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Knight Of Dragon  作者: 愛兎麦丸
第二章
19/28

D-XIV.鬼ヶ島②/状況

 鬼人達から最低限の保障を得たリョウヤ。

 だがそれはあくまで龍と共にいる人間、つまり"おまけ"的な理由から主になる。

 今すぐウェスタンダート大陸まで船を出してくれ、と言ったところで聞いてはくれないだろう。

 KODE本編では主人公(プレイヤー)から龍だけを奪おうとする者もいたので、簡単に"龍連れ"であることを明かすのもどうかとは思った。


(けど今回は、既に龍の存在に気が付いているであろう鬼人がいる……)


 ならば先手として使わせてもらおう、とリョウヤは考えたのだ。

 そしてそれは功を成し、両横に並んだ六人……正確には大男二人を含んだ五人を大人しくさせることに成功した。残る黙りを決め込んでいた男も龍の存在には驚かされたようで、ここに来て初めて反応を見せてくれた。


(微々たる反応だけど目を見開いて相棒を凝視した。……ならやっぱり、俺を見つけたってのは――)


 リョウヤは目線を、部屋に来てからずっと表情一つ変えずに自身へと視線を向けている少女へと合わせる。

 視線の交差は、これで二度目だ。

 先ほどは目を逸らしてしまったリョウヤだったが、今度は逸らさない。

 淡緑色の長い髪に、白い着物、深緑の羽織。

 髪も艶やかだが、羽織とその下に覗かせている着物は高級感が漂っている。

 他の鬼人達も和装であり小綺麗ではあるのだが、一目で質が良いのが分かる格好をしているのが少女だ。


(あァうん、上座だなんだと言ったが……単にセンターが一番(トップ)って話なんだろうな)


 ツイッと緑の少女が金色の目を逸らした。

 おや、とリョウヤは心中で首を傾げる。


「んじゃま、とりあえずリョウヤ(こいつ)の扱いを決めとこうか」


 一先ずを乗り切ったリョウヤをどうするかをエタフルが切り出す。


「俺としちゃあ無関係な奴はさっさと帰らせてやってほしいとこだが……」


「……人員に余裕はないのが分からない程に阿呆なのか」


 リョウヤはエタフルの優しさに感動を覚えたが、ぼそりと青髪の大きな鬼人の一言で気を引き締めた。


「言い方はちとあれでしたが、その通り故の状況……厳しいものがありますな」


「最低半年、場合によっては追加っつー契約だったな」


「既に一月(ひとつき)の追加を済ませたばかりですが……それ以降の追加はせず、その時にリョウヤ殿と共に返せと?」


 エタフルと老爺のやりとりを聞いていると、エタフルの置かれた状況がリョウヤにも伝わってくる。

 鬼人から医師の仕事を依頼されたエタフルは、当然だがリョウヤとは違い行き来のアクセスはしっかりとした契約が成されているようだった。

 つまりエタフルが帰るのならば、そこにリョウヤが便乗しても問題ない。そういうことなのだ。けれどエタフルと実際に話していて分かったことだが、彼はそういった手法は好まないだろうとリョウヤは思う。


