D-XVII .別離③/少年の目覚め
原初の記憶はいつだって本に囲まれていた。
自宅の書斎だ。
父は医学に携わる者だったので医療の本が多かったが、母と揃って読書家だったらしく、多くのジャンルの本が所狭しと並び、木と本の落ち着く香りが漂う一室だ。
そこには絵本も置かれていたが、大抵が学術書や図鑑、小説だった。
幼い子供に読めるような代物は少ない。
けれど、物心付いた頃にはそんな書斎に入り浸っていた子供もいる――リョウヤだ。
本の内容は「なんとなく」理解したつもりになっていただけだ。
七歳になる頃には文字が読めるし、分からない言葉を調べることも出来るようになってくる。
両親に心配をさせたくなかったということと、母の教育と特殊な環境、それらがリョウヤが神童などと呼ばれるようになった由縁だ。
神童扱いという、ある種の特別扱い――それが許されたのは小学生の間だけだった。
中学に上がった子供達は、許してはくれなかった。
「なんであんな奴が……」
そんな理由からか、最初のうちは会話をしてくれる人が減った。
ただその頃、リョウヤはKODに熱中している。
作品は既にオンラインだ。
不特定多数の人間と密接に関わることのできるゲームだ。中にはKODAからの知り合いもいる。
元より友人が少なかったのもあってか、中学校での無視は気にも留めなかった。が、そんな対応がいけなかったのだろう。
虐めは、エスカレートしていった。
陰口を言われた。
暴言の書かれた手紙を鞄に詰め込まれた。
教科書が落書きで使い物にならなくなった。
綿密に書き込まれたノートを破られた。
上履きを捨てられた。
靴を隠された。
洗い立ての運動着を泥だらけにされた。
通学路で石を投げつけられた。
それすらも、気に留めなかった。いや、正確には気に留めないようにしていたと言うべきだろう。
どれだけ気にしないように意識していても、学校で過ごす時間は長い。心にかかる負担は決して軽いものではなかった。
それでもリョウヤは両親を心配させまいと、使用人にも何も告げなかった。
ボロボロの教科書とノートをどうにか再利用した。中学生の僅かなお小遣いを遣り繰りした。汚された物は学校で洗った。傷は隠した。
中学の三年間は、そうやって過ごした。
「――最悪な夢見だ……」
どうして高校生にもなって、中学の頃の思い出したくもない学校生活を夢で見ないといけないのか。リョウヤはゆったりと目を開き、鬱々と呟いた。
視界に映るのは敷目板張り天井だ。
また和風だ、とぼんやりと考え、すぐに我に帰って飛び起きた。
「どこだ、ここ……」
リョウヤは布団に寝かされていた。しかも服はご丁寧に温泉宿などでよく見る浴衣に着替えさせられている。僅かに覗く肌には包帯が巻かれているが、血も染みていなければ痛みもない。
(なんで包帯……?)
