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高天ヶ原学園十三組  作者: 村正
第一章
18/25

「決まっておろう酒吞の娘。我が子と蛟龍の童の趣味決まっておろう」by玉藻 「「んなわけあるかぁぁぁぁ!!!」」by一真・隆浩

ども、村正です。

という訳で、前置きはなしに本編に参りましょう。それでは最新話をお楽しみください。

   1




「何これ?」


 本来ならば魔力は感知することは出来ても、誰の魔力の物なのかは判別することは出来ない。はずなのだが。一美は、兄である一真の魔力と完全に判断して校舎の屋上にやってきていた。

 もちろん一美だけではなく、アリスにアッシュもともにここにいる。

 そこで3人が見たのは『嵐王の聖域ブラスト・コフィン』に取り込まれ、無限に斬りきざれ続ける一真達3人の姿だった。

 金色の魔力を纏っていた隆浩でさえ、その全てをはぎ取られ血まみれの状態。いくら”九”の契約獣の魔力といっても、それが普通の魔法の攻撃に影響されないなんてことはない。ましてや魔法壁に魔力を回しても、修復するよりも早く攻撃を繰り返されればいつかは中身に辿り着く。


「あなた達はお姉ちゃんに捕獲を任せていたんだけど……ホント、無能な姉ね。力を分けてあげたのに、それでもこんなにも使えないなんて」


 その言葉は神無の隣に立つ遠山楓と瓜二つの少女から発せられた。その少女は先ほど一美によって倒されたはずなのだが、三人の目の前に平然と立っていた。

 しかしここにやってきた3人がもっとも驚いたのはその少女よりも、隣に立っている神童神無の姿。それは誰が見ても一美達の敵。状況が飲み込むことが出来ず立ち止まるアリスとアッシュを置いてけぼりのまま、ただ一人動き始めていた。

 二人の間を通り過ぎた矢は魔力が圧縮された三本の矢。

 一本は『嵐王の聖域』。

 一本は遠矢楓に似た少女。

 そして最後の一本は、神童神無に。

 しかしその攻撃は全て失敗に終わる。神無達へ向かった物は、神無の操る風に弾かれて消滅。もう一発の矢は『嵐王の聖域』の中に入ったとたん風刃に切り刻まれた。


「実の姉を本気で攻撃できるなんて、薄情な妹もいたものね」

「どうしてあなたが私が倒した女と瓜二つなのかは聞かないであげるから、さっさと私の視界から消えてくれないかしら? 私はあなたの隣にいる女に、二人っきりで話があるから。それと」


 そこで言葉を区切りアリスとアッシュに目を向けると、


「そこにいるペット二人、あれに近づいては駄目よ」

「「誰がペットだ!」」

「あの中に取り込まれた場合、今の三人のようになってしまうから。そうなったら助けないから、よく覚えておくといいわ」


 いつもと変わらない無表情、感情のあまり籠っていない言葉。

 一美と付き合いの少ない者が見れば、そう感じただろう。だが二人にはいつも以上に感情をむき出しに、特に怒りの感情が表に出ているように見えた。

 しかしそれ以上に気なったのは彼女の中で渦巻いている魔力。それが彼女の感情に影響されて暴走しかけている。


「一美……」

「それは出来ないよ。だってまだ私達……いえ、私の聖女はまだ安定していないのだから。私がいない傍にいる必要があるの」

「……じゃあここで言わせてもらうわ。あなたはそこで一体何をしているのかしら? 説明してくれないかしら、神童神無。どうしてお兄ちゃんを攻撃しているの?」


 問いに対して神無の反応は「無」。一美の方すら振り向くことなく、自分の発動した魔法のほうに顔を向けている。

 いつもと違う神無の様子から、行方不明となっている間に何かあったのは一美にも察することが出来ていた。が、それでも一真を傷つけているということを許すことが出来なかった。

