D-X.最初の旅⑤/VS交雑種
交雑種の胴体は蜘蛛の体そのもので、尻尾や鋏は付属品に見えなくもない。
強引に蜘蛛で例えれば尾長蜘蛛と言えるのだが、結晶蜘蛛は丸みのある体を持つ蜘蛛なので、やはり結晶蜘蛛がベースということなのだろう。
交雑種は体そのものが非常に大きい。構造上、本体は地面に近いが、尻尾を含むと大型トラックを超える程の高さがある。尻尾は蠍のように曲げた状態で、その高さだ。
伸ばして鞭のように薙ぎ払われた場合、かなりの広範囲が攻撃対象となるだろう。
(それに――尾の尖端から結晶の射出……先端部分にあるピンセット状の二つの針は、投射口の保護も兼ねてるのか。毒の有無は分からないが、どっちにしても邪魔だな)
右側へと跳んで初撃を回避していたリョウヤは、自分で思っているほど弱くはない。
仮想世界での経験しかないのだと勘違いしているが、戦闘時の思考――即ち瞬間的な分析や判断、そして観察眼は仮想だろうが現実だろうが関係なく鍛えられているのだ。
リョウヤは冷静に状況を見極めながら、声を上げる。
「天井注意!」
リョウヤが言うや否や、ボトボトと砂漠蠍が落下して来た。最初から天井に張り付いていた個体達だ。
男一人、リョウヤだけがラナンと紅とは逆に跳んでいる。合流するのは簡単だが、リョウヤはそれをしなかった。
まず、極縮地を使って交雑種に向かって飛び込んだのだ。
目標をその尻尾に定め、一直線に跳ぶ。
手に持った獲物は――双剣から漆黒の大鎌へと変化していた。
その鎌の刀身は半円の穴が二つ並んでおり、その半円はそれぞれ上下が逆を向いている。
メインとなる刀身の逆には、戦斧の刀身を上下に伸ばしたかのような刀身が付いている。さながら大鎌とバルディッシュを混ぜたかのようなフォルムだ。
それだけでも独特なのだが、全体的に機械的な大鎌の刀身は上下に開き、二つの刃となる機巧も備えている。
(それだけじゃあないんだけど……どっちの機巧も使う必要はない、か?)
リョウヤのアイテム所持枠は武器と防具の枠が少ない代わりに、通常アイテムを多く持てるという仕様になっている。
これは、多様な武器を扱いたいリョウヤにしたらデメリットでしかない。
故に持ち歩いている装備は、一部を除いて強力且つ特殊な代物しかないのは必然だった。
いま構えている大鎌も、数多くある武器群の中でも特殊機巧大鎌という珍しいカテゴリーに含まれた武器だ。
特殊機巧武器とも呼ばれる武器種で、単に変形するだけの物もあるが、大概はその変形によって武器種が変化することを目的としている。
リョウヤの特殊技巧大鎌――ディスペアドミネイターVV。
VVの意味は変形を意味するVariable、異なるという意味のVariant。そして、絶望を意味するDespair、支配者を意味するDominatorもそれぞれDを頭文字にしている。
そんな名称もあり、リョウヤの仲間内ではDDVVやD2V2などでディーツーブイツーと呼ばれている武器だ。
オフラインゲームであるKODEの裏ボス関連の武器にカテゴライズされる。それも二体の裏ボスの素材を使った各武器を作り、その武器と素材を用いて、特殊な鍛冶師に作成してもらうという入手は非常に困難な武器に当る。
オフラインゲームの武器をオンラインゲームで常備していることからも分かるが、かなりの高性能な武器である。
KODEの裏ボスはキチガイだ、とリョウヤは断言できる。恐らくそう言うのはリョウヤだけではないだろう、その難易度はオンラインゲームのKODOでも滅多に味わうことがない。
故にオフラインの装備でありながらオンラインでも活躍する。のだが、周回数や難易度などの条件などを抜かせば、まず裏ボスと戦闘をするのがそもそも難しかったりする。
裏ボスの登場するダンジョン、通称・裏ダンジョンはワールドの何処かにランダムで現れ、そのダンジョンの内容も毎回ランダム生成なのだ。
難易度は言わずもがな。
ダンジョン突入時にオートセーブ。
クリア時にオートセーブ。
ゲームオーバー時にオートセーブされる。
それのどこが問題なのか?
