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高天ヶ原学園十三組  作者: 村正
第一章
16/25

「ねえ。どうして九龍や玉藻の人型って、あんな小さな女の子なの? 黒髪ロリ奴隷と金髪ロリ奴隷が本当に欲しかったの? ねえ? ねえ? ねえねえねえねえねえねえ?」by楠木千歳

『十三組』の最新話、完成しました。

今回は前回と違って真面目モードで書いたつもりですが、どこかで少し違うところがあるかもしれません。

 それでは最新話をお楽しみ下さい。

   1




「操られている人間て、やっぱりこの程度よねぇ」


 晶彦に連絡を済ませた俺達は、真っ先に先生の所に来ていた。

 理由としては先生が奴ら『白き百合リヒト・リーリエ』の手に落ちると、かなり面倒なことになることが予想されたことと、クソ狐がうるさかったから。

 だから俺の転移魔法を連続使用して来たわけだが、その必要はなかったらしい。

 たった一人で放送委員長である織田有希を含めた攫われていた女子生徒を、全員捕縛していたのだから。流石は高天ヶ原学園の教師、いや俺達十三組の担任だと言える。


「今頃きたのねぇ、勝手に模擬戦場を使って半壊させたゴミ共ぉ?」


 あ……マジギレしかけてる。

 死んだ、かな?


「まあいいわぁ……この子達はぁ、私が何とかしますねぇ。ですからぁ、出しゃばって来てる黒幕モドキさんをお願いしますねぇ」


 黒幕モドキ?

 つーことは、ここに来ているのは本当の黒幕じゃないってことか? ハッキリ言って先生の言っている意味が分からない。

 それに気なっていることが一つ。

 ここと一美達のいるところ以外に、魔力の気配が二つ固まっている所がある。たぶん、それが先生の言っている黒幕モドキなんだろう。だが、何で二つもある?

 普通、黒幕的な感じで呼ばれる奴は一人なんじゃないのか?


「あなた達ならぁ、この子達みたいにはならないと思いますからぁ」


 この子達っていうのは、現在気を失ったまま縛られている織田先輩達のことなんだろう。が、ここで何が起きたのか知らない俺達には何のことなのか理解出来なかった。

 それでも俺達がすること、行かなければならない場所は決まった。

 ちょうど、この校舎の真上だ。


「千歳、クソ狐。掴まれ」

「ほい」

「ふざけてんのか?」


 クソ狐が掴んだのは俺の首。

 しかも前から両手で首を絞めるように。


「何を言っている。ユーが掴まれと言ったから、おいらは文句も言わずにそうしたんだろ?」

「……本音を言ってみろ?」

「あわよくばハーレムの主のナマケモノの息の根を止めれるかと」

「……ふんっ!」

「ぬぉ! 何をする!」

「決まってるだろ、テメェの男としての人生を、今すぐ終わらせてやろうと思っただけだ。親切だろ?」

「そんなわけあるか! まだDT捨ててないのに、男としての人生終われるか!」


 ヒュンッ。

 そんな音が俺達の耳元で聞こえてきた。


「いつまでいるのかしらぁ? そんなに男を止めたいのなら、今ここで去勢してあげましょうかぁ?」


 目が本気だった。

 このままだと本気で去勢されてしまう。クソ狐の男としての人生はどうでもいいが、俺の男としての人生は捨てたくはない。

 クソ狐を消すのはまた今度の機会にするとしよう。


「……さっさと行くよ?」


 千歳は俺の服を掴んでいるが、全くこっちを見ようとしない。まあさっきのことがあるからな。

 あれだけは俺も譲ることが出来ないから絶対にこっちからは謝る気はない。


「ちっ……次は本当に――――――」

「今度は絶対に――――――」

「絞めてやる」

「去勢してやる」


 お互いの呪詛の言葉をこの場に残して、俺達は転移した。

 転移した先はこの校舎の屋上、なわけだが……人っ子一人、そこにはいなかった。

 だがこの近くで魔力の気配だけは感じる。

 それは千歳もクソ狐も感じているようで、その手にはしっかりとアーマメントデバイスが握られている。


「こんばんわ」


 その声と共に現れたのは変な魔力と遠山楓。

 いや、ちょっと待て。

 遠山の奴は、今一美達の所にいるはず……だとしたら、この女は誰だ? それにこの違和感だらけの魔力は何だ?

