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高天ヶ原学園十三組  作者: 村正
第一章
10/25

「皆さぁん! 授業をぉ、ちゃんと聞いてくださぁい! じゃないとぉ、全員お仕置きよぉ?」by東雲風路&ダーク風路

 ようやく完成しました。

 書けない時間が多くなってきて、なかなか完成させることができませんでしたが、本日完成することが出来ました。

 それでは最新話をお楽しみください。

   1




 どういうことだ?

 完全に開放していないが、九龍クロの力は使っている。その状態の俺と互角にやり合っているだと……ありえねぇぞ。

 この状態の俺と対等に戦えるのは尾を生やしたクソ狐を含めた数人だけ。

 だがこいつは特殊なことをしたようには見えなかった。何がどうなっていやがる。


「何意外そうな顔をしている、神童一真」

「何でもねぇよ……」


 双剣型アーマメントデバイスを構えた遠山は、一度バックステップで下がると一気に距離を詰めて来る。

 走る速さは次第に早くなる。


「クソっ!」


 タイミングを合わせて黒月を遠山の頭に向けて振り下ろす。

 完璧なタイミングだったが、交差した双剣に黒月を受け止められた。

 黒月を弾き上げられた俺は、体勢を崩してしまう。それによって出来あがった隙により、遠山が懐に潜り込んできた。

 短距離転移でその場から離脱。

 魔力を黒月に流し込んで、地面に突き刺す!


蒼之太刀壱式あおのたちいちしき……」


 紅之太刀が魔力を物理としてぶつける魔法だとしたら、蒼之太刀は純粋な魔法での攻撃。

 こっちは十三組以外には見せたことないからな。


雷龍陣らいりゅうじん!」


 黒月を中心に魔法陣が地面に描かれる。

 そしてその中にだけ、黒い雷が降り注いでいく。

 俺の魔法色は黒なわけだが、黄色の魔法色の人間の専売特許である雷を魔法として使うことが出来るのには理由がある。

 黄色の魔法は自然そのものに干渉して雷を作り出したり、魔力自体を雷という存在に組み替えることで魔法を行使している。しかし俺の雷は召喚した物。

 地面に流し込んだ魔力で作り出した魔法陣から黒い雷、という物を召喚して操っているわけだ。だから俺でも雷を使った魔法を使うことが出来る。


「ふっ……」


 笑み?

 この魔法陣内にいる俺以外の人間は、黒の雷から集中砲火を受けることはもう決定事項。すでに雷は、遠山に向かっている。

 それが分かっていて笑っていやがるとは、どういうことだ?


「甘いっ!」


 地面に向かって振り下ろされる双剣。

 それは俺が魔力で作った魔法陣を地面ごと砕いた。


「ちぃ……」


 だが、これでわざわざ魔力を流し込まなくても魔法が使うことが出来る。一旦霧散したことで本来の一撃よりも威力は劣るが、間髪入れず次の攻撃に移ることが出来る。


「紅之太刀惨式……」


 散った魔力の収束。

 それは空気中の魔力を操って、もう一度魔法として組み上げること。

 空気中には魔法を使う過程で魔法に組み込まれることが無かった魔力、魔法を使っている最中に剥がれた魔力、魔法が魔法として使われた後や今のように魔法を砕かれた時に散った魔力が漂っている。

 漂う魔力となってから時間が経ってしまった場合は不可能。しかも俺の黒の魔法には漂う魔力を操る魔法は存在しない。だが、たった今漂うこととなった魔力なら、しかも強制的に魔法を解除され散った魔力ならまだ俺にも制御することができる。


「天魔裂牙ぁ!」


 地を這う魔力の衝撃が遠山に牙をむく。

 たぶんこの魔法は破られることは間違いない。なら、やるしかないか!


九龍クロ、起きろ!)

――――――んだよ、相棒? 魔力は貸してるだろうが――――――

(一匹貸せってことだ!)

