窓
受け止めには自信があった。
なのに、死体はいつも予想を裏切り、ぼくの横に着地して
血しぶきを上げるから、いつも失敗してばかりだった。
ついでに、窓ガラスはそこにちらばり、それはときどき
エメラルドみたいな攻撃的な光をむりやり作って笑顔、みたいな感じで、
死体をアピールするので、ますますぼくは受け止めに自信がなくなってくるのだった。
死体はいつもこちらを向かない。
ずっと向こう側を向いて、落ちてくるし、着地したあとも、
ずっと向こう側を向いているのだった。
だから、きっとこの死体は、いつもイライラされていたんだろうな、
とぼくは思ってみる。そして、ぼくもこの死体を嫌ってみる。
別にこんな死体は、いくら死のうが死体らしさを輝かせるだけなのだ。
元から死体だったにちがいない。
カーテンを開けて、窓をけって、下を見て、足を踏み出して飛び降りたに
ちがいないのだ。
大人びた感じで、ゆうゆうと飛び降りたのか、焦って飛び降りたのか、
たぶんどちらにしろぼくは受け止めてみたい。一度でいいから受け止めて
みたいのだ。だから、ぼくはいつもガラスを点検している。割れるガラスはなにか、
というようなことなのだ。重要なのは人ではなく、ガラスのほうかもしれない、と
ぼくは考えてみる。つまり、ガラスを割れば、このいらいらは消えるのかもしれない。
と、思う。
死体は、青くなっていく。血はゆらゆらと、黒い部分を増やしていく。
そして、死体は青くなっていく。
ぼくは、それがいやで、だから受け止めたいのだ。このマンションはよく飛び降りが起こる。
人が飛び降りるのに都合がいいマンションはあまりなさそうな気がするのに、
このマンションはよく飛び降りが起こるのだ。ぼくはそれを受け止めたい。
警察には、あまり通報しないのだ。死んだ死体をじっと見ていると、
とくに何も起こらないけど、なにかが起きそうな気がする。
すべての死体がアルミホイルに包まれれば、わかりやすいのに、と思う。
科学かなにかで、そういうふうに迅速に対応されたりしたらいいな、と思う。
家に帰ると、窓がいた。
やはり、どの家にも窓は張り付いている。そして、じっとしている。
ぼくはその窓を割る。そして下を見て、足を踏み出し、
後ろの窓ガラスの気配を感じながら、ゆっくり飛び降りる。
頭が破裂する音がする。
そして、それを見ている人もきっといると思う。