 魔力は魔力なんだが、純粋な魔力とは言いにくい……ハッキリ言って気持ち悪い。


九龍くろ、何だこれ?)

――――――俺にも初めての感覚だ。はっきり言えるのは、相棒達が生成する魔力や俺達みたい自然発生した魔力じゃないこと確かだ――――――


 千歳もクソ狐もあの女が纏う魔力に異常なまでの違和感を感じている様子。

 だとしてもそんなことを、今気にしている必要はない。あの女を捕まえて拷も……聞き出せばいいだけだ。


――――――相棒。いくら敵の黒幕だからって、それだけはマズイんじゃ――――――

(男女平等という言葉を知っているか?)


 絶句の表情をしている九龍の顔が容易に想像できる。

 だが俺は本気で言っている。俺の、俺の家族を敵に回した奴には絶対に容赦はしない。

 俺はあの時からそうして来た。姉さん、一美、鈴蘭を、家族を守るために俺のはそうして来た。失わないために。

 今回もそれを目の前のクソ女に実行する。

 実に、


「簡単なことだ!」


 足下に一瞬だけ出現する黒の魔法陣。

 次の瞬間には女の目の前にいた。俺の左手は硬く拳を作っている。


「歯ぁ、喰いしばれよ」

「その言葉、そのままお返しします」


 いきなり吹いた突風と、俺に向かってくる風刃。

 吹き飛ばされた俺は完全に身体が浮いた状態になっており防御の体勢を作ることは出来ない。だからと言って直撃は避けたい。

 身体に魔力を纏わせて簡単な防御を行う。

 それでも絶対に防ぎきることは出来ない。

 どうしてか俺にはそう直感できてしまった。それでもダメージは少ない方がいい。

 開幕から大ダメージだけは避けたいからな。


「ありがとう」


 誰かに礼を言っているのは聞こえたが、今はそれに気を取られている場合ではない。

 完全に崩された体勢から、どうやってしっかりと着地するかが大切だ。じゃねぇと、さっきの攻撃よりもデカイ一撃を受けることにな――――――、


「ん?」


 地面まではもう少し距離があるが、俺の身体はふわふわしたものに落ちた。

 この感触、最近どこかで感じたことがあるような……あー、あの模擬戦のときにってことは、これ玉藻の尻尾か。


「少しは考えて突っ走ろうぜ、ナマケモノニート。おいらの知ってる猪でも、ここまで考えなしじゃないぞ。いっそのこと神童・I・一真に改名するか?」

「おいクソ狐。Iってなんだ?」

「猪」

「……ネーミングセンスとか、英語じゃねぇんだとかいろいろツッコミどころはあるがとりあえず」

「とりあえず?」

「一真」


 とてつもなく冷たい声に俺は身体を止める。


「隆浩君も」

「な、何でしょうか千歳様?」

「少しはTPOを考えて行動しようね」


 頭の中は恐怖で真っ白になっており、簡単な返事しかすることが出来ない。

 昔にこんなことあったよな。確か、こいつの母親の千里さんに本気で怒られたときと同じ。流石は母子という訳だな。

 感心している場合ではないがな。


「あれ」


 元の声色に戻った千歳が指さす先には、口元以外隠れてしまうほどのフードで顔を隠した人間がそこにいた。が、それが誰なのか分かってしまった。

 分かりたくなかったが、そいつを見た瞬間に正体を看破することが出来てしまった。


「誰だ?」

「……聞く必要なんてねぇよ」


 そう、聞く必要はない。

 あの魔法を喰らった俺だからわかる。

 風刃を構成する魔力量は全て同じで、魔力連結は完璧でムラがない。あそこまで完璧な風刃を作る人間を俺はたった一人しか知らない。

 その人間は今奴らの手に落ちている。

 そこまで分かっていれば、九割がた正体は分かってくる。

 残りの1割は、まだ顔を拝めていないから別人かもしれないという薄い希望だ。


「顔を見せやがれぇ!」

「それは拒否させていただきます」


 振り下ろした黒月の刃は風に阻まれて、フード野郎の目の前で止まる。が、攻撃の手は俺以外にも存在している。この風の障壁が、俺の知っている物と同じ物であれば対処法は存在する。出来ればそうであってほしくはないが……。