「ああ――……と言いたい所だが、それは俺が許せん」


 想像通り、エタフルは否定の言葉を口にした。

 老爺も分かっていたのか「でしょうな」と頷くだけだ。


「人手が足らないのは」


 リョウヤが口を挟む。


「オーガのせいなのか?」


 自然と視線が集まる。


「……どういう意味でしょうか?」


「龍庭の腕輪は龍の気配も遮断する代物だ。そいつを感じ取ることが出来るのは龍の民か、それこそ相当な実力者の二択」


 龍庭の腕輪を作成した龍の民なら、力の強弱関係なく龍の存在を感じ取るだろう。だが亜人は、特別気配に敏感でもない限り腕輪の龍は感知し得ない。

 仮に龍人同体(スキル)に反応していたのだとしても、龍の気配(それ)に気が付いたのは紅と一寸法師の二人だけだ。多くの人間で溢れる町では、誰も見向きもしなかった。

 腕輪にしろ龍人同体にしろ、気が付いたのは亜人だけとなる。だが亜人ならば誰しもが気が付いたというわけでもない。

 それは、この部屋でレイを見た各々の反応から察することができた。


「相棒の存在に気が付いていたのは、そこの女の子だけだろ? けど逆に、それに気が付いていたってことはかなりの実力者ってことになる」


 席的に見ても頭っぽいしな、とは言わないでおくリョウヤ。理由としては、勘でしかないために少し頭が悪そうに聞こえるからだ。

 ただ実際には席順も判断材料の一つではある。勿論、理由の大半は"角がない"ことだった。


「それでいて人員が足りなくなる程に追い込まれている。それだけなら相手にも同レベルの強者がいると考えられるが、外部から医者を招き入れているってなら話は変わる」


 戦力が足りないのなら医者ではなく、冒険者やら騎士やらを頼るだろう? あァ別の亜人族を頼るか? とリョウヤが確認をとると、老爺は「続けてください」と重い表情で促した。


「鬼人にも医者はいるだろ? 医者ってのは滅多に最前線に出ることがない。にも関わらず医者が足りてない。真っ先に狙われたならともかく、集落は普通に現存しているのにも関わらず、だ」


 衛生兵のように戦場の負傷者を後退させる者がいるにしても、それで医者が足りなくなるということはないだろう。


「最初は怪我人が多すぎてとも考えたけど……それにしては消毒液の匂いも血の臭いもしなさすぎる」


 消毒液ならアルコール臭がするし、血液ならば鉄の匂いが、傷が残っているのなら内臓から生臭さがある。怪我人だらけならなくてはおかしい。だが、リョウヤはそういった匂いを嗅いでいない。


「怪我ではないが、医者の能力が必要なこと――例えば、毒」


 そう言い切ったところで、リョウヤから向かって右側に座っていた大男以外の二人が何かを思い出したかのように表情を歪めた。


「……。仲間が毒に侵されれば、医者が診ることになるのは当然だ。怪我の処置ならともかくな」


 何かに堪えるかのような表情の鬼人を捉えて、ほんの一瞬だけ戸惑い、言葉を紡ぐことを躊躇ったが、それでもリョウヤは言葉を続けた。

 

「医者が毒に侵された仲間を診る。だが対処法を知らなければ? そしてその毒が、感染能力のあるものだったとしたら……」


 戦力が減り、医者も減る……か。とエタフルが締め括った。

 そのまま「いつから気が付いてた?」と問われたリョウヤは少し考える素振りを見せて「違和感はずっとあったから」と零して続けた。


「少し考えてたんだよ」


 そう付け足したリョウヤではあるが、そう判断した根拠の一つにはKODE……つまり原作知識も関わっている。

 今となっては原作知識も"一つの可能性"程度にしか捉えていない。とはいえ参考にはなるのだ。

 KODEで鬼ヶ島に訪れた時、龍穴となっている山は死火山となっている。

 日本では既に死火山という語句は休山という語と共に廃用となっているのだが、KODEに於ける死火山は"死んだ火山"という意味合いだ。

 火山の活動には寿命がある。

 大抵が百万年程で活動を終えると言われており、KODEではそれらの意味と瘴気によって汚染されているという二つの意味で使われていた。

 瘴気とは毒素によって汚染されたマナでもある。

 鬼ヶ島の火山は、マナの吹き出し口の役割も果たす龍穴だ。そんな大事な役割を担う火山の火口、その遥か下、マグマ溜まりの少し上――火道に毒素を撒き散らす輩が巣くっている。

 マグマもそうだが、マナも火道を流れていた。

 故に火道が毒素で溢れかえると、必然的にマグマとマナは毒素に触れてしまうというわけだが、一先ず置いておく。


「オーガ達は武器に毒を塗っていた……」


 老爺が苦虫を噛みしめるように絞り出す。


「激痛に襲われ、傷は癒えず、高熱に魘され、筋力は落ちていき、体力も削られ、寝たきりのまま起き上がれなくなり……終いには意識もなくなるのです」


「感染症を発症する可能性も格段に上がってな……尤も、そちらは人間を遥かに上回る免疫力でカバーできているが」


 老爺の言葉を補足する形でエタフル続けたのは「人間の俺とお前は感染症の問題があるから気を付けろ」という旨だった。

 リョウヤは考える。

 どうすれば人間側の大陸に行けるかどうかを。

 シナリオ通りに進むのならば、いずれラナンが仲間と共に鬼ヶ島へと来る可能性もある。だがそれを理由に大人しくしているというのは、あまりにも現状を楽観視している。

 いつやって来るのか分からないし、そもそも今となっては来るという保証すらない。


(俺が鬼人から最低限の扱いを確保すること……それがエタフルの望みだ)


