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掌編

壊れたビデオ

作者: 想弥 蒼

何からも逃げて 辿り着いた場所は

何も無い暗闇だった

其処に立ち尽くして 呆然として

小さな声をあげた

けれど声は何処にも届かなかった

どんなに叫ぼうと 声は届かなかった

誰も救いの手を差し伸べてはくれなかった

泣いて ただ泣いて 涙が涸れ果てるまで

逃げて ただ逃げて すべてから逃げて

そして

――辿り着くのは何も無い闇なんだ

誰も救ってなんかくれない

すべて夢だったなら… ほんの冗談だったなら…

君は想うだろう

今日もまた想い、雫を溢すのだろう

何度も何度も 想うのだろう


時を止めて 其の侭巻き戻して…

ビデオのようにスイッチひとつで

一番幸せだったあの頃で止めるんだ

再生ボタンは押さない

再生したら いつの日かまた

“今日”に辿り着いてしまうから

時を止めて 夢を見ていられたあの日に

泣いて叫んで そして逃げて

怖いよ 未来が明日が怖いよ

僕は怖いんだ

だから泣いて叫んで…

同じ言葉を繰り返し いつしかその声を嗄らす

時よ止まれ どうかあの日に

幸せな夢を見ていたあの日へと


ただ逃げて

時は止まらないから

僕や君を追ってくるから

決して巻き戻せやしないから

時は壊れたビデオなんだ

再生しかできなくて

一度再生してしまったら 二度と止まらない

僕を追い詰めるばかり

そんな“壊れたビデオ”

命をつくり 命を育み 命を消し去る

決して帰らない日々を与える

『とき』という名の壊れたビデオ

いくら時代が変わっても

このビデオは古くて壊れたままなんだ


人間っていうのはどうしようもない生き物だったから

困り果てた神様が創ったもの

それが『とき』なのかもしれない

生と死を生きとし生けるものたちに与えた


大事なものを失ったり

未来への希望を失ったり

色んなことに苦しむ人間たちに

『とき』はあるものを恵んだ

ゆっくりと時間をかけながら

その苦しみを癒し

彷徨う魂に手を差し伸べる

僕が求めていたものは

他の誰でもない

『とき』という名の壊れたビデオだった


時は決して止まらず 巻き戻らない

時に哀しみを与え 時に喜びを与え

亡き命たちを慰める

死は終わりではないのだと

そのものの生きた証

そのものの想い

すべては遺されたものたちに受け継がれる

新たな『とき』をつくる


すべては大自然のローテーション

時が起こすひとつの奇跡

時という名の壊れたビデオ

かけがえの無い壊れたビデオ


穏やかに流れる壮大な時の中で

僕たちは生きている

今日も生きている

今、この時を大切にしよう

二度と来ない

このときを

今は亡き恩師に捧ぐ。


この詩はずっと昔、私が初めて作品として書き上げたものです。

背を押してくれた、そして温かく支えてくれた恩師に改めて感謝をこめて。

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