「お、おい、お嬢。それくらいに……坊主が、ってこのくらいじゃ大丈夫か。ん? 誰だじゃと? しっかり名前が書いてあるじゃろうが! 他の二匹と比べて影が薄いとは言わせんぞぉぉおお!!!!」by九鬼
今回、レギュラー出演者の約半分がふざけています。さあ、誰がふざけてるでしょう?
もしかしたら半分以上かも?
正解者にはアッシュからの永遠の愛が貰えます。ちなみ拒否権はありませんよ。
それでは最新話をお楽しみください。
1
「……」
「……」
真夜中。
俺と千歳は黙ったまま向かい合っている。
千歳は俺が喋るのをずっと待っている。
俺は千歳が諦めることを待っている。
俺は喋らないし、こいつは諦めない。お互いそれを理解しているが、絶対に譲る気にはならない。
「お前に話すようなことじゃ――――――」
「九頭龍、喰ったのか?」
沈黙が続いてからの開口一番、俺が何をしてきたのかを一瞬で言い当てやがった。
こいつ、エスパーか?
いや……契約者としての知識、か。クソ狐も知ってる感じだったからな。
知ってるなら聞かなくても……違うな。知っているからこそ、俺の口からそれについて聞きたかったということか。
「知ってるならもうい――――――」
「よくねぇ!」
「うるせぇなぁ。こうやって俺はここにいるんだからいいだろうが」
「そうじゃねぇだろ! ”九”の契約獣の一部を食べるってことは、それ自体に喰われるかもしれない危険があるってことだぞ!」
こいつがこう言うことは知っていた。
俺の身体のことを心配していくれていることも知っている。
だから覚悟もしていたが、やっぱり駄目だ。俺がこの力を手に入れる、九頭龍と契約する理由を知っているこいつにはこんなことを言ってほしくなかった。
そう思ってしまう。
「じゃあ、テメェはまた俺に見てるだけいろっていうのかよ! 周りの奴らが何とかするから待ってろってよぉ!」
「それは……でも、それでも私は一真に――――――これ以上無茶をしてほしくない! その腕で『神蝕』が止まるかもしれないけど、今まで以上に力を解放できるようになったってことはそれだけ負担が大きくなるってことなんだよ!?」
「何度も言わせるなよ。守れなかったら意味がねぇんだよ!」
こいつを怒鳴っても意味はない。そんなことは分かってるが、どうしても抑えることが出来ない。
あの時のことが何度も繰り返しフラッシュバックして終わらない。それがあの二人への憎しみだけを引き出していく。
気持ち悪い……。
「守れなかったら意味がないって、一真は自分がどうなってもいいの!?」
「誰かが俺の前からいなくなるより断然マシだ!」
「っ――――――そんなの、マシなんかじゃない!」
こいつには絶対に分からない。周りの大切な者が壊れて行く、いなくなってしまうかもしれないという恐怖は体験した者だけにしか。
それにもう一つ、こいつには絶対に分からないことがある。
「じゃあお前には分かるか!? やっと手に入れた力を全て引き出すことが出来ない悔しさを! 契約獣の子孫のお前じゃ絶対に分からいよな!? だから俺は力を得るために覚悟を決めた決めた。命以外を差し出して大切な者を守れるなら、差し出してやるって!」
そこまで言って失言に気が付いたがもう遅い。
過去に契約獣の力を手に入れようとした奴らに攫われたことがある。それ以来こいつは、契約獣の子孫という風に見られることを嫌っている。
「一真も、私のことをそんな風に……見てたんだ」
「……じゃあ、テメェは俺のことをどんな風に見てた?」
「それは……」
「力を使わせていけない奴、守らなければいけない対象……この二つに近い何かだろ?」
千歳は黙ったまま何も言わない。
図星。なのかどうかは分からないが、知ったことか。
「もしそうなんだとしたら、お前はあの日からの俺を完全に否定してることになる! それだけは誰であろうと、たとえお前でもゆるさねぇ!」
「許さなくていいよ……私も今の一真に、私の気持ちを分かってもらおうなんて思ってないから」
気付けば、千歳の手にはアーマメントデバイスが握られていた。
しかも安綱の刀身にはすでに魔力が流れている。
「じゃあ、そんな付け焼刃程度の力で子孫である私に勝てるか試してみてよ」
「……なめてんなら初めからそう言いやがれ」
「うん、なめてるよ。その程度の力で浮かれてる一真を」
「そうか」
それなら分からせてやる。
しまっていた黒月をもう一度展開させると同時に、俺は一気に魔力を流し込む。
「九龍之太刀――――――」
「九頭鬼流――――――」
「ストップ」
「……まだいたのか、クソ狐」
「まだいたわ! 勝手に二人の世界に入ったかと思ったら、シリアスな雰囲気作りやがって。おいら、ホントどうしたら……どうしたら……」
あ、泣き始めやがった。
本当にめんどくせぇ……横目で見れば、千歳も呆れてしまっている。
「で、何なんだよ? いつもならゆっくりフェードアウトしていくお前が、わざわざストップをかけるってことはなんかあるんだろ?」
「ネズミが紛れ込んでるぞ」
2
「くっ……」
「お前の体質がそこまでとは、想定外だった」
肩で息をしながら杏子は自分の前に立つ侵入者と、その傍らに立つ知り合いを睨みつける。
何が起きているのか、杏子自身理解することが出来ていない。少し前までは一美、アッシュ、鈴蘭は一緒に戦っていたのを覚えている。
(何が起きてるの……これ?)
