「どこでどうあの二人の育て方を間違ったのかしら……少し(力ずくで)更正させた方が良いのかもしれないわね」by神童神無
ようやくいろいろと忙しかったことが終わり、執筆の時間が出来投稿が完了しまし。
最新話楽しんでください。
それでは。
1
隆浩が動き始めたこと見てから動き始めた杏子は、完全に出遅れてしまっていた。それは彼女も理解していることで、しっかりと対策はある。
向かってくる隆浩は瞬動によって杏子の目には映らなくなる。
それを見ていた彼女はカートリッジを地面に撃ちこむ。
弾丸の効果はすぐに目に見えて現れた。撃ちこまれた場所から、地面の色が黒く染まっていく。
「捕らえました」
その声と共に黒い地面の上で姿を現した隆浩。
何が起きたのか全く理解できていない隆浩をよそに、杏子はアポロンの銃口を目の前の敵に。
この男を倒せば自分はこれ以上怖がらなくてもいい。そんな安堵が広がっていく中、この男の言葉に彼女は再び恐怖した。
「黒の魔法」
「っ!?」
絶句。
今までに一度も見せたことのない魔法。
それなのに相対するあの男は、自分がその魔法に捕らえられて数秒でその正体を看破してしまった。
このタイプの魔法は数が少なく、使う人間も少ない。ほとんどの人間が鎖であったり、杭を相手の身体に突き刺すタイプを使うからだ。
しかしこのタイプは、
「対象の影を接着剤に地面にくっつけるのか。こんな珍しい魔法、使ってくるとはおいらも勉強になった」
「分かったからなんですか!? あなたそこから動くことが出来ないんですよ」
地面に足が張り付いて動けない目標(隆浩)に向けて、その体がハチの巣になる勢いで撃ちだされ続ける。
全てが直撃。
爆煙によってその姿は見えなくなる。
「まあ、そうなんだけど」
煙の中から聞こえてきた声。
そのトーンはさっきと変わらない。痛みを耐えている、という風でもない。
「だからと言って、何も出来ない訳じゃないんだよ」
あの男と共に見えてきたHPの表示。それは、彼女が攻撃する直前の数値から全く変動していなかった。
黄色の膜のような物が隆浩の身体を包んでいる。それが何のか、魔法を使うことの出来ない彼女でも理解することが出来た。
魔力である。
魔力の膜が、隆浩を彼女の弾丸から守り切った。
しかしおかしなことがあった。彼が纏っている膜は、どう見てもさっきの攻撃を全て受けきることが出来るほどの強度があるとは思えない。
「どうして……そんなのが」
「ん……これか? この膜は魔力の層を三つ重ねて作ってあってな、穴が開きそうになるとそこに魔力を流し込んで補修を繰り返すことで防ぎきることが出来たわけだ」
あり得ない。
普通の人間が思いついても、誰もやろうとは思わないことだろう。
その最大の理由は魔力量の調節が難しすぎるからだ。隆浩が行ったことをするためには、最初に作った膜と同じ魔力量で補修をしなければならないのだ。しかも一度ではなく、穴が開きそうになるたびに。
目の前に男は、そんなことは当り前とでも言わんばかりの表情で簡単に言ってのけたのだ。
「で、この魔法だけどな。実際は簡単に対処できる魔法でな」
刀を形成していた雷を、球体へと作り変えていく。
その電気は隆浩の掌から放出され、弾丸が撃ち込まれた場所へ。
ボンッ、という音がしたと同時に黒く染まっていた地面は下の茶色に戻っていた。弾丸が消えて、魔法自体が消滅したのだろう。
これで隆浩は自由。
また彼女へ攻撃をしかけることが出来る、ということだ。だからと言って、彼女がただ待っているわけではな無かった。
再び地面へ向けて弾丸を撃ち込む。今度は地面の色は変わらなかったが、土で出来た触手のような物が隆浩の両手両足を捕まえた。
今度の魔法色は誰が見ても茶色と答えるだろう。
「男が触手に縛りあげられるなんて光景の需要はないと思うぞ。お前がそういう趣味なら、おいらは文句言わないけど」
「そんなわけあるかぁ!」
いつものようにボケてはいるが、実際のところ隆浩は大きな問題を抱えていた。
この状態を打破する方法を持ち合わせていないということだ。
いくら攻撃しようとも、彼の魔法色である黄色は彼女の使った弾丸に書き込まれている魔法色の茶色と相性が悪い。