ストーリーを一周するまでの間に、プレイヤーに与えられた裏ダンジョンの挑戦権が三回までなのだ。
更に難易度を上げる要素に、裏ダンジョンの数の多さが挙げられる。
数が多い上で、一度に出現するのは一ダンジョン。クリア、ゲームオーバーでダンジョンは切り替わり、場所も変わる。
機会が三回あると言っても、対策を練ったものではない裏ダンジョンにぶち当たることも多い。しかもその周回中に狙ったダンジョンが現れないこともある。
そのせいか、KODシリーズで難易度緩和が施された数少ない事例だ。
苦労に見合った性能のD2V2ではあるのだが、武器耐久値が低い。これは全ての機巧武器に共通しているのだが、リョウヤの場合は加護スキル【星龍の加護】が発動している。このスキルは武器と防具、つまり装備へのダメージを割合で軽減する。そして流星雷光龍衣も割合で装備へのダメージを軽減する。効果は重複するので、流星雷光龍衣を装備しているリョウヤの装備は全て不壊という文字通りのスキルが付与されるのだ。
不壊スキルのおかげで所持数の少ない装備達の破損を気にする必要がない。
リョウヤは不壊効果によって十全に扱えるようになった機巧大鎌の刀身を二つに分解する。
尻尾が危険で邪魔なら、切断してしまえば良い――リョウヤにとって至極当然の発想だった。
誤算があるとしたら、近くの砂漠蠍三匹が跳ねてリョウヤに攻撃を仕掛けてきたことだろうか。
否。
リョウヤとて、その可能性は充分に理解していた。
故に大鎌を振るい、鋏や尾の毒針が届くより速くに砂漠蠍の処理をする。
ほんの僅かに縮地での加速が遅くなったことに気が付き、交雑種がその隙にリョウヤから離れようとしたのは当然の行動だった。
だが。
リョウヤは大鎌を薙ぎ払い、野球選手がバットをスイングした後のような体勢だ。
追撃はない。寧ろ尻尾で攻撃してやろう。もし交雑種に人並みの思考が存在するのなら、そう考えたことだろう。
事実、交雑種は逃亡から攻撃へと移ることにしたかのように、体の動きを一瞬だけ硬直させた。
だが緩い。
そうリョウヤは口元を釣り上げた。
手に馴染んだ大鎌は、既にその刀身の向きを変えているのだから――。
D2V2の機巧は大鎌の刀身を持ち手の先へと移動させ、大鎌から槍へと変化させというシンプルなもの。と言っても大鎌という特性上、槍と言うには余りに巨大な刀身になる。
そのリーチは大鎌状態よりも広がる。
黄緑色の鮮血が舞った。
薙刀というには余りにも巨大過ぎる刀身は、交雑種の尾を半ばまで斬り裂くことに成功していたのだ。
戦果としては上々だろう。ラナンも、紅ですらそう思った。
だがリョウヤは、忌々しげに舌打ちをする。
それは着地と同時に砂漠蠍に寄られたからではない。
蠍達を双剣で斬り払いながらも、グルンと回転した交雑種の攻撃範囲外に跳躍したリョウヤ。裂けることを危惧したのか尻尾は振るわれず、攻撃は鋏のみだったので簡単に範囲外に逃れることができた。
(思ってたより反応が早いな……大人しく魔刃機巧を使って置くべきだった)
リョウヤは自身を叱咤する。
考えが甘かった、と。
緩いのは自分の方だった、と。
リアリティも重要視されているKODではあるが、ゲームはゲームだ。
尻尾の切断や角の破壊などの、一般に部位破壊と呼ばれるアクションには蓄積値が存在している。
尻尾の切断ならば斬撃系統の攻撃を対象の尻尾に当て、蓄積値を上回ることで切断することが出来るというわけだ。
尻尾の同じ位置を斬り続ければその分早く切断が可能で、攻撃の当たり方でも蓄積ダメージは変動するというのがゲーム的な観点。
だが今は現実だ。
対象の柔らかさにもよるのだろうが、今の交雑種の尾の固さならD2V2の一撃でも切断が可能だった確率が高かったとリョウヤは感じたのだ。
現に、尻尾に残る傷は深いのが一目で分かる。
(交雑種と一言で済ましていたが、同時に特異個体でもあるんだよな……)
予想以上のスピードもそうだが、そもそもサイズが大きい。
頭の隅では理解していたのだが、相手を侮っていたから魔刃を展開せずに攻撃を仕掛けてしまった。
D2V2は鎌の刀身を分解後、刃と刃の間からMPを消費して魔法属性の刀身を発生させることができるのだ。
魔刃展開状態ならリーチが伸びるで、今の攻撃でも尾を切断できた可能性が高い。
D2V2は可変よりも魔刃の方が主となるギミックだ。
切り札は出来る限り隠しておきたいというのもあったので魔刃を展開しなかったが、尻尾を切断する確実性、そこから繋がる安全面を優先するのなら使うべきだった。
それ故に、自己に向けた舌打ち。
だがリョウヤは、すぐに目を見開くことになった。
(……は!?)
