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高天ヶ原学園十三組  作者: 村正
第一章
3/25

「第二話も回想? いつまで続くの?」by楠木千歳

 かなり遅くなってしまってすみません。いろいろと忙しく、なかなか書く時間がなかったのです。かなり言い訳でしたね。

 さて、そんな鬱な空気に包まれる前に始めましょうか。。それでは『高天ヶ原学園十三組』の第二話の始まりです。

   1




「おいら、そんなに小さくない……」


 今は一限から三限目までを使って行われる、二人一組のチームでの模擬戦を行う授業の真っ最中。なのだが、クソ狐はそれどころではなかった。

 授業が始まってすぐに始まった、クソ狐のコンプレックスを弄る罰。

 最初のころはオブラートに包んでいたものが多かったが、ダークモードになった先生の指示でダイレクトな表現に変わった。

 それくらいから白目を向き始めていたな。

 そして完璧にクソ狐の心を折ったのは、一美と先生の最悪のタッグだった。


『チビ狐ぇ? あらあら、小さいからどこに行ってしまったのか分からなくなったわぁ』

『あんなミジンコ並みの人間は、見失って当然ね。顕微鏡を使わなければ、その存在を確認できないのだから』

『そうだったわねぇ。しかし私も驚いたわよぉ。あんなサイズの人間が存在するなんてぇ』

『突然変異なのでしょう。あの程度しか身長が伸びない遺伝子だとしか考えられないわ』

『おいらはここだぁっ!』

『あらあらぁ。声は聞こえるんだけどぉ、視界に入ってこないわぁ』


 この後しばらく二人によるクソ狐の心を抉っては削る、毒舌による掘削作業は続き、


『『そんな身長だからもてないのよ』』


 この一撃の直後、クソ狐から『ボキッ』という音が聞こえた。これは予想でしかないが、あいつの心が折れた音だったのだと思う。

 その後、授業は本格的に始まったのだがこの野郎はずっとこんな感じ。


「おいらはそんなに小さくない……」

「わーったから、さっさと立ち直ってくれねぇか? 俺一人でこいつらをやるのは厳しいんだけどよ」


 俺の周りには三組のチーム、計六人の生徒が武器を構えて立っている。


「てめぇら考えたな」

「お前と隆浩が組むと、楠木さんとクリスティーさんより面倒だからな」


 いや、あっちの方が面倒だろ。と思ったけど、まぁ黙っておくことにする。


「それに今隆浩君は私達の……うん、本当にごめんなさい」


 トドメを刺したのが一美と先生だとしても、関わったことには間違いないからな。罪悪感MAXらしい。

 でも、聞こえてるかどうか微妙だぞ。


「俺としては、てめぇらが一緒になってこられることが面倒なんだがな」


 十三組の連中の実力は頭の中に入ってるんだが、俺たちも含めてかなり拮抗してる。

 だから、言ったようにこいつらと戦うのはかなり避けたい。

 まあ、この状況を打破出来るかもしれない切り札はあるにはある。本当は使いたくない。今の状況よりも面倒なことになりかねないからな。だがしょうがないか。


「はぁ……クソ狐。男子どもが『チビ』だってよ」

「なっ!?」

「テメェ、本気かっ!?」


 今の俺の一言がどういった事態を招くのか、それを知らない者はここにはいない。

 だからこんな風に言ってくる。だが俺としては、こいつらと戦うのも、この後起きる参事も面倒さは対して変わらない気がするけどな。


「あ゛?」

「男子どもがヘタレの卵子以下のミニマム野郎だとよ」

「誰が身長も器も精子以下だぁぁぁ!」


 人間の体の中で一番大きな細胞を言ったつもりなんだが、こいつの中では一番小さな細胞に聞こえてたのか。


「死ねぇぇぇ!」


 般若の形相となったクソ狐が、俺たちを囲んでいた生徒の男子だけに襲いかかる。

 さて、残りは女子が二人。


「さて、お前ら」

「な、何よ?」

「俺の戦闘でのモットーは色々あるんだが、お前らに言うべきはこれだと思うから宣言しておいてやる」