 この光景が一美の中の呪いを動かした。

 暴走しかけていた魔力が、完全に暴走を始めた。


「神童神無ぁぁぁ!」


 先に撃った三本の矢に使用した魔力を全て一本の矢に注ぎ込み、隣に立つ少女ではなく神無一人に向けて放つ。そこに躊躇も手加減も存在しない。

 一美にとって神童一真という存在は、何よりも優先して守らなければならない。

 それは4年前のあの日から、一美の魂に刻まれた誓いであり呪い。どんなことがあろうとも、これだけは破られることはない。

 そして今も。

 一美の身体からあふれ出す黒の魔力が大量の矢へと変化する。


「ぐっ……」


 一瞬だけ苦痛の表情を見せるが、すぐにいつもの顔に戻る。

 完全に暴走が始まっていれば魔力によって表層上のある意識は全て持っていかれてしまう。だから何かしらの感情が出てくることはない。

 その変化にによってアリスとアッシュは一美が魔力の暴走に意識まで持っていかれていないことを知ることが出来た。と言っても、完全な暴走まで時間の問題だろう。

 だからこそ二人は動き出す。


「アッシュ!」

「分かってるわよ!」


 一美の暴走を防ぎ、更に今の彼女をサポートすることによりこの状況を打破出来るかもしれない。そう考えたからだ。

 言葉にしなくとも二人は自分達の役割を理解している。

 アリスは一美の前に立ち、アッシュは神無へ向けて矢の雨の中を駆け抜ける。

 矢は全て神無が作り出す風の刃によって、全て相殺されていく。が、消されると同時に矢が精製されていく。

 それが永遠に繰り返されている。

 アッシュは自分に直撃しそうな矢と風刃だけを確実に大鉈型アーマメントデバイス『美爆猪獄カペルニコラス』で弾き飛ばしていく。それを何度も行い、気付けばアッシュは神無の目の前に立っていた。


「っ!」

「傍にいるだけの腰ぎんちゃくは、何も出来ないみたいね。なら見てなさい!」


 美爆猪獄に流し込まれるありったけの魔力。

 それにより刀身が、彼女の魔力色である赤に染まる。神無の魔力色とは相性が良くも悪くもないため、威力としてはそのままであるがアッシュには勝算があった。

 その理由は彼女がこれから発動しようとしている魔法が関係している。


「これを、巻き込まれるから嫌なんだけど……今日は命綱もあるから!」


 魔力が込められた刀身は振動を始めていた。

 この魔法は一度だけ他人に見せたことがある。それは担任である風路にであるが、危険すぎるため封印するように言われていた。

 その理由としてある一定以上の魔力を込めなければ発動できないため威力を加減調整出来ないことと、その威力ゆえに自分自身を巻き込んでしまうという危険があるためだ。


「ふんっ!」


 美爆猪獄を振ると、サッカーボールほどの赤い玉が刀身から飛び出した。

 もっと大きく派手なことが目の前で起きるものだと思っていたが、完全に拍子抜けしてしまった。だからこそ完全に油断し、


「切っていいわよ」


 その球体を風刃で切るように神無に命令を出してしまった。

 同時にアッシュの身体が後ろ引っ張られ、今いた場所から逃げるように一瞬にして遠ざかっていく。たった一言、「不完全爆発バックドラフト」と残し。

 直後に起きたのは辺り一帯の空気を燃やしながら広がっていく、巨大な爆発。それは神無と少女の目の前で起きたそれは、二人を巻き込んだ。

 そもそもバックドラフトとは密閉された空間で火災が生じ可燃性の一酸化炭素ガスが溜まった状態の時に窓やドアを開くなどの行動をすると、熱された一酸化炭素に酸素が取り込まれて結びつき、二酸化炭素への化学反応が急激に進み引き起こされた爆発のことである。

 あの魔法では魔力の殻が密閉された空間を作り出し、中の魔力が一酸化炭素の代わりをしていた。そして神無が殻を斬ったことにより魔力が酸素と結び付き爆発を起こしたというわけだ。ちなみに普通の魔力ではそういったことは起きないため、初めから魔法陣にその仕組みを書き込んでおく必要がある。