紅が左腕を交雑種の尻尾に回していたからだ。
右手で逆手に刀を持ち、鞘の鯉口付近を口で咥えた紅は、蠱惑的な表情で――リョウヤが残した傷跡を刀身をなぞった。
同体から離れる尻尾。
リョウヤが斬った時とは比べものにならない量の血液を撒き散らす巨大な尻尾を、紅は左腕で軽々と担いだまま跳ぶ。
最早、反射なのであろう。
交雑種が今度は紅を視界に収めようと動く。
そうして交雑種が三人を視認できるようにと体を回転させた所で、自身の眼球のいくつかが真っ暗に染まったのを理解した。
紅から予め指示を受けていたラナンの、フリーズランサーが射貫いたのだ。
これだけでも、やられた方はからしたら混乱するだろう。
そこにトドメとばかりに紅が尻尾を叩き付けたのだから、恐ろしい。
何が恐ろしいのか?
連携による連続攻撃もそうだが、尻尾をぶつけられた交雑種がそのまま尻尾と共に吹き飛んだことだ。と後にリョウヤは言う。
リョウヤとラナンを遮っていた交雑種がいなくなったことで、二人はお互いを見えるようになった。
リョウヤは驚愕の表情のままフリーズしており、ラナンは口をパクパクと開閉させていた。
そんな二人のちょうど中心当たりで綺麗に着地した紅は、血液の一滴も着いていない着物の砂埃を払う。
(スッゲェ怪力……)
(ち、力持ち!)
リョウヤとラナンは、紅の細腕からは想像もつかない豪快な戦い方に驚かされている。が当の本人は至って平静だ。
リョウヤは、壁にめり込み崩れた岩石に埋もれた交雑種に視線を戻す。
ラナンと紅の方が互いの位置は近く、ラナンに何かあっても紅のフォローが効く距離だ。障害物のない今、直線的な軌道の縮地を使うリョウヤでも充分に対応できる。
通常サイズの砂漠蠍も残っていない。こちらに関しては氷柱に貫かれた死骸が残っていることから、ラナンが処理したのは明白だった。
リョウヤが斬り裂いた蠍を含めても数が少ないのは引っかかるが、天井に張り付いている個体もいないので、一先ず優先すべきは交雑種なのだ。
重い音を立てて瓦礫から這い出てくる交雑種。
当然だが、尻尾を切断されたくらいでは死なないらしい。トカゲのように再生することも考えたが、そんな様子はない。
体中が傷だらけで、黄緑色の血を垂れ流している。ほぼ根元から斬り落とされた尻尾の生えていた部位には既に結晶が固形化し始めていた。
元となる体液がただ流れ出たのであろう結晶は、結晶に唯一触れられる体毛が生えていない部位にまで零れ固形化しているが、自分の結晶がどういものか理解しているようで、砕けてしまうような大きな動きをする様子はない。
心なしか、その八本の足は震えているように見える。
(ダメージは大きい)
リョウヤ、ラナン、紅、共にそう判断する。
この調子ならば簡単にケリが付くだろう。それこそリョウヤと紅、そのどちらか一人でも充分過ぎるほどだ。
「あァー……紅、ちょっといいか?」
ちょいちょいと手招きをするリョウヤ。紅は不思議そうにしながらも、文句の一つもなくリョウヤに近寄り、耳打ちされる。
リョウヤからの提案と言う名のお願いを聞いた紅は一瞬だけ考え込んだが、すぐに頷き「伝えて」と告げた。
ゆっくりと交雑種に向かって足を進める紅。
困惑するラナンに声をかけるリョウヤ。
「し、師匠? 紅さんが……」
「あァ、少し時間を稼いでくれてるんだ」
紅からは一言しか貰えなかったが、その行動の意図はリョウヤにも伝わっていた。
「ラナン、一人でアレの相手をする気はあるか?」
それが提案だった。
元より経験を積むのが目的の一つであったのだから、余裕があるのなら倒してしまう必要はない。ラナンに戦闘経験を積んでもらった方が得策だ。
交雑種の負担は大きいが、魔物を相手に遠慮をするというのもおかしな話だ。ラナンは驚きこそしたが、すぐに強い瞳で頷いた。
「俺と紅でフォローはするから……気を張りすぎないようにな」
「うん、大丈夫」
躊躇いのあるリョウヤとは対照的な、一切の迷いのないラナン。
彼女がリョウヤに弟子入りしてまだ二週間ほどしか経っていない。それでも今までに比べて、何かが決定的に変わった。
なんだろう? と落ち着いた心でラナンは考える。
少し前まで自分は、戦いそのものが恐くて仕方がなかった。それは黒竜に襲われたことで、更に大きくなって――リオンという相棒がいても、相手がどれだけ弱いと言われていても、恐怖心が消えることはなくて。戦いを好きにはなれなくて。
そんな自分が、見たこともない巨大な魔物を相手に一人で戦おうとしている。
なぜ?
