表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高天ヶ原学園十三組  作者: 村正
第一章
11/25

「お兄ちゃん、ちゃんとキノコ料理も食べないとお姉ちゃんが――――――って、家出するの!? キノコでそこまでしなくても――――――お姉ちゃんも!? 帰ってこないと、これから毎日キノコだよ!」by神童鈴蘭

   1




「……」


 目を覚まして一番に感じたことは、よく寝たという感想だった。

 寝ていたため時間は分からないが24時間以上は経っているということは外を見れば分かった。

 『天心』と『鬼臓』が限界を迎えていて、俺の意識は回復のために意識を失った。そうなったとき、俺が24時間以内で目が覚めるなんてことは絶対にない。そう分かっていたからだ。

 そんなことよりも、ここどこだ?

 俺の部屋でもなければ、学校の保健室でもねぇ。


「やっと起きたか、役立たずのナマケモノニート」

「あ゛ぁ゛?」


 隣から聞き覚えのある声で、殺意を覚えるような罵倒が聞こえてきた。

 そちらを見なくても誰がそこにいるのかも判断できたため、遠慮する必要は0。躊躇なく、こう断言することが出来る。

 よし殺そう、と。


「死ね、マイクロクソ狐!」


 黒月を手に、魔力を刀身に流しこもうとするが、


「ぎっ……」


 体中に激痛が走った。

 これ、ヤベェ……意識、飛ぶ……。

 魔法が使うことが出来るほど回復していないということが、たった今身を持って知ることが出来た。もうしばらくなにもできねぇか。

 つか、よくよく考えたらいつもなら何かしらやり返してくるはずのこいつが何もしてこない。どういうことだ?