上半身だけ肌蹴させ包帯を乱雑に解くと、傷一つない体が露わになった。
リョウヤは不思議そうに自分の体と包帯を見比べていると、視界の右側に入っていた障子が開かれた。
「なんだ、目が覚めてたのか」
障子を透過していた光が、若い男性の声と共に流れ込む。
リョウヤが見上げると、短い黒髪を立てた男が障子に手を掛けた状態で僅かに目を見開いていた。
「俺はエタフル、医者だ」
「医者……?」
どうして医者がいるのか分からないと言った様子のリョウヤに「自分に何があったか憶えていないのか?」とエタフルは白衣の皺を伸ばしながらも問うた。
記憶に障害があるのかの確認も含んだ問いかけは、ひとを安心させるかのような柔らかい声音だ。
言われるままにリョウヤは記憶を遡る。
「そうだ……俺は――」
思い出した。
飛空挺から飛び下りると同時に、全身が冷え切ったナイフのような風に襲われた。
空高くを進む飛空挺からの身投げ、とだけ聞くとただの自殺だ。が、それでもそうすることを選んだのにはわけがある。
ファフニールの狙いがラナンではなかったことが、理由の大半を占めるだろう。
狙われていたのは――リョウヤだった。
そう判断した理由を問われれば、自分だけが攻撃を受けていたからと答える。
標的がラナンの言葉通りならば、当然だが攻撃はラナンに向かう。だが現実は、彼女と空羅にファフニールは一瞥すらくれなかった。逆に終始狙われ続けたのはリョウヤ、そしてレイだ。
リョウヤとファフニールの視線は何度も交わっている。
そうしているうちに気が付いたのだ。
――完全に俺と相棒が標的だな、これは。
まるで怒りに身を任せているかのようなファフニールに「俺、なんかしたっけ?」と聞きたい程だ。それほどまでに執拗に狙ってきていた。
そんなリョウヤの心中を察したのは付き合いが長く、龍人同体で一心同体に近いレイだけだ。そしてリョウヤが何をするかを察したのもまたレイだけだった。
ラナンには生きて貰わなくてはならない。
何せラナンは、エデンでのキーパーソンの可能性があるからだ。
また一ヶ月近い付き合いと、その人柄故に個人的にも生きていて欲しいとは思っている。
ならば……とリョウヤは声を張り上げた。
先に行け、と。
重力のままに落下し続ける時間は決して長くはなかったが、実際に落ちていたリョウヤにとっては随分と長く感じる数秒間だった。
そう、落下時間はごく短い。
眩い閃光が雷鳴と共に、うつ伏せに落ちていくリョウヤの下に潜り込んだのだ。
上昇するリョウヤと閃光のすぐ脇を、ファフニールの紫炎のブレスが突き抜ける。
「――っと! 助かったよ、相棒」
相棒、と呼ばれた龍はリョウヤの頭に乗るサイズではない。
リョウヤよりも少し大きい、百八十センチ程……つまり人間サイズの龍だ。そして姿も、愛らしい外見から凜々しい外見へと変化している。
KODのパートナードラゴンの進化はEvolution Pointと言うシステムで、端的に言えばポイント制だ。
大抵どの作品でもEPと略されているポイントで、時間経過、戦闘の有無、戦闘の経過時間、与ダメージ、被ダメージ、スキルの使用、主人公とパートナードラゴンのあらゆるアクションで増加する。最も増えるのはEP増加系スキルになるのだが、リョウヤもレイはその手のスキルはセットしていない。
それが今の今まで、レイが進化していなかった理由の一つである。ただ実際のところ、レイが既に進化のできる状態なのをレイ自身は勿論リョウヤも知っていた。
要は――タイミングを計っていたのだ。
大きくなったレイの背に乗ると同時に騎乗アイテムを換装し、その体に取り付ける。
リョウヤが首の後ろの取っ手を掴むのを感じたレイは、急激に加速しながら旋回し始めた。
(ああクソ……こんなんだったら、もっとちゃんとした騎乗道具を持っておくべきだった!)
馬の手綱にも似た初期の騎乗道具での空中戦では、どうあっても片手が手綱に占領されてしまう。
悪態吐くが、そもそもリョウヤの戦い方は龍に騎乗するやり方――龍騎兵と呼ばれるジョブに通じる戦い方ではない。
アイテム所持枠に制限があるゲームで、捨てられないアイテムである初期の騎乗道具以外を持ち歩いているわけがないのだ。
(そもそも今の相棒は騎乗向きじゃねェし!)
言っても仕方のないことなのだが、レイがランクⅡへと進化した形態の名前はライトニングドラゴン。常時全身に雷を纏った龍だ。
KODでは、この雷のせいで騎乗すると一定間隔でダメージを受けてしまう。
(体感が静電気レベルのうちに決着をつけたいが……!)
