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高天ヶ原学園十三組  作者: 村正
第一章
13/25

「お、お兄――――――って、何言わせんだ玉藻! そんなこと言うから相棒が、ギャーーーーーーっ! 相棒がァァァァ!」by九頭龍

 皆さんお久しぶりです! 村正です。

 ようやく最新話を投稿することが出来ました。四か月もお待たせしてしまってすみません。

 それでは『高天ヶ原学園十三組』最新話をお楽しみください。

   1



九龍之太刀一刀くろのたちいっとう……!」

招雷しょうらい一尾いちび……」


 二人を中心に広がっていく二色の魔力。

 もしここに俺達以外の魔法使いがいれば、その魔力がどれほど異常な物なのか感じ取ることが出来ただろう。もしかしたらこの異質すぎる魔力に当てられて体調を悪くしたり気絶、酷い者ならば病院送りになっている者も出ていたのかもしれない。

 だからいつもは、ここまでの魔力を他の生徒がいる前では解放することはないわけだが、今は違う。この場にいるのは俺とクソ狐だけ。そんなことを気にすることなく、全力で九頭龍の魔力を使うことが出来るというもの。


閃破せんぱぁ!」

霆雷ていらい!」


 魔力に乗せて放った赤黒い斬撃と、クソ狐の掌から放たれた金色の雷がぶつかる。

 斬撃を放つと、それと同時に俺は空中へ。しかし目の前には俺より先に跳び上がっていたクソ狐がいた。


「ちぃっ!」

「はぁ!」


 下から上がってくる秋月の刀身。

 それを黒月で受け止めようとしたが、構える途中で弾かれたことで俺の両手はバンザイの状態で固まってしまう。

 体勢の崩された俺の胴体はガラ空きとなった。そこへ秋月で斬りかかってくるが、次の瞬間には俺とクソ狐の位置は逆転。

 転移と同時に魔力を黒月に溜めていた俺は、現れると同時にもう一度斬撃を放つ。だが、俺は大事なことを忘れていた。

 クソ狐の腰から生えている九本の尻尾は、あの野郎の意思で操作できるということを。

 九本の尻尾の中の一本に、九頭龍の力を使って放った閃破は簡単に弾かれた。

 流石は九頭龍と同じように『九』が名前に付く契約獣ということだな。九尾の力を解放している状態のクソ狐とり合うことが久しぶりだからな。どれくらいの強度か、すっかり忘れてた。