だが、時間が経つにつれてその状況は変化していった。
一美、アッシュ、鈴蘭と杏子に攻撃を仕掛け始めた。全員が敵になるまで時間はそんなに時間はかからなかった。
そして現在1対4。
いくら杏子が魔力無効化体質だとしても、アッシュと鈴蘭は物理攻撃メイン。武器を無効化は出来ないため、ダメージは溜まっていく。
それでも杏子は本気で戦うことが出来ないでいた。
気での攻撃は魔法での攻撃と違い手加減は出来ても、怪我をさせないという選択肢は存在しない。そして魔法もカートリッジを使用してるため、連発することも出来ない。
こうなってしまったことにより既に追い詰められていた。
「遠山さん! 何が目的ですか!?」
「お前だ、須藤杏子。正しくはだった、だが……もう用はないからな、殺すことにしよう」
その声に躊躇は一切なかった。
あるのはただ淡々とした雰囲気。
「私よりも知り合いに殺されるほうがお前も嬉しいだろ? それにあの男も屈辱だろう」
「殺されてたまるか!」
気付けば楓の傍にいたはずの三人はいなかった。
代わりに目に入ったのは魔力で作られた矢。防ぐことはほぼ不可能な位置にまで迫っていた。
楓もそのことは分かっており笑みを浮かべていたが、杏子は前に一歩踏み出す。それは本人にも、もちろん楓にとってもありえないことだった。
分からないが足は進む。
「え?」
杏子から、突然視界から矢が消えたように見えていた。魔力の矢は杏子の背中の後ろを飛んでいる。
楓や虚ろな瞳で敵対する三人はもちろん、当の杏子でさえ今何が起きたの全く理解できていない。誰の目からも杏子が転移系の術を使ったように見えただろう。
しかし、杏子はそのような術を持っていない。
ましてや使用するには一真の転移魔法レベルの発動までの時間短縮がされていなければならない。そんな無茶苦茶な魔法自体、あの男以外そうそう使うことが出来るものではない。
ならば何が起きたのか。
杏子はさっき、自分自身が最初に何をしたのか思い出していた。それによって、今自分が何をしたのを杏子は理解することが出来た。
(今のって、もしかして縮地?)
隆浩との練習ではほとんど成功しなった縮地。それをまた無意識でのみ成功させたが、今回はその感覚を覚えていた。
呆けている内に次の攻撃が迫っていた。
頭上には触れると爆発する鉈型アーマメントデバイス『美爆猪獄』の刃。
杏子はこれの能力を知らない。それでも彼女の勘が、あれに触れるとヤバいと警報を鳴らしている。バックステップすると、さっきまで立っていた位置よりも数メートル後ろに立っていた。
着地すると同時に前傾になってアッシュに向かう。
「ふっ!」
本来なら一歩では届かない距離だが、杏子は『美爆猪獄』を振り下ろして硬直状態のアッシュの目の前に立っていた。
いつでも拳を振り下ろすことが出来る体勢をとっていた。
「はぁ!」
アッシュの顎を捕らえることが出来た。いや、邪魔が入らなければ捕らえることが出来ていただろう。
杏子の目の前をかすめる矢と、
「終わりですよ、須藤先輩」
アッシュを狙ってくることが分かっていたのだろう。鈴蘭が腕を引いた状態で立っていた。
いつもの彼女ならばアッシュをこのように、囮として使うことはなかっただろう。杏子も彼女達が何かに操られているのは何となく理解していた。
杏子が三人を支配している存在に触れることさえ出来れば、おそらく一美達を解放することが出来るだろう。しかし杏子にはそれを視認出来ていない。だから触ることが出来ない。
「終わりじゃないよ」
声と共に鈴蘭めがけて何かが降ってくる。
魔法ではなく、とあるヒーローのキックの体勢をした男性生徒だった。
そのキックを鈴蘭は両手クロスして受け止める。ドォンと、地面に数メートルにもわたる巨大な蜘蛛の巣状のヒビが鈴蘭を中心に出来あがる。
「ぐっ」
「はっ」
バク宙を決めて着地した男子生徒は杏子へ振り返る。
その顔には見覚えがあった。『白き百合』の襲撃の翌日、隆浩のお見舞いに行った時にあっている。
「あなたは確か阿部君の弟の……阿部晶彦君?」
「そうだよ、杏子姉ちゃん」