 後ずさる彼女たちにゆっくりと近づいていく。

 恐怖なのかは知らんが、かなり表情がひきつっている。はっきり言ってこの状況は楽しい。


「何を言ってーーーー」

「男女平等」

「いやいやいや! とんでもないことを、堂々と言ってんじゃないわよ!」

「そうだよ、神童君! 少しは考えようよ!」

「さて一撃で戦闘不能がいいか、それともゆっくりとボコボコにされたいか。選べ」

「なら……あんたを倒す方を選ぶわ!」


 それを聞いた瞬間、俺は多分笑っていた。




   2




「何で私のペアがこんなワカメなのかな?」

「それはこっちのセリフよ、ブス」


 一真・隆浩ペアが戦闘を始めた頃、この最悪コンビ、千歳・アッシュのペアは喧嘩を始めていた。

 現時点ではまだ口喧嘩だが、しばらくすると周りを巻き込んだ大喧嘩に変わる。そのためか彼女たちに近づく生徒の姿はない。

 いや、いた。

 たった一組だが、彼女たちの近くに来ていた。


「はい、ストーップ!」


 二人の近くにいたペアの一人が、二人の間に入った。


「アリスちゃん?」

「今は喧嘩してる場合じゃないでしょ。一応これ授業なんだから」

「いいじゃない、放っておけば。潰しあってくれたほうが、私達にとっても有利に働くのよ?」

「それはそうだけど……」


 授業だから、と言って喧嘩を止めたが理由は違った。

 ただ単に巻き込まれたくないだけである。


「でも始まったばかりなんだから、まだ我慢しようよ」

「「こんなのと一緒に行動したくない」」


 全く同じタイミングで同じセリフをハモる二人。

 この時アリスは、本当に仲が悪いのか疑問を持った。


「さて、そこのワカメと非実在少女と周りに個性が埋もれたの」

「私だけやけに具体的じゃない!?」


 そうアリスがつっこむが、一美はスルーして話を続ける。


「あそこで戦っているのは阿部君ではないかしら?」


 一美の指差す先。

 そこでは一真とペアを組んでいるはずの隆浩が、たった一人で四人の男子と戦闘を行っていた。一対多であるのだが互角の戦いをしている。


「近づかない方が身のための気がするんだけど……」


 アリスの言うとおりである。

 今の彼はとあるコンプレックスを刺激されたため、現在進行形で暴走している状態で戦闘中なのだから。


「それはこの二人にも当てはまるのではないかしら?」


 気づけば千歳とアッシュは一触即発の雰囲気に。何かきっかけさえあれば先の口喧嘩以上のことが、この場で起きてしまうことは間違いのないこと。

 そうなってしまえばアリスと一美だけでは、もう止めることは出来ない。本人たちもそれは確信できていた。


「じゃあ私はカズ君の所にーーーー」

「行かせるわけないよね?」


 笑顔でアッシュの喉元に日本刀型アーマメントデバイス『童子切安綱(どうじぎりやすつな)』の刃を当てる。

 そんなことをすれば頸動脈ごと喉を斬るぞ、と言わんばかりのオーラを纏ったまま睨みつけていた。


「あなたに指図される筋合いはないわ。私とカズ君はすでに繋がっているのだから! それを切ることは出来ないの!」

「それは聞き捨てならないわね」

「いつ一真があんたの物になったのか、説明してくれない?」


 千歳同様殺気立つ二人。

 先程よりも雰囲気が悪くなったことは間違いなかった。

 そんな険悪な状態の四人に、とある人物の声が聞こえてきた。


紅之太刀壱式(あかのたちいちしき)煉刃(れんじん)!」


 それは四人がよく知る人物の物。

 ある人物にとっては幼なじみ兼想い人。

 またある人物にとっては兄であり異性。

 更にある人物にとっては親友の想い人であり愛人。

 そしてある人物にとっては一目惚れで出会った運命の人。

 この四つが当てはまる人物。つまり神童一真がいたのだ。


「カズ君!」


 もちろんのごとく真っ先に動いたのはアッシュ。


「待てぇっ!」


 アッシュの四肢を水の糸が縛り上げた。