一定間隔で電流が走り、そのダメージも繰り返す毎に増していく。一応、レイがダメージを抑えようとしているので最初のうちは低ダメージになるというのが理由だ。
龍のランクⅡ自体は低ランクなので、即死してしまう心配はない。と思う、と言うのがリョウヤの考えである。KODでも即死ダメージには至らないし、レイにもちゃんとした意思があることもあり、恐らく大丈夫なのであろう。
それでも最終的には体が硬直するような電気が流れるかもしれない、そんな不安が拭えないのだ。
「こッ、の!」
左手で騎乗道具を掴み、右手でディスペアドミネイターの槍状態を薙ぐ。
それでどうしたっけ? と記憶の糸を辿った瞬間――リョウヤの胸部から腹部にかけて痛みが走り、呻くように右手で押さえ込んだ。
「っと、どうした? まだ痛むのか?」
心配げに覗き込んでくるエタフルを「なんでもない」とリョウヤは制した。
(そうだ……あの時、俺は!)
ファフニールに爪で胸を斬り裂かれたのだ。
それでも、どうにか撃退はしたのだが……その後にどうなったのかが分からない。
「……俺は……どうやって?」
「浜でぶっ倒れてたらしい。海水に濡れた様子はなかったが……空でも飛んでたのか?」
「……飛空挺に乗ってた」
そうかい、と納得したエタフルは気遣うような雰囲気で立ち上がった。
「詳しい話は後にするか。お前さんにも落ち着く時間がいるだろうしな。……食欲は?」
「い、らない……大丈夫……」
無言で頷いたエタフルは、そのまま部屋を出て行く。
そんな姿を目で見送ることもないまま、リョウヤは嗚咽を漏らした。
あの時感じたファフニールから向けられた殺意。裂かれた腹部の焼けるような痛み。傷から入り込んだ毒素の刺すような痛み。毒による高熱からなる倦怠感。
一歩間違えば、自分は間違いなく死んでいた。
そんな確信。
戦っている際中は良かった。
得意でない環境だったこともあり、必死だったからだ。
生きるか死ぬかの状況故に、気にしている暇がなかった。
だが今、落ち着いて、考えて、理解してしまった。
死が――すぐ後ろにまで迫っていたということに。
「……っ……くそ……!」
恐怖に襲われた。
ゲームオーバーではなく、正真正銘の死に。
結局、リョウヤも十六歳になる少年なのだ。
住んでいた国も世界的に見て平和と言える日本。それでも事故や事件は当然あったが、死を身近に感じることなどなかった。
涙を隠すように右手で顔を押さえ、歯を食いしばる。
戦うことが恐ろしいことなのだと漸く理解した。
――情けない。
いま自分が感じている恐怖は、きっとラナンがずっと感じていたものだ。
一体なにを知ったつもりで、師匠などと呼ばれていたのか。
ラナンが自分が弟子で良いのか不安になっている? 違う。自分に師匠である資格がないのだ。
ゲームで高ランカーだからなんだと言うのか。
(スタートラインにすら立ててないじゃないか!!)
恐怖、悔恨、葛藤、それらの複雑な感情を孕んだ呻き声にも似た嗚咽を、部屋の外で聞いている者がいた。
エタフルだ。
まだ名前も知らない少年が、暫く待って眠りに落ちたのなら様子を看ようという思惑だった。
障子の横の壁に寄り掛かりながらリョウヤの声を聞いていたが、すぐに音を立てないように気を遣いながら離れていく。
(……生き残ったことを安堵してるわけじゃないな)
声を殺して涙を流していたリョウヤが口にしたのは「クソ」という一言だけだ。
それだけ聞いたエタフルは、確かに少年の心情を理解した。
それ即ち、自身への情けなさだ。
なら具体的には何が情けなかったのか? これに関してはエタフルも想像するしかない。医者であるが、心は読めないので当然だ。
だが考えることは出来る。
エタフルがリョウヤを最初に看た時、体の傷は既に治癒が始まっていた。このことから、何かに襲われていたことが分かる。
更に詳しく言うのならば、傷は斬り裂かれたものだ。それも刀剣の類ではなく、なんらかの生物の爪に付けられたのであろう傷だった。