 それが気になって隣に顔を向けると、ベッドの上に狐が座っていた。


「そういや、大事なところでテメェも限界来たんだったな。つか、テメェも役立たずじゃねぇか。」

「おいらはお前みたいに後先考えずに魔法を使うなんてことはしないんだよ」

「だとしたらあんな所で限界を迎えるわけがねぇだろうが! だから身長も伸びず、ギネス級マイクロ狐って言われんだよ!」

「簡単に暴走して、あんな小物一人捕まえることが出来ないんて。そんなだから奥手の生き遅れハーレムナマケモノ!」

「「ぶっ殺すぞ!」」

「あなた達がぁ、この世からぁ消えることにぃなるわよぉ」


 死神の声と死刑宣告が聞こえた。


「せ、先生……」

「ふ、風ちゃん……」

「あの襲撃からぁ、まだ1日くらいしかぁ経ってないんですよぉ。ちゃんとぉ、安静にぃしていてぇくださいぃ。そうじゃないとぉ……潰すわよ」


 語尾が全く伸びなかった……あれは怒りが頂点に達した時じゃないと出ない。それが今出たということは、逆らわない方が身のためということ示していた。


「二人しかいませんがぁ、一応ここはぁ病院ですからぁ、静かにしてくださいぃ」


 病院、ね。

 道理で見たことが無いわけだ。

 それにこの左腕。なんか縛られてるような感覚だったけど、包帯が巻かれているのか。誰だか知らねぇが、あれを誰かに見られたくはないからな。ありがたい。


「……はぁ、それで先生。単刀直入に聞くけど、姉さんは捕まったんだな?」

「それはぁ……」

「ごまかさず言ってくれていい」

「千歳ちゃんがぁ救出に向かいましたがぁ、その時にはもうぅ……」

「分かった」

「お前にしては物分かりがいいな」

「は? 何言ってやがる。俺はいつでも物分かりがいいぞ。今なんて、もういろいろと絶好調だ」


 先生からひぃっ、と悲鳴みたいなものが聞こえてきたが知ったことか。


「誰が風ちゃんを泣かしていいといったぁぁぁぁあああぁぁ!」

「うるせぇんだよ、駄狐がぁ! 邪魔しようってもんなら、今ここで捌くぞ!」

「うるせぇよ、相棒」

「あぁ?」


 気づけば、この病室に二人の女の子が立っていた。

 一人は黒髪で、もう一人は金髪。初めて会うのに、どこかで会ったことがあるような、いやでも……。


「おいおい、相棒。オレのことが分からねぇのか?」

「相棒? 俺にお前みたいにガキの相棒なんていねぇぞ」


 クソ狐と、もう一人の女の子がこいつ何言ってんだと言いたげな顔で見て来るがこいつが誰なのか、本気で分からねぇんだからよしょうがねぇだろうが。

 そう思っていると、金髪の女の子が何かに気が付いたように話し始めた。


みずち、よもやこのわっぱにその姿を今までに見せたことがなかったのかえ?」

「そういやそうだったな……」

「で、結局誰だ?」

「オレだ、九頭龍だ、相棒」

「九頭龍? お前が? そんな訳……」

「ほう、信じねぇか。じゃあ、これでどうだ?」


 突如、感じた人間以上の魔力。

 先生も彼女に対して恐怖しているように見えた。まあ、こんな魔力を感じてしまえばそうなるのは当り前だろう。

 俺やクソ狐は、いつも浴びてるようなものだから……ふむ、いつもか。


「……」

「どうした、相棒?」