 超短距離転移で二人の頭上まで移動し、落下する。


「蒼之太刀弐式・天墜閃!」


 本来はすれ違う瞬間に何度も斬るつける剣技だが、今回の用途は違う。

 一点にだけを何度も斬りつける。そうすることによって障壁もそこだけに集中するから、他の部分ががら空きになる。


「クソ狐、千歳!」

「九頭鬼流一乃太刀・轟魔!」

「雷神剣・冥!」


 二つの刀がフード野郎を襲う。

 いきなり風の障壁が緩む。クソ狐と千歳の攻撃をかわすが、黒月を受け止めておくことが出来なくなり俺は懐ろに潜り込む。

 そして俺の手はフードに手をかけることが出来た。


「……」


 クソ狐も千歳も、フードの下の顔を見て絶句している。が、俺にとっては予想通りの人物の物。

 もっとも向こう側にいて欲しくなかった人が、黒幕モドキの女の隣に立っている。それを見ているだけで俺はとてつもない無力感に襲われる。

 体中から一気に力が抜ける。

 立っているのもやっとくらいに。

 それでも、俺は何でもいいから一言、やっとのことで声を出す。


「どうしてそっちにいやがるんですかね……姉さん?」




   2




「しかし、あなたのような小物にお兄ちゃんが負けたとはね。まあ、間違いなくまぐれでしかないのだけど」


 下から遠山かえでを見上げる一美は、完全に上から物を言っていた。

 いつも、誰に対しても、実の兄にでさえそのような言い方をするが、今の彼女の口からはいつも以上に冷たい言葉が発せられる。

 その理由の一つとして、さっきまで何かに操られていたということにある。


「小物、だと?」

「そう言ったのだけど聞こえなかったのかしら? それとも、あなた程度の小物には私のような天上の存在の言葉は聞くことすら出来ないのかしらね?」

「貴様……」

「お姉ちゃんを狙うことでお兄ちゃんを動揺させて勝つ。それはお兄ちゃんが無駄に暴走したから、たまたま成功したようなもの」


 淡々と言葉を続ける。

 しかし目の前に立つ楓はその言葉一つ一つに込められている、異常な威圧感を感じて足を止めていた。だが感じていても動かない理由にはならない。

 楓にも目的はある。

 その目的が『自分の物』ではなく『誰かに植え付けられた物』である。だが彼女はそのことを知らない、気付くことはできない。

 だから自身のアーマメントデバイスを構える。


「実力で勝ったと思っているのかもしれないけれども、それは勘違いでしかないの。いろいろな条件が揃って、あの瞬間あの時だけお兄ちゃんよりも強かったというだけ」

「言わせておけば……」

「分からないようならば、事実を言ってあげるわ。九頭龍の力を使おうが、使わまいがお兄ちゃんはあなたより何倍も強い!」

「ふざけるな! 私が貴様らのような、問題児の集められた落ちこぼれの筆頭などに――――――」

「勘違いしているようだから言わせてもらうけれども問題児と落ちこぼれは、似たような言葉であってまったく別物よ」


 はぁ、とため息をつく一美は視線を楓から外し右のほうへ向ける。

 それは一真が今居る方角である。

 彼女は兄がいる場所をしっかりと把握してはいない。それでも視線はその方向と、ぴったりと一致していた。

 たまたまなのかは分からないが、一美に聞けば間違いなく『愛』があれば出来ると答えることだろう。


「そろそろ終わりにしましょうか」

「貴様程度が私に勝つつもりか?」

「ええ。私は絶対にお兄ちゃんの傍で、支えなければならないの。今も、これからも……それがあの時からの私の役目だから! だから、さっさと目の前から退場してもらうわ」

「何を抜け駆けしようとしてるの?」

「あら、いたの? あなたは、あそこで空気の女と一緒に寝てるのかと思ったけど」


 一美が言っている空気の女とは、楓が来た時に操られてる一美によってノックダウンさせられたアリスのことである。彼女はそれ以来完全に白目をむいた状態で気を失っているが、死んでいるわけではない。