――――――一匹でいいのか? 全部貸してもいいんだぜ?――――――

(いるか)


 黒い龍の頭が一つ出現する。

 九龍クロというのは俺が契約時に付けた名前であり、本当の名前は九頭龍。

 本来の姿は九つの首を持った巨大な黒い龍で、俺に力を貸す時は顕現する首の数によって力が強くなっていく。ちなみに九つの首を全て出したことはない。

 全部出したらどうなるんだろうな。

 ま、今のところそんなことをする気は無いんだがな。


九龍之太刀一刀くろのたちいっとう・閃……っ!」

「この程度の繋げ方で速攻のつもりか?」


 振り下ろそうとした瞬間に突如現れた刃に弾き上げられ、魔法は魔法とならず魔力は拡散してしまった。

 何でテメェがここに……っ!?

 あのスピードでの攻撃に完全に対処出来るはずがねぇ。何をしたら無傷の状態で俺の懐に潜り込むことが出来てるんだ!?


「ちぃ……」

「どうした、落ちこぼれ? この程度で終わりか?」

「黙れ」


 焦るな……焦ると判断が鈍って、姉さんの所に行くのに時間がかかる。

 そう言い聞かせて頭を冷やそうとするが、更に自分が焦っていくのが分かる。

 そう考えていると、放送室のマイクから繋がっているスピーカーから聞き覚えのない声が聞こえてきた。間違いなく放送委員長の声じゃない。


『我々は「白き百合リヒト・リーリエ」。聖母マリアを一人の男から解放するために集まった!』


 この放送の直後、過去に一度だけ感じたことがある強烈な嫌な予感を感じた。

 確か五年前のあの日と同じだ、姉さんが倒れた日と……。

 気分が悪い……吐きそうだ。

 目の前にいる遠山楓とおやまかえでは、口角を上げて笑みを作っていた。まるで俺に見せつけるかのように。


「テメェ……何笑っていやがる」


 頭の中で聞くな、と警報を鳴らしながらもう一人の自分が叫んでいたが俺の口は勝手に動いていた。

 これ以上聞くと、俺が俺を止めることが出来なくなっちまう。


「我々には二つの目的があり、それぞれに合図がある」

「合図だぁ?」

「ああ。そして今の放送が、一つ目の目的が達成されたという合図だ」


 聞き返すな、聞き返すな、聞き返すな、聞き返すなぁ!

 そう思っていても、俺の口は意思に反して勝手に動いていた。


「一つ目、だと……」

聖母マリアが私達の手に落ちた」


 そこで俺の意識は途絶えた。




   2




 誘拐と破壊を繰り返す、白いローブを纏った者達は一人も止められることなく動き続けていた。

 十三組、そして三年生達にもそれを止めることが出来ないでいた。


『ドォォンッ!』


 モニター越しに聞こえてきた爆発音。

 先ほどまで行われていた模擬戦でも、一度も聞くことの無かった大きさの物。 

 戦闘を行っていた学園生徒や『白き百合』のメンバーも、そのたった一つの音で全員が動きを止めてモニターに集中した。


「今のって……」

「敵の攻撃がお兄ちゃん達に――――――」

「ですが、それですと周りの様子に違和感がありますわね」


 アンナの言う通り、『白き百合』のメンバーも何が起きたのか全く理解できていない様子が見てとれた。


「それにあれ」


 晶彦が指さしたのはモニター。

 そこに映ってしたのは、漆黒の龍。それも九つの首を持つ龍だった。

 あの龍は一真が模擬戦の途中に背負っていた一匹の黒い龍と全く同じものだった。それがここにいる全ての人間の視線を集め、動きを止めていた。


「九頭龍がどうして…………負担のことが分かっているのに、一真自身が完全に解放させるなんて…………」

――――――違うぞ、お嬢。あれは解放させているんじゃなく、暴走じゃよ――――――

「暴、走……」


 それを聞いて、千歳は前に一度一真が自分自身の力を暴走させたことがあった。

 五年前のあの日。


(あの時はまだ一真の中に九頭龍はいなかったけど、それでも暴走した一真を止めることは簡単じゃなかった……)

――――――お嬢――――――

(何?)

――――――あの坊主はお嬢や、狐の小僧と身体の作りが違うのはしっておろう? あのままだと、神蝕しんしょくが進んでしまうぞ――――――

(っ!!)


