D-XI.最初の旅⑥/砂漠の地下での一段落
連鎖魔法、チェインマジック。
それは一つの魔法を起点とし、更なる魔法を誘発させる技術だ。
KODに於いてフリーズランサーのレベルを上限まで上げると、【アイシクルミスト】という魔法へと連鎖させることが出来るようになる。
アイシクルミストはフリーズランサーの数で威力や範囲が変わるので、如何にして氷柱を対象付近に設置しておくかが重要だ。
今回の場合なら、交雑種は多くの氷柱に射貫かれていた。
瞬間凍結も当然の結果である。
(いや当然か? あァ当然か。特別強い個体ってわけでもなかったしな)
例えるのなら、今の交雑種はストーリー序盤のボス敵だ。
初戦は苦戦するかもしれないが、ストーリー後半の状態で挑めば――二週目の引き継ぎをしていれば圧勝できるレベルだった。勿論、現実にそんなことは不可能なのだが、少なくともリョウヤはゲーム上ではトップレベルのプレイヤーだったし、今はそれが現実の力になっている節がある。紅もリョウヤと同クラスの実力者だ。
その二人から攻撃された交雑種は死に体に近かったはずだ。
そしてラナンも、本人は駆け出しと謙遜しているが、実力自体は着実に伸ばしてきており、常に伸び続けている。
結果は当然のものだった。
交雑種が綺麗に凍り付き、活動を停止したのを確認したラナンが振り返ろうとした――瞬間、彼女は全身の力が抜けたかのように膝から崩れ落ちた。
リョウヤも一瞬だけ焦らされたが、すぐに気が抜けただけだと理解した。ラナンが気恥ずかしそうな笑みを浮かべて、こちらを見ていたからだ。
ピースサインをするラナンを確認して、ホッと一息吐いたリョウヤの背が軽く叩かれた。
紅である。
「師匠なら、きちんと褒めてあげなさい」
それが仕事と言われ、「あァ」と短く返事をして歩き出すリョウヤ。
その背後で一寸が紅を茶かすが、紅は至って冷静に対応しているのが聞こえた。やはりと言うかなんと言うか、亜人である紅が人間に対してこう気を回すのは珍しかったらしい。
ざりっ、と砂を踏み立ち止まるリョウヤ。
目の前では、とんび座りのラナンが何かを期待するかのような目で自分を見上げている。
(……なんて言えばいいんだ?)
紅に促されついつい足を運んでしまったが、師匠が弟子に向ける言葉などすぐには浮かんでこない。
少し前まで普通の高校生だったのだから仕方がないのだが、そうも言ってられないだろう。何せ今、伝えなくてはならないのだ。
しまった! とリョウヤは焦るが、遅すぎた。
「連鎖魔法まで使えると思ってなかった……いつの間に憶えてたんだ?」
口から出たのは時間稼ぎにも近い、苦し紛れの問いかけ。
「え、っと……一人で戦い始めてすぐに"あ、こうすれば出来るかも!"って思って」
決して頭が悪いわけではないが、どちらかと言えば直感系なラナンらしい回答だった。
リョウヤは笑ったが、ラナンはどこか残念そうである。
リョウヤの背に批難の視線が突き刺さる。
(分かってるよ……)
背後から感じる紅の視線にそう答えながら、リョウヤはゆっくりと腰を落としてラナンに目線を合わせた。
「連鎖魔法には驚かされたし、動きも良く、間合いの取り方も上出来、使った策も上々で、武器の換装タイミングもベストだった」
ラナンは最初、何を言われたのか理解が追いつかなかった。
「……!」
一瞬の間の後それが理解出来、顔を綻ばせるラナン。
リョウヤの真剣な表情で紡がれた言葉だけで、踊り出しそうになるくらい嬉しかった。それが顔に出ている自覚もあったので、どうにか自制しようと、冷静になろうと努める。
「格好良かったぞ」
ポンポンとラナンの頭を叩くリョウヤは、笑顔で躊躇いなく言い切った。
言い切って、後悔した。
最後の言葉は無意識だったのだが、仮にそれを差し引いても、格好良かったって何? 女の子に言う言葉か? と思う。
でも戦っていたのだし……。見事! なんて言うのも、どんな性格だよ!? ってなるよな!? そう自分自身を擁護するリョウヤ。
内心で焦りから混乱した様は年相応の少年らしい。
そして混乱したのは少女の方もだった。
褒める素振りを見せなかったと思えば、捲し立てるように褒めてくる。
下げて上げられたラナンは、顔を深紅に染めた。