「ね、姉ちゃん? と、というかどうしてここに!?」
「さっき、ウチの兄ちゃんから連絡があって一美姉ちゃん達の所に来るようにって」
晶彦は杏子に振り替えることなく楓達を見ている。
警戒している。
いくらいつも天然な晶彦でも、自分の力量と相手の力の差が分からないわけではない。このままでは間違いなくこちらが不利なことを理解している。
だからこそ相手の動きを観察しつつ、この状況を打破出来る策を考えていた。
そしてとある二人にのみ最も効果的な方法を見つけることが出来た。それが、
「それよりもこんな小物に操られるとか……一真兄ちゃんが見たら何て言うかな?」
「小物、だと。貴様ぁ!」
「お兄ちゃんに……」
「カズ君に……」
虚ろなままだった一美とアッシュの瞳に、一瞬だけ光が戻る。
それは晶彦にはもちろん、杏子にもはっきりと見て取ることが出来た。
「いつまでもそんなだと、捨てられちゃうかもね」
その一言がスイッチだった。
二人の瞳に完全に光が戻る。
「そんなはずある訳ないでしょう。お兄ちゃんはいつでも妹の、いえこの世界で一番お兄ちゃんという存在を感じるだけで『禁則事項』できて、『禁則事項』が出来る私の味方よ!」
「何を言っているのかしらこの貞〇もどきは。存在を感じなくても、存在しているというその事実だけで私はもう、もう、――――――」
「防音魔法展開」
笑顔でアッシュのセリフを最後まで言わせないところが流石は阿部隆浩の弟。アッシュの扱い方を完全に理解している。
二人の様子を見れば完全に正気に戻ったことがうかがえる。
突然いつも通りに戻った二人に杏子はもちろん、楓もあの一言で自我を取り戻すなんて思っていなかったのだろう。驚愕といった表情で固まっている。
そして晶彦にいたっては、
「うそぉん」
二人以上に驚いていた。晶彦にとっても賭けのレベルでしかなかったようだ。
しかしそれでも漢字で書けば二文字、ひらがなで書けば四文字の簡単な言葉で、
「まあ、超ド級の『変態』だから当たり前だよね」
納得出来てしまっていた。
今までの行動が行動なため、仕方のないことではある。
ちなみに今の一連の場面を見ていた杏子はいろいろとツッコミを入れたい衝動に駆られていたが、ツッコミをしてしまったら負けだと思い声を出さないよう努力していた。
「というか、晶彦君。あなた、いつからいたのかしら? 流石は駄狐の血筋ね。視界に入らなくて気が付かなかったわ」
「え」
「一美姉ちゃんこそ何言ってるの? 今まで操られてたんだよ、今の鈴蘭みたいに」
そう言って、今だ何かの支配下にある鈴蘭を指さす。
「何に憑かれたらあんな風になるのか分からないけど、カズ君以外の存在に突かれるなんて虫唾が走るわね」
「珍しく意見が合うわね。じゃあ晶彦君と須藤さんには、妹をお願いしてもいいかしら?」
本気で怒っている。理由はどうあれ、二人は怖いくらいにキレている。
杏子にもそれは感じ取ることが出来た。しかし一つ重大な懸念が杏子と晶彦にはあった。二人がまた操られてしまうのではないか、ということである。
それについては本人達も理解していたのだろう。
「「問題ないわ。私の中にはお兄ちゃん/カズ君の愛でいっぱいだから!」」
胸を張って堂々と訳の分からないことを、ほぼ同時に言い張る一美とアッシュ。
いつものことを知っている晶彦はもちろん、杏子でさえこの二人がいろいろと異常なのだと理解し初めていた上に慣れようとしていた。
「……一美姉ちゃんもアッシュ姉ちゃんも、次あんなことになったらめんどくさいから病院送りでいいよね?」
「カズ君にそうしてもらえるのが一番なのだけど、迷惑はかけられないからお願いするわ」
「晶彦君!」
「大丈夫だよ、根拠はないけど。それよりも、ある意味あんな小物より面倒なのが来るよ」
「えっ?」
突如後ろから寒気を感じたと同時に、杏子の体は勝手に縮地で真横に跳んでいた。
直後、大地に巨大な穴が開く。その中心には鈴蘭が立っていた。その腕には籠手型アーマメントデバイス『ディアプトラ』が装着されていた。