「お前、九龍クロか!」


 つーことはこっちの金髪は、クソ狐の九尾の人間体か。


「だからそう言ってんじゃねぇか!」

「いきなりそんな恰好で出で来られて、はいそうですかって信じられるわけねぇだろ。つか、いきなりどうした?」


 こいつ、こんなことも出来るんだな。というか、初めからこうして出てきてほしい。その方が色々と話しやすいわけだしな。


「そうだな……魔力を使うことの出来ない相棒と話すためにこの姿になった、ってのが一つ目の理由だ。それともう一つは――――――」

「「一真!」」

「お兄ちゃん!」

「カズ君!」

「兄ちゃん!」

「お兄ちゃん!」


 突如、九龍の言葉遮って大人数の人間がこの病室に流れ込んできた。順に千歳、アリス、一美、アッシュ、晶彦、鈴蘭だ。

 そしてもう一人。中には入って来ていないが、部屋の外に誰かの気配を感じる。

 俺がそのことを指摘するよりも早く、こいつらが説明がややこしい存在に気が付きやがった。


「一真ぁ……この女の子、誰?」


 とてつもなく低い声だった。

 視界の端に見える銀色の何かが、とてつもなく怖い。


「いや、ちょっと待て、千歳! こいつはだな」

「とうとうお兄ちゃんと駄狐がそっちに目覚めてしまったようね……」

「んな訳あるか!」

「え、おいらも!?」

「こんな小さなにまで手を出すカズ君……鬼畜すぎて、ステキ……」


 こいつの思考回路にツッコミを入れる気力さえなくなる。隣で聞いていたクソ狐も同じようだった。


「ダメだよ、兄ちゃん。モテないからってこんな小さな娘に手をだしちゃ」

「くぉら、晶彦! おいらを巻き込むんじゃない! それに反応する二人がここにいるんだぞ!」


 たったそれだけの言葉で、俺に攻撃しようとしていたのと傍観に徹していたのが楽しそうな笑顔を振りまきながらクソ狐へと近づいて行った。

 あー……。


「聞き捨てならないわねぇ、非モテ駄狐ぇ」

「ちょっとこっちに来なさい、阿部・H(非モテマイクロ狐)・隆浩君」

「よかったじゃないぃ、かっこいいぃミドルネームがぁ出来たわよぉ」


 クソ狐が血の涙を流していたが、今の俺にはこの二人を止める方法は持ち合わしていない。なので、お前のか弱いメンタルで何とかしてくれ。

 俺には別の敵がいる。

 人の話を聞こうとしない、こいつらが……。


「お、お兄ちゃん……」

「お、おう」

「まさかお兄ちゃんがロリコンだったなんて!」

「お前もか、鈴蘭!」

「近うよれ、蛟」

「何だよ、九尾?」


 近くで二人、もとい二匹が何か話しているようだった。が、そんなことはどうでもいい。今は、目の前の敵をどうするかを考えなければならない。

 だが、ハッキリ言ってどうにもできないというのが現実である。


「まさか、一真はこの娘を――――――」

「んな訳あるか!?」

「私、何も言ってないんだけど。ということは、本当にこの娘に『お兄ちゃん』って呼ばせて楽しむんだ!」

「お兄ちゃん!」


 アリスがそんなことを言ったそばから、九龍の奴がとんでもないことを口走りながら跳びついてきやがった。

 このタイミングは、恐ろしいぐらいに悪い。

 さっきのか……九尾の奴が何か吹き込んだな?

