
KODは自由度が高いゲームだったので刀なら峰打ちで、両刃の剣でも腹で打てば物理攻撃にはなるのだが、この場合……特に後者はダメージが低く、更に武器が壊れやすくなる。
道の外に生えている木。そこから伸びた小さな枝を一閃するリョウヤ。
音も無く両断されポトリと落ちた枝を拾い上げると、大根を包丁で切ったように綺麗な切断面が現れる。
「で、こっからが本題」
リョウヤが【エンチャント・ブレイク】系刀剣スキルを発動すると、刀身とその周囲が心なしか歪む。
先ほど斬り落とした枝を宙に放り、ぼんやりと霞んだ刀身を一閃する。
今度はパキリという音を立てて枝を叩き落とした。
二つに分かれた枝を拾い上げるリョウヤ。
「こういう違いだ」
二つの枝の内一方は両端がそれぞれ異なる。
片や綺麗な切断面があり。片やささくれ立ち、中身が破損している。
「モンスターには斬撃が通り難くても打撃なら通るって奴もいるからな、こうやってカバーしてるわけ」
おおー! と感心していたラナンだが、その言葉の意味から至った考えにラナンは神妙な顔を作った。
「前にあった黒竜、凄く堅かったけどそれも……?」
ラナンの言う黒竜がファフニールで、それがKODプレイヤーが最初に戦った個体ならば、単に自分の火力と敵の防御力の差だ。
「どうだろうな……竜ってのはモンスターと違って特殊な能力持ちが多いから、その可能性もあるにはあるが」
ファフニールが本当の意味で厄介になるのは三戦目からだ。
一戦目は言わば負けイベで、周回特典を使ってもファフニールの体力を五パーセント以下に削った所でイベントが入る。
二戦目はプレイヤーが一周目だと毒攻撃が厄介だが、それでも充分に勝ち目はある。
三戦目からファフニール本体とは別に鱗の方にも体力が設定されており、鱗の体力を零にしなければ本体にダメージがほとんど通らない。
四戦目では三戦目同様の鱗があり、その鱗が一定時間で回復する。そして竜殺しの武器が必要になる。
思い返してみるとファフニールはやはり厄介だった。リョウヤ自身分かってはいたが、この先を考えると気分が落ち込みそうにすらなる。
リョウヤとて、本当ならラナンに黒竜について説明してしまいたい。
だがこの時点でリョウヤがファフニール知っているのは不自然なのだ。
戦うことになる前に、それとなく忠告をするというのがベストだろう。
「とにかく、剣一本で行くにしても付加魔法は必須だ。物理属性の付加だけじゃなくて、属性の付加も便利だしな」
「そっか、明確に炎が弱点のモンスターとかもいるんだもんね」
うんうん頷きながら納得したラナン。
ゲーム上ではフィールドと呼ばれていた山道から町に下りる頃には、ラナンからの疑問をぶつけられ続けていたリョウヤは少し参っていた。
その道程で彼女の意思を確認することも出来たので、リョウヤにとっても無駄な時間ではなかった。
ラナンはリョウヤのように換装士寄りの戦い方をしたいらしい。
リョウヤは魔法や技術を憶えれば一つの武器でも全然やれると伝えたのだが、本人の希望は変わらなかった。
「じゃあソレと……後ソレもくれ」
「はいよ、マコちゃん助けてくれた礼に割り引いとくぜ」
「さんきゅ」
早くもイーストジーハの町で人望を集めているリョウヤ。そしてラナンも、マコの為に迷いの森に行こうとした勇敢な女の子ということで人気だった。
話す度に割り引きをしてくれる商人を相手に笑って返すリョウヤに、ラナンも周囲の人達に答えながら着いて回る。
すれ違う人にお菓子等を貰いながらも、最後に着いたのは小さな公園だった。
遊びに来ている親子達から離れた所で、リョウヤは困ったなと苦笑い。
「まさかこんなに荷物が増えるとは」
「師匠がソレだけ凄いことをしたんだよ」
「人気云々で言えばラナンの方が凄かったろ」
「えー? そうかなぁ……」
布製のシートを広げ、そこに貰った品々を置いていく。
商人にも町の住民にも、お菓子や飲み物、タオルやおもちゃと実に多種多様な物を貰ってしまった。
中には酒まである。
ママにも分けようと言う意見で合致したので、とりあえずラナンが換装魔法でしまい込んでおく。
片付いたシートに二人で座り込み、リョウヤはたった今買ったいくつかの武器をラナンに手渡した。
持ちきれない武器はラナンの近くに置かれていくので、自分が何かするのだろうとは思う。だが説明がなければ理解ができないのは当然で、ラナンは大人しく待つことにする。
「ソレ、全部しまって」
「え? あ、はい」
ラナンは言われた通り換装魔法を駆使して武器をしまう。
再び綺麗になったシート。
「その武器を手元に連続して出し入れ出来るようになれば一歩前進だ」
リョウヤがお手本とばかりに自身の手に刀、大剣、短刀、大鎌と入れ替える。それは余りに滑らかで、全てが現れてから一瞬で変更されている。
やってみ? と促されたラナンは早速試してみる。
最初に彼女の手元に現れたのは一本の木製の杖だった。
「……、……っ」
数秒して杖がなくなり、更に数秒してから黒い鎖鎌が現れる。そしてそれを数秒の後に消した後、ラナンを襲う倦怠感。
息も急に切れ始め、心臓の鼓動が早くなり胸元を押さえてしまう。
「お、遅すぎる……!」
武器の連続換装がこれほど難しかったとは! これほどの負担かかかるとは! ラナンの困惑を察してか、リョウヤは「最初なら上等上等」とラナンの頭をポンポンと叩き、包み紙の覆われた飴玉を手渡す。
「舐めな、精神が安らぐ」
実際にはMP回復アイテムという物だ。
「普段、換装魔法は道具の出し入れが基本だろ? その場合は何度も連続して使用するなんて機会はまずない」
しまっては出し、しまっては出し、なんてことはしない。
財布を換装魔法で取り出すとして、財布を使うのはお金を払うとき、お金を払うという動作をしてから財布を魔法でしまう。
換装魔法を使用する際にはイメージが大切なので、間違った物を取り出すことも少ない。大抵が思い描いた時点で気が付く。仮に必要の無い物を出してしまっても、一瞬で別の物に変えることもないだろう。
上記の例の通り、一瞬で出し入れを繰り返すことはないのだ。
「うぅ……最初に言ってくれれば良かったのに……」
「戦闘中になるよりマシだろ?」
この飴美味しい、と呟きながらも不満そうなラナン。
リョウヤとしては意地悪をするつもりがあったわけではないし、こうなることが予想できていたからMP回復用の飴玉も買っておいたのだ。
小説でも一度だけ、ラナンは武器の瞬間換装を試みたことがある。
その際も今と全く同じ症状に襲われ、危うく死にかけている。
「……最初はゆっくりでも、確実に武器を変換できるようにするんだ。けどその時に変な癖は付けるな」
「……変な癖?」
「順番癖とかだ。好きな時に好きな武器を出せなきゃ意味がないからな」
リョウヤはラナンに飴玉の入った袋を丸ごと渡して立ち上がる。釣られるように立ち上がったラナンに飴をしまわせ、その手に二本の木剣を取り出した。
「瞬間換装の練習は部屋で一人でも出来るから、とりあえず軽く打ち合ってみるか?」
ラナンはこの提案を快諾した。
元々体を動かすのが好きなのだ。
その結果、数時間に渡ってリョウヤはラナンの相手をすることになる。
そればっかりは、流石に予想外の事だった。