 人間側の大陸に向かうのは後回し。

 だがリョウヤは、イスタンダート大陸に行くのが目的だ。

 鬼ヶ島に何ヶ月も籠もっているつもりはない。

 ならばどうする?

 エタフルが帰島する時に便乗するのか? そんな考えを「いや」と否定するリョウヤ。それこそ、どれだけ時間がかかるか分かったものじゃないからだ。

 奴らに自身の価値を証明しろ、エタフルはそう言っていた。

 ならば――と覚悟を決めたリョウヤが口を開く。


「俺は、これでも結構急ぎだった」


 だからといって「今すぐ帰せ」とは言わないし言えない。


「けど、この鬼人達にそんな余裕がないことは理解した」


 全員が黙ったままリョウヤの言葉を待つ。

 その上で訊く、と告げてからリョウヤは一拍置き――問うた。


「俺が何を成し遂げたら、イスタンダート大陸まで船を出してくれる?」


 傲岸不遜にも聞こえる言葉を聞き、案の定、巨漢の二人が声を荒げた。


「人間なんぞに出来ることがあるか!!」


(りゅう)()れだかなんだか知らんが、我々を嘗めるのも大概にしろ!!」


 片やテーブルに拳を叩き付け、片や勢いよく立ち上がり、更に捲し立てようとする二人に、こちらもある意味で予想通りの怒声が飛んだ。


「黙らっしゃい!!」


 老婆の本日二度目の一喝である。

 見た目通り肉体派であり、あまり深く物事を考えないのであろう二人の男は肩を震わせ、渋々と引き下がった。


「エタフル殿も人間だが、こと医療に置いては我々を遥かに凌いでいるのを忘れてはなりませんな」


 老爺にフォローされたエタフルは、意外そうにリョウヤを横目で見ていた。

 そこまで急ぎだったのかと思ったし、このタイミングで尋ねるほどに余裕がないと思わなかった。それとも逆に余裕があると思うべきなのか。

 ただ考えてみれば、エタフルがリョウヤに望んだ"最低限の扱いの確保"はあくまでエタフル自身の要望でしかないのも確かだ。

 それでも、こちらの要望をクリアしつつ更に交換条件を取り付けようとしているリョウヤに驚かされるのは仕方がない。


「龍連れ……なら余計に普通の人間寄りかは役に立つだろ? なんせ龍も一緒なんだからな」


 龍庭の腕輪は外すことができないし、腕を切り落として奪ったところで中の龍は自身の認めた相手にしか従わない。

 基本的にリョウヤとレイは常に行動を共にすることになる。

 先の「省エネモード」云々の会話からレイが進化するであろうことも、老爺と老婆は察している。リョウヤ自身も冒険者を名乗っているのだ。

 戦力にならないということはないだろう。


「――では一度試してみては?」


 提案したのは、一言も発さなかった男だった。

 巻き角の特徴的な鬼人は、横目でリョウヤを一度見てから感情の籠もらない声を発したのだ。


「やはりそうなりますか……」


「「それならこの俺が!」」


 巻き角の鬼人がした提案を肯定する老爺の呟き、それを聞き取った巨漢の鬼人二人が名乗りを上げる。

 リョウヤにとっては提案含めて予想の範囲内だった。

 医者ではない自分の価値は何か考えれば分かる。

 労働力か戦力の二択だ。

 だが手っ取り早く成果を上げる手段は? そう問われれば――戦力として何かしらを成し遂げるしかないだろう。

 名乗りを上げるであろう鬼人も織り込み済みだった。

 ただ――


(――何を考えてるんだ、この男は……?)