「師匠の弟子だからね!」
照れ笑うラナンは最早、羞恥も歓喜も全く隠せていない。
あれで良かったのかとリョウヤが安心するのもつかの間で、今度はどうやってラナンを正気に戻せば良いのだろうかと頭を悩ませる。
えへへ、ふふふ、とニヤニヤし続けるラナン。
ある種のトリップ状態なのではないかと疑ってしまう程の様子だ。
「嬉しいのは分かるけれど、天狗になるようでは先が知れるわよ?」
困っていたリョウヤに助け船を出したのは紅だった。
師匠から弟子への賞賛に満足がいった紅は、リョウヤの背中からヒョッコリと顔を覗かせ、少し間違えてしまえば嫌われてしまうような毒を吐く。
あーあ、と相も変わらず肩に乗る一寸が嘆息した。一寸はこの場所に至るまでの三人を見ていない。故に「またヘイトを集めて……」と二人の人間から嫌われることを覚悟したのだ。
リョウヤもラナンもまだ子供で人間、対して自分達はそれなりに歳食った亜人。棘のある言葉では、悪意しか汲み取らないだろうと思うのも無理はなかった。
「……そう、だよね……うん、褒められるのは嬉しいけど、これで満足しちゃ駄目だ」
ありがとう、紅さん! 元気よく顔を上げて紅を見て放たれた感謝の言葉に、紅は満足げに頷き、一寸は肩をガクッと落とした。
「自分から嫌われるような言い方しなくてもいいんじゃないか?」
「素だもの」
「……さいで」
子供の片割れであるリョウヤも、紅と気の抜けるやりとりをしている。
杞憂だった、と一寸が力を抜いてまうのも仕方がない。
「ったく、お嬢は……いちいち冷や冷やさせやがるぜ」
ハーッ、と長く息を吐いて苦笑を浮かべる一寸。
そこで漸く、ラナンは紅の肩に乗る存在に目が行った。
「小さい!!」
「おう! 小人族だぜ!」
ラナンと同じく一寸も元気溌剌。
どうやら一寸もラナンのように明朗快活なようだ。
「一寸って言う一族の頭領をやってる一寸法師だ、よろしく頼むぜ!」
「ラナンって言います! 駆け出し冒険者です! よろしくお願いします!」
親指を立てる一寸。右手をピシッと挙げるラナン。
どちらも朗らかな笑みを浮かべていたが、後者が不意に小首を傾げた。
「一寸族の……一寸さん?」
ラナンが不思議に思ったことは、リョウヤも最初に思ったことだった。
一寸とは長さを表すし、法師は僧侶に対する呼称の一つだ。
リョウヤに至っては"一寸法師"と言うお伽噺まで知っている。
ラナンと違うのは、KODシリーズのイベントにはそういったキャラクターが登場するのを知っているということだ。
例えるのなら七夕イベントの彦星と織姫や、クリスマスイベントのサンタクロースなどが挙げられるだろう。
そんなこともあり、一寸法師がいても不思議はないとリョウヤは一人で納得していたのだ。
「まーあれだ、一寸法師って名は頭領が襲名していくものだからな……今のおれの名は間違いなく一寸法師なんだが、こいつは称号でもあるんだよ」
だから一寸と呼んでくれりゃ良い、と一寸は朗らかに微笑む。
ほぇー、と納得するラナンは立ち上がる素振りを見せない。
ラナンは性格上、自己紹介などをするときは相手と目線を合わせる。きちんと最低限の礼儀を持って応対するので、そのことを知っているリョウヤは僅かに違和感を憶えていた。
「……あ、立てないのか?」
リョウヤの小さな呟きは能力の高い亜人の二人には勿論、人間であるラナンの耳にも確かに届いた。
ギクリと震える人間の少女。
「あら、気が抜けきったのね」
フッと微笑む紅を、一寸が信じられないものを見たと言う表情で見た。まさしく「え? 誰?」とでも言うかのように目を見開いている。
「一寸」
「ハッ! いや違う! 珍しいものを見たとか、信じられない光景が広がっていたとかでは――」
「貴方、荷物に入っていたでしょう? 案内しなさい」
慌てて一方を指さす一寸に従い、紅は大空洞から通ってきた通路の方へと歩き始める。
え!? と困惑するのはリョウヤとラナン。
そんな二人を見ないフリでもするように早足で進む紅。
ハメられた!? そんな思いがリョウヤの頭を過ぎる。
今いる場所は土地勘のない――それどころか、迷路のように入り組んでいる洞窟だ。こんな所で置き去りにされたら出るまでにどれだけ時間を要すか分からない。
