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Knight Of Dragon  作者: 愛兎麦丸
第二章
28/28

D-XXIII.暗雲③/それぞれの龍鬼山

二十日になりましたが、新年一発目です。

今年もよろしくお願いします。

 雨風が吹き荒ぶ中、木々の間を突き抜けるかのように淡い輝きが迸った。


「どぉっはぁ! 掠った! 掠ったぞ今!!」


「大丈夫! 直撃はしない!!」


「……口……閉じてた方が、良い……」


 輝きの正体は、グレイバードラゴンからライトニングドラゴンに進化したレイだった。当然その背にはリョウヤが初期の騎乗道具を使って乗っている。

 そして――リョウヤの背中にはエタフルがしがみついており、左側からは茨木童子がリョウヤのお腹に手を回していた。

 エタフルと茨木童子は、それぞれ自分の腰とリョウヤの腰を頑丈な縄で繋いでいる。

 レイは三人を乗せても尚、高速での飛行が可能だ。【Dクリアコート】を移動前に使い最低限の雨風を防ぎつつ、命綱を結ぶことで強引にレイへの三人乗りを実戦する――それがリョウヤの考えた‘地上を素早く進む方法’だった。


 リョウヤは両手を騎乗道具にとられ、エタフルと茨木童子はリョウヤへとしがみついている。移動はレイ任せで、戦闘はとてもではないが出来ないだろう。だがやはり悪天候というのは好都合なようで、レイに運ばれ始めて一時間が経過しても未だに敵との遭遇はなかった。

 とは言え――隠密のために木々の生い茂るルートを敢えて通っているからか、エタフルが焦った声を上げるのも無理はない。レイを信頼し信用しているリョウヤは「ギリギリ当たらないように飛んでくれてる!」と言い切り、茨木童子は元より小さいので木々に当たること自体が少ないようだ。

 悲鳴を上げた所で暴風にかき消されそうではあるのだが、もしもの可能性を考えたエタフルはきつく口を閉じるしかなかった。


 一方その頃、金熊童子は相談役の老爺と老婆の二人を連れて歩いていた。

 場所は龍鬼山……の深部。主に豊穣の祭りや儀式で年に数回だけ鬼人の訪れる、豪華な雰囲気の漂う長方形の広間だ。

 広間の中心には供物台となる四角い台が置かれており、これでもかという数の果実が捧げられている。

 その深奥。巨大な扉の前にある、人が一人座れるだけの小さな椅子は、扉のせいもあって酷く小さく見えるが、それでも立派な作りなのが分かる。

 棚田のような段差で供物台よりも高い位置の扉と椅子――後者である椅子に座る人物を、相談役の二人は睨み付けた。老婆は元より渋面でいることが多いが、老爺は逆である。そんな老爺が、憎々しさを隠すこともない。


「そイつらが、オまエのイってイた者達か」


 装飾は少ないが、広間唯一の椅子に座する者――人間の大人サイズでありながら、人間とは異なると一目で分かる者が口を開いた。


「然り。この二人がいなくては、龍穴へと続く道は開かれない。否、開く方法はこの二人にしか知り得ない」


 金熊童子は感慨も無く返す。


「敵と通じていたか、金熊童子」


 冷静を装いながらも、内心を怒りに燃やす老婆が零した。

 老婆も老爺も、状況が悪いことは理解していた。椅子から少し離れた位置、椅子を中心し、それぞれ左右の角付近には一本の柱が伸びている。それらに一人ずつ、隠れている。


「裏切り、と罵るか? 成る程。今はそうだろう。私自身、自覚はある」


 老爺と老婆。相談役である二人が、現役の戦闘力を保持していたのは遥か昔のこと。今では二人がかりでどうにか金熊童子と渡り合える……と言ったところだろう。

 敵は金熊童子と、明らかに通常と異なるオーガ。そして姿を見せない二人。更に言うのなら、山中には他にも敵対者がいるだろう。分が悪い、と分析をしていた相談役の二人は、金熊童子の意味深な言葉に眉をひそめた。