 本来神とは人間よりも高い次元の存在。

 そのような存在と人間が契約し、身体に宿すということが負担とならない訳がない。普段はその力を使うということはないので大きな負担となる訳ではないが、力を解放することによって契約者を蝕むほどの大きな負担となる。

 それが神蝕。

 神蝕が続けば契約者は死ぬ者もいれば、人間ではなくなってしまう者もいる。人間でなくなってしまうとは、つまり人間ではない何かに変質してしまうということである。

 だが例外もある。

 契約者が契約した存在の血筋という場合だ。そうなると負担は0。神蝕という現象も起こることはない。


『ここまで予定通りに進むとはな……』


 モニターに集中していてほとんどの人間が、今、スピーカーから聞こえてきた呟きを聞き逃していた。

 だが千歳は違った。


「何が予定通りだ……」


 一つずつ、自分にかけられているリミッターを外していく。自分の負担とならないよう素早く、丁寧に。

 そして、最後のリミッターが外れた時、千歳の纏う魔法色の色が水色から藍色へと変化した。それは一真と隆浩と同じように存在しない魔法色。

 赤黒、金に続いて三色目の色だった。

 そして、注目すべきは彼女の額。一本の角が生えていた。


「今からその予定を、全てブチ壊してやるよ! テメェらごとなぁ!」


 観客席一体の温度が一気に冷えていく。

 突如変化したこの状況に、この場にいた者は我に返る。

 だが誰もが認識していた外で起きたことのため、誰がこの状況を作り出したのか分からない状態であった。


「千歳ちゃぁん。その状態はぁ、負担が大きいからぁお医者さんからぁダメって言われてるでしょぉ」

「うるせぇ。もうそんなこと言ってる状態じゃねぇんだよ!」


 手にあった日本刀型アーマメントデバイス『童子切安綱』から、冷気が漂い始める。

 今の千歳は本来の魔法色である水色が操ることの出来る氷だけではなく、


「来やがれ!」


 空中に巨大な魔法陣が展開され、大量の水がこの空間に召喚された。

 それは落ちることなく中に浮いたまま分裂を始めていく。何度も分裂を繰り返した巨大な水の塊は、数個の人一人が入るような大きさの塊となった。

 その数はちょうどこの場にいる『白き百合リヒト・リーリエ』のメンバーと同じ数であった。


「氷水牢!」


 一瞬だった。

 逃げる隙もなく、白いローブを纏った彼女達を一人残らず水の牢で覆い尽くした。そして全ての水が彼女達が対抗策を講じる前に凍りついた。

 氷の牢獄がここに完成した。

 彼女が九鬼の力を解放してから数分で、この場の制圧が完了した。


「流石は楠木家の次期頭首ですわね」

「関係ねぇよ……ふぅっ」


 息を吐いた千歳はモニターに一瞬だけ視線を向けた後、次に見たのはここから見える実況席。

 光が反射して中は見ることは出来ないが、この騒動の首謀者はあそこにいる。


「鈴蘭、晶彦!」

「は、はいっ!」

「何、千歳姉ちゃん?」

「今すぐ模擬戦場に行け! ここはあたしだけで十分だ!」

「う、うん……でも――――――」

「行け、って言ってるだろうが。それと晶彦」

「ん?」

「絶対に鈴蘭を守れよ」

「了解っ」


 二人がここから出ていくと、この空間の温度が更に低下していく。

 まだ人が耐えることが出来るが、これ以上はそれを超えてしまう可能性があった。だが今の千歳は頭に血が上っており、そこまで判断が出来ていない。

 今の彼女の頭の中には、放送室で声を出している人物を捕まえること。


「風ちゃんは凍ってる奴らを早めに捕まえといてくれ。じゃねぇと、死ぬぞ」


 風路としては、彼女が捕まえた『白き百合』の人間達は、もう手遅れだと思っていたのだがそうではなかったようだ。それでも彼女達に残されている時間が少ないことも確かなことであった。