黄色の魔法は電気、雷を使うことが出来る。それに対して茶色の魔法は土やそれに属する物の操作。
そういうことから土の触手に四肢を掴まれている、ということはアースとなって消えてしまう。だから何も出来ないでいるわけだ。
「弾丸がダメなら、こちらならどうですか?」
アポロンの前に出来あがっていく巨大な光球。
この一撃で決める。
そのことで頭の中がいっぱいだった杏子には、隆浩が何かにひらめいたような表情をしていたことに気がつくことが出来なかった。
そしてそれは、巨大な砲撃となって放たれる。
光の中に消える隆浩。
必殺の一撃と呼ぶにふさわしい威力の砲撃。それは数十メートルの距離の地面を抉りながら進んで止まった。
――――――これなら……――――――
手応えはあった。
今の一撃ならばあの男のHPも全て刈り取ることが出来た筈だ。そんな確信が彼女の中にあった。
「ふぃ~、危ない危ない」
今の声は間違いなく光に飲み込まれた男の声。
あり得ない、絶対にあり得ない。
HPはもちろん意識も刈り取る威力のある一撃を、あの男へ放ったと自分でも確信することが出来る。
だが声がした。
振り向きたくない。しかし、この目で見なければいけない。
ゆっくりと首を動かし、あの声のした方向に顔を向ける。
「ギリギリとはこのことだな」
間違いなく、自分の敵である阿部隆浩はそこに存在していた。
「どうして……あのタイミングで、避けることなんて……」
「あのまま黄色の魔法で何とかしようとしていたら、の話だろ? あの時、とっさに身体強化の魔法を全力で使って触手から脱出した後、光速移動でここに来たわけだ」
「じ、じゃあ、私の砲撃は……」
「掠りはしたけど、決定打というわけにはならなかったな」
化物。
そんな言葉が、目に前にいる男に対して思いついた。
それ以外の言葉が、一切思いつかない。
「じゃ、そろそろお開きとするか」
「っ!」
「あと一撃で終わらせる」
あと一撃。
それは不可能な話であった。
今、杏子のHPは先に一真と隆浩が使った魔法を除けば一撃で吹き飛ばすなんて芸当は無理な話である。
そんなことを実行すると、この男は言ってのけた。
「そんなバカなことが……」
「バカなこと、か。おいらはバカだけど、今から言うことはホントだぞ」
「何がですか?」
「もう詰んでる」
詰んでいる。
意味が全く分からなかった。
あの男が、ここまでの戦闘で何かを仕掛けているようには見えなかった。だが、隆浩は詰んでいると言い切った。
なぜそう断言できるのかが分からなかった。
それは彼女が忘れてしまっているからだ。
とても大事なことを。
「これで終わりだ」
「まだだ! まだだぁぁ!!」
隆浩が腕を振り下ろされる。
まるで何かに合図を送るかのように。
直後辺りを包んだのは、強烈な光と轟音。
杏子の身体を駆け抜ける今までに感じたことのないほどの激痛。
今、自分に何が起きているのか全く分からない。ただ分かるのは意識が薄れていくことと、自分がこの模擬戦で負けたということだった。
2
「あそこでわざと外したのは正解だったな」
光が収まり見えてきたのは倒れている杏子の姿。
この一瞬で何が起きたのか。それは杏子の雷が落ちたのだ。
杏子の魔法無力化が判明してすぐに使った自然に作用する魔法。あれは雲を雷雲に、そして作られる雷の威力と落とす場所を操作できる。だがそれだけで、雷自体には魔力は一切混じることはない。
だから魔法無力化を貫いて、彼女を一撃で倒すことが出来たというわけだ。
彼女もあの時に当てられていれば、この魔法を警戒していたかもしれない。だが隆浩はあえて外した。
それによって彼女はこの魔法は命中率が低いものだと勝手に判断し、脅威にならないとしてしまっていた。だからこそ、このタイミングで当てることが出来たというわけだ。
『一年一組須藤杏子退場。勝者、一年十三組です!』
模擬戦場に響き渡る織田有希の声。
模擬戦が終了したことを、ここにいる生徒に知らせた。と言っても、ここにいて意識があるのは隆浩と一真だけなのだから、その必要があるのかどうか分からないが。
この模擬戦を見ていた全ての生徒、そして教師達は今のこの状況をどう思っているのだろうか?