何が変わった?
「……凄い集中力」
ラナンの雰囲気を感じ取り、交代するように紅がリョウヤの横に並ぶ。
他人の集中する様が、こうも空気を振るわせるのかと驚くリョウヤ。周囲から見たリョウヤもまた、集中すると今のラナンのようになっているのだが、自覚などある由もない。
紅は交雑種に対して攻撃という攻撃はしていなかった。
周りからプレッシャーを与えていただけだ。
潰れていない目でラナンを睨んだ交雑種は誰の目に明らかに気を抜いた。
嘗められている。
本来なら怒るのかもしれない。苛つくのかもしれない。それほどまでに露骨な反応だった。
けれどラナンは「それはそれで都合がいいのかな」と思う。
師匠も言っていた。
敵がこちらを侮ってくれてる分には、付け入りようがあると。
(あ……心構え?)
先ほどリョウヤが自分に言ってくれた「フォローするから」は「だから大丈夫だ」ということ。それ以外にも、今日までの旅の中で大丈夫だと、ラナンならやれると何度も言われてきた。
持ち上げられて天狗になる? とんでもない。
自分より圧倒的に上の実力を持った者からの言葉は、単純に彼女の背中を押してくれた。そして今、自分が倒れた時に支えられるようにと、すぐに駆け付けられるようにと、後ろで控えてくれている。
(今は紅さんもいてくれて……)
ラナンの中ではリョウヤと紅の実力はイコールだ。付き合いの長さと親しみ具合でリョウヤの方が僅かに上ではあるのだが、どちらも雲の上の二人である。
そんな二人が見ていてくれて、戦いを不安に思うこともない。
雑念と言われても不思議ではないそんな思考は、雑念と呼べない程クリアな頭で行われていた。
周りの景色がよく見えているし、微かな音も聞こえている。
陳腐な言葉ではあるが、絶好調、そう呼ばれる状態が今のラナンだった。
決して速くはない。けれども軽やかにすら見えるステップで交雑種へと肉迫するラナン。
交雑種は両腕の鋏を振り上げたが、ラナンも真正面に突っ込むほど馬鹿ではない。
交雑種の左側の眼球は全て、ラナンがフリーズランサーで射貫いている。未だに氷柱が突き刺さり、痛々しく出血している眼球は死角となる。
そちらに回り込んだのだ。
とは言え、交雑種とて唯の魔物ではない。
視界に入らずとも本能や直感、ラナンの気配を辿ることで大まかな位置を掴めている。
(それでも――)
「――弱った体では、対応しきれない」
リョウヤは安心と感心が半々と言った様子で呟いた。
自分自身の実力は、最初の一太刀――尻尾を深く斬り裂いた時点で確認できている。その際に確認できたのは自分だけでなく、交雑種の実力もだ。
リョウヤはともかく、交雑種。こちらの反応速度は、流石に虫がベースというだけあり悪くない。だが硬度の方は並で、巨体のせいか動き自体も緩慢と言えた。
「二重の意味で危険な尻尾も既にないものね」
紅が肯定する。
薙ぎ払いによる範囲攻撃、汎用性のある結晶での攻撃。その二つを封じ込められ、視界の半分程を奪われた交雑種は傷も深い。
しかも交雑種はリョウヤと紅まで相手をしなくてはならない状況だ。もし仮に交雑種に人並みの知能があるのなら撤退ないし、命を諦めることだろう。それをしないということは、格下の同系統魔物を少し操ることができても、大した知能はないということになる。
要は――大きな的にしかならない。
両刃の片手剣を右手に握り、交雑種を徐々に追い込んでいくラナン。
元々ラナンは、リョウヤと出会う以前はずっと片手剣を使用している。故に最も使い慣れた武器が片手剣なのだ。
常に交雑種の死角側の側面に回り込むようにして、その剣を当てていくラナン。数は当るが、大きなダメージは入っていない。それがいい加減鬱陶しく感じたのか、交雑種が大きく体を回転させる。
回り込むだけではなく、常に視界に入らないように動くラナンはバックステップを踏んだが、屈むような体勢になってしまっている。