 今の千歳ならば体力は少ないかもしれないが、怪我などに関しては気にすることはない。そう判断した風路は、何も言わず氷像へと向かった。


「ふっ」


 跳び上がった千歳の目の前には実況席を守る強化ガラスがある。

 これは対魔法用強化ガラスであり、生徒がもし魔法を使うことがあっても被害が無いようにということである。


九頭鬼流一ノ太刀くずきりゅういちのたち轟魔ごうま!」


 しかしそんな強化ガラスも、このたった一撃気砕け散る。

 中に跳び込んだ千歳が見たのは、誰もいない実況席だった。ほんの数分前に何者かの声が聞こえていたことは千歳自身が覚えている。

 そして直後に九鬼の力を解放すると同時に身体能力の向上が行われ、その時に聴力も解放前よりも鋭敏となっている。彼女はその力を利用して、スピーカーの向こうの音を、誰かがここから逃げるような音を聞き逃さないようにしていた。

 ガラスを割るまでそのような音、そしてガラス越しにここに人影はあった。それは見間違いではない。


「どういう……まさか、幻術か? でも、魔法が発動する時の音も聞こえなかったはずだぞ」


 辺りを見回していると、砕けたガラスが目に入る。それには下の床の色ではなく、先ほどまで彼女が見ていた神無達の姿が映っていた。

 なぜ床ではなく、そのような物が映っているのか。理由は簡単なことだった。


「発動時間管理系統の魔法……」


 何者かがこのガラスに魔法を書き込み、それをこの事件に合わせて発動させたのだ。

 誰がそんなことをしたのかは分からないが、ただ分かっているのはこの学校に「白き百合」の内通者がいてその者がこれを仕掛けたということになる。

 ゆっくりと小さくなっていく角。


「ごめん、一真……」




   3




「はぁ、はぁ、はぁ……」

「もう限界のようだな、神童一真」

「テメェ……」


 気持ちワリィ……吐きそうだ。

 九龍の力による暴走で魔力を造っては放出を、通常の数十倍の勢いで繰り返したことによって『天心てんしん』と『鬼臓きぞう』が限界を超えたらしい。

 こうなったらしばらくは魔法を使うことが出来ない。それを無視して魔法を使えば、二度と魔法を使うことが出来なくなる。


「くっ……」


 左手にある剣を振り上げた遠山は、俺を見て笑みを浮かべていた。

 ここで俺を殺すことで、こいつは姉さんが俺から解放されると思ってやがる訳だ。本当におめでたい奴だ……俺がこんなところでくたばるような運を持ってるわけじゃねぇだろうが。


「死ね、ナマケモノクソニート!」


 視界いっぱいに広がる光。

 それは俺と遠山を同時に

 遠山が気づいた時には、その魔法での攻撃は目の前にまで迫っていた。遠山は避けることが出来ずそれを受け止めることとなったため、結果こいつは俺を助けることとなった。

 あの野郎……後で殺しやる。


「今だぜ」


 もう一度聞こえてきた同じ声は誰かに合図するようなセリフを吐いた。

 ここにいる俺側の人間はあの野郎だけじゃないのか?


槍雷乱舞そうらいらんぶ!」


 最初の魔法が消えると、次の魔法も既に目の前にまで迫っていた。やはり今度も動くことが出来ず、槍の形となって降り注ぐ雷を防ぐことしかできないでいた。

 このままじゃどっちも動くことなんて、むしろ遠山がこの魔法の対処方法を確立する方がはやいだろうな。となると俺も危うくなるわけで……ヤバいな。


「ヘルズブリンガー!」


 横からの衝撃によって真横に吹っ飛んでいく遠山の身体。

 あれ、これって、俺、死んだんじゃ……、


「あのクソ狐がぁぁぁぁぁ!」

――――――少しは黙っておれ、みずちわっぱ――――――


 突如俺の身体が目に見えないふわふわした物に包まれ、それが攻撃から身を守ってくれた。ハッキリ言って俺には何が起きたのか全く理解できてないわけだが、何となくこいつは敵じゃないと判断することが出来た。


「貴様らぁ……!」


 おー、キレてるキレてる。

 あんなにたった一人を殺すことが出来る絶好のチャンスを邪魔されたわけだから頭に来ないわけがない。といっても、こいつが俺を殺したい理由はただ姉さんを独占したいという物。