「カズ君よりも先に私の初めてを奪うなんてことをしたあの女には、本物を地獄を見せてやるしかないわ」

「そうね……それには賛成だわ」


 たったそれだけの言葉でアッシュは初めて隣に立つクラスメイトに恐怖を感じた。

 周りの温度が下がったかのように感じた。

 そう感じただけ。なのだが、アッシュはとてつもなく身体が重たく、息苦しいことに気が付いた。


「あなたに言っておくことがあるわ」

「辞世の句か?」

「いいえ。これから起きることを隣で固まっているワカメはもちろん、あなたも理解することは出来ないわ」

「何を言っ……て……」


 その言葉を最後に楓は完全に動きを止めてしまった。

 この光景を一美は冷たいで、淡々と見つめている。


「言ったでしょう。あなたは理解できない、と」


 その言葉に誰も反応を示すことはない。

 楓はもちろんのこと、隣に立っているアッシュも。二人とも氷像のように、一瞬前の状態で完全に停止してしまっていた。

 動くことが出来ているのは中心に立つ一美、ただ一人だけ。


「あなたは……いえ、あなた達『白き百合リヒト・リーリエ』は敵に回す相手と選択。その全てを間違えた」


 弓型アーマメントデバイス『黒姫』を楓に向けて構えた一美は、ゆっくりと限界まで弦を引く。

 それと同時に数十の魔力矢が出現。

 

「だからあなたはここで私に負けるのよ」


 そう言い放つと同時に、弦から手を放す。

 同時に撃ち出された矢は全て楓に直撃する。が、彼女の状態は一切変わらない。動きを止めた時と全く同じ立ち姿のままだ。


――――――容赦ないな、君は――――――


 一美の頭の中に響き渡る少女の声。

 それに対して一美自身は露骨に嫌な顔をする。


「気安く話しかけてこないで欲しいわね」

――――――酷いな。少しは仲良くしたいと思ってるから、こうして話しかけてるんだけど―――――

「無理ね。私とあなたでは、お兄ちゃんと九頭龍のような関係を作ることは不可能よ。それはあなたも理解していることでしょう」

――――――それもそうだね――――――


 その言葉の直後、一美の隣に突然小学生ほどの女の子が現れた。

 見た目は普通の人間だが、その瞳は人間がもつには異様なほどに綺麗すぎる紅い色をしている。


「ボクと君はお互いに利用してるんだから」

「……呼んでもいないのに出てこないでほしいのだけど」

「それは無理な相談だ。今ここは君達の住む世界でもあり、ボクの住む世界でもあるんだから。出て来るなと言う方に無理があるよ、一美」

「……じゃあ、言い方を変えるわ。どうして出てきたのかしら?」

「久しぶりに外の世界を見てみたくなって」

「本音はを言うことを勧めるわよ」

「ホント、君はボク相手でも容赦ないよね。ふつう君たちは、ボクらという存在を恐れるものだよ?」

「だから何かしら? そんなことはいいから本音を言いなさい、私のロリ奴隷」

「ロリ奴隷……ホントおもしろいよ。で、話は戻すけれどそれが本音だよ。ボクのいる世界は基本、ボクしか存在していないからいつも暇でしょうがないんだ。君も話しかけてくれないからね」