 それはアリスの指の先、厳密にはその手に装着しているグローブ型アーマメントデバイス『ゼーユングファー』から出ていた。


「ちぃっ!」

「ナイス、アリスちゃん!」

「チェックメイトね、妖怪海藻娘」


 この状態であれば誰もが一美と同じようなことを考えただろう。

 しかし離れた位置でアッシュの動きを止めていたアリスは、空中に存在する大鉈に気がついた。


「二人とも! 今すぐそこから離れて!」


 アリスの声に反応し、その場から離脱するために動き出す。

 同時に一美は弓型アーマメントデバイス『黒姫(くろひめ)』で魔力の矢を放っていた。

 しかし当たる直前、大鉈の刃が地面に接触。爆発を起きた。

 これはアッシュの鉈型アーマメントデバイス『美爆猪獄(カペルニコラス)』の能力。刃が何かに触れたとき、任意で爆発を起こすことが出来るというもの。


「本当に面倒ね、その鉈。無個性女」

「さっきよりも酷くなってない!?」

「あの鉈を持っている手を止められないかしら?」

「今のままじゃ厳しいかな……」

「じゃあ任せて!」


 あの女をここで殺る。

 そんな決意で千歳は走り出していた




   3




「……」


 この場から今すぐ離れたい。

 戦いながら俺はそんなことを考えていた。

 ここから見える少し遠くで行われている、女子四人での戦闘風景。あれに巻き込まれたくないからだ。


「どうしたの、神童?」

「場所変えないか。ここでの戦闘は(俺にとって)恐ろしく危険だ」

「何が危険なのよ?」


 俺と戦っている二人からして、あの四人のいる位置は真後ろ。

 だから気がついていない。なので俺は指で背後の光景を教えてやった。


「あー、うん、そうね」

「神童の言うとおりだね。ちょっと離れようか」


 二人の同意を得た俺は、迷わず森の方に全速力で走った。

 ちなみにこれは放送で知ったことだが、あいつら四人は結局同士討ちになったらしい。

 何となく予想はしてたがな。




 女子二人との戦闘の後、俺はクソ狐を一人捜索していた。

 先生からの放送がないからあの野郎はまだ脱落してねぇんだろう。だけどこの模擬戦場は街一つ分の大きさがあるから、一人で探すのはいろんな意味でかなり厳しいんだよ。

 いろんな意味。それはこの授業が一、二、三限を使って行われているため、終わるまでまだまだある。だから、


「見つけたぜ、一真!」


 こんな風に生き残っている生徒に見つかって、戦闘に鳴る可能性があるわけだ。


「……だから何だよ?」

「僕たちと勝負しようってこと」

「全力で拒否します」


 「と」の発音と同時に拒絶の意志を示してやった。


「いや、授業の意図分かってる!?」

「お前等みたいに戦いを求めてくる奴から、全力で逃げること」

「模擬戦! 遭遇したら戦うんだよ!」

「俺一人だから、お前らを相手にするのめんどくせぇんだけど」

「授業の意味、ガン無視か!」


 さっきまで二対一でやってるから、連続でそれをやるのは遠慮したい。

 だがあっちはやる気満々。

 さてどうすーーーーあぁ、解決方法はあったな。


「チビ狐ぇぇ!!!!」


 そこそこの距離なら聞こえるような大声でそう叫んだ。

 近くにいれば間違いなくあいつはやってくるし、断片的にしか聞こえてなくてもあいつはやってくるだろう。

 そう断言できる理由は、言葉じゃなく頭の中で言った「チビ」って単語に反応できているからだな。


「お前っ! 何叫んでやがる!」

「召還獣を召喚するための魔法の呪文」

「いや、そうじゃなくてーーーー」

「おいらの……おいらの……おいらの身長は普通だぁぁぁぁ!」


 それはどうだろうな。

 ウチのクラスの男子を背の順に並べると、間違いなく前の方になることは間違いない。

 完全に狩るものの眼となっているこいつに、男子二人は一瞬たじろぐも武器を構える。


「さっきのはどっちだ?」

「さっきの?」

「おいらを小さいと言ったのはどっちだぁぁ!」


 こいつ、俺が言ったって選択肢は無いのか?