 視線だけをそちらに向けると、九尾の奴がしてやったみたいな笑みを浮かべていやがった。


「一真ぁ……」

「一真……」

「お兄ちゃん……」

「カズ君……」


 全員の目の瞳孔が開ききっていた。

ヤバい……こいつら、人殺しの目をしてやがる。どうやって逃げようか、そんなことを考えている内に逃げ道は完全に無くなってしまっていた。

 つまりだ、俺のベットは四人によって完全に包囲されている。


「ちょ、ちょっと待て!」

「待てない。お兄ちゃんプレイする奴を、今ここで殺る」

「ロリコン死すべし」

「大丈夫よ。死体でも、私は愛すから」

「腐敗が進んでも、カズ君はカズ君だから……」

「こいつは妹で何でもない! こいつは、九頭龍だ!」


 全員が訳の分からないという状態に陥る。

 たった一人を除いて、千歳はそうではなった。俺はそれを見逃さなかった。


「何を言っているのかしら、この愚兄ぐけいは? とうとう頭の中まで腐ってしまったのかしら?」


 本気で見下している目立ったが、今は無視しよう。ツッコミを入れているような暇があれば、今は誤解を解く方が先だ!


「いや、相棒の言っていることは本当だ。相棒の妹」


 俺の上に乗っている九龍は、顔を上げて俺の言葉に肯定してくれた。

 これで証言が取れたから、少しでもこいつらは納得するだろう。まあ、それを判断できる頭が残っていれば、の話だが。


「そこの金髪のも九尾だ。こいつらはこうやって人間体になれるんだとよ。それはお前の九鬼もじゃないのか?」


 その指摘に、千歳は一瞬だけ固まった。

 ほう。つまり、今のは正解だってことだ。


「えっと、それは、そのー、てへっ」

「何が、てへっ、じゃぁぁぁ! 九龍! こいつらを捕まえろ!」

「いいのか?」


 全力で千歳が首を横にブンブン振っているが、それは無駄な抵抗。

 他の三人も誤解だと、たった今気が付いたようだがこいつらももう遅い。今回ばかりは全員が俺のお仕置きの対象だ。


「今回ばかりはもう我慢の限界だ。クソ狐、鈴蘭、晶彦、先生、九――――――」

「妾のことは玉藻たまもと呼ぶがよい、蛟の童」

「玉藻は出てろ。今から俺の、俺による、俺のための楽しい楽しい時間を始める訳だからな。くくくく、あーはっはっはっはっ!」


 ぞろぞろと五人が出て行くのを視界の端で捉えながら、本命の四人をどうしようか思考を巡らせていた。




   2




 扉を閉めると同時に4人の悲鳴が聞こえてきたが、外に出てしまった五人は聞こえないふりをすることにした。気にしたら負けということだ。

 そこで隆浩達はもう一人、外で待っている人物がいることに気が付いた。


「鈴蘭さん! 私はいつ入ったら良かったんですか!?」

「あ! ごめんなさい、須藤先輩。すっかり忘れてました」


 そこにいたのは一年一組の所属であり、先日の模擬戦で隆浩と戦闘した須藤杏子だった。

 今の会話だと、中から誰かに呼ばれるまで入らないようにしていたのだが今の今まで呼ばれることなく待っていたということなのだろう。

 しかし中に入った鈴蘭達は、それを忘れてしまようなこと、つまり九龍のことがあり忘れてしまっていたということだ。


「忘れ……って、狐!? どうしてこんなところに子狐が? というか、ここに動物が入ってもいいんですか?」

「おいおい、おいらのことが分からないのか?」

「き、狐が喋った!? それに狐の口から阿部君の声が!?」

「だから、おいらがその阿部隆浩だ!」

「……」


 まったく理解が出来ていないという杏子。

 彼女に必死に伝えようとしている隆浩。

 そんな二人を見かねた晶彦は、はぁっ、とため息を吐いてから露骨にめんどくさそうな表情をしながら説明を始めた。


「それは――――――」

「誰がそれだ!」

「うるさいなぁ。肝心な所で役に立たなかった駄狐は、しばらく黙っといてよ」


 グサリ。

 何かが隆浩に突き刺さるような音が聞こえたが、誰もが無視することを貫いた。


「兄ちゃんは魔法を使いすぎて今回みたいなことになると、こんな風に狐の姿になっちゃうんだ」

「そ、そうなんですか……」


 人間が動物に変わってしまうという、見たことも聞いたこともないこの光景にかなり戸惑っているように見える。

 そんな状態になっている杏子をお構いなしに隆浩は、その姿のまま口を開いた。


「で、須藤はどうしてここにいるんだ?」

「あっ、そ、それはそのぉ……阿部君に、お話があって……来たん、です」

「「「!!!」」」


 杏子のそのたった一言が、晶彦、風路、玉藻を驚愕させた。


「に、兄ちゃんがフラグを立てた!?」

「マズイわぁ。隕石が降って来るわねぇ。今すぐぅ、みんなにぃ知らせないとぉ」

「我が子よ。また来世で会えると、母は望むぞ」

「ちょっと待てぇぇぇぇぇ!!!! 何好き勝手言ってんだぁぁぁぁ!!!!」

「だって、兄ちゃんがフラグを立てるなんて」

「天地がぁひっくり返ってもぉ、あり得ないわよぉ」

「あるとすれば末世しかあるまいて」

「ふざけんなぁぁぁぁ!」


 ここでもやはり血涙を流していた。

 助けて、と鈴蘭に助けを求めるように見つめるがさっと顔を反らした。

 その時に隆浩は気が付いた。彼女の肩が、まるで笑いを堪えているかのように小刻みに震えていることに。


「もういや……」

「さて、兄ちゃん弄りも終わったし、須藤先輩はごゆっくり~」


 それだけ残して鈴蘭、晶彦、風路はその場から去った。

 残されたのは隆浩と玉藻、そしてこの狐に用があって女性陣と共にやってきた須藤杏子だけであった。


「で、何?」

「阿部君にお礼が言いたくて……」

「お礼? おいら何かしたっけ?」

「私を「白き百合リヒト・リーリエ」っていうのから守ってくれた、って聞きましたから。そのことで昨日はすぐに入院してしまって言えなかったので、今日、こうやって来させていただきました。阿部君、昨日はありがとうございました」

「……なんか勘違いしてないか?」

「え?」

「おいらは、お前があの訳の分からない奴らに連れて行かれると面倒なことになると思ったから、そうされないように敵対しただけだ。それでも、神無さんが連れて行かれたことの方がもっと面倒なことなのかもしれないけどな」