「こんな小さな島だけで、我々……鬼人が満足していると思うか?」


 鬼人は基本的に鬼ヶ島から出ることを禁止されている。

 当代の酒呑童子が島から出ているのは、罪人となり島から逃げた先代の酒呑童子を討伐するためだ。それは力関係などから当代の酒呑童子にしか出来ないことであり、けじめでもあった。

 茨木童子がリョウヤ達に「酒呑童子は十五年で戻ってくる」と断言したのは、一先ずのリミットとして決められていた期間が十五年だったからだ。

 それだけの理由がなくては島外には出られないのが、鬼人の現状である。


「外が危険という言い分は分かる。世界は人間共が闊歩している故。いくら我らが人間より上等な存在であっても、数という暴力には勝てない。母数が多ければ、今この島にいる小僧クラスも……奴を上回る実力者も出てくるだろう」


 金熊童子は至って冷めた様子で、けれども演説をしているかのように結論付けた。


「だがそれは――このような小さな箱庭に閉じ込められているからだ」


 言葉に力が籠もる。


「限られた土地、限られた資源、誰もが考える! 種をこれ以上増やすわけにはいかない、とな! 貴様達はそうやって一族に制限をかけた!」


 相談役が、直接言った言葉ではない。全ては鬼人が自主的に考え、行ってきたことだ。だがだからこそ、鬼人は誰にも文句は言えない。そして相談役や、鬼ヶ島へと居住を移したかつての首領は――そうなっていること、そうなるであろうことを知っていた。


「数がなければ、いつまでたっても我らは閉じ込められ! 窮屈な世界でしか生きていけない!」


 静かな怒り、確かな決意は、紛れもなく鬼人を思ってのものだ。それを感じ取った相談役の二人は、小さく呻いて口を閉ざす。


「故に――オーガがこの地に現われ、知性ある者がいたのは僥倖だった」


 足りない数を補えるからである。


「こちらの目的は、りゅウ穴へと干しょウすること。そして、戦力ヲ増やすことだ」


 どこかズレた声音で、人間大で紫色のオーガは会話に加わった。

 相談役の視線が、オーガへと流れる。相変わらず目には敵意が籠もっているのだが、紫オーガは気にした素振りもなく続ける。


「我らのオウも、人間ヲ敵と定めてイるのでな」


 紫オーガの座する椅子の裏側の扉こそが、龍穴へと続く唯一の扉だ。

 扉を開ける手段を知っているのは首領、そして相談役の二人のみである。


「故に我らを連れて来たか……」


 老爺が力なく零す。一族を想っての対応が、金熊童子を――延いては彼の治めていた集落の者達の不満を爆発させてしまったのだろう。相談役だけの責任ではないのだが、それでも言いようのない悲しみは誤魔化しようがなかった。


「然様」


 老爺の心情を知ってか知らずか、金熊童子は一言で冷たく返す。


「言うとでも?」


「言わなければ――南の者を殺していく」


 老爺に代わり老婆が睨むが、睨まれた金熊童子は軽い調子である。

 それでは本末転倒だ! と相談役達は目を見開く。


「星熊童子と、その配下は……我らの考えに従う気はないらしい。ならば仕方あるまい。全てが終われば、数は増えるのだから」


 やむを得ない犠牲だ、と簡単に済ます金熊童子。

 星熊童子と、その集落に住む者達らしい選択だ。自分達の為に他者を害したくは無い、それが違う種族であっても――老爺と老婆にとって好ましく、誇り高い選択だった。


「だが、貴方方が口を割れば犠牲はでない。そして何より、解毒の手段もこちらにはある。後は簡単な話だ」


 毒を用意してあるのだ、当然ながらその毒を除去する手段もあるのだ。

 冷静に残酷な選択を求める金熊童子を見て、紫オーガは愉快そうに口元を釣り上げた。


「目のまエで嬲ってみるか?」


 ふむ、と考える素振りを見せた金熊童子は「だ、そうだが?」と相談役の二人に問いかけたのであった。

 二人は鬼人達のことを自身の子供の如く想っている。出せる結論は、一つしかなかった。

 扉を開ける手段が鍵だと教えられた金熊童子は、尖った雰囲気で廊下を早歩きしている。山故に僅かに円状に続く廊下は、山の中とは思えない整備されており明るい。そこに二人分の足音が響く。