「今のうちにカズ君……を……」

「いない?」


 さっきまで『嵐王の聖域』が発動していた空間には風の球体はなくなっており、血だらけで横たわる隆浩と千歳だけ。

 三人の思い人である一真の姿は存在していなかった。

 あの状況下で身動きを取れるはずはない。

 アリスとアッシュはそう思い込んでいたが、一美は違っていた。


「まさかっ!」


 一美が目を向けたのは上空。

 そこにはさっきのアッシュの魔法で起きた爆煙が色濃く残り、漂っている。そのため中の様子は未だに肉眼で窺うことはできない状況。

 だが、一美には確信があった。

 そしてアリスとアッシュも同じように何かを感じることが出来ていた。


「はぁっ…はぁっ…はぁっ……」

「どういう……」

「……」


 煙が風に流されて見えてきたのは神無と少女と、さっきまで千歳達と同じように『嵐王の聖域』に捕らわれていた人物。

 神無をどんな物からも守るように身体を広げ、大刀型アーマメントデバイスを展開し、自身の今出せる魔力を全て放出してそこに立っていた。




   2




 むろん無傷で、というわけではない。

 『嵐王の聖域』での傷はもちろんのこと、先の爆発の火傷も目に入る。その状態で意識を保ち、あの場に立っていることが異常なのは違いない。


「何してるの一真!」

「黙れ……」


 低くく響くその声は、アリスを完全に黙らせた。

 いつも以上の濃さを見せる一真の魔力が色を増す。

 その変化は、ここにいる全ての人間の目で見ることができた。そしてそれが、一美にある一つのことを気がつかせた。

 今まで自分は大きな勘違いをしていたのだと。


「……そう、いうことだったのね」

「どうしたのよ?」

「ははっ……あはははは! 今までそれに気が付けなかったなんて、それでよくお兄ちゃんを愛しているなんて言えたわよ……鍵は私達家族じゃなくて、お姉ちゃんだけだったということなのね……」

「何を言っているの? カズ君の鍵って何のこと?」


 アッシュの言葉に対し、一美は一切反応を見せることはなく、方針状態のまま立ち尽くしている。

 彼女の瞳からは涙が流れだしていた。


「ちょうどよかったわ……これなら邪魔なこいつを――――――」

「それは難しいぞ、女」


 声とともに一真の隣に現れた幼女。

 ここは地上から離れた上空であり、何かが出てくるような気配も無かった。それでも幼女は、間違いなく神無の隣に立つ少女の目の前に存在していた。

 幼女。

 九頭龍が一真達の世界の権限するときに使う姿であり、少女はそのことを知らない。だからこそ、突如現れたその存在に気持ち悪さを感じた。


「難しい? 突然何を言って……っ!」


 今感じた気持ち悪さを簡単に飲み込んで、彼女の意識は1つの感情だけに支配された。

 恐怖。

 圧倒的な恐怖。

 彼女の他の感情を押しつぶし、飲み込んだまま、とうとう体そのものまでも支配した。

 立っているその場所から、地面はないが縫いつけられたように一歩も動くことが出来ない状態になってる。


「何、これ……」


 彼女が恐怖を感じた理由は、彼女が感じた魔力。

 本来魔力は感じて驚愕はあっても、恐怖することは少ない。

 なぜなら人間が保有する程度の魔力を目にして、同じ人間が恐怖を感じること自体がないのだから。しかし、今ここではその理屈通じない状態にあった。

 第一に少女が恐怖を感じた魔力を放っているのは、神無ではなく目の前で瀕死に近い状態の一真。

 第二に九頭龍のサポートなく一真自身が一度に身体で精製出来る魔力量と質は、十三組の中では上位に属していない。よくて中間だ。

 そして第三。これがもっともおかしなことだった。今一真が放っているそれは九頭龍のサポートはない。

 つまりこの魔力は、一真が九頭龍からの補助なしに発している魔力となる。

 傍から見れば傷ついて満身創痍にしか見えないが、たった一つ違う点が存在している。それは、彼の中の呪いが動いているとうことだ。


「姉さんに何してやがる……姉さんを……姉さんを……」

「お前たち……確か『白き百合リヒト・リーリエ』とか言ったか。お前たちは全てを間違えた」

「間違えた?」

「そうだ……が、今日はここで帰ってもらおうか。相棒も、他の奴らも限界みたいだしな」

「……ここでその男を消せば、私達の聖女は」

「消えるのは、テメェだ!」

「えっ?」


 首の数ミリ手前で黒の刃が止まる。

 神無は一真の動きに反応しており、黒月が振られた瞬間から何十層もの風の壁で受け止めようとしていた。しかし一真の異常な魔力を纏った黒月の勢いを殺すことは困難で、最後の一枚でようやく止めることが出来た。


