D-XIII.北の空②/自然を守護するもの
ホクスカイトの町から二つ目の山、その頂を目指すと言っても途中で通る山を登り切る必要はない。
直線距離だけならば話は変わるが、登って下るとなると労力も増えるし時間も掛かる。それならばルート上の山は素直に迂回して、山頂を目指さなくてはならない方の山だけを登るべきだ。
そう二人で結論付けたのが昨夜。
現在、リョウヤとラナンは登山の真っ最中だった。
山は周囲も含めて木々に覆われ、人が出歩くような場所ではない。
葉が辺りを暗くするほど生い茂っているわけではないが、整備がされていないので進みやすいというわけでもない。
「ナチュラルエリアなのかな?」
長い金髪で木漏れ日を反射しながらラナンは、隣を歩くリョウヤに同意を求めるように尋ねた。
自然領域、という単語はリョウヤにも聞き覚えがある。
KODEにも出てくる単語だ。
エデンの外からの侵略者である竜は、元あった生態系を掻き乱しただけではない。
エデンという世界を毒で侵したのだ。
元々のエデンは澄んだ美しい世界であり、それは何も目に見える景色に限った話ではない。
所謂"マナ"と呼ばれるものが世界中を漂っている。
空気や土地、生物にも好影響を与えるものがマナだ。
竜は、そのマナを毒した。
マナが毒されるとどうなるのか? 簡単に言うと土地は痩せ、水は濁り、空気は悪くなり、生物は不調をきたす。それは毒の濃度とも言えるものが、上がれば上がるほど酷くなる。
だが逆に毒が全くない場合、そこには竜も魔物も住み着けなくなるのだ。
それが自然領域。
ゲーム上では戦闘のない、採取や採掘専門のエリアとなることが多い。
「野生の動物も多いし、可能性はあるな」
腕輪から出ているレイとリオンの調子も良さそうだ。
レイはリョウヤの頭で気持ち良さげに目を細めているし、リオンは飛びながら回転するなどしてハシャイでいる。
(自然領域……なら、龍の加護が発動しているのか?)
土地を守るのは、その地を司る龍。
リョウヤに星龍の加護が発動しているように、土地には土地の加護が発動している。
加護スキルは龍によって効果が変わるが、加護という名前の通りで護りの力を与える。プラス、正、そう評されるような良い力だ。
そうでなければ"綺麗な土地"に等なりはしない。
それなら……とリョウヤの頭に過ぎるのは、紅と一寸の知人が龍である可能性だ。
龍であるのなら大陸を渡るのも簡単だろう。
そう考えていたリョウヤが足を止め、同時にラナンも立ち止まった。
「……ラナン」
「うん」
前方向の草むらが大きく揺れ、緑色の狼が三匹顔を覗かせたのだ。
「魔物……!」
ラナンが短剣を手元に換装すると、三匹の後ろから更に巨大な狼が茂みをかき分けてくる。
ライオンと変わらない大きさを持つ狼は、威嚇するように唸り声を上げる。
リョウヤは驚きに目を見開き、ラナンの名を小さく呼ぶ。
はい、と指示に従おうとするラナンに武器を消すように告げると、当然ながら彼女は狼狽した。そんな疑問に答えるように、
「魔物じゃない」
リョウヤは頭にレイを乗せたまま、眼前の巨狼を見つめて断言した。
「え……ええ!?」
リョウヤと狼達に視線を交互に向け驚くラナン。当たり前だ。緑色の狼など聞いたことがない。それでも師匠の言葉を信じて武器を消した……のだが、巨狼は未だに威嚇を続けている。
どう考えても攻撃的な態度だ。けどそれはそれで不自然なのか、とラナンもすぐに気が付いた。普通の魔物ならば、態度だけでなく行動で示すのだ。
ならば一体、この狼達は何者なのか? そうラナンが質問するより先に、リョウヤが口を開いた。
「――俺達に、この地を荒らすつもりはない」
一歩前に出て、葉の色をした巨狼に向けてハッキリと宣誓する。
「俺達はイスタンダート大陸に向かいたいんだが、ホクスカイトの飛空挺は飛行が停止している。それを予期していた友人に、この地にいる者を尋ねるようにと教えられたんだ」
これが紹介状だ、とリョウヤは紅から預かった封筒を突き出す。すると唸るのを止めた巨狼はリョウヤの目を見つめ、ゆっくりと近付いてくる。
ラナンが「師匠……」とか細く呟き、リョウヤは「大丈夫だ」と制する。