文字通り爪痕だ。
傷の規模から考えて、竜種との戦闘があったのだろう。
そして――負けた。
(……ってなところかね)
若いな、とエフタルは呟いた。
医者の彼からしたら「生き残ったのならば勝ち」なのだ。
尤もそれも、想像が当たっていればの話だ。
リョウヤの心情はエデンの住民であるエテフルからしたら、言うまでもなく幼いものだった。
エデンは言い方は悪いが、命の危機に陥ることが日本と比べたら圧倒的に多い。
だからこそ想像もできなかったのだ。
そしてその心情をエテフルが尋ねることはなかった。
医者として呼ばれた彼には仕事が多かったからだ。
特にいま出張で来ている島は、余りにも特異な環境だ。そのせいもあってか、再びリョウヤの元に訪れることになった凡そ五時間後には、そこまで気を回す余裕はなかった。
「――よっ!」
「……エタフル、だっけ?」
「おう」
一頻り涙を流したリョウヤは糸が切れたように眠りに落ちていた。
目が覚めたのはついさっきだ。
エタフルが室内に入ると、リョウヤは既に体を起こしていた。
エタフルにしたら自分の気配を感じて体を起こしていたように思えたが、ただの偶然である。強いて言うのならリョウヤは腕輪のレイに声をかけていた。
あるがとう、無理をさせてごめん――と。
腕輪の珠は淡く輝いたが、その光はどこか弱々しかった。
レイも消耗しているのだろう。
それから部屋を見渡しているうちに、足音が近付いてきたというわけだ。
「お前さん、名前は?」
どかりと腰を下ろしたエタフルは、リョウヤの腕をとって脈を測りつつ尋ねた。
「リョウヤ」
「それじゃあリョウヤ。落ち着いたみたいだし、何があったか聞いても良いか?」
何があったか、か。
リョウヤは意味深げに言われた言葉をそのまま呟く。頭ではどこからどこまで、どのように語るべきかを考える。
エタフルという名に聞き覚えはない。
医者を名乗り、自分の面倒をみていてくれたことから悪人ではないとは思う。
それでも、龍のことは隠すべきだろう。
亜人のお世話になっていたというのも、人によってはアウトだ。
既に口から零してしまった非合法の飛空挺については仕方がない。
(まァ知り合いの伝手で飛空挺の乗せてもらって……がベストか)
リョウヤは語る。
ウェスタンダート大陸からイスタンダート大陸に向っていたこと。
ホクスカイトの町から出ている飛空挺は停止していたこと。
伝手を使って飛空挺を所持している者を頼ったこと。
飛空挺での移動中に黒竜から襲撃を受けたこと。
そして――戦闘中に自分が"足を滑らせて"飛空挺から落ちてしまったことだ。
「なるほどな」
エタフルは納得した素振りを見せ、すぐに言葉を紡いだ。
「飛空挺は低空飛行していたと?」
「あァ。船体自体は大丈夫だったんだが、万が一のことを考えて……」
「納得した……と言いたいんだがな」
リョウヤの体を看つつ、エタフルは難しそうな表情を浮かべた。
「この"島"は海流の関係で漂流することはありえないんだそうだ」
うん? と聞き返すリョウヤ。
「島自体も、巨大な岩壁に囲まれてる」
エタフルの言葉で察した。
海を漂流していないというリョウヤの考えは甘かったようだ。
「……飛空挺が低い座標を飛べない?」
リョウヤのどこか引き攣ったかのような声を聞き、エタフルは苦笑いで頷く。
体が海に浸かっていなかったことと、最初に飛空挺を使っていたと言ってしまっていたことが裏目に出てしまったらしい。
尤も「飛空挺に乗っていた」と口にしてしまったのは、意識が動揺していたという理由もあるが……今となってはどうしようもないことだった。
「加えて言うのなら、お前さんのいた浜の方は高台から常に監視されてる。飛空挺なら近付いただけでも発見されてる」
「監視? 浜を?」
「そっちから一度襲撃を受けてるからな。敏感になってる」
どこだよ、ここは。
リョウヤの顔にそう書かれているのを読み取ったエタフルは、仕方がないとばかりに島の名を告げることにする。