 無実の罪を着せられたら二人はというと、


「俺たちは言ってない!」

「そうだよ、隆浩君! 言ったのはーーーー」

「さてクソ狐。さっさと終わらせるぞ」


 こいつらが余計なことを言う前に退場させねぇと、更に厄介なのと戦うことになる。それだけはマジで勘弁してほしい。

 量子化させ汎用デバイスの中に入れていた黒月を、左手の掌の中に実体化。


「行くぞっ!」

「おいらのことを悪く言った報いを受けろぉ!」

「理不尽だぁっ!」

「後でちゃんと話し聞いてもらうからね!」


 俺たち四人は同時に動き出す。


「ふんっ」


 魔力を大量に流し込んだ黒月を、力いっぱい叩きつけた。一瞬にして皹は蜘蛛の巣状に広がり、大きな音と共に地面は砕けた。

 その際に生じた砂ぼこり等が、俺たち四人の視界を遮った。


「行け、クソ狐」


 と言う前に、隣にいた俺の相方はいなくなっていた。

 どこにいったのか。そんなことは考えなくてもすぐに分かった。あいつはこの砂ぼこりの中に、たった一人で飛び込みやがった。

 まあ、今のあいつが一人で行って負けるとは全く思っていない。けど、少しは動かないとなダークモードの先生に、後でいろいろとされそうな気がしてならない。

 だから戦うか。そう思っていた矢先、砂ぼこりの中から赤く光る鎖が飛び出てきた。

 それは黒月の刀身に絡み付く。


「ちっ……」


 あの見えない中に引きずり込まれるのは勘弁したい。相手からはこっちの位置は解るのに、こっちからあっちの位置は……いや、分かるか。

 ま、それでも拒否だな。視界が最悪な場所に誰が好んで行くかよ。だから出てきてもらうぞ!


「っらぁ――――っ!?」


 突然手応えがなくなった。

 刀身に絡み付いていた鎖が消えていた。つまりあいつらは、俺がこうしてくることを先読みしてたわけだ。

 これだからクラスの奴らとはやりにくい。けど、おもしれぇ。


「えっ!?」


 見上げた目線の先。そこには丁度、俺を狙って砂ぼこりの中から出てきた野郎が。

 そいつの獲物は二丁拳銃。俺に向けられている銃口には赤い光が集まっていく。それは奴の魔法色が赤だということを示していた。


炎牙砲(えんがほう)!」


 巨大な顎の形をした炎が、俺を頭から丸呑みにせんと向かってくる。

 完全に反応が遅れた。今から迎撃しても、何かしらのダメージを受ける。なら防ぐか避けるかの二択になるが、俺が選んだのは後者。

 魔法発動の前兆として無色の光が俺の体を包む。次の瞬間には視界から野郎の顔は消えて、代わりに後頭部が見えた。


「えっ!?」


 俺が消えたことに驚愕し、完全に動揺しているこいつに対して俺は振りかぶった黒月の峰でフルスイング!


「どうし――――がっ!」


 真横に吹っ飛んでいく姿を確認してから着地。飛んでいった方に顔を向けると、あいつはピンピンしていた。

 ほとんど無傷で立っていたそいつは二丁の引き金を引いた。だが銃声は全く別の方角から聞こえてきた。

 蜃気楼か!