 それしてもムカつくくらいに厄介な尻尾だな……あいつと痛覚繋がってると、斬った時の激痛で苦痛に歪む表情が見ることが出来ると楽しいことになるんだなが。

 それに、


「いつまで見下ろしてやがんだ、クソ狐がぁ!」

「っ!!」


 魔法陣が展開してからタイムラグ0で俺はクソ狐の目の前にまで転移する。

 今までタイムラグはこのクソ狐や千歳以外は気付くことの出来ないほど、ほんの一瞬しか存在していなかった。

 その時間は0.01秒。

 正確にはもっと短かったのかもしれない。

 しかしそれは完全になくなった。

 そもそもこの転移魔法にタイムラグが存在していた理由は、転移用の魔法陣に人間一人を転移させるために魔力を溜める必要があったからだ。

 だが、この腕が九頭龍の物となったことでそれは無くなった。

 本来魔法陣とは地面に描いてから自分の魔力を流し込んだり、空気中の魔力を吸収することによって書き込まれている魔法を発動する。

 そんな面倒な仕様になっているのは人間が、魔力を自分の体より外に放出できないから。

 人がデバイスを使うことなく行使できる魔法は身体強化のみであり、それ以外の魔法はデバイスを通すことで初めて使うことが出来る。

 しかし今の俺は違う。

 人の体に九頭龍の左手を持つことで、魔力を外に放出することが出来るようになった。それにより初めから魔力流し込んだ状態で魔法陣を書くことが出来る。

 それがタイムラグ無しで転移魔法を発動できた原理だ。


「ちぃ……」


 目の前に現れた俺に秋月を振るうが、予想と違ったタイミングに現れたことで珍しく動揺を見せたクソ狐。

 この一撃を交わした俺の目に入ってきたのは、動揺表情から一変していたクソ狐だった。

 いつもの表情に戻っていたクソ狐の右手にはもちろんのこと、こいつのデバイスである秋月が。そして俺の頭上付近に上がっている左手には雷で作られた刀剣。

 あのまま斬りかかって来ていたのならば、俺も簡単に対処が出来ていた。

 しかしクソ狐が取った行動は投擲。

 向かってくるのは雷の刀剣。まあ予想通りであったわけだが、それはそれで困る。

 秋月なら触れても変な子ことが起こりにくいが、これは存在そのものが魔力。触れた瞬間何が起こるか想像しにくい。

 ちょっと待てよ……何でこいつはわざわざこんな物を作ってまで投げた? 投げるならこんなものを作らなくても、秋月に魔力で作った鎖や糸を括りつけて投げればいいだけの話。

 それにこいつが罠を作るなら、それが罠だと相手に悟らせるようなことはしない。だがこいつはこんなあからさまな物を作って俺に投げてきた。

 それはどうしてだ?

 簡単なことだな。あのクソ狐がしようとしたのは自分から向かってくる刀剣へ意識を上書きすることだった。

 刀剣を切り裂いて視線をクソ狐に戻すと、予想通りそこにクソ狐は存在していなかった。

 本当にこいつと戦うのはあいつの思考を先読みする必要性があるからめんどせぇ。千歳やアッシュの方が戦いやすい。


「どこ行きやがった……」


 この場合、あいつはこの森の中に姿を隠す可能性が高い。

 だがそうなってくると、この森の中は罠だらけになっていると予測するのが妥当だな。つまり森の中を走ってあいつを探すのは避けるべきだ。

 ならどうするか。

 こうする。

 落下しないように魔力で足場を作った俺は、標準を森そのものにして黒月に九頭龍の魔力を流し込んでいく。


「このあたりを一気に吹き飛ばすなら、これか……」


 顕現した九つの内、五つの九頭龍の首。それは魔力となって黒月に吸い込まれていく。

 こんなところでここまでの大技を使う気はなかったが、あいつ相手だから問題ないだろ。これくらいじゃ死ぬわけねぇだろうしな。

 だから使わせてもらう。


九龍之太刀五刀くろのたちごとう……!」


 九龍之太刀。

 それは一刀いっとうから九刀きゅうとうまである、九頭龍の力を使って放つ魔法剣術。名前に入っている数字と同じ数だけ九頭龍の頭を顕現させて、それを刃に注ぎ込むことで発動することが出来る。

 つまりそれほどの量の魔力を使用する、バカみたいな魔法と言うことになる。

 一刀や二刀程度なら連続して使うことができるが、それ以上となると次の発動にまで魔力を溜める必要があるため、繰り返し発動ということは出来なくなる。更に七刀以上だと一日に使うことに出来る回数が決まってくるから、実戦では使うタイミングを考える必要がある。まぁ、問題があって成功したことは数えるほどしかないわけだが。

 だから使うこと自体少ないし、そんな機会は出来れば来てほしくない。

 俺の負担が大きくなるからな。

 そして今から使おうとしている五刀は、俺が使うことの出来る数少ない広域魔法の内の一つ。


大黒天だいこくてん!」


 異常なほどの衝撃が地上を襲う。直後、複数の漆黒のドームが森に点々と出現した。

 ふむ……ウチの担任にバレたら、間違いなく怒られるんだろうな。というか、怒られるだけで済んだらいいんだが……あの菌類とか出てきたら俺の人生終わりだ。

 だが、そんなことは後回し。今はそれよりももっと大切なことが

 ドームは数秒で肥大化して、風船が弾けるようにして爆発した。爆発したことによって四散したドームの破片は、槍の雨となって辺り一面に降り注いでいき森を壊していく。

 ドームが現れた所の木々は抉れるように無くなっており、更に魔力の雨にさらされた森も腐敗していく。そして何かが壊れるような音も四方八方から聞こえてきた。

 やっぱり罠が仕掛けてあったか。

 今の一撃で森の半分が消えてなくなった。つまり森の半分がクソ狐のテリトリーから俺のテリトリーに変わったということだ。

 というわけで始めようか! 俺の、俺による、俺のための、楽しい楽しい狐狩りをよぉぉ!!!!