否。
出ることが可能なのかすら分からない。
「早くなさい」
だが、そんな焦りも杞憂だった。
途中で振り返った紅が、普段通りの顔で急かして来たからだ。
(焦った……マジで焦った……)
ラナンを褒める時とは違う意味で汗を流したリョウヤの脇で、ラナンが「あのー……」と言いながら怖ず怖ずと挙手した。
「私、動けません……」
非常に気まずそうな声音に、紅はリョウヤを見て唇を動かした。
多才ではあるのだが、読唇術などと言う高尚なものは会得していないリョウヤ。会得していない、というか会得する必要もほとんど無い世界から来ているので当たり前なのだが――それでも直感した。
連れて来なさい。
そう言われたのだと。
いや、分かっている。砂漠の地下洞窟は通路ではあるのだが、魔物の巣になっていた。ならば長居する理由もない。それは分かっているのだが、どうしろと? リョウヤはぼやく。
既に歩みを再開させている紅を見て、リョウヤとラナンが下した決断は――
「し、師匠? その……重くない?」
「あァ、寧ろ軽い」
――おんぶだった。
耳元近くからの声をむず痒く感じながらも、ゆっくり且つしっかりとした足取りでリョウヤは紅の背を追いかける。
大空洞の出入り口付近で止まったていた紅に、一寸は口を開いた。
「お嬢が人間に入れ込むなんてな」
「……善意には善意で返すだけよ」
背を向けており、声量も控えめなので、二人の会話はリョウヤ達には聞こえていないだろう。その二人も、何やら言葉を交わしているので尚更だ。
「同族にもシビアなお嬢の言葉とは思えないぜ」
煽って笑っているようにも見える一寸だが、ただ単に驚いているだけだったりする。同族にも冷たい自覚のある紅も、敢えてツッコむつもりもない。
「良い子達だもの……それに――」
「龍の気配、か?」
言わんとしていることを察した一寸の言葉を、紅は一度頷き肯定してから言葉を続けた。
「実際に連れているわ」
なに? と訝しむ一寸だったが、紅が嘘を吐いているとは思えないし、する必要も無い。
どうりでな、と考え込む一寸。彼もリョウヤとラナンの纏う気配には気が付いていたのだ。
エデンは遥か昔、別次元から侵略を受けている。
侵略者達は竜と呼ばれているが、元来エデンにいた龍とは異なる存在だった。竜はエデンの生物全ての生活圏を踏み荒らし喰らい、世界は一度滅びかけている。
それを未然に防いだのが数人の人間や亜人、そして龍だった。
伝承に残っているのは、そんな触りだけ。
だが、竜が活性化している今の世に、龍を連れた人間が現れた――それを気にするなと言う方が可笑しい。
ただ今、考え込む時間はない。
既にリョウヤとラナンが近くに来ているからだ。
「お待たせしました!」
背負われたままのラナンが元気に拳を挙げる。
当初の羞恥心はもうない、というか忘れることにした。考えれば考えるほど恥ずかしくなるのだ。ならば逆に楽しんでしまおう、そんな発想だった。
元々ラナンにはおぶられる経験はない。いや、あったのかもしれないが、記憶には全く残っていない。
そう考えると、非常に新鮮な気持ちになれたのだ。
「おう、倉庫っぽい所はすぐそこだぜ」
ラナンに釣られるように一寸も笑う。
言った通り、倉庫とも呼べる横穴は大空洞から離れていなかった。時間にして三分歩けば着く距離だ。
その途中で紅が「一寸は荷物の中のお碗に入って休んでいたこと」を告げると、ラナンは感心した。
この距離を歩くのは大変だったよね、と。
言われてみれば確かに、とリョウヤも思う。
一寸が文字通りなのだとしたら、彼の身長は三センチと少しなはずだ。そこから推察される歩幅は余りにも短い……のだが、一寸曰く「色々やりようはある」らしい。
その一寸が倉庫っぽいと評した空間は、本当に言葉通りの空間だった。
リョウヤが貝塚と例えた空間よりも大きめで、収められている荷物も一人や二人の物ではない。
無駄に綺麗に並べられた荷物には馬車まで混じっている。
恐らく、旅団か行商人が襲われたのだろう。
ラナンは複雑な表情を浮かべて、それらを見た。
人間がいる様子がないことは何の安心材料にもならない。
もし人間が捕まっていたという過去があるのなら、その人間達は今なにを――?