交雑種は気が付く由もないが、外野から見ていた二人からすれば「今どうして体勢が崩れた?」と疑問に思う。回避のタイミングは完璧だったからだ。
だが、その疑問はすぐに解消された。
「これでッ、どう……!?」
ラナンが左腕を何もない空間で薙いだ。
魔法ではない。が、その手は大きく開かれている。
そして――交雑種の体中で甲高い破砕音が鳴り響いた。
彼女は体勢を崩したのではない。
自ら体勢を低くし、地面の砂や小石を拾い上げた。
それらを交雑種の体に向かって投げ捨てたのだ。
「――おうおう、巧いねぇ」
「あァ……あれで駆け出しなんだから、末恐ろしい」
「いやいや、実力云々だったらお前さんだって似たようなもんだろうに」
そんなことは、とリョウヤが否定の言葉を紡ごうとしたところで止まる。
はて、自分はいま誰と会話をしていた。
中性的で男とも女とも取れる声は、明らかに紅のものではない。けれど紅の方から聞こえてきた声に、リョウヤは視線だけを動かした。
いつの間にか紅の肩に何か乗っている。
人の形をしているが、五センチもないのではないだろうか? そんな小さな人間が肩の上で立ち、快活に笑っていた。
「……誰?」
亜人だというのは分かる。
恐らく小人族だというのも分かる。
けれどそれでも、リョウヤはそう口にせずにはいられなかった。
「おっと、こいつは失敬」
よく見ると中性的なのは声だけでなく、顔の作りもだった。
全体的に緑色の和装の小人は、黒に近い深緑色の長髪をポニーテールにしている。さながら小さな侍ようだ。
「一寸族が首領の一寸法師だ。気軽に一寸って呼んでくれ!」
声の高さに似合わない男勝りな口調と一人称からして、一寸法師は男性なのだろうとリョウヤは判断する。
「俺はリョウヤ。あっちで戦ってるのは……あァいや、俺が言うことでもないか」
リョウヤが一寸へと視線を向けていたのほんの数秒。その間も紅がラナンから視線を外していなかったので問題がないと言えばないのだが、本人の性格上丸投げして会話に興じるというのは憚れた。
一寸に「よろしく」と言いつつ、ラナンへと視線を戻したリョウヤが見たのは、フリーズランサーを用いて交雑種の足を地に縫い付けた場面だった。
のたうち回っていた交雑種の足を、僅かな時間で射貫いていた。
そのことに驚きつつも「まァやれるか」と納得している自分もいたリョウヤ。
「不完全ね」
「ああ、混ざり物が大きいだけだな」
紅は自分の肩に陣取っている一寸と言葉を交わす。
(紅は最初から無反応だったし……知り合い、か?)
横から聞こえる会話に、リョウヤは察しを付ける。
二人が話しているのは交雑種のことだ。
案の定リョウヤと同じ考えのようで、交雑により二種類の魔物の特徴を兼ね備えてはいるがそれだけで、特別力が強いわけでも速いわけでもなく、硬度があるわけでもなく、知能が高いわけでもない。
二人の亜人はそう結論付けていた。
「これで……最後!」
連続して結晶が割れ続け、傷付いた交雑種の眼球の大半と、鋏を除いた手足には氷柱が突き刺さったままだ。
砂を投げ捨ててすぐに、ラナンは結晶の破片に当らないようにと少し距離を取っている。武器もその際に片手剣から杖へと変えていた。
右手の杖を高く掲げるラナン。
「――連鎖魔法……アイシクルミスト!!」
透き通った声が辺りに木霊すると、交雑種に刺さっていた氷柱が同時に砕け散る。
砕け散る、と言っても消え去ったわけではない。
細かく砕けた氷の破片達は、霧のように交雑種を包み込んでいく。
弾けた氷の破片が、その巨体を包み込むまでにかかった時間は僅か二秒。約八秒で霧は晴れ、そこに残ったのは傷だらけのまま氷像となった交雑種のみだった。
(……フリーズランサーのレベルがカンストした!?)
グッと左手で拳を握ったラナン。
その後ろ姿を眺めていたリョウヤは、人知れず叫ぶのだった。