 その予想通り、目の前にいたあいつの姿は消え去っていやがった。

 そして問題の攻撃はというと、


「っ!?」


 俺にではなくクソ狐に向かっていた。

 当のクソ狐は魔法が向かっていることに気がつけていない。あいつの周りを土の壁が覆っていて、周囲の状況が情報として入ってこないからだ。


「ちぃっ……紅之太刀壱式・煉刃!」


 黒月から放たれたのは、魔力によって飛ばされた斬撃。それはクソ狐の入っている土の牢獄に向かう炎の弾丸に命中し、そして相殺した。

 それを確認するともう一度振りかぶる。次の目標はあの茶色い箱。

 多分、煉刃じゃ破壊できねぇだろうな。ならこっちだ。


「紅之太刀惨式(さんしき)天魔裂牙(てんまれつが)ぁ!」


 次の一撃は斬撃ではなく、地面を駆け抜ける衝撃波。それは牙をむき、クソ狐を捕らえている牢獄を呑み込んだ。

 もちろんクソ狐ごと。


「よし!」

「「いやいやいやいや!」」

「んだよ? 相棒を助けるために、あの箱を破壊しただけだろ」

「そこじゃなくて、隆浩諸共だったろ! 今の攻撃!」

「……」

「……」

「……」

「ふむ……何てことをしやがる!」

「何言ってるのさ、神童!」

「本当のことだろ! そいつがあんな箱にクソ狐を閉じこめてなきゃ、あんなことにはならなかったんだよ!」

「それを攻撃したのはお前だろうがっ!」

「ちっ……」


 ま、あいつは大丈夫だろ。あの土の塊が魔法のダメージから、あれの体を守ってるだろうし。

 それにあいつがリタイアした、っていうメッセージがないからあの中で生きてんだろう。死ねばいいのに。


「さっさと終わらせる。一人でやるのは本当にめんどくせぇんだが、テメェら潰すぞ」

「「っ!」」


 黒月を引きずり、切っ先で地面に傷をつけながら走る。走りにくいがこれには目的がある。

 下から上へ、土ごと黒月を振り上げる。その土は二人の顔へと飛ぶ。


「ぐっ!」


 砂での目潰し。

 成功したのは一人。もう一人には効果は無し。

 そうなることは分かっていた。そいつの魔法色は茶色。つまり土や砂は手足みたいな物。

 まあ、それでもほぼ詰みなんだよ。振り上げたとき、土以外にも飛ばしていた物があった。

 斬撃だ。

 先に放ったものと同等の大きさだと、すぐにバレて何らかの対策をされる。だから圧縮、サイズを小さくして顔面向けて飛ばしたわけだ。

 ちなみにこの模擬戦はHP制で、それが0になったら退場となる。だが、もう一つ退場させる方法がある。

 それは気絶させる、つまり戦闘不能にするという方法。今回はそれを狙っている。わざわざHPを0にさせるのは、かなり面倒だからな。


「がっ!」


 顔面に直撃。それにより頭は後ろに仰け反る。

 俺という存在は二人の視界から完全に消え失せた。


「紅之太刀弐式(にしき)……」


 柄を両手で握り、刃を地面へ。切っ先は相手に向けて構える。

 両腕と黒月に魔力を流し込み、


穿神牙(せんこうが)!」


 一気に突き出す!

 切っ先は相手の胴を打ち抜いた。


「かはっ……」


 そいつの身体は真後ろに飛んでいき、完全に気を失った。これで厄介な茶色の魔法は消えた。

 残りはあいつだけ。

 再び黒月を構え直した時には、そいつの姿はなかった。たぶん森の中に身を隠したんだろうな。

 木を伐採して捜してもいいし、この場から撤退するのもありだな。なんて考えていた時だった。

 ドォン、という音と共に目の前の地面が吹き飛んだ。原因はすぐに分かった。

 クソ狐だ。


「ふんっ!」


 振り下ろされる太刀。

 たぶんこいつは俺だって気がついている。それでいてやりやがった。


「死ねっ!」

「ちぃっ!」


 何とか弾き上げたが、手が痺れやがる。見ればあいつのアーマメントデバイス『秋月(しゅうげつ)』の刀身は帯電していた。

 こいつの使う黄色の魔法は、俺が知っている中ではトップクラスの力を持つ。さっきの茶色の魔法を使う奴よりも、かなり厄介だ。

 だが、そうだとしてもあいつとやるのは楽しい。


「隆浩ぉ!」

「一真ぁ!」


 今日までの戦績は8760戦8760分け。今まで一度も決着はついたことがねぇ。が、今日こそ終わらせる。


「お前だろ! おいらの身長のことを言ったのは!」


 今更だな、おい。

 つか、授業前の仕打ちのせいで判断がつかなかったんだろうな。


「だとしーーーー」

「朽ち果てろ!」


 俺に何も言わせないまま、秋月を媒体として巨大な槍を作り上げた。


「げっ……」


 俺が見たことのあるこいつの魔法のなかでも、トップクラスの力を持つ魔法。それをこいつは、今俺に対して使おうとしている。

 本気で俺のことを殺るつもりらしい。なら俺も相手をしてやる。

 大量の魔力を一気に黒月に流し込んでいくと、黒い光に包まれていく。


九龍之太刀(くろのたち)……」

「雷帝の……」


 俺は黒月を振るうだけ。

 あいつは槍を投擲するだけ。

 それだけで勝敗が決まるはずだった。だが、それは出来なくなる。俺たちの間に現れた彼女によって。


「ストップよぉ、二人ともぉ」


 ダークモードの我らが担任だった。つーか、何で既にダークモードなわけ?


「ふ、風ちゃん!?」


 完全に冷静になった俺とクソ狐は、東雲先生が纏うオーラに飲まれてしまっていた。

 あ、また地雷踏んだ。

 鞭型アーマメントデバイスを振り上げている先生が、俺達が見た最後の光景だった。



     《次回に続く》

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