リョウヤも内心ではビクビクしていたのだが、すぐ目の前にまで来た巨狼が封筒を嗅ぎ始めた時には既に腹を括っていた。
一頻り匂いを嗅ぎ分けた巨狼は体を翻し、歩き始める。
「え? えーっと……師匠?」
ふぅ、と一息吐いたラナン。
リョウヤも肩の力を抜き、渇いた口を開く。
「"自然の守護獣"だ」
それって何? とラナンが聞こうとした瞬間、巨狼が小さく吠えた。
ビクリと体を震わすラナン。
見ると巨狼は首だけで振り返って自分達を見つめていた。
「……着いて来いってさ」
「え? そういう? え?」
本当に? と珍しく本気で困惑するラナンに、既に体の緊張を解していたリョウヤはフッと笑みを浮かべた。
犬とそう変わらない大きさの狼を従えた巨狼の、少し後ろを歩きながらリョウヤは現状の説明をすることにする。
「――ナチュラル・ビーストとナチュラル・ガーディアン?」
「"自然の盾獣"と"自然の守護獣"とも呼ばれてるな」
自然の盾獣と自然の守護獣。
それは自然領域で稀に生まれる獣のことだ。
生まれた土地に準ずる体の色が特徴的で、動物とも魔物とも言える姿と高い戦闘能力を持っている。が、その実は龍に近い。
名が示す通り、自身の生まれた自然領域を守ることを生業としており、本能的に故郷を守ろうとする。
特に守護獣は"加護"と同質の能力で自らの土地を一種の聖域にまで押し上げる。龍が与える加護の方が上等ではあるのだが、それでも勝るとも劣らないと言えるだろう。
リョウヤの言葉を理解していた事からも分かるが、彼らは賢い。そして誇り高い。
「だから、ちゃんと誠意を見せたんだ……」
二種類は自然獣とプレイヤー間では呼称されており、リョウヤが存在を知っていたのはKODの物語に関係があるからでもある。
パーティーインするNPCにナチュラルズについて詳しい者がいて、関連イベントも用意されているのだ。
自由度の高いKODでは、主要キャラクターですら仲間にならないこともある。
仮にナチュラルズに詳しいキャラクターが仲間にならなかった場合、ナチュラルズと戦闘になった際に唯の魔物として処理されてしまう。
きちんと仲間を増やし、ナチュラルズに適切な対応をしていた時のことを思い出しながら、リョウヤは言葉を選んだというわけだ。
「多分、紅のことも知ってるんだろ」
それは紹介状に対する反応から察することができる。
亜人である紅の寿命は長く、それは自然獣も同じだ。
先ほど紹介状の匂いを嗅いでいた守護獣は、どことなく懐かしそうに目を僅かに細めていた。ひょっとすると、守護獣がまだ幼かった頃に紅と会っていたのかもしれない。
「……盾獣ですら珍しいのに、守護獣までいるなんてな」
驚いた、とリョウヤは本音を零す。
ゲームでは盾獣でも中ボスクラス、守護獣ならばボスクラスの相手だ。
その性質上、敵とは言えない。きちんとフラグを立てていれば、守護獣は敵としてではなく腕試しを含んだ門番的な役割として戦うことになるのだ。
「リオン、守護獣さんの背中に乗ってるんだけど……いいのかなぁ」
盾獣達は護衛なのか監視なのか……敵意は全く見せていないので恐らく前者なのだろうが、リョウヤとラナンの周りを追従している。
「さっき説明したけど、自然獣……特に守護獣は龍に凄く近いんだ」
龍に代わり、自然を守護するのが守護獣だ。
パートナードラゴンに関しては、龍の姿だけでなく動物に近いものも多い。進化の方向は実に多種多様で、ライオンのような姿のパートナードラゴンも確認されている。
故に守護獣とは龍なのではないか? という考察もされている程だ。
守護獣が龍になるのか、龍が守護獣になるのか、というのも面白い話題だろう。
「どっちも言わば"星の抗体"とも呼べる存在だからな」
星を傷付ける竜や魔物に対する、自然獣と龍というわけだ。
「人間よりも、親近感が沸いてるのかな……」
リオンとレイの反応の違いは、初見かそうではないかだろう。
レイはリョウヤと共にKODEをクリアしている。そして周回していた記憶もあるし、KODOでエデン中を冒険した記憶もある。自然獣は非常に珍しいが、最早慣れたものだった。
