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Knight Of Dragon  作者: 愛兎麦丸
第二章
23/28

D-XVIII.南の集落①/オーガとの遭遇

 リョウヤが戦闘能力を認められた翌日。リョウヤは朝から木々の中を縫って歩いていた。すぐ横にはエタフルの姿もある。

 本日の天候も晴れで、昨日よりも少し風があるといった感じだ。

 中々に活動しやすい気温。なのに何故、男二人で森の中を彷徨っているのか? その理由は鬼人の住まう集落を目指しているからだ。


 虎童子は鬼人の集落は四つと言っていた。厳密には四つと、既にオーガの手に落ちた集落が一つ存在しているらしい。

 いま向かっているのは、リョウヤ達がいた集落から最も近い場所にある集落である。

 半日程休まず歩けば辿り着く距離感だ。

 鬼ヶ島は東西南北の四方四箇所と、中心付近の山の麓に集落が存在している。既に損壊し切っているのが麓にある小さな集落だということも、昨日の時点でリョウヤが聞かされた話の一つだった。

 リョウヤが何故こんな場所にいるのか、その理由は簡単――エタフルの護衛である。

 実力が虎童子クラスであることが判明したリョウヤは、一人でも充分な戦力だと判断されたのだ。

 今の鬼人達にとってエタフルは貴重な人材であり、失うわけにはいかない。だからこそ、集落を抜ける際にはそれなりの人員を割いていた。けれど、リョウヤならば一人で済む。これは非常に大きなメリットだった。


 オーガ……延いては毒の被害が一番大きいのはリョウヤが目覚めた集落である。

 麓の集落に近い位置にあるのだが、それはオーガの沸いた火口のある山とも近いということになるので、それ故の被害率だった。方角で表すのなら西の集落だ。

 そして今向かっているのが、南の方角の集落である。


「そういえば……」


 無駄な体力を消費しないようにと黙々と歩んでいたリョウヤとエタフルであったが、リョウヤがふと零した言の葉を拾い、エタフルが「なんだ?」と僅かに振り返ってリョウヤに視線を向けた。


「集落によって……統治者……って言うのか? それは違うんだろ?」


「……そうだな」


 一瞬だけ向けた視線を前方へと戻すエタフルは「あー……」と言葉を濁す。


「俺もそこまで詳しく聞いたわけじゃないんだが……」


 そう前置きしてから、エタフルは続けた。


「鬼人の場合トップは首領、次席が副首領ってのは聞いたな?」


 投げかけた確認の問いかけにリョウヤが「あァ」と一言だけ返すと、エタフルは「特別教えていたわけでもないのに、本当によく聞いてるな」と密かに感心しながら言葉を紡いだ。


「じいさんばあさんは頭二人の相談役って立場になる」


 首領の下に副首領。

 相談役は別として、それらの下に(おさ)が存在しており、虎熊童子が長に当たる一人だ。

 長は集落を纏める者であり、同時に守護する者でもある。

 当然だが、これから二人が辿り着く南の集落にも長はいる。


「これから会うことになる長は、結構付き合いやすい奴だな。ま、虎熊二人が特別人間嫌いってのもあるんだが……」


「人間嫌い、少ないのか?」


「若い連中はそこまで人間を嫌っちゃいないな。逆に老人には……多い」


 教育方針の問題なのだ。

 相談役二人が、その役職に就いてからは人間に偏見がないようにと、気を遣って子供達に人間のことを教えるようになったが、それ以前は人間に対する悪意を持って教育が施されていた。

 虎熊童子は鬼人の中では若い方なのだが、彼らの場合は人間に悪感情を持つ大人と関わってしまったという過去を持っている。

 新たな教育方針と悪意。その二つに挟まれた結果が、あのような態度になって表れていたのだ。


「ってのが、昨日聞いた話だ」


 エタフル曰く「薬の調合を手伝ってくれていた鬼人に教えてもらった」とのこと。リョウヤが気にしていたので、片手間に聞いてみたのだ。


 道なのだと最低限分かるだけの地面を踏むこと数時間。ぽつぽつと会話を挟んでの時間を経て、もう後幾ばくかで目的地――という所で異変は起きた。

 起きた、と言うよりも気が付いたと言うべきか。

 カンカンカンと鐘を叩く音が微かに聞こえ、空には一筋の煙が立ち上り始めたのだ。


「マズいな……」


 エタフルの声は固い。

 鐘の音は警鐘であり、立ち上る煙は狼煙だからだ。

 警鐘はともかく、鬼人……延いては亜人族の扱う狼煙の色には種類がある。いま見えている狼煙の色は橙色。これは集落が襲撃を受けており、その規模は外壁が攻撃されていることを示している。