「考えても仕方がないことよ」
ラナンに対する感情以外が籠もっていない紅の言葉に、一寸が「だな」と頷く。
「こればっかりは、どうしようもない」
一寸の言う通りだった。
仮に捕まっていた人間がいたとしても、今はもう姿が見えない。
食われたのか、或いは逃げ切ったのか。
後者の可能性が限りなく低いのは誰の目にも明白だったが、リョウヤも二人の亜人に同意することにする。
「そもそも最初から捕まってなかった……かもしれないしな」
リョウヤが言ったのは理想論だ。
現実はそう甘くはないだろうが、それでも可能性は零ではない。寧ろ捕まってから逃げるよりは可能性が高いだろう。
言ったリョウヤも理解出来ているので、内心では複雑だったが顔には出さないようにと意識する。今は空気を変えるのが大事なのだ。
「うん、そうだよね……そうだと、良いな」
気を遣わせてごめんなさい、と謝罪したラナンを責める者はいない。
空気を一新しようと一寸が笑いかけ、自分が眠っていたという茶碗の入った荷物の場所を指さす。
場所が分かっていたおかげで、数多くの荷物群の中から目的の物を探し出すという難関に当ることはなかった。
紅の荷物は大きめの巾着袋と一振りの太刀だったようだ。
自身の武器が戻ってきたことで、リョウヤは月刀を謝礼と共に返却される。
紅が背負った太刀の刀身は包帯でグルグル巻きにされており、刃渡りは目算で八十センチを超えていた。
拵えが陣太刀様式になっているのも特徴的なその太刀は、一目で傑作なのが分かる一品だ。
つまり、刀剣の類が好きなリョウヤが目を奪われるのも当然だった。
自分が貸していた月刀シリーズの一振りである恒月よりも、数段上等なのがすぐに分かった程の太刀なのだ。
「……人にこの刀を持たせることは出来ないわ」
ちょっと触りたいなァ、なんてことを思ったリョウヤの心を読んだかのように、紅は拒否の言葉を弾き出した。
「え!? いや別に、俺は……」
少しだけ焦るリョウヤは、そんなに物欲しそうにしていたのかと恥ずかしくなってしまう。
「元神刀の現妖刀だもんなぁ……」
神刀だったものが妖刀へと変貌したものだと一寸は言う。
「柄に触れただけでも斬り裂かれる代物だもの、容易には渡せない」
どんな刀だ、とツッコむ気もおきない。
ゲーム上の話をするのなら、体力が徐々に減っていく類のスキルが発動しているのだろう。
紅が所持している武器のなら、体力と引き換えに火力が大きく上がるなどの効果が発動する可能性が高い、というのがリョウヤの読みだ。
とは言えそれが分かっていても、実際に怪我を負ってまで手に取ろうとは然しものリョウヤも思わない。
「そ、そんな武器もあるんだ……」
恐々としながらもラナンは、リョウヤの横から顔を覗かして物珍しげに紅の太刀を見つめる。
「まぁ……殺した相手が悪かったのよね」
「一人で神刀を完全に呪いきるなんて、普通は想像できないってな」
紅は「死して尚、迷惑な」と溜め息を零し、一寸は遠い目をする。
「あー……怨念的な?」
紅の正体に繋がる話題ということもあり、リョウヤが問うた。
元が神刀と言うのだから、後天的な妖刀だ。その原因が命を奪ったということならば、それは恨みや怒りから発生したもの考えられたからだ。
「とびっきりの化物だったぜ? 数人掛かりでやっとこさってな」
一寸はその当時を思い出し、苦虫を噛むように呟いた。
そんな話をしつつ、倉庫のような横穴内部を物色していたのだが、特に役立ちそうな物はない。
食料があればと思ったのだが、優先的に消費されていたようで全く残っていなかったのだ。