鈴蘭は第一印象として、どんな人間からも使う魔法は遠距離であったりサポート系の魔法だと思われることが多い。しかしそれは大きな間違いである。
彼女の使う魔法は近距離魔法がメイン。
しかし彼女の力では大きな力を出すように体格を持ち合わせていない。そのための『ディアプトラ』である。このアーマメントデバイスは魔力を溜めこんで、それを解放して瞬間的に強大な力を生み出すことが出来る。
その結果がこのクレーターだ。
これを見た杏子は戦慄した。
恐怖でとっさに身体が動いていなければ無事ではなかっただろう。
「ははっ、今の避けるんですね」
一瞬、声だけ似ている別人の言葉に聞こえた。しかしそれはまぎれもなく、あそこに立つ神童鈴蘭から発せられたものだ。
今までの雰囲気とは全く別物。
中身だけ入れ替わったと言われたら納得出来てしまうほど変わりよう。
「完全に気配を消してたんだけど……流石は一組ですね」
「鈴蘭さん、ですか?」
「そうですよ。他の誰かに見えますか?」
「これが面倒な理由だよ。鈴蘭の長所にして、最大の欠点」
こちらを振り向く鈴蘭。
その表情を目にすると、背中に氷塊を入れられたような寒気を感じた。
怖い。同年代の生徒を見てそんな風に感じたのは、彼女が初めてだった。
「テンションがあがってなのか何なのか、スイッチは分からないけど戦闘中ある程度の時間が経つと勝手にこうなるんだ。ちなみにこうなった時の見分け方は瞳の色だよ」
言われて観察してみると黒だった瞳は、綺麗すぎるという言葉がぴったりな紅い色をしていた。
体質と言われたらそうなのかもしれないが、目の前に立つ少女が纏うそれは人間が放っていい物を超えているような感じがしている。
「あれを止める方法は……」
「気絶させるしか、止める方法はないよ。一真兄ちゃんがいたら楽なんだけど……しょうがないよね」
「もしかしなくても、私のこと舐めてるよね? きひひひ……ムカつくから、晶彦君も須藤先輩も壊れててください!」
「えっ!?」
一回の瞬き。その時間は一秒も経っていない。
たったそれだけの時間でクレーターの中心から、数メートル先の晶彦の前に立ちアッパーの体勢で作っていた。
杏子の位置からそれを止めようとするが確実に間にあわない。
晶彦は諦めているのか何もしようとしない。
バチィッ、という音がして鈴蘭の一撃は弾かれる。
「舐めてるの、鈴蘭だよね? 僕だって怒るよ」
突然晶彦は、彼の魔法色である黄色のオーラを身に纏う。それと同時髪の毛は逆立ち、一瞬にして黄色に染まる。
その時、杏子はとてつもなく嫌な予感がしていた。
「へえ……すごいね、晶彦君。でも何それ?」
「とっくにご存じなんだろ? ウチの駄狐の兄によって呼び出されここに嫌々ながらやってきた陰陽師……穏やかな心を持ちながら、舐められているという怒りによって目覚めた伝説の戦士……スーパーオンミョウ人阿部晶彦だ!」
アウトォォォォォ!
全力でそう叫びたくなったが、寸前で踏みとどまる。
鈴蘭は戦闘態勢のためか、目の前で起きたことは完全にスルー。離れた位置で戦っている一美とアッシュは、晶彦の姿が変わった程度にしか捉えていないだろう。
「久しぶりに本気で戦えそう……いくよ、晶彦君!」
3
晶彦が謎の変身を見せたのと同じ時、
「おいらはスーパーオンミョウ人ゴッド、とかになればいいのか?」
何かを受け取ったらしく、そんなことを口走っていた。
今、隆浩を含めた3人が陥っている状況を完全に無視しての発言。それに対して一真や、千歳はもちろん相対している相手も絶句してしまっていた。
「少しは考えてしゃべりやがれよ、クソ狐……」
「ちょっと電波を受信して……それよりも、あれはどうなってるんだ?」
「それはあたしが聞きたいことだ」
3人の目の前には、今は杏子達の所にいるであろう遠山楓。いや正しくは、楓と瓜二つの少女と……、
「どうしてそっちにいやがるんですかね……姉さん?」
行方不明になっていた神童神無が立っていた。
《次話へ続く》
誰がふざけているのか、分かりました?
正解は……実際、私は数えていないので何人なんでしょう?
回答は感想にて……それではまた。