そして、龍人同体のこともある。これによってリョウヤとレイは一心同体だ。また、過ごしてきた時間も家族と呼ぶに相応しい長さを誇っている。
故に今更レイが自然獣に懐かしさを感じることはない。
対してリオンは、生まれたばかりの……文字通り子供の龍。
レイとは違い、自然獣に何か感じる所があるのだろう。
「……寂しいのか?」
「さっ、寂しくない……よ?」
言葉と態度が裏腹な複雑そうなラナンの頭を、隣を歩くリョウヤはぐしゃぐしゃと乱暴に撫で回す。
ラナンの相棒はリオンだけだし、リオンの相棒はラナンだけだ。そんな言葉を口にするのは躊躇われた。 KODを知っている。主人公とパートナードラゴンの関係を知っている。故にラナンとリオンだからではなく、設定上そう決定付けられているから、そう感じられてしまったからだ。
言えば安心させられるのだろう。
けれど――
「ま、一時的なものだろ」
――どうしても薄っぺらく思えてしまい、結局リョウヤはそんなことしか言えなかった。
「……私も浮気しちゃうもん」
「キュ?」
余りに唐突な発言に「はい?」とリョウヤが返す暇もなく、その頭の上に乗るレイを華麗に奪い取っていったラナン。
最初は驚いていたレイだが、すぐにラナンの腕の中で大人しくなった。
浮気の意味を理解したリョウヤは「軽くなった」と自分の頭を軽く掻き、横目にレイを見る。
自身が相棒と呼ぶ龍は少女の胸に抱きかかえられ、瞳を閉じてしまっている。この様子では守護獣の背に乗ったリオンも似たような感じなのだろう。
外に出して良かった、と思う。
ここ暫くはほぼ腕輪の中で過ごさせてしまったので、開放感溢れ、陽光も心地よい大自然で伸び伸びとするのは気持ちが良さそうだ。
恐らくソレも、リオンが守護獣の背でゆったりとしている理由の一つだろう。
(……ラナンに乗って負担を掛けたくなかったのかな? まァ、結局俺の相棒が抱えられちまったけど)
リオンは甘えん坊だが、レイより真面目な所も多々見受けられる。
内心でリオンに「相棒が悪かった」と謝罪しながら、リョウヤは人形でも抱きしめているかのようなラナンの横を歩く。
ホクスカイト周辺の山々に、人間が登ることは基本的にないと町で聞いている。
魔物が出ないのに? と疑問は沸いたが、自然領域となっているのは今いる山であり、町からの道中で通った山は違うのだ。一般人では、どうしても危険が付きまとうだろう。当然ほかにも理由はあるだろうが、それはリョウヤの予想でしかない。
いま歩いているのは整備はされていないのだが、非常に歩きやすい地面だ。無駄な思考は展開しやすかった。
自然獣達は歩きやすい場所を選んでくれている。何より、ちょっとした草木なら道を開けるかのように引っ込んでいくのだ。これは、自然獣がその土地と密接な関わりがあることを示している。そして龍という存在に近く、他の種族との大きな違いでもあるのだ。
移動中は特にやるべきこともなかったので、ラナンにもそういった情報を伝えておくことにする。
時間がある時にリョウヤは自分の知識を披露しているのだが、八年を超えて今も続いている作品だ。如何せん情報量が多い。こういった機会を有効活用していかなくてはならないし、そもそも伝える情報のタイミングや取捨選択がある。思いの外、気を遣うのだ。
自然獣達に案内されたリョウヤ達は迷子になることはない。寧ろ安定した歩幅で進めたので、随分と早い時間で山頂に辿り着けた。
まず目に入った小さな木製の小屋。その前で待っていたのは、片翼を背から伸ばした男だった。
前髪で両目を隠しているが、見た目年齢は二十代中頃といったところだろう。尤も、見た目と年齢がイコールにならないのが亜人だ。参考にはならない。
レイは再びリョウヤの頭に乗り、交代するようにリオンはラナンの腕に収まる。
二人が「案内してくれてありがとう」と告げると、満足そうに喉を鳴らした自然獣は役目を終えたとばかりに森に帰っていく。
最初に口を開いたのは、その一連の流れを見ていた亜人の男だった。
「待っていた、龍を連れし者達よ」
ゆったりとした口調で低い声が呟かれる。
自分達が来るのを知っていたと取れる言葉にも驚かされた。驚かされたが――
(……凄く大きい!)