「あの時、阿部君にそんな気持ちがなかったとしても私を守ってくれた。それだけで私はうれしいんです。ですからお礼を言わせてください。ありがとうございました」


 笑顔で言われた隆浩には彼女に後光が射しているように見えた。

 それは自分が汚れていると、自分自身で認めてしまっているように感じたがそれを彼の中で覆すことは出来なかった。


「お、お前がそう思ってるならいいんじゃない――――――お?」


 いきなり、何の脈絡もなく子狐状態の隆浩は千歳に抱き上げられた。

 女の子に抱き上げられたことで少しテンションが上がったのだが、そこで何か大きな問題に気が付いた。千歳の目が全く笑っていないのだ。

 ヤバい。

 身の危険を感じたが遅すぎた。


「このひとでなしがァァァァァァァ!!」

「ごふっ!」


 尻尾を掴まれ、全力で壁に叩きつけられた。


「ちょっ、千歳様!?」

「隆浩……」

「アリス、千歳様を止め――――――」

「惚れ薬まで使うなんて、最低っ!」


 地面で這いつくばっていたところを、今度は全体重を乗せて踏みつけられた。


「そこまで落ちぶれるとはね。思ってもみなかったわ」

「流石は、モテないの代名詞ね。ここで朽ち果てなさい」


 そして蹴りあげられ、最後には魔力の籠ったストレートごと壁にめり込んだ。


「どう、して……?」

「須藤。お前、千歳達に今日クソ狐に会いに来た理由を放したのか?」

「話して無いですけど……」

「原因は間違いなくそれだな。柄にでもねぇことするからだ、クソ狐が」


 壁に張り付けとなっている隆浩を少しの間見つめた後、


「玉藻、後は任せた」


 一真は方向を変えて歩き出す。その傍には子供の姿の九頭龍が一緒だった。 




   3




 淡い光だけがこの部屋の中を照らしていた。

 そこにはベットのような物に横たわっている神無と遠山楓、そしてもう一人の遠山楓がいた。


「ふふ、これが本物の神童神無……いつも、『お姉ちゃん』の目を使って見てたときよりも綺麗だよ。こんな人が、私の物になるんだ……」

「……」

「『お姉ちゃん』。しばらく誰も入らないよう、見張っててね」


 片方の遠山楓がそういうと、


「はい」


 もう一人は機械的にそう返事を返した。


「もちろん、お姉ちゃんもだからね」

「はい」


 そう返事をしたもう一人は、黙って外へ出て行った。

 中に残ったもう一人は、無邪気とは真逆の感情がこもった笑みを作って神無の顔を覗き込んだ。


「さいっこう……もう、私の物、私だけの物……そうなったら一緒に、あなたを縛ってきたあの男を消しましょう」




   4




「で、お前がその格好で出てきた理由はなんだ? ただ出てきた訳じゃねぇんだろ」

「まぁ、そうだな」


 晩飯を食って、九龍とともに自分の部屋に籠っている。

 今の俺はいろいろとヤバいからな、一美と鈴蘭は千歳やアリス達の部屋に行ってもらってる。だから、この家の中には俺と九龍の二人しかいない。

 まあ、今日に関してヤバい以外にもこいつとの会話を聞かれる訳にはいかないってのもある。


「二つほど、相棒に言うことがあって出てきた。ちなみに、どっちも良い知らせだ」

「珍しいな。普通はどっちかが悪い知らせだろ」

「今回くらいじゃないか」

「だろうな」

「じゃあ、本題だ。まず一つ目は、お前の今の状況を改善する方法がある」

「?」

「つまり、魔法を使うことが出来るようにする方法があるってことだ。今のままだと、その状態はしばらく続くことになる。暴走した時に相棒の体の中に溜まった、濁ったオレの魔力がその回復を妨げているからな」

「なるほどねぇ」

「そして二つ目が、その方法を使うことで相棒の戦力強化にもつながるってことだ」


 状態回復に強化、か。

 絶対に方法がめんどくさそうだな、それ。


「その方法ってのが、問題があるわけなんだが……」


 ほれ、来た。

 こうなることは予想どおりってこった。


「一度、腕を見せてくれねえか?」

「……」

「相棒の神蝕しんしょくがどこまで進んでいるか確認しねえと、この方法は使えねえんだよ。それを理解しろ」

「……分かった」


 左腕に巻かれていた包帯を、俺は破り捨てる。

 起きた時から腕に巻かれていた物。いつもはこんな物を使わなくても幻術を使って隠すことは出来る訳だが、今はそれをすることが出来ない。

 誰が巻いたのか分からなかったが、よくよく考えたらあの場でこんなことが出来たのはウチの担任しかいない訳だからな。助かった。


「……」


 俺の左腕は所々人の物ではなくなってしまっている。

 九龍の霊力によって、この腕の皮膚は部分的に鱗に変質してしまっていた。これはもう二度と治ることはない。


「どうなんだ?」

「その方法は使うことが出来る。訳だが、リスクがないわけじゃない」

「ま、そんなことだろうと思った」


 こいつが俺の腕を見せろと言った時から、それくらいはあるだろうなと予想はしていた。

 しかも、その予想通りなら、


「この腕、龍の腕にするんだろ?」

「まあ、そんなところだ。だが、メリットもある」

「?」

「これ以上神蝕が進行することはない」


 こいつの言っていることが全く分からない。

 何がどうなれば、腕を龍にすると神蝕が進行しなくなるんだ?

 マジで説明を求めたい。こいつ以外で分かる奴は、今すぐ俺の携帯番号にまで連絡をくれ。


「まあ、そういう反応になるわな」


 このヤロウ……と、落ちつけ。


「結局俺は何をしたらいいんだ?」

「オレの本体を食べろ」

「………………………………は?」


   《次話へ続く》


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