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歯がしゃべった!

作者: みひろ

 ある晩、歯を磨いているときのこと。

「もっとよく磨いて!」

 と誰かが言った。

 あまりに突然だったので、僕はびっくりした。お母さんが言ったのかと思って周りを見回してみたけれど、お母さんは洗面所にはいない。

「私も! 私ももっとよく磨いて!」

「僕も! 僕も!」

 さっきとは違う声が次々に上がってきて、気が付けば「磨け! 磨け!」の大合唱。

 僕は怖くなって、慌てて口をゆすいで、リビングに行くけれど、それでも磨け磨けコールは鳴りやまない。ソファに座っていたお父さんには、何も聞こえていないみたいで、テレビを見て大笑いしていた。

 僕は怖くなって、洗面所に行くと、口を開けて、鏡を見た。声は口の中から聞こえる気がしたからだ。

 口の中はいつもと変わらない。

 僕はまさかとは思ったけれど、聞いてみた。

「君たちは、僕の歯?」

 鏡の中に映る歯に向かって。

「そうだよ。ちなみに僕は左下の乳中切歯! 一番前にいる歯だよ!」

「にゅうちゅう……?」

「にゅうちゅうせっし、だよ! もっと、よく磨いて! 虫歯になっちゃうよ!」

 僕は、歯たちの言うとおりに、歯磨きすることにした。

「痛い、痛い。もっと優しく磨いて!」

「裏も磨いてよ! 歯と歯の間も!」

 僕は歯たちの言うとおりに、一生懸命磨いた。

 30分くらい磨き続けたころ。

 声が聞こえなくなって、僕は歯磨き粉をすすいでから、口を開けて鏡を見る。

 口の中にある歯はいつもより、白くてきれいだった。


 その晩、歯たちはいろいろなことを話した。

 今僕の口にいるのは全部乳歯で、大人になったら生え変わること。

 僕がちゃんと歯磨きをしないから、歯の神さまが歯たちをしゃべれるようにしたこと。

 歯たちの声が聞こえるのは、僕が子供のうちだけだということ。

 その話を聞いているうちに、僕は、一生懸命歯磨きしようと決めた。

 でも……。

 最初は歯たちの言う通り、ちゃんと磨いていたんだけれど、だんだん面倒くさくなってきた。

 そのうち僕は歯の声を無視するようになって、1ヵ月くらい経ったころには、また適当に歯を磨くだけに戻ってしまった。歯たちも僕に歯磨きさせるのをあきらめたのか、あまりしゃべらなくなった。


「痛い!」

 ある日。歯を磨いていると、右上の乳中切歯が叫んだ。

「大丈夫?」

 と聞いてみるけれど、返事はない。他の歯もみんな黙っている。

 僕は不安になって、鏡を見る。

 びっくりした。なんと、右上の乳中切歯が黒くなっていた!

 急いでお母さんに虫歯になったことを報告すると、次の日、歯医者に行くことになった。

 

 次の日。

 小学校が終わってから、歯医者さんに行ったら、右上の乳中切歯は抜かれてしまった。

 僕は抜かないでとお願いしたんだけれど、抜くのが一番いいと言って、歯医者さんが抜いてしまったんだ。

 家に帰ってから、僕はずっと泣いていた。お母さんは歯医者さんがこわかったから泣いているんだと思ったみたいだけれど、違う。

 自分のせいで右上の乳中切歯が虫歯になったことが悲しくて泣いていたんだ。


 その日の晩、僕は歯たちに謝った。

「ごめんね。君たちを虫歯にしないために、僕は一生懸命歯磨きする。……お願い、また僕に歯の磨き方を教えて!」

 すると、歯たちは「がんばろうな!」と言って、また歯の洗い方を教えてくれるようになった。

 

 それから、数ヵ月後。

 一本の歯がぐらぐらしてきた。あの、左下の乳中切歯だった。

「どうして!? 今度はちゃんと歯磨きしてたのに!」

「大丈夫だよ! 僕は乳歯だからもうすぐ抜けるのさ!」

 そういえば最初に話したときに、乳歯は大人になったら生え変わるって聞いた気がする。でも、それはもっとずっと先のことだと思っていたのに……。

「僕が抜けるのは、ちゃんと健康に君が大人になっている証拠だよ! だから、ほら、喜んで!」

 僕は悲しかったけれど、なるべく優しく撫でるみたいに、左下の乳中切歯を磨いてあげた。

 それからまたしばらくして、左下の乳中切歯が抜けて、何年かかけて乳歯たちは抜けていった。

 そうして、完全に永久歯に生え変わったとき、歯の声は完全に聞こえなくなった。


 あれから長い年月が経って、僕は今、医学部を目指している。

 神様はもう力を貸してくれないけれど、知識と経験で、多くの人の歯の声を聞き取りたいから。

最後までお読みいただきありがとうございます。


三つのお題を元に書いたものです。

もともとのお題は、シャンプー、嘘、子供……というわけで、結果ほどんど関係ない話になってしまいましたが、まぁ良しとしたいと思います。


では、またどこかで。

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