 金熊童子は横を追従している鬼人に指示を出しているのだが、苛立ちを隠しきれていない。


「――では、西の集落に戻るのですか?」


「鍵は茨木めに渡してあるそうなのでな。刃向かう気概などないだろうが……それでももし敵となれば、対応できる者は限られる。私が出向くのが早い」


 茨木童子が鍵を隠していた場合、隠し場所に茨木童子本人を連れていかなくてはならないケースも考えられる。

 茨木童子がなんらかの抵抗を見せれば、結局は金熊童子が赴かなくてはならなくなる。二度手間は御免だった。

 それでも時間のロスには違いがない。

 地下道を進んでも、龍鬼山から西の集落までは三時間はかかる。往復で六時間。本気で急げば短縮は可能だが、それなりの時間が浪費されるだろう。

 そもそも金熊童子は茨木童子を牢獄に連れて来た後、急いで龍鬼山まで戻ってきている。

 徒歩で三時間のところ、一時間である。気が急いていたからだ。そのことを柄では無かったと自覚している金熊童子は、控えめに言っても落ち着いたゆっくりとした足取りで地下道へ向かったのであった。


 金熊童子が龍鬼山から地下道へと向かったのは、茨木童子の投獄から凡そ二時間後だ。

 投獄されたばかりの茨木童子を連れて、リョウヤとエタフルは脱獄している。

 金熊童子が龍鬼山から西の集落へと向かった時点で、リョウヤ達三人が脱獄してから二時間が経過しているということになる。

 つまり何が言いたいかというと――金熊童子が龍鬼山を離れる頃、リョウヤ達は逆に龍鬼山へと辿り着いていた。


 三人は龍鬼山の麓にある出入り口の近く、うち捨てられ手入れのされていない山小屋に身を潜め、機を窺っていたのだ。

 窓はなく、扉も崩れている小さな山の物置小屋である。

 扉のあった箇所から僅かに顔を出したリョウヤが、木々の向こうに見える龍鬼山の出入り口を観察するように眺めた。

 相変わらず雨風が酷い。


「……見張りはいないな」


 長方形をした赤色の囲いに覆われた出入り口には扉がない。内側の壁の上方に灯された松明は、配置された場所のおかげか辛うじて火が消えていなかった。おかげで夜間で天候が悪くても、見張りの有無が簡単に分かる。


「茨木童子はお手柄だな」


 エタフルの賞賛に、茨木童子は無言ながらに満足げだ。彼女の「ひとの出入りがほとんどない出入り口」という言葉に従って、今の場所にまで辿り着いたのである。

 三人は既に二度目の【Dクリアコート】を纏っていた。最初に使った【Dクリアコート】の効果は、移動で早々に切れてしまったのだ。今の小屋で再び使っておけば、龍鬼山に入るまでの雨風では解けないだろう。