(近くに来ると余計だな……百九十あるんじゃないのか?)
――大きさの方が衝撃的だ。
二メートルはないだろうが、それでも大きい。服が和装を重ねているのでガッチリしているように見えてしまい、余計に大きく見える。
ラナンの身長が大凡百五十五センチ。リョウヤが百七十センチだ。
(俺が春の健康診断で百七十二だった……伸び続けてる可能性を考慮しても)
やはり目の前の亜人は百九十センチ程の身長だろう。
紅、一寸と両者とも小柄……後者に至ってはまた別なのだろうが、小さかった。それ以前に会ったママやマコといったイーストジーハで出会った者にも、ここまでの高身長はいなかった。
そのせいもあり、随分と驚いてしまった。
「……む?」
聞こえていないのか? と口にはしないが、僅かに訝しむ亜人の男。
呆けていたことを「ごめん、呆けた」と素直に謝ったリョウヤの反応に、ラナンは一足遅れて我に返る。
「話、伝わってるんだな」
「自然獣を通し、野鳥達が知らせてくれたのだ」
なるほど、とリョウヤ。
猛禽類のような翼からして、鳥系の亜人種なのであろう男に「そうだ、これ」と紅から預かった紹介状を手渡す。
封筒から数枚の手紙を取り出し、パラパラと目を通した男は頷く。
「確かに姉御の書いた物のようだ」
感情の起伏の少ない男、というのがリョウヤから見た亜人の男の印象だった。
冷静沈着と言える。
そして、もし今ので手紙の内容を全て理解していたのならば、速読が出来るということだ。
リョウヤが初対面の男を無意識に観察しているのに対し、ラナンは「姉御……」と増えていく紅の呼ばれ方が気になっていた。
リョウヤもそうだが、ラナンも紅の紹介してくれた相手を大して警戒はしていないのだ。
「狭い家だが、今日は休むと良い」
踵を返して小屋の中へと入っていった男に続く人間と龍。
横開きの扉を抜けると、リョウヤにとっては見慣れた……とは言っても主にテレビなどで見慣れたという意味だが、そんな内装が広がっていた。
どことなく和風な小屋だったので予想はしていたのだが、床の中心辺りに囲炉裏があるのだ。必要最低限の物しか置かれていない家具も和風。男が部屋の隅から引っ張ってきた座布団も和風である。
(和風……なんて概念ないんだろうけど)
エデンには日本が存在しないのだ。仮にあったところで、結局はリョウヤのいた日本とは違うのであろうことは察することが出来る。
ありがとうございますとラナンが二つの座布団を受け取り、それを囲炉裏の前に並べる。並べて貰ったことに「どうも」とお礼を言うリョウヤ。
「っと……これ、土産と言うか差し入れと言うか」
「……感謝する」
二つの袋に収まった食料や飲料を受け取った男は、それを一先ずと言った様子で部屋の隅へと置きに行く。
引き換えにと言うわけではないのだろうが、戻ってきた時にはお茶菓子を手に持っている。それらをリョウヤ達に渡した後、囲炉裏で温められていたお湯を湯飲みに注ぎ、緑茶も差し出してくれた。
外の気温は決して低くはなかったが、風は冷たかった。
囲炉裏の熱で温められた部屋と、熱々の緑茶は非常に有り難い。
受け取ってすぐに飲み食いするほどリョウヤとラナンは非常識ではないのだが、家主に「飲むといい」と言われ、促されるままにラナンは緑茶を口にして一息吐いた。
「……美味しい」
体の芯まで温まるとラナンは気の抜けた表情を浮かべ、その顔を見た者から肩の力を僅かに抜いていく。それはリョウヤもそうだし、初対面で種族も違う男も同じだ。
「この地で採れた茶葉で点てた物だ」
男が僅かに雰囲気を和らげ、窺うようにリョウヤに視線を送った。
お前はどうだ? と瞳で問われ、リョウヤは困ったように笑う。
緑茶が飲めないということはない。況してや男を警戒しているということでも断じてない。
「師匠、猫舌なんだよね」
長いとは言えないが、短い付き合いというわけでもないのだ。
リョウヤが辛い物より甘い物が好きなことも、魚より肉なことも――熱い物をすぐに食べられないこともラナンは既に知っていた。