 エタフルはこのことを知っているし、リョウヤも既に教えられているので、自然と歩みは駆け足となっていく。

 リョウヤとエタフルでは、前者の方が速くに走ることが出来る。

 しかし実際、リョウヤはエタフルに追従していた。

 質問するまでもなく、エタフルはリョウヤの行動の理由を理解出来ている。

 それは、今のリョウヤの役割がエタフルの護衛だからだ。


「――リョウヤ、先に行け」


 エタフルが躊躇いもなく言い放つ。

 はァ? とリョウヤが「何を言っているんだ、こいつ」と真面目な表情を崩すのも無理はない。護衛を任された者が、護衛対象から離れるなど言語道断だろう。

 護衛を仕事とする者ならば、絶対に通すことのない望み。

 プロならばこそ、徹底していることだ。

 だがリョウヤは護衛を生業としているわけではない。

 エタフルの安全と、襲われている鬼人。優先度が一方に偏っていないのだ。だからこそ、迷ってしまう。


「お前の目的は戦果を上げて、早々に帰ることだろう?」


 急ぐ足を止めることなく会話は続く。


「……エタフルに何かあっても、俺の評価は下がるだろ」


 リョウヤの反論に、エタフルは「まぁな」と同意してみせた。


「だが俺も戦えないってわけじゃあないし……そもそも一人になった途端に敵と遭遇、なんてことになるとは思えない、違うか?」


 怪我人を極力出したくないエタフルは、リョウヤを先に行かせてオーガを追っ払って欲しいのだ。それが後々に追いつくエタフルの安全にも繋がる……というのはリョウヤにも分かる。しかし今言った通りで、リョウヤが先に行ってしまえば、その間エタフルの安全は確保されないということを示している。

 エタフルがリョウヤに追いついて来るまで、無事でいられるか? そんな疑問というリスクがある。


(エタフルが追いついて来るまで……あれ?)


 そこまで考えて、リョウヤはふと首を傾げた。

 西の集落を出てから既に五時間以上が経過している。休みを挟まないで歩き続ければ、バテて限界を向かえる者がいてもおかしくはない。

 日本人高校生としては体力のある方なリョウヤも、本来なら疲れが溜まってくる。なんらかの力が働き、体力の水増しを受けていなければ、今なお元気に走ることは出来なかった。尤もこんなことは、旅を始めてすぐに気が付いていたことだ。

 引っ掛かったのは、エタフルが未だにピンピンしているということだ。

 馬鹿にしているのではなく、単純に疑問に思う。

 冒険者や騎士でもない成人男性が、こうも体力に恵まれているのか? と。医者ならば余計に、運動をしているとは思えない。


「エタフルって……元は騎士とか冒険者とかだったりする?」


 確証があったわけではない。

 ただ普通より運動をするだけの医者の可能性も充分にあった。なんせ魔物や竜の蔓延る世界だ。いざという時のために、体を鍛えている医者がいても違和感はない。

 リョウヤ自身、エタフルをそういう人種だと思っていた。だから体力もあるのだと、そう考えていた。

 だが、すぐにその判断も覆る。


「――騎士だったよ……救護関連だったけどな」


 昔を懐かしむかのように、エタフルが肯定したからだ。

 だが納得である。

 亜人には人間をよく思っていない者が多い。治療をしようとするエタフルに反抗する者もいるだろう。理由もなく襲いかかる者もいるだろう。

 エタフルはリョウヤに、鬼人が人間よりも優れている――という旨の忠告を何度かしていた。つまり、人間と鬼人の純粋な身体能力の差を理解していたということだ。

 周り全てが鬼人。ただ一人の人間はエタフルという状況下で、ブレるこなく在れるのは――騎士団で医療に従事していた際に培った精神力があったからなのだろう。


「……先に行っとく」


「おう、頼んだ」


 軽い調子で手を振ってくるエタフルに、リョウヤは苦笑で返して姿を消した。

 常人には姿を消したかのように見えるが、タネはスキル【極縮地】である。


「おーおー、本当に速いな」


 エタフルの心底から感心した呟きを聞き取ることなく、リョウヤは木々を避けた不規則なルートを駆け抜ける。

 レベルを最大まで上げた【極縮地】ならばクールタイムは一秒もかからない。


(CT約五秒、移動距離は七メートルってとこか……)


