(6)
六、
「山上くん、我々はあなたがこのコンビニで働いているのをとても幸運だと感じています」
「幸運?」
「そうです。我々は貴重な人材を得た、と考えています。単刀直入に言うと、山上くん、我々はあなたに協力してほしいと思っているのです」
「協力というと……?」
「まだ、わからないのか……君」
倉田が横やりを挟んだ。幸太は倉田に目を向けたがすぐに鷺沼の方へ目を向け直した。
「倉田店長、順序よくいきましょう。山上くん、さっき言ったコンビニにのこと覚えているわね。我々はあのコンビニがこの地域にとって非常に邪魔なものになっていると思っています。半径10km直径にして20kmコンビニがその一軒しかないのです。この不便な状況を我々が無視することはできませんでした。なんとか出店をして地域の人にサービスを展開したいと考えていました。しかし、なかなかうまくいきませんでした。用地を買収しようにも、ほぼ買い付けができたと思われた瞬間に他の不動産業者に取られる、このようなことが何度かありました。あるいは、自治体の強力な反対にあいました。また、恥を忍んで同業他社の人間にも会ってこの地域の事を確認してみました。他社でも似たような状況であったり、また出店そのものをあきらめているような所もありました。過去このあたりにあった店舗のオーナーにも会いました。ほとんどの方がもうこの地域にいなくて捜索も困難でした。やっと見つけた元オーナーのひとりを発見し、話を聞きました。すると不思議な話をしました。ある日突然に自分の店舗が消えた、そう言ったのです。跡形も無くです。昨日まで問題なく営業していた店舗が夜の間に無くなったというのです。当時事件になった可能性があると思い新聞記事を当たりました。確かに記事にはなっていました。一夜にして店舗が無くなったのですから、事件にならないわけがありません。しかし、事件の報道はされましたが真相は謎のままでした。さらに不思議なことは、店舗があった証明となる公的な書類がまったく失われていたのです。これはもう大事件になっても不思議では無いのですが、この話題をきちんと話してくれる人もあまりいませんでした。いろいろマスコミにいろいろしつこく聞かれていたのでしょう、気持ちよくしゃべってくれる人はもういませんでした。そうしているうちに、ここから約2km離れた我々のチェーン店が消えました。もともとこの倉田オーナーの店舗になる前に別のオーナーさんがいたのですが、2km離れた店舗が消えたのと同時にこのオーナーも消えてしまいました。オーナーの奥さんは子供が外国人と結婚下とのことで海外に移り住んでいました。一人のオーナーがやりくりをしていたのですが、もう疲れたのか辞めたくなったのか、店舗と同時に消えていなくなってしまいました。そして消えた店舗はともかく、この残った店舗のオーナーにこの倉田店長がなっているというわけです。我々は不思議な事件があったのにも関わらずこの店舗のオーナーになっていただいた倉田さんに、なんとかがんばってもらおうと協力を申し出ました。そして倉田さんにここ一帯をまかせて、この地域の発展に寄与してもらいたいと思っています。そのためにはまず、事件の真相を突き止めなければなりません。我々が怪しいと考えているのはもちろん、先ほど言ったコンビニです。この地域で唯一生き残っている店舗です。いいえ、言い換えましょう。この地域であのコンビニだけが存在できるのです。つまりこの事件の元凶はあのコンビニにあると言えるのです」
ここまで話している間、鷺沼は幸太から目を離すことはなかった。一旦話を切り、幸太の反応を伺うように珈琲に再び口をつけた。みな黙ってしまった。幸太は頭の中で何を協力するのかわかっていたが、あえてそれをあえて聞いてみた。
「これと、僕が協力するということは何か関係があるんですか?」
「山上くん、君ねぇ!」
「いいえ倉田さん、山上くんはあえて質問しているのです。ええ、我々は、あなたにこのコンビニについて調べて欲しいと思っているのです。できれば事件の真相まで。われわれの人材では不可能でした。このコンビニについて調べれば調べるほど泥沼にはまるようでした。全て失敗しました。実力で侵入しようとしたこともありましたが……」
「ひ、雲雀さん、それは!」
「いいえ倉田さん、いいのです。ここまで話しました。山上くんには全ての情報を開示する必要があります。我々はプロを雇って侵入し物理的に資料を探そうと思いました。でも駄目だったのです。すべて捕まり、そう、捕まったのです。そのプロは警察に突き出されました。よっぽど強力なセキュリティがあるのでしょう。もう手も足も出ませんでした。そして、ある日君がこのコンビニで働いていることを知りました。わたしは小躍りしました。このような凄腕の人材がこんな所にいたなんて。なんとか君に協力してもらえないか考えました。我々は君に今までに無い報酬を与えることができるように考えています。こんなバイトでは考えられないようなレベルです。どうですか、山上くん。山上幸太くん我々に協力してくれませんか」
幸太はしばらく考えるふりをしていた。要求の内容はわかった。つまり自分の秘密は押さえているから『我々』に協力しろと。
しかし、幸太はそんなに危険だと思わなかった。あの程度の情報程度では自分の『城壁』を崩されたとは思わなかった。自分が用意したダミーのデータを掴んでいるようにも思えた。しかし、自分ののど元まで来ている相手を過小評価することはできなかった。すぐ逃げるのも得策ではない。一応協力するフリをして様子を見てみるか、と幸太は結論を出した。
「わかりました。協力します。協力せざるを得ないということですね」
幸太は鷺沼と倉田を交互に見てこう言った。
「山上くん、ずいぶん含みのある言い方じゃないか。これが成功すれば報酬は約束するよ。将来も安泰だ」
倉田はニコニコしながらこんな事を言っている。こんなところに一秒でも長くいるか、と幸太は思ったが、ここでは神妙にその言葉を聞いていた。
「では早速ですが、山上くん、例のコンビニのシステムに入ってもらえる?」
鷺沼はそう言ってから事務所の外に用意された大型のワンボックスカーに案内した。
ワンボックスカーというより小型トラックを改造したような車だった。全体が箱形で窓は運転席以外ついていない。全体が白く塗装されコンビニチェーン店のロゴも入っていなかった。案内されて中に入るとコンピュータがぎっしり並んでいた。
「ここのシステムを使うといいわ」
「いえ、できれば慣れたシステムでやりたいのですが」
最新の設備を前にして幸太はこう言って断った。