「それで、どう動く?」


 エタフルがリョウヤを見、茨木童子も同じように顔を上げた。既に二人にとってリーダーはリョウヤになっているからだ。


「星熊童子達の解放が第一優先……かな」


 星熊童子……達。つまりは南の集落の者達の解放。南の集落の者達は長を含めて、自分達の味方になってくれる可能性が非常に高い。

 もしも星熊童子が渋っても、茨木童子が説得すれば落ちる可能性もある。最悪、不干渉を約束させるだけでも良いだろう。


「爺様と、婆様も……強い……」


 戦力補強を理解した茨木童子は、ハッキリと告げた。

 爺様と婆様が相談役の二人を指しているのは明白である。


「各集落の長レベルか?」


 エタフルの問いに、茨木童子は頷いてみせた。


「でも……現役、じゃない……」


「そうか……いやだが最低限自衛の能力はあるのか」


「指揮能力もあるんだろ? あの二人は」


 上に立っていた者……相談役二人と星熊童子の解放は最優先だろう。

 茨木童子の相談役の年齢に関する危惧を聞きつつも、エタフルは表情を僅かに明るくした。茨木童子に尋ね、頷きで返されたリョウヤも同様である。


「囚われてる鬼人は全員同じ場所だと思うか?」


「地下……一階……から、三階……牢は、三箇所」


 エタフルの確認されると、茨木童子は本来ならば話してはならないであろうことまで語った。それもこの状況であれば当たり前である。

 龍鬼山の火口は龍穴に続いているのだが、途中にマグマ溜まりがあるとのこと。オーガは火口付近から這い出て来たのであって、マグマから出てきたかは不明であること。マグマが存在するため、火口から龍穴には行けないこと。龍穴へと向かうには山内を登らなくてはならないことなどだ。

 牢に関しては、居住区と共に地下に広がっている。一階から繋がる道はそれぞれ一本で、前後の階への移移動ルートもない。つまり一階から地下一階の牢へ、一階から地下二階の牢へ、一階から地下三階の牢といった移動しかできないことになる。地下一階から順に下がっていくという風にはいかないのだ。

 鬼人の多くは居住区に囚われている可能性が高く、投獄されているのは鬼人の戦士だろうと想像が出来る。

 だが、どの階層に誰が囚われているのかが分からない。


「固まって動くか、バラけるか……」


 全員の意思を統一すべく、エタフルが呟く。

 当然ながら三人で行動すれば、危険が少ない代わりに時間がかかる。別れて行動するのならば、その逆だ。


「――茨木童子は、エタフルを抱えたままでも走れるよな?」


「……ん」


 リョウヤが確認すると、茨木童子は肯定するように頷いた。


「一人で行く気か?」


「いざとなったらレイがいる」


 身を案じるエタフルに、リョウヤは右手を振って腕輪のアピールする。

 茨木童子の読みでは、龍鬼山内でレイが姿を現せば問答無用で金熊童子にも伝わるらしい。

 恐らく現状ではリョウヤ達の存在はバレていないだろう。バレているにしては、余りにも警備がザル過ぎる。人間二人はどうとも思わずとも、茨木童子を警戒しないということはないであろうことからも、それが分かる。


 捕まっている鬼人達を解放し、仲間になってもらう。この工程を終えるのが素早ければ素早いほど、リョウヤとエタフルも、茨木童子や捕まっている鬼人達も有利になるのだ。

 三人が纏まって一つの牢に向かうというのは、あまりにもナンセンスだった。


「潜入したら、俺達の脱獄はどうあっても露呈する。なら龍がバレても問題がない、か」


 それに脱獄がバレていないからこその、今のザル警備なのだとしたら……それこそ今が好機である。しかし、いつまでも好機が続いているわけではない。

 いつ警戒が強くなるのか分からない以上、早々に行動に移さなくてはならないだろう。

 エタフルは覚悟を決めた瞳で、フッと息を吐いた。


「オーケイだ、二手に分かれるとして……どう回る?」


「俺が一人で地下三階、二人は地下二階。地下一階の牢で合流しよう」


 目的は囚われた鬼人の解放。可能ならそのまま金熊童子を制し、オーガも打倒したいところだ。


「……場合に、よって……逃げも……視野……?」


「そう、だな。戦えないやつは逃げ……いや、最低限の護衛は必要、か? けどそれも星熊童子と相談役が仲間になってくれれば解決する、か」


「だな。一先ず救出! 逃げるか戦うかは、それからでいい」


 茨木童子の一歩下がった意見を聞き、文字通り視野を広げたリョウヤの決定を、エタフルが大きく頷いた。

 何をどうするかが決まったのなら――やることは一つだけだ。

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