 CTは勿論、本来なら移動距離も更に長くまで行ける筈なのにも関わらず、性能が下がってしまっている。ステータスの影響なのか、スキルレベルが落ちているのか。或いは両方か。

 リョウヤは舌打ちをするが、足は止めない。

 向かう集落の場所は、煙と音が教えてくれる。

 約五秒は走り抜き、大凡七メートルを縮地で跳ぶ。それを繰り返していると、すぐに目的地が目に入る場所にまで行き着いた。

 西の集落と同じで、周りを尖端を鋭くした丸太で覆っているのが分かるが――一部が既に砕かれ、出入りが可能になってしまっている。

 そして、今まさに進入を許そうとしていた。

 三メートルはありそうな体躯。岩のように大きな肉体。絵の具の如く真っ青な全身。首のない頭部。髪の毛の代わりに伸びる角。

 オーガだ。


(青鬼ならぬ、青オーガか)


 リョウヤは腰に差した剣を抜き、縮地(スキル)を持って跳ぶ。

 剣自体は虎童子との力試しの際にそのまま貰った一本で、何も特別な一振りではない。

 換装魔法を隠しておくことにしたリョウヤにとって、鬼人から借り受けることの出来る武器に対して注文は……刀剣であること以外にはなかった。どうせ【不壊(アンブレイカブル)】が発動すれば、どれも同じなのだ。

 予想通り、跳躍気味の縮地でオーガの額を捉えた剣は、折れることもひび割れることもなかった。そしてまた予想の範疇だが、剣と額にも関わらず、響いた音はコンクリートに鉄パイプを叩き付けたかのような音だった。

 とはいえ無意味な攻撃ではない。

 悲鳴とは思えない、事実として悲鳴ではないのであろう呻き声を発した青オーガは、反射的に丸太へと手を伸ばす。

 破壊された丸太の壁は、目測で二メートル分程。これは青オーガが、体を横にしてギリギリ通れる隙間しかない。

 隙間を通ろうと横向きになっていたからこそ、リョウヤの攻撃が額に直撃したと言える。そのまま背中から倒れ込んだのだ。体を支えようと伸ばした丸太も、並んでこそいたが今にも崩れそうな物だった。数本の丸太を剥がし転がしながら、青オーガは尻餅をついた。

 集落内で剣や槍を構えていた鬼人が、口を開けて呆けてリョウヤを見つめる。


「……ウゥ……ナン、ダ……」


 額から一筋の血を流す青オーガは緩慢とした動作でが立ち上がり、そこで漸くリョウヤの存在に気が付いたようだ。

 本来なら追撃をすべき場面だったのかもしれないが、リョウヤはそれをしなかった。武器の問題もあるし、オーガが言葉を発した驚きもある。そして――仮にも人の形をした存在が、赤い血を流す光景に衝撃を受けたというのもあった。


(我ながらナイーブだな……!)


 今までも流血した魔物は散々見てきていたし、流血の原因を作ったのも自分自身だ。命すら奪っている。そのある種の重圧に耐えられていたのは、人間ではなく……それどころか、人の形をしていなかったからだったのだ。

 だが、切り替える。切り替えろ。人に近い姿、人型の魔物ではあるが、人間とは言えない姿形だろう! そう自分に言い聞かせ、リョウヤは右足を僅かに前に出して右手の剣を構える。

 既に立ち上がってしまった青オーガは動きを見せない。ただ気の抜けた表情でリョウヤを見ているだけだ。

 集落内の鬼人の一人がジリジリと距離を詰めて、警戒しつつも口を開いた。


「新たな協力者……リョウヤか?」


 あァ、と短く肯定したリョウヤ。


「四天王クラスの実力者と聞いている。この場を預けても良いか?」


 尋ねてきた鬼人の青年の簡潔な言葉の意味を、リョウヤはすぐさま理解した。


「他にもいるのか?」


 鬼人の青年は大きく頷いてみせる。


「一人でこいつの相手をしてくれるのなら、それは俺達にとってかなり有り難い……情けない話だがな」


「分かった、任せてくれ」


 自嘲の笑みを浮かべた鬼人の青年に、リョウヤは迷うこともなく即答。そんなリョウヤに「すまない、武運を祈る!」と青年は他の鬼人を連れて駆けて行く。

 その間、青オーガはリョウヤを見ているだけだ。

 勢いよく動き出した鬼人達に対しても、なんの興味も示さなかった。


(ってことは……俺が標的になったってことか?)