   2




「どうして皆さんが、当たり前のようにここにいるんですか!?」

「何か問題でもあるのかしら、須藤さん?」

「あります! 私はあの人との鬼ごっこという建前のセクハラで、心身ともに疲れ切ってるんです!」

「その割には楽しそうに見えたのだけど、そう感じたのは私だけかしら?」

「間違いなく、気のせいです!」

「そうかな。隆浩にフラグ立ててるんだから、一緒にいられて嬉しかったんじゃない?」

「そんなわけあるか!」

「そんなツンデレ、ここじゃ必要ないよ。みんな杏子ちゃんの気持ち、ちゃ~んと理解しているから」

「絶対理解してないですよね、そのセリフ! というか、杏子ちゃんって何ですか!?」

「えっと、お邪魔してしまってすみません。須藤先輩」

「あ、いえ……」


 一人ひとりに的確にツッコミを入れて行く姿は、いつも彼女達の中心にいるあの男子生徒を彷彿とさせた。が、誰一人そんなことをいうことはなかった。というか、鈴蘭以外誰も聞いていないようであった。

 彼女が一人ずつにツッコんでいる内に、4人は大量のお菓子をテーブルの上に広げてくつろいでいた。


「い、いつの間に……」


 ここまで用意されてしまっては、この4人娘がしばらくの間動くことは少ないものと考えられる。

 それを理解してしまった今、ここの部屋の主である杏子は渋々といった感じで彼女達に混じった。しかしそれを失敗だったと後悔することになるのだが、その時は間もなくやってくる。


「じゃあ、これからやることは決まってるよね?」


 千歳のその言葉に、あのアッシュでさえも笑顔で頷く。

 隆浩と対峙した時とは全く違う嫌な感じを、彼女は今ここで体験していた。が、その正体まで辿り着くことが出来ない。


「あの駄狐の阿部君がどうやってフラグを立てたのか、をその対象である須藤さんに聞こうとわざわざ来てあげたのだから感謝してほしい……いえ、崇め奉ってほしいくらいよ」


 勝手来ておいてこのずうずうしい言い方は、誰に対しても変わらない一美であった。

 しかし杏子も学習する。

 条件反射のようにツッコミを入れてしまう一真と違い、スルーしようと決めたのだったがそれでも良わなければならないことがある。


「フラグなんて立てられていません!」

「ふぅ~ん、そう」

「な、なんですか……」

「じゃああなたはあの狐と『ピー』や『ピー』、そしてあの狐の『ピー』を『ピー』したいとは思わないの?」


 アッシュのごまかし一切無しの、直球ストレートな言葉を聞いて顔を赤面させたまま固まってしまう杏子。それを見たアッシュは、この程度で、という表情をしていた。

 何とか首を動かして周りの女性陣を見ると鈴蘭を除いて平気な顔をしていた。いつものことだから、完全に感覚が麻痺しているのだろう。だが、彼女はそんなことを知らない。


「そんなわけあるかぁぁぁ!!!!」


 木霊する杏子の絶叫。


「うるさいなあ。近所迷惑よ、杏子」

「誰のせいですか!」

「そういえば、あなた阿部君の推薦を受けるの? まあ、受けなくともほとんど編入は決まったようなものなのだけど」

「どうしてそれを、というかどうして阿部君が推薦なんてことが出来るんですか? そいうのは普通、先生達の顕現ですよね?」

「杏子の言うことは正しいよ。でも、私達が持ってる推薦の権限は校長先生ほど強いわけじゃないの」

「そうなんですか?」

「第一に推薦されたからといってもそれを受ける必要はないし、推薦されても必ず合格するわけじゃないの。この推薦っていうのは、編入用の試験を受ける権利をてにいれたということになるの」