 今の今まで不干渉を続けていた男が、何故ここに来て口を開いた? リョウヤは表情に極力出さないように努めつつ、巻き角の鬼人を観察する。が、男は既に目を閉じて干渉する気が無いことを全身で主張していた。

 自分にチャンスを与えてくれた、それだけ考えればリョウヤとしてはありがたい話だ。

 しかし、それを運が良かったと終わりにしていいのか――そんな言葉が過ぎる。

 戦力の程を試してみれば良いという提案をしたのが老爺か老婆か、或いはエタフルか、それこそリョウヤ自身か巨漢の二人だったら簡単に納得できたのだ。

 どちらが! と言い争う巨漢二人を老婆が黙らせ、老爺とエタフルが細かいルールを確認し合い、エタフルが「それで良いか?」とリョウヤに問いかけてくる。


「あァ、俺はそれで構わないよ……」


「……? どうした? 問題あるなら言っておけよ」


「いや、本当に大丈夫」


 鬼人側は無手、リョウヤは武器を使っても良いということ。

 換装魔法の存在を知らない以上、武器は用意してくれるらしい。

 そして当然、一対一。

 また、もしもの時には試合を止めるということ。これはエタフルが出した条件で、更に前提として試合に選ばれた鬼人を止めることの出来る鬼人を用意するというものだ。

 エタフルも立会人の一人として認めること。

 老爺と老婆も立ち会い、満足のいく結果が出た場合、その結果がどうであれ終了すること。

 声をかけられたことで思考を遮られたリョウヤは、それらの条件を呑んだ。

 前述の通り、元より試合の提案をした鬼人以外は予想していたからである。

 これだけ決まってしまえば、後は誰がリョウヤの戦闘能力を計るのかを決めるだけだ。そこにリョウヤの意思は必要が無い。

 エタフルはまだ話すことがあるとのことで屋敷に残らなくてはならないので、リョウヤは一足先に――とはいかない。勝手に一人で出歩けば、それだけで鬼人の不安を煽ってしまうからだ。

 リョウヤは一人別室に案内され、そこで夕食を頂くことになった。

 精進料理とも言えない質素な食事だ。

 肉や魚のタンパク源を節約しなくてはならないのか、一品も用意されていなかった。大豆や豆腐で摂取するのだろう。


(俺にも手持ちはあるが……換装魔法を明かしてしまって良いのかどうか)


 食料や水も無限にあるわけではない。

 水は多めに常備しているのだが、食料は非常食などが主で、支援するだけの備蓄はないのだ。

 換装魔法に関しては、リョウヤ自身に隠しているつもりはない。機会がなかったから、エタフルや鬼人達に話さなかっただけの話だ。斬装魔剣士の特性上、戦闘になれば使わざるを得ない。故にそこに他意はなかった。

 だが、現に知られることなく済んでいる。

 そして試合とやらでは武器を用意してくれると言っている。当然と言えば当然だ。リョウヤは遭難者に近い事情であり、荷物はなにもないと思われているからだ。

 本来なら、隠そうとするようなことでもない。そもそもKODOでは誰もが扱う基本魔法なのだ。隠す隠さない以前の問題だ。

 鬼人の島。人間は自分とエタフルのみ。人間と鬼人の関係。

 特殊な環境下だ。

 ならば、とリョウヤは結論付けた。

 日常生活で使うのではなく、戦闘時に斬装魔剣士として使う換装魔法は――切り札となり得る。


 しかし問題は別にあった。

 エタフルと共に、寝かされていた一室に戻ったリョウヤは皆が寝静まった時間帯……日付が変わった頃を見計らって外に出ていた。


「あー……マジで?」


 地面に寝かせるかのように置かれた両刃の大きな剣を、換装魔法で仕舞ったリョウヤの頬を夜風が撫でる。気温は決して高くない。にも関わらず、その頬には一筋の汗が伝っていた。

 冷や汗である。


「これ、結構やばいかもな……」


 人の気配が皆無の荒れ果てた庭園のい隅で、引き攣った表情を浮かべて、けれども己の異常を悟ったリョウヤは呟いたのだった。

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