おそらく驚愕の表情を浮かべていることだろう。
それを思うと楽しくてしょうがなかった。
「さて、こいつを連れていくか。一応、あのナマケモノニートと合流しないとな」
気を失っている杏子を担ぎあげると、ゆっくり歩き始める。
直後だった。
『ちょ、ちょっと! 何なんですか、あなた達――――――きゃあ!』
スピーカーの向こう側から聞こえてきた悲鳴。
それを聞いた隆浩の足は止まってしまった。
そして隆浩が止まることを見越していたかのように、今日初めて感じる何者かの気配が出現した。
「その娘は置いていってもらえるかしら?」
聞こえてきたのは女性の声。
一つだった気配はゆっくりと増えていく。
「誰だ、お前ら?」
その気配の主は顔を覆ってしまうほど大きなフードが付いた、真っ白なローブを纏っていた。他にも気配を消して周りにいるのかもしれないが、彼が確認することが出来る人数は5人。
彼女達は隆浩を囲むように立っている。
「……」
「もう一回聞くけど何、お前達?」
「お前に説明する必要はないわ」
「そうか……じゃあ、何でこいつが必要なんだ?」
「それもお前に説明する必要は――――――」
「ああ、そういうことか」
彼女達がどうして杏子を欲しがっているのか。
その理由に辿り着くことは容易であった。
おそらく彼女達は今までの模擬戦を見ていたのだろう。そして杏子の持つ魔法無力化、という魔法使いにとって最も天敵である能力を知ったのだろう。
(こいつらの目的が分からないからな。こいつを渡して、後で攻め入られるのは困るからな)
秋月を構え直し帯電を始める。
――――――一真の方は……たぶん問題ないか――――――
そう判断してた隆浩は戦闘を開始した。
3
「で、テメェらは何もんだ?」
「我々は貴様から聖母を解放するために集まった」
「聖母だぁ?」
突然俺の目の前に現れた白いフードの連中。
こいつらは間違いなく俺の敵だ。今の言葉もそうだが、こいつらから敵意をがっつり感じるからだな。
まあ、そんなものは今までも何どもいろんな奴らから感じたことがあるからどうでもいい。
それよりもこいつが言った『聖母』って何だ?
しかも俺から解放するだと? そんな持っていて面倒なことになりそうな物を、俺は所持した覚えはねぇんだがな。
つかこいつの声……どっかで聞いたことがある気がするんだよな。
「……」
考えたが全く出てこない。
というか、俺に理解できる内容で話して欲しい。そんな特定の人間でしか伝わらない言葉なんて、なんの意味もないわけなんだがな。
「今すぐ死んでもらおう」
どうしてこういう奴らって頭が悪いことしか言わないんだろうな?
マンガだろうが、現実だろうがそれは変わらないのか?
「……はぁ。お前はバカだろ。どこの世界に死んでくれって言われて、ハイそうですかと死ぬやつがいるんだ」
ため息をはくと、量子化させてしまっていた黒月をもう一度顕現させる。
この後のことは容易に想像できるが、これだけは言っておきたい。
「少しは常識的に考えやがれよ、低能のクズ共が」
「黙れ、落ちこぼれ」
ん?
どうしてこいつがそんなことを知ってやがんだ?