「だったら、神童さんの行っていることと矛盾しませんか? 私の編入が決まったようなものって……」

「ああ、それは……」

「たった一人を除いて、全員が杏子ちゃんを推薦しているからだよ」


 耳を疑った。

 昨日までほとんど接点もなく、むしろ敵だった。それなのに、どうして彼らはここまで警戒していないのか。

 それが全く理解できなかった。


「理由は……聞きたい?」


 引き攣った表情でアリスが聞いてくる。

 そこで何となく気が付いた。彼女が言いにくそうにしている理由というのが、まともな物ではないということに。

 それでも何となく聞きたくなった杏子はおずおずと頷いた。


「理由は色々とあるんだけど、多いのがこの二つかな。『あの狐がフラグを立てたが知りたい』、『女の子と仲良くなりたい』。というか、こんなのばかりだった」

「そ、そう、ですか……は、話は変わるんですけど、たった一人を除いて、って言いましたよね? 誰のことですか?」

「私の旦那様で、私の現彼氏である神童一真君よ」


 これに関しては完全にする―しようとしたのだが、ここにいた誰よりも早く一人の少女が反応してしまっていた。

 しかも彼女の手にはアーマメントデバイスが展開されている状態で握られていた。


「とうとう頭の中まで腐りきったみたいだね、年中腐乱臭しか巻き散らかしている粗大ごみ?」


 千歳は童子切安綱の切っ先を、向かいに座っていたアッシュの首に当てていた。


「私は本当のこと、現実を言ったまでだけど。そんなことも分からないのね、年中お花畑で走りまわっているような脳みそしもってないお子ちゃまは」


 気付けばアッシュも美爆猪獄カペルニコラスを取り出して臨戦態勢となっていた。

 一瞬にしてこの部屋に緊張が走る。

 もう一言でも二人が言い合えば、ここは戦場と化すことは明白。そうなる前に止めることが出来るであろう人物はここにはいない。おそらく十三組の筆頭である一真と隆浩でさえ裸足で逃げ出すだろう。


「え、えっと……そういえば、どうして神童君だけが反対を……」

「誰がお兄ちゃんが反対したと言ったのかしら?」

「へ?」

「一真、入院してたから杏子ちゃんの推薦だしてないんだよ。まあ、一真のことだから詳しく知らない相手に推薦なんて出さないだろうけど」

「そう、ですか……」


 彼女自身にも何故か分からないが千歳にそう言われた瞬間、一真に認められていないことがとてもショックに感じた。どうしてそう思ったのか、杏子には理解できなかった。

 だが千歳が言っていることは正しい。

 一真は杏子がどういった人物なのか知らないのだから。他の生徒達はそういうことを抜きに興味本位で推薦を出してくれたようだが、それは例外が多いクラスだからこそ起きたことかもしれない。

 もし自分がほとんど知らない人物に推薦を出すのかと言ったら、出さないだろう。


「だから一真は杏子の推薦を出すんじゃなくて、試験官を希望するんじゃないかな? 十三組への編入試験は模擬戦闘だから」

「え?」


 アリスの言葉に対して聞き返そうとした時、この辺り一帯を揺らす地響きが聞こえてきた。

 それはすぐに収まったが杏子の部屋はさまざまな物が倒れたり、棚から落ちてきたりと大惨事となっていたが今はそれどころではない。


「な、何なんですか、今のは!」

「たぶん……そうだよね?」


 千歳の問いにアリス、アッシュ、一美は同時に頷く。

 鈴蘭でさえ今の現象が何が原因で起きたのか理解できていないようだが、他の四人には何が起きているのかが分かっているようだった。


「じゃあ、これから何が起きたのか見に行かないかしら?」


 アッシュのその提案によって六人は杏子の部屋から出ることになった。




   3




 森を破壊して数分。

 森の木々を更に伐採しながら進んでいるが罠の残骸はそこら中に散らばっているものの、クソ狐の姿はいまだに見つけることが出来ていない。つまり、目の前に広がる残り半分の森の中にクソ狐が潜んでいやがる可能性が高いことを示していた。

 まああいつのことだからそんな分かりやすい所にはいない可能性の方が高いわけだが……。

 視線は森よりも足下の地面に注がれる。

 俺が気にしているのは二つ。一つはあのクソ狐が光の速さで動いている可能性があるかもしれないということ。目を凝らして地面の表面を見つめる。夜と言うこともあってかなり見にくいが土が動いている様子はない。

 もう一つはこの地面の下にいるかもしれないということだ。

 あいつのことだ。ここまでされて森の中なんて分かりやすい所にいるはずはない……いや、待てよ……俺がここまで考えることを読んでやがる可能性も……それでも……。

 そうやって考えているのがいけなかった。

 9本の雷が地面から、森から、空から俺めがけて飛んでくる。

 一つ一つを相手にしていたら蜂の巣だが、全部を同時に吹っ飛ばせば良いだけの話。もちろん、俺が分身できる訳じゃないから、


蒼之太刀弐式あおのたちにしき……」


 こうやって対応して吹き飛ばす。

 九頭龍と俺の魔力を混ぜて作られた大量の刀剣が、俺の周りを舞い始める。いつものように俺の魔力だけで使用していれば絶対に破られているだろうが、今の俺には九頭龍の魔力を混ぜることが出来る。