リョウヤとラナンはまだまだ備蓄に余裕があるし、紅と一寸は無くても困らない。そんなこともあり、早々に横穴を後にした――のが数時間前。
結局、紅達が殺した対象については大した情報を得られなかった。
紅にとっては触れられたい話ではなかったらしく、本人から直球で「やめて」と言われてしまったからだ。
(一寸法師が打倒するのは鬼だからな……イメージ的には呪いとも合うんだよなァ)
鬼を殺し、鬼に太刀が呪われた……というのが、しっくりくる。
確認をしようとしたら、反感を買いそうなのでしない。
ただ、鬼を倒す繋がりで、紅は桃太郎か? とリョウヤは予想した。
紅と桃は色的に近いからだ。
本来なら性別が云々で一蹴するのだが、仮に桃太郎という名が襲名したものならば。それこそ一寸が言ったように称号のようなものなのだとしたら、ありえない話ではなかった。
物語上に描かれなかっただけの人物が正体ならば、その想像は全くの無意味になるのでリョウヤも止めたのだが、それでも思考の片隅に容量を割いてしまうのは癖であり性格なのであろう。
地下洞窟の通路は広さが区々だ。
二人並んで歩ける程度の場所もあれば、十数人並べるような場所もある。
その日は、充分な広さのある通路の一角で休息をとることになった。と言うのも、交雑種と戦った時点での時刻が大凡十七時過ぎ。戦闘にかけた時間は長く見積もっても二十分程だが、そこから計算される今の時間は二十二時なのだ。
地下だから空の色で分からなかった、とラナンは零したは未だにおぶられたままだった。
ここに来るまでラナンを背負っていたリョウヤも含め、当事者が二人揃って背負った事と背負われている事を忘れていたのだ。
休息となったことで気が付き、ラナンは慌ててリョウヤから下りたし、リョウヤは自分の体力の筋力に改めて驚かされていた。
平謝りのラナンを制するリョウヤは、自分に何らかの補正が掛かっているを再確認し、取り繕うように地図を取り出す。
「まだまだ砂漠……だけど、思ったよりは進んでるな」
十字型の大陸であるウェスタンダート。
十字の右、つまり東側の端にあるのがイーストジーハの町だ。
砂漠は東部中心から大陸中央を向かい、やや南部に反れた形に広がっている。片翼を広げているようにも見える形なのだが、その尖端。最も北部の部分は砂漠地帯が狭い。そこを横断しよう、というのがリョウヤとラナンの計画だった。
実際は一度砂漠の中心部にまで行ってしまったので計画は破綻してしまっていたのだが、リョウヤとラナンは紅を加え、北部から中心部まで移動している。
そこから北西に向かったのは、一寸も含めた四人の向かう方向が一致していたからだし、紅もお礼を含めて案内すると言っていたからだ。
「砂漠を抜けるのには、どれくらいかかるの?」
立ちっぱなしで地図を眺めだしたリョウヤに代わり魔物避けを使い、シートを敷き、遅めの夕食の準備を始めたラナンは顔を上げてリョウヤを見た。
「これなら明日中には余裕かな……っと、ごめん、手伝う」
「あ、ううん! 私ずっと背負われてたから、師匠達は休んでて!」
さり気なく紅と一寸も大人しくしているように言われたが、元から座っていたので文句の一つも出やしない。
一寸自身はサイズ的に厳しいが、代わりに紅に小言を言っていた。それを聞いたラナンは「紅さんもゆっくりしててー」と笑ったので、どちらにしても手伝わせては貰えなそうだと紅は息を吐いた。
リョウヤはシートに座り、紅と一寸にも見えるように地図を置く。
小さな一寸にはやはり見えにくかったようで、一っ飛びで紅の肩に飛び乗った。その姿が小動物を彷彿させて妙に可愛らしかった、とラナンは後に零した。