そんなことを言った覚えはないんだがな。
ふむ……少し、こいつが誰なのか頭の隅の方で考えてみるとするか。
「貴様を殺せばあの人は私達の、私の物になるんだ!」
そう言って向かってくる奴に、そろそろこれだけは言ってやりたかった。
「会話ってのは、相手が理解できないと意味がねぇんだよ」
そんな俺のツッコミを完璧に無視して、あいつや一緒にいた奴らは各々のデバイスを俺に向けている。
しかもすでに魔法を放つことの出来る準備は整ってやがるし。こいつら、喋っていた間に準備してたのか。まぁどうでもいいこと……じゃねぇな。
「撃てぇ!」
ほとんど同時に放たれた複数の攻撃魔法は逆にタイミングが計りやすい。
魔力を流し込んだ黒月を地面に叩きこんだ。それによって魔力は砂塵に紛れ込み、壁となって俺と魔法の間に立ちこめる。
さて、今のうちにどうするか考えるとするか。
クソ狐との合流は……面倒だな。あいつがどこにいるのか判断付かないし、転移で探し回るのは効率が悪すぎる。下手したら、あいつも現在進行形で戦闘の真っ最中の可能性だってある。
となると……、
「はぁ……」
やることは初めから決まってたわけか。
こいつら全員を半殺しにして、ババアに引き渡す。
それに何か嫌な予感がするし……本当にさっさと終わらせて、千歳達と合流しねぇと。
俺の考えがまとまると同時に、五人が砂煙を突破してきた。
まあ魔力が含まれているといっても、ただの砂煙だしな。魔法が通らなくても、人間の身体なら簡単に通過する。
さっきの魔法と同様に突入のタイミングが統率されすぎていて、反応しやすい。少しくらい遅らせたりしたら、どんな奴でも反応がしにくくなるのに。まあ、同時に複数が突入してくることで焦ってしまう奴もいるが……十三組にそんな奴は存在しない。
さて、第二陣が来るまでに叩くか。
「吹っ飛べ」
黒月の中に残していた魔力を解放。
衝撃波となって砂煙ごと五人を吹き飛ばす。
「ふむ……全員を吹き飛ばすつもりでやったんだがな」
「貴様程度の魔力波でどうにかなるはずがない」
そうかい。
まあ残っているのはあのリーダーっぽい奴だけじゃないんだが。
「行けっ!」
奴の号令で全員が同時に動き始める。やはり同じタイミングだが、それは合図があったから当たり前のこと。
俺の方に向かってくる数人に加え、魔法弾が数十発。
それを確認すると、汎用デバイスに魔力を流し込むと無色透明の光が身体を包み込んだ。
身体強化の魔法が発動した証拠。
俺もあいつらに向かって走り始める。
先に到着するのは間違いなく魔力弾の方か。なら、そっちの対処を始めてあいつらは到着次第、ってことだな。
直撃コースになっている魔力弾だけ切り裂きながら、走る速度を上げていく。
「っ!?」
予想よりも早かった俺の到着に、一人目がタイミングを崩されたような状態になってしまった。それを逃す訳がなく、峰を使って目の前のこいつを上空へすくい上げる。
一人目がいなくなったので、迫ってきている弾丸のいくつかが直撃コースに加わる。
それに対処するために、今すくい上げた奴の代わりに迫って来ていた奴の服を掴んで近付ける。俺が攻撃してくると思っていたのだろう。完全に予想とは違う行動に驚いた二人目は、それによって一人目と同じように動きを止められる。
こいつには盾になってもらうとするか。
残っている何人かが放った魔法と、先に飛んできていた魔力弾がほぼ同時に着弾。
もちろん俺にではなく、俺がもっていた奴にだが。
これによって二人目は完全に気絶。身体から力が抜けた人間なんて邪魔でしかないが……武器にはなる。
「おらぁ!」
敵なんだから。躊躇なんてものは無く、俺は全力で後ろの方で俺を狙ってやがる数人に向かってぶん投げた。
たぶん避けるんだろうが、それは最初から予想できている。
これによって弾幕が無くなるのはとてつもなく動きやすくなる。つーわけで、転移だ。
「どこにっ!?」
「ここだ、ここ」
いきなり目の前から消えた俺が、数メートル離れていた援護射撃を行っていた数人の下に現れたんだからな。
じゃあ、
「テメェらはここで退場だ」
地面に刺した黒月から地面に流れていく魔力が衝撃波となって散らばった数人を蹴散らした。
これであのうっとおしいのは無くなった。残りはあっちで立ったままこちらを見ているあいつらと、さっきから戦いに参加していないあの女だけ。