 それはこの前までの俺には絶対に出来なかったことだが、九頭龍の本体を喰った今の俺にはそんなことは容易いこと。


破斬剣舞はざんけんぶ


 俺の周りの全ての刀剣に更に魔力を注いで、一本一本の魔力密度を上昇させる。

 そうして全ての刀剣を隙間なく並べて俺を守るようにドームを作り上げる。これで防ぎきることができると、甘い判断をしてしまっていたことに次の瞬間まで気づけなかった。

 直後、地面を突き破って九本のビームが飛び出してきた。

 だがここで俺は一つ、甘い判断をしたということ以外のことにも気が付いた。九本のビームは魔法であるが、電撃でもある。つまり地面に当たれば無力化されるはずなのだが、俺の目の前ではそれが起きていない。


「……あ、こうすればいいのか」


 刀剣の刃の部分に当たり反射が始まる瞬間に他の刃で包み込むように球体を作り、ビームそのものを捕まえることに成功した。これをどうするのかは簡単だ。

 これを使って攻撃するわけだが数は有限であり、確実に仕留めることができる状態でなければ無駄撃ちになってしまう。そんなことにならないよう、必勝の状態を作る!

 そのための第一条件としてクソ狐を見つけなければならないわけだが、出来ないわけではない。なぜなら魔法には残り香のように、魔法を使った人物からごく微量の魔力がしばらくの間流れ出している。だがこれは人間には感じ取ることが出来ず、それを使って目的の人間の位置を特定することは出来ない。

 つまり人間、俺じゃなければ良いということになる。


九龍くろ。今の魔力の残り香、追えるか?)

――――――当たり前だ。で、どれを追う?――――――

(クソ狐の匂いがすれば全部辿れ。どれかがあれに繋がっているはずだ!)

――――――ホント、無茶苦茶を言う相棒だ。けど、やってやろうじゃねぇか――――――


 一瞬だけ姿を現した九本の首を持つ巨大な龍。

 これが九頭龍の本当の姿。

 これをクソ狐と千歳以外の人間が直視した場合、間違いなく異常なまでの魔力にあててられ良くて廃人、最悪死人が出るだろう。

 だから今しかこんなことは出来ない。


――――――いたぜ。今すぐ十時の方向に閃破せんぱだ――――――

「分かった……」


 九龍もその準備が出来ていたのだろう。いつもの倍早く黒月に一刀を放つための魔力がたまる。

 九龍が今と言ったのは、あいつがずっと移動を続けておりそれから逆算してクソ狐が通る場所を導き出したからだ。

 それでも絶対に通るとは――――――、


――――――絶対に通るぜ。これは間違いいことで、覆すことができない未来だ――――――

(お前がそこまで言うなら信じてやろうじゃねぇか!)


「九龍之太刀一刀・閃破ぁ!」


 今日一の大きさの漆黒の魔力の刃が森やそこに仕込まれている罠を切り裂きながら、指定のポイントに向かって真っ直ぐ進んでいく。障害物などそれにはあってないような物。

 これを止めるためには同じクラスの魔法、または九尾の魔力を使って放つ必要が……っ!?


「なぁっ!」


 突如閃破の進行方向、に九つの尾を持った巨大な狐が現れ閃破に向け咆哮。それに魔力が籠められていたのだろう。黒の刃は一瞬で跡形もなく消え去った。

 しかもだ。その狐は俺を見つけると躊躇なく前足を振り下ろして来やがった。


「おいおいおいおい!」


 短距離転移魔法でその場から離れて今の一撃を回避するが、気が付けば次の攻撃が迫っていた。こんなことを繰り返していてもきりがない。という訳で、あの魔法の呪文を使うことにしよう。

 最初から使えばよかったのだろうが、そうしなかったのは俺の良心だと思ってくれていい。だがそんなものは存在しない。今の俺の中にあるのは、あのクソ狐を引きずり出してボコボコにする。