「断言するぞ、女。今の相棒は、神無の力でも止められない。俺の声も、誰の声も届かない。本能に、魂に自身が刻み込んだ誓いを……呪いを守るために」

「クソっ! クソ、クソ、クソ、クソ! 出来そこないのくせにぃぃぃぃぃぃ!」

「そんなに興奮すると、冷静に動くことが出来なくなりますよ。あなたはそこに並ぶ落ちこぼれとは違って、優秀なのですから」


 屋上と校内をつなげる唯一の扉。

 今の声はそちらから聞こえてきた。十三組にとって絶対に忘れることが出来ない声であり、現在あの襲撃事件以降行方不明になっている人物の一人。

 須藤杏子の父親であり、一年一組の担任の須藤弘史すどうひろふみの姿であった。


「この状況、どう見ても退散したほうがいいですね」


 キンッ、という音と共に神無と遠山奏と矢ばれた少女の足下に無色の魔法陣が展開される。それは転移魔法の魔法陣。

 そのことに気が付いた一真は黒月へ、先ほど異常の魔力を流し込んでいく。黒月が纏う魔力はゆっくりと形を作り、一回り、いや二回りも大きな刀身と鳴り替わった。

 だが、それは遅かった。

 一真が神無の風の障壁を斬り裂いたのは、二人が光に包まれ消えた後だった。


「……自由にさせてたが、これ以上は限界だな。一美」

「何かしら、お兄ちゃんの黒髪ロリ奴隷」

「その認識、いい加減に取っ払ってくれないか?」

「難しい相談ね……で、何かしら?」


 無理矢理自分の感情を押し殺して会話続ける一美。

 おそらく、彼女が少しでも気を抜けば呪いは再び動き出しここにいるもの全てに害を与えるだろう。それは本人も分かっていることであった。


「俺は相棒達三人を連れていくから、その男の対処は任せる」

「何言ってるの! カズ君は…・・カズ君の血は全て私の物よ!」

「クリスティーさん……あなたね」

「何か問題でもあるの?」

「大ありよ! お兄ちゃんの全ては私の物なのだから、血の一滴たりともあげないわ!」


 この状況を考えて、少しはまともな発言をしてくれるだろうとアリスは考えたが完全に読み違えた。

 二人は、どんな状況でもいつも通りの二人であった。

 その発言を聞いていた九頭龍も呆れた苦笑いを浮かべたのは言うまでもない。が、完全に蚊帳の外、無視されている須藤にとっては面白い訳ではない。


「まあ、お兄ちゃんたちはあなたに任せたわ。もし死なせるようなことがあれば、あなたを消すわよ」


 一美のその瞳に嘘はなかった。

 だからこそ、九頭龍もしっかりとうなずき三人を連れてこの場から離れた。

 そして三人は対峙する。

 今まで行方不明でありながら、今になってここに現れた須藤と。


「……本当に行方不明だった、というわけではなさそうね」

「どうしてそうだと?」

「先生が『白き百合』の少女と知り合いのように話していたからですよ」

「落ちこぼれのクラスに在籍しているにしては、しっかりと周りを見ていますね。桜ノ宮さん」

「私の名前、覚えていたんですね」

「たまたまですよ」

「じゃあ、ここでつかまりなさい」


 気配を殺し須藤に近づいていたアッシュが『美爆猪獄』を思いっきり振り下ろす。

 そこに躊躇はない。

 だが不意打ちの一撃は簡単に防がれた。


「狙いと方法はいいですが、甘いですね。タイミングとしては最悪ですよ。二人を囮にしていたようですが、気配が完全に殺し切れていませんでしたからね」

「ぐっ……」

「さて、私はこの辺で退かせていただきますよ。研究の続きがありますからね」

「行かせるか!」


 アリスが魔力糸を伸ばすがそれは彼に届く前に弾かれてしまう。

 魔法陣から放たれる光が強くなり、須藤の身体を見えなくしてしまうその直前だった。屋上の扉が開いて三人の人物が突入してくる。

 神童鈴蘭、阿部晶彦、そして須藤杏子。


「えっ!?」

「杏子か……」

「お父さん!」

「……」


 杏子の言葉に一言も返すことなく、その姿は高天原学園高等部の屋上から完全に消え去った。

 魔力の痕跡も残すことなく。


「どうして……」




   3




「まずいな、これ……」


 三人を担いで学園の敷地を駆ける九頭龍は、そう呟いた。

 一真達が流している血の量が危険な所に近づいていたが、今以上の速さで走ることが出来ないでいる。もしこれ以上の速さで走ってしまえば振動は伝わり、傷に響いてしまうことは間違いないからだ。