聞いても知らないであろう島の名前だ。
「鬼ヶ島っつー島だ」
「鬼っ……!?」
鬼ヶ島――その名は日本人なら誰も知っているのではないだろうか? それほどまでに知名度の高い名前だ。
言わずもがな、桃太郎や一寸法師などの御伽噺に登場する鬼達の本拠地となる島で、前者に関して言うのなら岡山県や岐阜県、香川県が伝承地とされている程だ。
だたリョウヤの驚きに関して言うのなら、それに加えてKODEのシナリオに関与してくる舞台の一つだということもある。
「あぁ落ち着け。鬼っても魔物じゃない」
「……鬼人」
そうだ、とエタフルは頷く。さながら「知っていたか」と感心しているかのようだ。
「で、鬼人がお前を見つけた」
エタフルは何でもないかのように言ったが、リョウヤとしては疑問である。
人間と亜人の関係は決して良くない。寧ろ悪い。
龍というファクターがなければ紅との関係も友好的にはならなかったと断言できる。
そんな中、特に人を嫌っているの亜人族が鬼人だ。
リョウヤは、鬼人が人間である自分を助けるのかという疑問を抱いたのだ。
「そいつがお前に興味を持ったらしくてな……」
だから助けられた。
言外に興味を持つ対象じゃなければ助けてもらえなかった。そう言われてリョウヤは顔を僅かに強張らせた。
自動回復スキルで体力が最大まで回復するのはあくまでゲームの話で、現実でどこまで作用するかは未だに不明だ。完全に傷が癒える可能性は大いにあるが、それならばファフニールとの戦闘中に癒えきっていても可笑しくはない。
つい先ほどまで包帯を巻かれていた以上、エタフルがリョウヤを看た時にはまだ傷があったということになる。
傷が癒えなかった原因は分からないが、傷だらけで外に放置されていたと思うとゾッとする。
「一応聞くが、思い当たる節はあるか?」
「……ある」
紅の時と同様で龍の存在の有無だろうことは察しが付く。
彼女の場合は匂いで龍に気が付いていた節があった。
浜で倒れていたリョウヤを発見した者なら、確認に充分過ぎる時間があっただろう。
「それが、何があったか言えないことと関係があるのか?」
エタフルは察しが良いらしい。もしくは頭の回転が速いのか。リョウヤは「両方か」とぼんやりと思う。
医者故の技能なのだろうと考えたのだ。
外科医なのか内科医なのか正確なものは分からない。けれどモンスターが闊歩する世界で、尚且つ傷を看ることの出来る医者ならば縫合などの手術も行えるだろう。
戦闘とは違う方向で思考の速さが必須なはずだ。
エタフルの言葉は問いかけでありながら確信している声音だった。
これは隠しきれないな、とリョウヤが思うのも無理はない。
「――っと、あまり時間が無いな」
リョウヤが口を開きかけた瞬間、エタフルは立ち上がる。
「実は目が覚めたならお前さんを連れてこいって言われててな」
エタフルがバツが悪いとばかりに言う。
「本来なら怪我人には大人しくしていてほしいんだが……鬼人ってのはどうにも人を見下してやがる」
苛立ちを隠さずに愚痴を零したエタフルは「立てるか?」と手を差し伸べる。どうも、と伸ばされた手を取ったリョウヤは一気に立ち上がった。
「お偉いさんに?」
ああ、とエタフルは頷いて忠告を口にした。
「悪いがそこで事情を説明してもらうことになる。いま話したことはあっちも理解してるから、下手なことは言わないで、正直に話すことをオススメする」
「あァ、流石に今じゃ現状を楽観視してないよ」
鬼人とこんなタイミングで会うことになるとは思ってもみなかったリョウヤは、自分の頬を両手で挟むようにして叩いた。
パン! と乾いた音が響く。
意識をより覚醒させ、引き締めるための一発である。
フッとエタフルが微笑む。
「着替えはそこにある。俺は部屋の前で待機してるから、準備ができたら出てきてくれ」
男の着替えを見ている趣味はないとエタフルは部屋を後にし、リョウヤは綺麗に畳まれた流星雷光龍衣へと手を伸ばした。