 いい加減に弟を一人殺したところで、人は独占できないということを理解してほしい。むしろ、拒絶されるだろうに。

 一言言ってこいつはバカなんだろう。


「おいらとしては当り前の行動をとったわけだが、そんなに怒られるようなことか?」


 そんなふざけたことを言いながらクソ狐と、その弟である晶彦が森の中から出てきた。

 今やったことを、全くと言っていいほど悪いと思っていない。どう育ったらこんな精神力を持つことが出来るのか、少しあいつを調べてみたい。


「当たり前の行動が邪魔をしたということなのか、一真兄ちゃんごと切ろうとしたことなのかをハッキリ言って欲しいかな」

「両方! ごふぅ!」


 突然俺達の視界からクソ狐の姿が消えた。

 何が起きたのかをありのままを説明すると、視界の外から高速で現れた鈴蘭が完璧な左フックが顔面に、右ストレートが腹に叩きこまれクソ狐はくの字になって後ろにある気に向かって飛んで行った。

 あの動き、初見じゃ誰も避けることが出来ないだろう。


「誰がお兄ちゃんまで切れって言いました? お姉ちゃんに言って精神抉りながら、ぶち殺しますよ?」


 すっごい笑顔でした。

 恐ろしいくらいの笑顔で物騒なことを言いやがりましたよ。今のあいつならやりかねない……。


「で、こいつなの? お兄ちゃんを暴走させるまで追い込んだのは?」

「現状を見る限りはそうじゃないかな」

「じゃあ、半殺しで捕まえたらいいんだよね?」


 かなりキレてるみたいだな。

 あいつとの力の差が分かってねぇくらいに。そんな状態だと簡単に負け……違う、変なテンションになってスイッチが入ってるみてぇだ。

 いつの間にか鈴蘭の瞳が黒から綺麗な紅に変わっていた。

 それでも負ける可能性の方が断然高いことは変わりないわけだが、それでも勝つ可能性は0じゃないことが少し怖い。


「3対1か、やっかいだな……」

「どうする? やる気なら、おいらは相手をするぞ」


 いつの間にか復活を果たしていたクソ狐が、日本刀型アーマメントデバイス『秋月しゅうげつ』を方に担ぎながらそう言い放った。

 こいつも分かっているんだろう。遠山の奴に、この状況で戦う気なんて全くないということを。


「神童鈴蘭と貴様が匿っている須藤杏子を連れて行きたかったが、撤退した方いいようだ」


 魔法の発動音。

 遠山の足下に魔法陣が出現する。あれは俺がよく使っているものに似ている魔法陣……転移魔法の魔法陣だ。

 と言っても完璧に同じ、というわけじゃないみたいだ。俺のは短距離転移用、この魔法陣はおそらく長距離転移用の魔法陣。


〔おい、クソ狐! 逃がすんじゃねぇ!〕

「言われなくても!」


 クソ狐の身体が帯電を始める。今までに何度か見たことのある光の速度で移動することの出来る『光速移動』の前兆。

 それでも間に合うか?

 光速移動するにも、多少身体に雷を溜める必要がある。そのタイムラグが問題だった。

 他の二人が準備しても間に合わない。今のこの状況で遠山を止めることが出来るのはクソ狐だけだった。


「ではな、落ちこぼれ共」


 ゆっくりと消えていく彼女の体だが、完全に消える前ならまだ捕まえることは可能だ。

 頼んだぞ、クソ狐。


――――――気づいておらぬのか、蛟の童――――――

「何を言ってやがる」

――――――わらわの子はこれ以上戦えぬ――――――


 妾の子って、こいつ九尾か?

 初めて声を聞いた……って、そんなことはどうでもいい!


「これ以上戦えないって、どういうことだ!?」

――――――言葉通り。ここに来るまでに光となって動くということを、何度も何度も繰り返した。次で限界であろう――――――


 ちょっと待て、次に光速移動を使えばそれ以上は魔法が使えなくってことか! いや、それ以前に魔法を使った瞬間に限界を迎える可能性だってある。それはかなりヤバい!

 ここで奴を逃がすと何も情報が手に入らなくなる!


「がっ……!」


 クソ狐の姿が消え、次の瞬間には小さな狐が現れた。

 俺の最悪の予想が当たってしまった。隆浩の天心と鬼臓もそれほどまでに酷使され、限界間近だったというわけだ。

 あー、眠い……そろそろ限界か。

 眠気に全てを委ね、俺は意識を全て手放した。


   《次話へ続く》

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