「くそっ……お前ら、俺にだけ任せてないで手伝いやがれ!」

――――――抜かせ、蛟龍みずち。我が子だけではなく、主の子まで面倒みているのじゃぞ。そちらに顕現出来る訳なかろう――――――

――――――すまぬな、龍の。手伝ってやりたいが、儂には狐のみたいに魔力を上手く扱えん。お嬢でいっぱいいっぱいなんじゃ――――――

「そーかよ!」


 悪態つく九頭龍であるが、この状況下では九尾に一真の治療を任せるしかない。

 今彼女が一真の治療に回るためには、一真の中に戻るしか方法はないががそうしてしまうと三人を運ぶ者がいなくなってしまう。

 もし追手がいるのであればそれだけは避けなければならない。


――――――というか、龍の――――――

「何だ、鬼?」

――――――あの時、坊主は何をしたんじゃ? あの時感じた魔力は、お前さんのものじゃなかったのう?――――――

「ああ。あの時の魔力は俺のじゃなくて、相棒の物だ」

――――――蛟龍、それは……――――――

「お前の言いたいことは分かるが、本当だ。あの時相棒達にどれだけ魔力を送ろうが、神無の攻撃はこいつらに行動させなかった。だから打破することなんて出来なかった訳なんだが……あの瞬間、まだ意識があった」

――――――何を言っておる蛟龍。あの状況下痛みと、出血で意識を保っていられる人間など――――――

「普通はいねぇが、あいつには朦朧としていたが意識はあった。相棒の中にいた俺だからこそ言える。そして相棒は、あの鉈の娘が魔法を使うタイミングで……魔力の圧縮と暴発をほぼ同時に行いやがった」


 今の説明に二匹は絶句した。

 まず圧縮というのは一点に魔力を集めるという動作から始まる。

 そして集めると同時に圧縮を始める。

 圧縮するメリットとしては魔力結合の強さである。魔力と魔力の結合が強ければ強いほど、魔法の強度が上がる。

 つまり魔法と魔法がぶつかる時魔力結合が強い方が打ち勝ち、弱い方が霧散してしまうということだ。

 だがこの圧縮という動作、本来は時間をかけなければならない。

 魔力の量が多ければ多いほど。


――――――しかし、あの量の魔力をじゃと……いくら蛟龍の童とて、圧縮には二分いちぶ(約6分)かかろう――――――

「……そうだな」


 更に一真が利用したのは魔力結合の強さ。

 魔法の暴発とは魔力結合を無理矢理解いた時に起き、そしてその強さは魔力量と魔力結合の強度によって決まってくる。

 あの時一真が圧縮した魔力の量は、呪いが発動していないときに一度に放出できる魔力の三倍以上の物。

 まずこの時点で矛盾が生じてしまっている。それだけの量の魔力を一度に放出した時点で一真の『天心』と『鬼臓』が限界を迎えている。

 次に圧縮の時間だ。

 分かりやすく数字とすると1分で圧縮出来る魔力量を50程度とする。

 つまり一真が圧縮していた魔力量は6分かかる魔力の300となる訳だが、その時点でありえないということとなる。

 もし圧縮が得意なものであっても50の魔力を圧縮するには数十秒は必要となる。ましてや魔力を一度放出しなければならないため、間違いなく合計で一分必要となる訳だ。

 しかし一真は意識してか無意識にかは分からないが、大量の魔力を放出し約6分かかる圧縮を一瞬でやってのけたわけだ。それは存在自体が異常な”九”を名前に持つ契約獣にとっても異常だと理解出来ることであった。


――――――おい、龍の――――――

「何だ?」

――――――その坊主、何者だ?――――――

「それは俺が知りたいことだ……」


 契約主のことが全て理解できない。

 それは九頭龍が契約獣という存在となって初めてのことであり、二人の契約上絶対にあり得ないことであった。

 契約するにあたり全ての契約獣が契約主に求めることは、『存在の全てを委ねること』という物がある。それはお互いに信頼しあうことが必要ということだ。

 もしそれが出来なければ契約は絶対にできない。なのだが、一真との契約は破棄となっていない。

 つまり……何故かは分からないが、それは契約違反に当たらない部分となっている。


「ホント、お前は何なんだよ……相棒」

――――――ところで蛟龍、今どこに向かっておる?――――――

「あそこだ……」


 彼女が指差したのはここ高天原学園初等部から高等部のトップ。

 この学園の理事長が住んでいる、理事長棟だ。


「ここまでの傷、治療魔法の専門に聞いた方が間違いないだろう」


   《続く》

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