意外だよねー! と笑みを浮かべるラナン。馬鹿にするのではなく、可愛いものを見たかのような笑みは、リョウヤが猫舌なのが初めてバレた時も浮かべていたものだ。むず痒いが、怒る気もないリョウヤが申し訳なさそうに苦笑を浮かべる。
「熱々の方が良いってのは分かるんだけどな……すまん」
「そういう理由ならば仕方がない……香りはどうだ?」
言われて、ゆっくりと湯飲みを口元に持ってくるリョウヤ。
「ん……甘くて……香ばしい……安心する香りって言うのか、こういうの」
香りで精神的に一息吐けるのは日本人だからだろうか、とリョウヤは顔を綻ばせた。
(そう言えば……茶香炉ってアロマテラピーがあるんだっけか)
インターネットの普及した時代の人間故に、いつだかに何処かで見た情報だ。
実際に試したことはなければ、詳しくも知らないのだが「なるほど」とリョウヤは一人納得した。これは、素人でも良いものだと感じたのだ。
ほら、と膝に乗るレイの顔の前まで湯飲みを持っていくと、香りを吸って満足そうに目を細めた。見習うようにラナンも自身の膝に乗るリオンに湯飲みを嗅がせると、こちらもレイと似たような反応だ。
その様子に、男は更に雰囲気を和らげる。
「では私は船の調整を済ませてこよう」
立ち上がりながら男は「出立は明日の昼頃になるが良いか?」と問う。
「え、あ、はいっ!」
「あァそうか……って他に話すことはないのか!?」
唐突過ぎる確認と言う名の疑問に、勢いよく返事をするラナン。
リョウヤも半ば流されつつも、それで良いのか!? と盛大に尋ねた。
「む……ああそうか……手紙に詳しく書かれていたので」
つい、と男は言う。
抜けているのか、お茶目なのか。予想に反した性格なのかと思いながら「そ、そうなのか……」とリョウヤ。
ラナンは手をピシッと上げた。
「私達、お名前を聞いてません!」
ちなみに私はラナンで、この龍はリオンです! よろしくお願いします! と人懐っこい笑顔で告げたラナン。
「俺はリョウヤ……で、こっちは相棒のレイ」
よろしく、とラナン程ではないが人当たりの悪くない位には表情を緩めるリョウヤ。
二人に続いて龍達も名乗りを上げるように鳴いた。
「私は空羅、見ての通り、鳥系の亜人種だ……よろしく頼む」
空羅はそう言って軽く会釈すると「ここの物は好きに使っていい」とだけ告げて小屋から早足に出て行ってしまった。と思えば、すぐに扉が開かれて顔を覗かせた。
「裏にいるから、何かあったらそこに来てくれ」
どうやらそれを言い忘れていただけらしい。
再び顔が引っ込み、扉も閉められる。
数秒の間の後、
「……なんか、意外と可愛い?」
ボソリと零したラナン。自分の師匠も似たようなところがあるけど、とは言えない。
「ギャップってやつか? 確かに予想に反した性格だったけどな」
もっとがさつで適当な人物がいると予想していた。それだけに、少し抜けているようでも真面目な空羅は予想外だ。そして亜人であるにも関わらず、人間に対して嫌悪感を出していないのも好印象だ。恐らく、紅からの手紙に何か書かれていたのだろう。
言われた通り、大人しく小屋の中で休んでいた時間が約六十分。
外は既に日が落ちかけていた。
普通なら夕食の準備……早ければ既に食事始めているかもしれない時間帯だ。
空羅に確認しに行くと「今は食べている暇はない」とのこと。飛空挺を使うのが随分と久しぶりなので、念入りにメンテナンスをしなくてはいけないのだそうだ。
体が丈夫な亜人でも睡眠は必要だ。脳を休めなくてはならないからだ。徹夜で作業をしても体は平気だが、脳には負担が掛かる。それでも僅かの睡眠で問題なく活動できるのが人間との違いなのだが、空羅は「姉御の友人に、もしもの事があってはいけない」と妥協をすることは許さない。
故に船の整備に長い時間を費やすと言う。
そこまで言われては、リョウヤとラナンは言い返せない。何より空羅自身が引かないだろうことは容易に想像が出来た。
船の整備を手伝えたのなら良かったが、ラナンは勿論、リョウヤにもその手の経験はない。
結局できたのは、食事を用意して運ぶこと、夜に温かい飲み物を持っていくこと、その程度だった。