 不意打ちで一撃決めたので、別段おかしなことでもない。

 怒り(ヘイト)がリョウヤに向いているのだろう。


「オ……オマエ……」


 唐突に「お前」と指名され、リョウヤは僅かに体を反応させる。


「ツノ、ナイ……ヤツ……イタ……」


 角ない奴いた? リョウヤが心の中で、青オーガの言葉を反芻して翻訳する。その瞬間、青オーガは表情を喜色に染めた。


「ミツケタ!!」


 口元を大きく歪めた青オーガを見て、悪寒に襲われたリョウヤは無意識に剣を持つ手に力を籠める。

 青オーガからは、既に色々と気になる発言が出ている。それにオーガが言葉を操っている時点で、リョウヤにとっては普通ではない。

 知能を高めた特殊個体なのか、或いはここでは当たり前にオーガが話すのか。疑問は尽きないが、のそのそと歩き出した青オーガを前に、無駄な思考は切って捨てることにする。

 自身とオーガの距離感が約五メートルになまで近付いたのを確認して、リョウヤは【極縮地】を使用した。

 前述した通り、現在の【極縮地】での最大移動距離は約七メートルだ。つまり全力で使えば、五メートルの時点で青オーガを斬り、そのまま二メートルを確保できるのだ。

 すれ違い様に響いた音は、相も変わらず肉を斬り裂く音ではない。


「……?」


 衝撃に体を大きく揺らす青オーガではあるが、先ほどのように倒れ込む様子はなく、そもそも何をされたのかすら分かっていないようだ。リョウヤが視界から消え去ったことも不思議なようで、疑問符を浮かべながら辺りを見渡している。

 傷は浅い。

 人間で言うのならば、カッターナイフで軽く切ってしまった程度の傷で、辛うじて出血をしているだけと言ったところだろう。


(効かないが……まァやりようはある、か)


 虎童子に比べて、僅かでも斬れているだけマシでもある。

 鬱々とリョウヤは溜め息を吐き、それに反応して漸く青オーガは振り返った。

 攻撃を通す手段がある。にも関わらずリョウヤの表情が暗いのは、気乗りしない手段だからだ。――そう、気乗りしない。可能ならば、とりたくはない手段だ。


「悪く思うな……あァいや……恨んでくれて構わない、と言っておく」


 リョウヤを再び見つけて嬉しそうな青オーガに、対照的な表情のリョウヤは剣を振るった。嫌々ながらも迷いがなく、躊躇いもない一閃だ。

 スキル【飛閃刃】――不可視の斬撃は空を切り、青オーガの両目を斬り裂いた。


「ッ!? アア!? アァ、メ!? イタ……イイイイイイイィ!!」


 絶叫が木霊する。


(ああ、これは……キツイな……)


 叫び声を聞きつつ、リョウヤは表情を歪めた。

 エタフルに言われていたことがある。それは至極単純な話で、言われなくてもその可能性には行き当たるであろうことだ。

 即ち――オーガの皮膚は硬いが、粘膜は柔らかいということである。

 つまり、二つの眼球を一文字となった【飛閃刃】が襲い、容赦なく斬り裂いたのだ。

 目が痛い。暗い。赤い。何も見えない。

 聞き取り難くはあるが、それでも青オーガが何を叫んでいるのかは分かる。

 リョウヤは奥歯を噛みしめて、もう一度【極縮地】で跳んだ。

 跳んだ先は青オーガの眼前。

 僅かな跳躍をスキルと絡めることで、絶妙な角度で跳び込み――右手の剣を青オーガの口内へと勢いよく伸ばす。

 折れることのなくなった刀身は、さながら生肉に包丁を突き立てるようにすんなりと口内へと進入を許し、驚くほど簡単に頭部を貫通させた。


「あァ……クソ……」


 頭から血を浴びたリョウヤは悪態を吐き、足下に倒れ込んだ巨体を見下ろす。

 冷めた視線はオーガに向けられたものではない。


「……本当に、嫌な気分だ――」


 腕輪の中のレイだけが、その言葉を聞いていたのだった。

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