もう十人も残っていない。が、それでも十人近くはいる。
転移で一人一人を叩いてもいいが、それは魔力の効率が悪すぎる。
一撃で仕留める方法か……しょうがない。リミッターがかかってるし九龍が使えねぇから、チャージに時間がかかるんだがやるか。
黒月の切っ先を空に向け、刀身に魔力を注ぎこんでいく。
それに合わせて風が俺を中心に回り始める。まるで竜巻を作るかのように。この状況がどれだけ異常なことなのか、竜巻が完成するころになって気が付いた。
「今すぐ奴をやれ!」
風が黒月から放出され続けている魔力を切っ先に集める。
それは球体となり、回転を始めた。
球体の回転と竜巻が辺りの魔力を更に集めて、球体は巨大化していく。
「動くのが今更すぎんだよ」
一か所に集まったそれは、俺にとって最高の的。
「九龍之太刀無刀……」
だから、さっさと巻き込まれてここから退場してくれ。もうテメェらには興味もねぇんだからよ。
今俺が気になっているのは、あそこで見下ろしていやがる猿山の大将の正体だけ。
「龍旋丸!」
黒月を振るうと、それに合わせて球体は俺に向かってくる集団を一瞬にして巻き込んで吹き飛ばした。
たった一撃で十人近くが吹っ飛ぶとは、我ながらエグイな。
「さて……残りはテメェだけなんだが、いつまでそこで見てやがるつもりだ?」
「はぁ。貴様のような落ちこぼれに、私が出なければならないとはな」
しっかし、どうしてこいつが俺がそう呼ばれていることを知ってんだよ。つーことは、こいつはウチの学園の関係者ってことになんのか。
そういえば聖母の解放がどうとか言ってやがったな。
もう一回いろいろと考えてみるが、結局俺の脳みそが答えを導き出すことは出来なかった。
「あー、もうめんどくせぇ。そのフードを取ったら早いな」
「やれるものなら」
「もうやったぞ」
周りから瞬間移動と言われるまでに、起動から発動までの時間を削りに削った転移魔法。
それを相手が見ていない時に使えば、これくらいのことは簡単にやってのけることが出来る。
「貴様っ」
「どっかで聞いたことがある声だと思ってたんだが、テメェだったとはな」
一週間前に俺とクソ狐の喧嘩の仲裁に来た時にいた、風紀委員の一人。
遠山楓。
そいつが正体だったわけだ。
「で、聖母って何……」
そこで一つ大事なことを思い出した。
こいつは姉さんの熱狂的信者だったことを。
聖母っていうのは、大抵女が対象で呼ばれるよな……聖母の解放……姉さんの信者……まさか。
「テメェ……」
「ようやく気が付いたか、神童一真」
さっき、放送部の部長の悲鳴の時点で気が付くべきだった。
こいつらの目的は、姉さんを攫うことだ。
これ以上ここにいてたまるか。さっさと姉さんの所に向かう!
「九龍!」
俺の纏う魔力色が黒から赤黒いものへと変化していく。
そして九つの頭を持つ龍が、俺の背後に現れた。
「言っただろう。貴様には死んでもらう」
4
観客席は突如現れた白いローブを着た集団の襲撃によって大混乱に陥っていた。
生徒達も抗戦するが、動揺によって押されていた。
「どうです、楠木千歳。神童一真に連絡は……」
「繋がりません。何かに妨害されているみたいで」
「あっちと連絡が取れないのは、いろいろと面倒ですわね」
千歳とアンナが気になっていたのは放送室の中の状況。
この襲撃はそこにいる有希の悲鳴から始まった。何かが起こっていてもおかしくはない。
そしてもう一つ問題が存在した。
時間が経つにつれて観客席にいた人間の数、特に女子の数が減ってきていることだ。それは二人に見間違いではないことは確かである。
――――――お嬢、まだ無茶は出来ないぞ――――――
(クッキー……)
千歳の頭の中に男の声が響く。
彼女の中にいる鬼、九鬼の声。
――――――儂を使って無理やり戦うつもりなんじゃろうが、それをするとしばらく動けなくなるぞ――――――
(でも……)
――――――それに戦うと、お嬢も標的になるしのう――――――
(え?)
九鬼の言った言葉を理解するよりも早く施設内に設置してあるスピーカーから女性の声が聞こえてきた。
その声は千歳にも、アンナにも聞き覚えの無い物。
『我々は「白き百合」。聖母を一人の男から解放するために集まった!』
それは遅すぎる宣戦布告の始まりであった。
《次話へ続く》