 考えたりするのは、もうめんどくさくてしょうがない。


「ドマイクロ小豆狐ぇぇぇぇ!」


あいつならある程度の距離なら、どんなに小さな声でもこのタイプの罵倒は聞こえている。しかもどんな耳をしているのか、必ず正しくは聞こえていない。


『だれが……』


 俺は今も、あいつは森の中にいるのだと思っていた。しかしそれは間違いで、


『ギネス級ピコサイズ豆粒チビじゃあああぁぁぁぁああぁぁぁ!!!!!!』


 あの巨大な狐の中にいるのだということを今初めて知った。というか、こんなことまで出来ることも今初めて知った……ふむ、やってみる価値はあるな。

 威嚇にもなるし、即戦力でもある。

 そんなことよりも、あれに一言言ってやらなければならないことがある。


「んなことまで言ってねぇだろうがぁぁぁぁ!!!!!!!」

『玉藻! あそこにいるニートでハーレム持ちの世界最大のナマケモノを滅殺しろぉ!』

「誰が世界最大のナマケモノかぁ! それに俺にハーレムなんて存在しねぇよ!」

『ハーレムを持っている奴はみんなそういうんだよ! おいらの前で幼馴染、愛人、ヤンデレの実妹に病んでるクラスメイトを侍らしやがって』


 誰のことを言っているのか理解出来た。が、否定しなければならないことがたくさんある。

 特に最後の二人をハーレムがあったとして入れたくはない。そんな恐ろしいこと言ってんじゃねぇよ。

 ぜってぇにぶっ殺す! 原子も残さずなぁ!


「そうか……テメェがそこまで重度の自殺志願者とは知らなかった。今すぐに捌いて、鍋に叩きこんでやる!」


 今まで俺と九龍のリンクには大きなノイズがあった。それは俺とあいつの繋がりが契約者という関係でしかなかったからだ。

 しかし今は違う。

 九龍の本体の腕を喰った今、そんなノイズは全く無くなっている。だからこそ出来るようになったこともある。その一つがこれだ。

 俺の後ろには再び九頭龍が姿を現す。そしてそれは魔力の粒子となって身体の中に入ってくる。


「こんなところで、これを使うことになるとは思わなかったが……試運転の相手がテメェなのはありがたい。いくら殺っても問題ねぇからなぁ!」

『何を言っている? おいらみたいなか弱い存在が、お前の攻撃に耐えることが出来ると思ってるのか?』


 俺の身体に入った魔力がゆっくりと浸透していく。

 それにしたがって俺の身体に変化が少しずつ現れ始めた。しかしそれだけでも、クソ狐は何が起きたのか気付いたようで今まで以上に警戒しているのが分かる。まあ、警戒以外にも驚愕の表情も見ることが出来た。

 こいつのこんな顔、珍しいから写真を撮って保存しても……いや、こいつの写真なんかいらない。あっても邪魔なだけで誰得なんだって話だ。


『だから、さっきおいらのことをち、ち、ちちちちち……狐と言ったこと後悔やがれぇぇぇ』


 大事なところをぼかしやがった。

 ち、ち、ちちちちち狐なんて一言も言ってないわけだが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。目の前で巨大な狐を操作している自殺志願者のクソ狐をぶった斬る方が先だ。

 それに狐の前足が再び迫っている訳で。さっきよりも近づいていたため回避不可能。

 つまりこんどは受け止めるなり弾くなりして対処する必要があるんだが、今のままであれの何かをしても何も変わらないことは明白。

 俺の変化が完全に終わればいいが、間に合うか!?


『ハーレムナマケモノニートのせんべいの――――――』

「おい、クソ狐。誰の何んだって? きちんと説明しやがれ」

――――――ギリギリだったな、相棒――――――

「間にあったんだから問題ねぇだろ」

『玉藻!』

――――――我が子よ、妾は手を抜いておらぬ。問題は妾よりみずちわっぱのほうにある――――――

「正解だ、玉藻」


 周りに漂っていた砂ぼこりが晴れ、何が起きているのかクソ狐の視点からでも分かるようになる。

 俺がしたことを簡単に説明すると、玉藻の前足を黒月で受け止めただけ。誰にでも分かりやすく言うとそうなる訳だが、これがどれほど異常なのかはここにいる誰にも理解することが出来た。

 今の玉藻の身体が魔力だといっても質量は存在する。そしてその身体が持つ力は、身体に使われている魔力に比例する。

 誰が見ても人間である俺が、神獣クラスの契約獣の玉藻の攻撃を受け止めることなんて出来ないはずなんだが……今はそれが出来ている。


「さて、自殺志願狐よぉ。第二ラウンド、始めるか?」


   《次話へ続く》


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