 それを聞いてはぁ、とため息を吐いた一美は発動している力を解除を始める。


「ちょっと早すぎないかい?」

「早すぎないわ、あなたがこちらに出てきてもいい時間としては妥当よ」

「厳しいね」


 少女は苦笑いを浮かべるが、一美に背を向けて歩き始める。その姿はゆっくりと透けていく。


「次は私が呼ぶまで勝手に出てこないで」

「そうするよ。と、最後に一つ」

「何かしら?」

「君に寄生してたと、あの子に寄生していた気持ち悪いものは完全に消滅させておいたから。あんな物を人間が作り出すことが出来るようになるとはね」

「あんな物?」

「人はボクらを化け物というけれど、ボクらからすれば人のほうが化け物だ」

「何を言っているの?」

「なんでもないよ」


 意味深な言葉だけを残し、女の子の姿は完全にこの場から消えてなくなった。それと同時に全ての時間が再び動き始める。

 止まっている間に攻撃を受けた楓の時間も、ダメージが蓄積された状態でもう一度スタートする。それはつまり、


「えっ……あぇ?」


 止まっている内に蓄積していた物も解放される。それは一美によって与えられた魔力矢によるダメージも同様。

 突然、身体を襲う激痛。楓の視点からは一美もアッシュも何もしていないように見えたが、いつ与えられたのか分からないダメージが彼女の身体を駆け巡る。

 その痛みは楓が意識を繋ぎとめることも許さず、一気にその意識を暗闇の中に放り込んだ。

 一美が宣言したように、何も理解できないまま戦いは終幕する。

 何が起きたのか、何故楓が倒れたのか。全てを理解できていないのはアッシュも同じだった。


「え?」

「理解する必要はないわ。それよりも行くところがあるでしょう?」

「い、言われなくとも、私はカズ君と身も心もいつも一つなのだからそれはあたりまえのことよ」

「それと……」


 ゆっくりと、いまだに意識を失っているアリスに近付くと、


「ごふっ!」

「いい加減に起きなさい、ウスィの!」


 腹に向かって思いっきり蹴り飛ばす一美だった。




   3



 地面がとてつもなく近くに見える。

 当り前か。風の刃で体中を切り刻まれて、血だらけでぶっ倒れてるわけなんだからな。

 痛みと血が抜けすぎたことで目が霞んでる。


「凄い……最高だよ、神童神無!」

「……」


 黒幕の女が叫んでるが不愉快な上に、傷に響くから今すぐ呼吸ごと声を出すのをやめてほしい。

 つか、いくら学園最強の強さつってもおかしくないか? ”九”の契約獣と契約している人間三人を相手に無傷なんてことがあっていいのか?

 いや、違うか。

 これが模擬戦やそれに準ずる物であったならば、俺も本気で戦うことができただろう。しかし、今は姉さんを傷つけてしまうかもしれない。そんなことを少しでも考えてしまうと意識的にも、無意識的にもどこかで手を抜いてしまっている。

 千歳もそのことを理解してしるから、さっきから何度もフォローをしてくれている。クソ狐もそれに合わせて動いている。

 完璧に俺が二人の足を引っ張ってしまっている。

 分かっていても、俺にはどうすることもできないだろう。あの日から俺には呪いとも言える誓いがあるのだから。

 何があっても、俺の存在がどうなっても家族を……姉さんを守る。

 だから俺は姉さんを傷つける物を全て排除しなければならない。その対象は俺自身も含まれていたわけだ。


「本当に面倒だ……」


 何でこんな融通の利かない誓い、立てたんだろうな。

 それでも今は無理矢理やるしかねえのか……自分に科した誓いを破ってでも、守るべき存在を斬らねぇとならねぇのかよ。


「何やってんだ、ナマケモノ……目の前のは敵だろ」

「んなこと、言われなくても分かってんだよ」

「分かってないから、ぐっ……こんなことに、なってんだろうが」


 ゆっくり立ち上がったクソ狐は金色の魔力を身にまとう。

 この野郎……俺の目の前で九尾の力を使う気かよ。まあ、それが唯一姉さんに攻撃を届かせる可能性が多少でもある方法なのはまちがいねぇ。

 だが、それを使っても……俺の予想が正しければ届かない。

 姉さんの右手に握られた扇形アーマメントデバイス『神楽』は、姉さんの頭上に掲げられている。その先には巨大な球が存在していた。

 それを認識した瞬間に、俺は心底ゾッとした。

 あれは姉さんが本気で敵と認識した存在を、完膚なきまでに殲滅するために作り出した魔法。

 『嵐王の聖域ブラスト・コフィン』。

 この魔法の範囲、発動時間は全て姉さん次第。


「クソったれが……九龍クロぉ! 全魔力、防御に回せぇ!」


 回避すればいいと思うやつがいるかもしれないが、あそこまで発動準備が整っていれば逃げるのは不可能。あれが敵と認識した相手の場所に到達するまで、どんな距離があっても数秒しかかからない。

 そしてあの魔法に巻き込まれたら待っているのは大量の風刃に延々と切り刻まれる地獄。


――――――駄目だ相棒! 間に合わない!――――――


 九龍のその言葉の直後、俺達三人は暴風の中に巻き込まれた。


   《次話へ続く》

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